第033話 そういうもん
「フルフェイス・マスクマン?」
「ええ。真っ黒な服に真っ黒な外套、さらには真っ黒な顔を覆い尽くす兜をしている冒険者だそうです。こちらの若奥様が一緒にいるところを見たと聞いたもので」
アン、てへへと笑うな。
「肉屋のバリーか?」
「ええ。バリーさんから魔道具屋の嫁さんと一緒に歩いたのを見たと聞きました」
笑いながら言ってそうだ。
「だってさ」
照れているアンジェラに振る。
「そう言われてもねー……私もギルドに案内したくらいだし」
「どんな感じでした? 怪しかったです?」
「まあ、黒づくめで顔を隠してたら怪しいわよね」
そこは否定しない。
「ふむふむ。奥様はよくそんな怪しい人を案内しましたね」
確かに……
「話したら普通だったし、紳士だったわよ」
アンジェラ……!
「へー……意外とそういうもんなんですね」
「顔を怪我しているとかで見られたくないって言ってたわ。そういう事情で怪しい格好をしているわけだから言動には気を付けてるんじゃない?」
アンジェラ、すごいな。
嘘がベラベラと……
「なるほど。山火事よりこっちの方が良いかもしれません。『謎の覆面冒険者現る!? 正体不明のマスクマンは怪しいが、紳士的であり、めちゃくちゃ強い!』って感じです」
「強いって言ったっけ?」
言ってないな。
「何を言っているんですか。強いに決まっていますよ。フルフェイス・マスクマンとかいう明らかな偽名を名乗る黒づくめの男なんですよ?」
しかも、ライトセイバーが武器なんだぞ。
「ふーん、それは記事になるの?」
「うーん、インパクトがなぁ……もうちょっと実績が欲しいですね。お姫様を救うとか、ドラゴンを倒すとか」
しない、しない。
救うのは元気な魔道具屋さんの娘だけ。
「そんなんがウチの町にいつまでもいるわけないだろ」
「そうなんですよねー。今度会ったら王都を勧めておいてくださいよ。伝説を作ってください」
「むむっ、伝説? あの黒仮面めー! 私に対抗する気か?」
めんどくさいのがいたわ。
「アンジェラ、メアリーと一緒に昼食を用意してくれ」
「わかった。ほら、おいで」
アンジェラがメアリーの背中を押す。
「焼きパスタ?」
「それは夕食」
アンジェラも察してくれたようですぐに余計なことをしゃべりそうなメアリーを連れて住居スペースに向かった。
「随分と若い奥様と大きなお嬢さんですね……」
メアリーは同世代の中でもかなり小さいぞ。
まあ、スージーが言わんとしている意味もわかるけどな。
絶対にメアリーはアンジェラの子じゃないし。
「ほっとけ。よそ様の家のことだぞ」
「それもそうですね。エリックさんはフルフェイス・マスクマンのことをご存じないですか?」
ここで知らないって言うのは良くないな。
「見たことはあるぞ。ウチの店にも来たしな」
「ほう? どんな感じでしたか?」
「最初はびっくりしたが、普通の客だったぞ」
「やはり常識人ですか。そういうところがダメなんですよね。一人称が俺様とか、余とかじゃないと」
こいつ、センスないな。
丁寧な私に決まっているだろ。
「余はマズいだろ」
王様じゃん。
「例えばですよ。なんかそういうインパクトが欲しいんです。何か知ってません?」
「見た目だけで十分だと思うけどな。すまんが、俺もそこまで話したことがないんだ。最近は見てないしな。もう違う町に行ったんじゃないか?」
「うーん、そうですか。もうちょっと聞き込みをしたら王都に帰るかぁ……空振りだなー。あ、お時間をいただきありがとうございました。それでは失礼します」
「どうも」
スージーは大雨の中、帰っていったので住居スペースに入った。
「帰ったー?」
キッチンにいるメアリーが聞いてくる。
「帰ったぞ。もう王都に戻るんだとさ」
「そっかー。私もいつかは取材されるような冒険者になりたいなぁ」
お前はあまりそういう場でしゃべらない方が良いんじゃないかな?
「そうなったらローウェル魔道具店って書いたはちまきでもしてくれ」
「わかった!」
冗談だったのに頷いちゃったよ……
その後、昼食を食べ、午後からも店で仕事をしていたが、一向に客が来なかったので早めに閉めた。
そして、夕食の焼きパスタを3人で食べる。
「アンジェラ、本当に泊まっていくのか?」
窓の外を眺めながら聞く。
「うん……帰ろうかな?」
もう雨が止んでいるのだ。
「えー、泊まってってよー。遊ぼうよー」
メアリーがアンジェラの腕を掴んで揺すった。
「泊まるのはいいけど、あんた、明日は冒険じゃないの?」
晴れたしな。
火も鎮まっただろうし、もう森にも入れる。
「大丈夫、大丈夫。明日はまず、10時ぐらいにギルドで集まって作戦会議をしてからだから」
「ふーん、そんなにカードゲームがしたいの? お父さんに付き合ってもらいなさいよ」
「お父さん、ザコいからいい。クソよわで接待しないといけないからつまんない」
おい……
「遅くまではやんないかんね」
「うん。そこは私も遠慮を覚えた大人だから」
はいはい。
「メアリー、明日、ギルドに行くなら火事のことをヴィオラかロジャーに聞いておいてくれよ」
もう大丈夫だと思うけど、ちょっと気になる。
「わかったー」
その後、夕食を食べ終えると、2人は本当にカードゲームを始め、盛り上がっていた。
そんな様子を軽く酒を飲みながら眺めていると、何とも言えない幸福感があった。
お読み頂き、ありがとうございます。
この作品を『おもしろかった!』、『続きが気になる!』と思ってくださった方はブックマーク登録や↓の『☆☆☆☆☆』を『★★★★★』に評価して下さると執筆の励みになります。
よろしくお願いします!




