第035話 やばーん
「フルフェイス・マスクマンねぇ……俺に聞く?」
「そういうのいいから。お前じゃなかったら誰なんだよって話だ」
「旅をする謎のダークヒーローだろ」
「そういう設定か? まずもってなんだが、アンジェラちゃんがそんな怪しい奴と一緒に行動するわけないだろ」
しないだろうな……
まあ、アーヴィンならバレてもいいや。
「その任意同行は断れんか?」
「もちろん、断ることはできる。冒険者登録をしている冒険者だし、身分は冒険者ギルドが保証してくれる」
「じゃあ、断る」
「こっちは軍だぞ。お前も軍属だったんだからわかるだろ」
わかるな。
軍は強硬策に出ようと思えばいつでもできるのだ。
軍は民を守ることが仕事だから理由はいくらでも作れる。
「可愛い娘を見守ってるだけだぞ」
「他にも方法はあるだろ、バカ」
思いついたのがそれだったんだよ。
「行けばいいのか?」
「ああ。話を聞いて、問題ないとわかればすぐに釈放だ。別に悪いことをしているわけでもないし、ちょっと話して終わりだよ」
まあ、変な格好の人間ってだけだからな。
「ったく、新聞記者め」
「自業自得だろ。ぱぱっと行って、ぱぱっと帰れ。お前も仕事があるだろ」
いや、本当に。
「アンジェラ、店番を頼むわ」
「りょーかい。次の仕事があるんだから2、3日で帰ってきてね」
「1時間で帰るっての」
そんなに勾留されてたまるか。
「ほら、エリック、着替えてこい。さっさと行くぞ」
アーヴィンが急かしてきた。
「すぐだよ。見ておけ」
そう言って、腕輪のスイッチを押す。
すると、すぐに視界が狭まった。
あーっという間に正義のダークヒーローの登場だ。
「は?」
「ふっふっふ。私を呼んだのは君かな? アーヴィン君?」
「めっちゃノリノリだし……アンジェラちゃん、これがエリック? 声も違うようだけど?」
アーヴィンがアンジェラに確認する。
「違うんじゃない? 私、知らね」
アンジェラが興味なさそうに仕事を再開した。
「嫁さんが呆れてるじゃねーか……エリック、それ、どうなってんだ?」
「エリック? 私はフルフェイス・マスクマンだ」
エリックって言うな。
「はいはい。フルフェイスさん、なんで一瞬にして変わったんだ? 声も変わってるし」
「そういう魔道具だ」
「あ、そう。ホント、変なものばかり作るな、お前」
変なものって言うな。
変身セットで売り出せば子供に大人気間違いなしだぞ。
「魔道具作りが好きなんだよ」
「そりゃ天職だな。行くぞ」
「ああ」
俺とアーヴィンは店を出ると、軍の施設に向かうために歩いていく。
軍は南にあるため、この前行った時と同様に町の中央の人が多いところを歩くが、やはり周りの目が気になる。
「お前、めっちゃヒソヒソされてんな」
「アーヴィン君かもしれないだろ」
「なんで俺がヒソヒソされるんだよ。真っ当に生きてるわ」
セクハラ野郎のくせに。
「まあ、気にするな。私は気にしない」
「なんで?」
「顔が見えないし、私はフルフェイス・マスクマンだからだ」
「その兜を取れよ。明日から有名人だ」
絶対に嫌だわ。
俺達は周りから奇異の目で見られながらも歩いていき、軍の施設にやってくると、屯所に入る。
「ちょっと待ってろ」
アーヴィンがそう言って、受付の中に入り、奥の部屋に入っていった。
なお、受付内には事務をしている男女半々くらいの兵士達がいるが、全員がこちらを見ている。
「……何者だ?」
ふと、声がしたので振り向くと若い男が怪訝な表情でこちらを見ていた。
こいつはアンジェラと同い歳のサムだ。
「私かな?」
「あ、ああ……怪しいにもほどがあるぞ」
失礼な。
「私はフルフェイス・マスクマンというただの冒険者だ」
「フルフェイス……町を不安にさせている噂の男か。確かに怪しいな」
職務中にウチのアンジェラをナンパした怪しい兵士に言われたくないわ。
「ふっ、兵士たる者、相手を見た目で判断してはいかんぞ」
「……逮捕するぞ」
イラついたかな?
若い。
実に若い。
あの冒険者の悪ガキ共よりも若い。
「やめておけ。君には無理だ」
そう言うと、サムが腰の剣に手を伸ばした。
「それを抜くのは構わんが、時と場所を選ぶことをおすすめしよう」
これはちょっとした挑発だ。
普通は流せる。
しかし、こいつは……
「逮捕する」
サムはそう言って、剣を強く握った
「よしなさい」
「なっ!」
サムが驚く。
それもそのはずであり、俺が一瞬にして距離を潰し、剣が抜けないように柄を抑えたからだ。
「くっ……きさま――」
「何をしておるかっ!?」
怒鳴り声が響いた。
すると、いつもへらへらしているアーヴィンが怒った顔でこちらに向かってくる。
「教官! 不審な男が不審の動きをしたので捕らえようとしただけです!」
サムがなんか言ってる。
「そうなのか?」
アーヴィンが確認してくる。
「私は何もしておらんよ。そちらの新兵が話しかけてきて、急に剣を握ったから抑えただけだ」
「何を――ッ!」
サムが反論しようとしたが、アーヴィンが手を向けて制した。
そして、事務をしていた兵士達を見る。
すると、1人の若い女性兵士が頷いた。
「ハァ……サム、訓練に戻れ」
アーヴィンがため息をつき、出るように促す。
「教官!」
「サム、二度は言わない。このフルフェイス・マスクマンは大佐に呼ばれており、急いでいるのだ。大佐を待たせるわけにはいかない」
「た、大佐……! くっ、失礼します」
サムは姿勢を正して敬礼すると、屯所から出ていった。
「ふむ、行こうか」
「ああ」
俺達は受付内入り、奥の部屋に向かう。
「……お前、あいつを挑発しただろ」
アーヴィンが歩きながら小声で聞いてきた。
「……ちょっとな」
「……だろうな。じゃなきゃ、真面目なサムがあんなことするもんか。なんでそういうことをするかねー? お前、本当は目立ちたいの?」
目立ちたくないって答えてもこの格好では説得力がない。
「……あいつはアンジェラと同い年で知り合いらしいんだが、この前、俺の前で食事に誘ってたんだよ」
「……じゃあ、仕方がないな。俺なら殴って、殺されないだけマシと思えって言うわ」
今度、お前がアンジェラにセクハラしたら殴っていいのか?
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