第032話 ウチの町の人間は口が軽い
翌日。
この日も雨なのだが、昼過ぎにはざあざあの大雨になってきた。
「すごいわね……」
アンジェラが窓から外を見ながらつぶやく。
「そうだな。おかげでウチは暇だが」
今日は客がまったく来ないのだ。
「まあ、こればっかりはね……でも、これで火も消えそうね」
消えるだろうな。
特に町が騒いでいる様子でもないし、規模もそこまでだったんじゃないかな?
「だと思う」
「帰るまでに止むかしら?」
「どうだろ?」
微妙……
「アンジェラちゃーん、泊まっていってよー。一緒にカードゲームしようよー」
暇そうにしているメアリーが誘う。
「良いけど、晩御飯、どうしよう?」
この雨だと買い物も行きたくねーな。
「パスタでいいじゃん。私の得意の焼きパスタをご馳走してあげる」
塩コショウで炒めるやつね。
実はそこそこ美味い。
「かぼちゃがあったし、ポタージュくらいは作ってあげるわ」
「わーい。ママー」
ガキっぽい15歳だなぁ……
「ママって言うな」
「……自分が昔、『お母さんが欲しい?』って聞いてきたんじゃん。子供心にバカじゃねって思ったよ」
何聞いてんだか……ん?
客だ。
「いらっしゃい」
客が入ってきたので声をかける。
とはいえ、若い女性であり、見覚えのない子だ。
「どうもー。こちらが魔道具店でしょうか?」
見覚えもないいし、こう聞くってことは町の人間じゃないのかもしれない。
「ああ。お客さん、他所の人?」
「はい。えーっと、こういう者です」
お客さんが名刺を渡してきたのでアンジェラと見てみる。
「新聞記者?」
「しかも、王都だな」
この世界にも新聞はある。
なんならこの町にもあるのだが、俺は取ってない。
だって、この町のニュースなんて客商売をしていたら自然と入ってくるからだ。
「王都で新聞記者をやっているスージーです」
新聞記者かー……
「王都の新聞記者がどうしたんだ?」
「いやー、それがこちらの山火事のことを聞きつけて取材に来たんですよ」
王都はニュースがないのかね?
「山火事ねー……」
全員が窓の外を見る。
ずっと大雨だ。
「ダメですよね……あ、いや、被害が最小限なことは喜ばしいことなんですけど、わざわざ王都から飛ばしてきたのにこれなのでちょっとショックなわけです」
まあ、わからんでもない。
「大変だな」
「こんなのはしょっちゅうですよ。でも、私達の仕事はこういうものですから。それでただで帰るわけにはいかないのでちょっと取材をいいですか? 冒険者ギルドに行ったらこちらのエリックさんとアンジェラさんもその時に森にいたと聞いたもので」
ギルマスかヴィオラだろうな。
「雨の中、ご苦労さんだな。俺がエリックでこっちがアンジェラだ」
「あ、私、メアリー!」
メアリーも自己紹介した。
「これはどうも。ご家族ですか?」
「私は娘ー」
「なるほど……それでエリックさん、アンジェラさん、山火事はどういったものでした?」
いやー、悪いな。
「すまん。見てない」
「森の奥の方だったしね。私達は浅いところにいたから見てないわよ」
「あー……そうですか」
スージーがガクッと落ち込む。
「他の連中は?」
「聞いて回っているんですが、たいした情報は得られないんですよね。というか、この雨で治まってるだろって感じです」
まあ、そんな感じはするな。
「ご愁傷様」
「ハァ……そういえば、ここって魔道具店なんですね。王都なんか大きい町にはありますが、この規模の町で専門店は珍しいです」
魔道具店を開く大前提として魔法使いじゃないといけないからな。
魔法使いは他に稼げるすべがあるし、魔道具作りはあまり選ばないから珍しいのだ。
普通の町はジェフ爺さんの店みたいなところが大きい町から仕入れる。
「元々は冒険者だったけど、娘ができたし、落ち着いた生活をしようと思ったんだよ。俺はこの町出身じゃないが、友人がいてな」
「へー……冒険者ギルドのギルマスさんが変なものも作るけど、たまに良いものも作るって褒めてましたよ」
それ、褒めてる?
ロジャーめ。
「良いものも作ってるよ。今、売りだそうとしているのはこの魔法の水筒だ」
水筒をカウンターに置く。
「魔法なんですか? はっ! 水を入れるとお酒に!?」
そんな水筒があるなら俺も欲しいわ。
「いや、単純に保温性に優れているから冷たい水はそのままだし、温かいスープもそのままっていう水筒」
「なーんだ……どれくらい持つんですか?」
「氷を入れたお茶は2日くらいで溶けたな。スープの方は1日かな?」
スープはちょっと衛生面が気になる。
「へー……それはすごいですね。でも、ホントですー? 2日も氷が溶けないって嘘くさいですよ」
失礼な。
「ホントだよ。5000ミルドで売ってるぞ」
「水筒にしては高いですね。でも、さっきの効果が本当なら良いかもしれません。1つ買いますよ。兄が冒険者をしているのでおみやげにします」
スージーが財布を取り出し、5000ミルドを払う。
「まいど。傘買うか? 折り畳めるというウチのヒット商品だぞ」
「持ってますよ」
でしょうね。
折り畳み傘は売れたんだが、すぐに他所の商会にパクられたという経緯がある。
まあ、単純な構造だし、パクってんのはお互い様だから何も言わない。
俺だって他所の町でヒットしているという情報を仕入れたら作るし。
「他には……」
「あ、いえ、大丈夫ですよ。そういう取材じゃないですから」
「そうか? 宣伝でもしてくれよ。ウチにはお腹を空かした娘がいるんだ」
「お腹空いたよー」
メアリーが可哀想。
「あなたの店、儲かってそうじゃないですか……それよりも取材です」
「まだあんの?」
別に暇だから付き合うけども。
「ええ。お肉屋さんでフルフェイス・マスクマンという謎の黒い冒険者が現れたと聞いたんですよ!」
バリー!
シャーリーに無視されろ!
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