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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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コツさえつかめば、イケる気がする!

 ポーション集めの効率で考えると、私たちは協力者がいないことで不利になっている。

 なんだよ、ちょっとどころではなく甘く考えすぎていたのかも。

 もっと気合入れないと、負けちゃいそうだね。


「ポーションの数は、あくまでも最大で考えた場合よ。実際には、その半分程度がいいところだと思うわ」

「えー、それにしたって多くない? 半分でも500本以上リードされてそうってことだよね」


 神楽坂ダンジョンのノリで大量にモンスターを倒せるならともかく、いまのところガラスの森ダンジョンはそんな感じとは違う。いい感じの稼ぎスポットが見つかればいいんだけどね。


「アオイがエントリーされているのは、16歳から20歳の部よ。そもそも何人が参加して、何人が通過するかもわからないの。だから、なるべく最悪を想定して挑戦したほうが、予備選考を勝ち抜ける確率は上がるわ。さっきのは、最悪の数字を言ってみただけ」

「そうすると実際には何本? いまいち目標がはっきりせんね」

「どの程度集めるかは、夕歌さんと一緒に目安を考えたじゃない。おかしいとは思ったけど、覚えてないの?」


 え、覚えてない。いや、これはマドカがふかしているだけでは?


「まどかおねえ。葵姉はんは、あの時居眠りしとったで」

「……そうだったわね。とにかく諸々考えて、500本くらい集めれば、予備選考は高い確率で通過できるはずよ」


 うーん、それでも普通に大変だよね。私の『ウルトラハードモード』のドロップ率を考えれば、なんとかなる範囲かな?


「まあ、ごちゃごちゃ考えても仕方ないか」


 どうせあと1週間しかないんだし、やれるだけやったらいい。それだけのことだよね。

 なんにしてもポーションを集めて損はないのだし、この際に一生分集めるくらいの気合でやってやる!



 そのあとも断続的に襲ってくるモンスターを倒しつつ、なんとか日が落ちる前には第十階層までたどり着けた。

 初挑戦の面倒なダンジョンを相手にして、初日でここまで行ければ十分な結果だと思う。移動中のついでで、ポーションが20本も取れたし。

 なかなか悪くないはず。順調だとは思うけど、今日はちょっと疲れた。初挑戦のダンジョンだったし、ダンジョン探索自体が久しぶりだったこともある。


「戻る前に、日が落ちたらどうなるのか見たいわね」

「それもそうだね。見てから帰ろっか」


 このダンジョンは夜は光がなくなり、ガラスの透明度も落ちるという話だった。

 場合によっては夜は働かない方針を曲げて、予備選考の期間だけは夜型にするのもアリだね。

 転送陣の近くで日暮れを待っていると、徐々に周囲の明るさが落ちていくのが結界越しにもわかった。

 そして。


「完全に日が落ちたみたいね」


 光が目を焼くことがなくなり、ツバキが『たしなみの結界』を解除した。


「真っ暗や」


 これまた極端だ。どうやら月明りや星明りのような小さな光もない完全な暗闇っぽい。

 私たちは座頭法師の加護の効果で、暗闇での視界が利くようになっているから普通に見えるけど。お陰で行動にはなんの支障もない。加護って、やっぱすごいわ。


「見て。ガラスが少し、曇っているわね」

「ホントだ。だいぶ違うじゃん」

「夜の探索のほうが、ええのとちゃう?」


 邪魔な強烈な光とそれを遮る結界がないから視界が広く、これならモンスター退治の効率が段違いに上がりそう。


「そうだね。どうせやるなら、私は予備選考から勝ちたいわ。ぶっちぎりでトップ通過! やっぱそれがいいよね?」


 いまのところはだいぶ負けていそうだけど、まだ勝負はこれからだよ。


「もちろんよ」

「うちはどっちでもええけど」

「じゃあ決まりね。明日からは、晩メシ後から働くってことで」


 明るいうちに働く? ハハッ、夜サイコー!


「……まどかおねえ、そこのガラス。そっちも」

「ガラス?」


 ツバキが指を差すガラスの大樹を見ると、何やら揺らめいているような感じがした。

 すると大樹から、ガラスの鹿が現れた。

 同じ感じで、あちこちでモンスターがぽこぽこ生まれているっぽい。


「多くない? 今日はちょっと疲れたんだけど」

「だったら逃げる?」

「まさか」


 こいつらは獲物だよ。逃げるなんてありえない。

 近くにいたガラスの鹿に、ハンマーを速攻で叩きつけると、思いのほか手応えなく光の粒子になった。


「なんかこいつら、柔らかいかも!」


 私の言葉を受けたマドカが、散弾銃を撃つのではなく、銀色のロッドをぶん投げた。

 硬くないと思った感触は正しかったらしく、マドカの攻撃は別の鹿の体を豪快に粉砕して光に変えた。


 攻撃の影響かぽこぽこ生まれたモンスターたちが、一斉にこっちに向かって来たのがわかる。どこを見てもモンスターが向かっているし、足音がもう騒音レベルだ。

 ちょっと、すごい数かもしれない。それがこっちに向かって殺到している。これはマズいね。


「ツバキ、結界使ったほうがいいかも」


 あの結界は範囲は狭いけど、侵入者の動きを大幅に邪魔できる。そんなことを考えていると、音が鳴った。

 キィーーーンッという、澄んだ透明感のある音。ダンジョンの中で、場違いなほど清らかな音色だ。

 音の発生源に目を向ければ、ツバキの弓だった。張られた弦を弾いた音が、あの音みたい。


「梓弓の邪気を払う効果や。ダメージはあらへんけど、動きはああして邪魔できんねん」


 余韻の長く残る、どこまでも広がるようなあの音の影響で、明らかにモンスターの動きが悪くなっている。結界ほどの威力はないけど、範囲が広いし雑魚モンスターには十分な効果っぽい。


「それ、いいじゃん!」


 チャンスとばかりに、私のハンマーと投げ斧、そしてマドカの2本のロッドが乱れ飛び、次々とガラスのモンスターを砕きまくった。

 いくら『ウルトラハードモード』とはいえ、神楽坂ダンジョンではもっと深い階層をメインに戦っていた私たちだからね。難易度が高いと言われるガラスの森ダンジョンでも、コツをつかめばどうということはない。


「――落ち着いた?」

「ここら辺はね。もたもたしてるとまだ来そうだし、さっさと魔石とポーション拾って帰ろうよ。じゃないと、ホテルの晩メシに間に合わなくなっちゃうわ」


 それだけは断じて許せん。

 返事を待たずに急いで拾い集める。残して帰るのはもったいないからね。

 3人でちゃちゃっと回収して、転送陣からダンジョン入り口に戻った。


 仕事終わりの解放感と真の自由を感じながら、着替えを済ませる。普段着になると、すっと気が抜けてしまう。

 ふいー、楽になるね。

 ダンジョンの入り口付近から離れて『ソロダンジョン』が効果を失うと、朝とは全然違う光景がそこにあった。


「うわ、めっちゃ人いるじゃん」


 激混みだ。受付係以外には、誰もいなかった過疎っぷりが嘘のよう。


「さすがは蒼龍杯ね。こうだと思っていたわ」


 集まる視線を完全に無視して受付に向かうと、そこも人でいっぱいだ。仕方ない、並びますかね。

 おとなしく並んでいると、注目の度合いがいつもより大きいように思った。見られることにはとっくに慣れたと思っていたけどね。なんだろう。


「ね、なんかすげー見られてない? 私と別行動の間に、ふたりなんかした?」

「なんでよ。普通に蒼龍杯の影響でしょ? 葵はランキング上位だったんだから」


 そっか。蒼龍杯はパンチングマシンの上位入賞者が出られるイベントだった。

 あのランキングを騒がした私が姿を表せば、それは注目もされるよね。ほかの人たちは早めに行動して、ひと月くらい前にはここにいたみたいだし。


 ちょっと厳しい目をしている人が多い気がするのは、ライバル視されているか、悪い意味で考えればいまさら何しに来たって思っている人もいるからだろうね。


 まあ見ているがいいよ。

 出遅れていても、最後に勝つのは私だよ。

 ふふん、燃えてきたわ。まくってやる!

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