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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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あらわれた心の同志

 ダンジョンハンターがレベル10になると獲得するクラス。


 剣士とか炎術士とか、密偵やら聖女やら、あるいは錬金術師や木工師、道化師や占星術師なんてクラスもあるらしい。

 ハンターの知り合いがいないから、ホントのところは全然わからんけど、とにかくクラスにはたくさんの種類があると聞いた。


 そしてクラスはメジャーものとマイナーなもの、さらには有用なものとしょぼいと認識されているものとに大雑把に分けられる。世の中の多くのハンターたちは、メジャーかつ平凡なクラスを得るわけだ。


 世の中にはクラスによって大きな差は生まれない、などとほざく奴らもいるらしいけど、どう考えても山賊と勇者には差があるに決まっている。

 クラスにはそれに関連するクラススキルを覚えるわけだしね。仮に能力的に大きな差がなかったとしても、精神的な満足感が違うわ。もう、全然違うわ。


 そして私のクラスは『はぐれ山賊』なんてもの。ただの山賊じゃなく『はぐれ』が枕詞まくらことばにつく。


 枕詞はその人の個性を表し、例えば同じ剣士のクラスであっても、覚えるスキルやステータスの成長に違いを生むと言われている。

 夕歌さんに聞いた例を思い出してみれば『逃げ腰の剣士』と『勇猛な剣士』のクラスでは、それは差が生じるのは当然だと思った。


 個性を表すがゆえに、枕詞の部分を他人に教えることは基本的にしないのが常識にもなっている。自分から言うのは自由だけど、少なくとも聞くのはマナー違反だ。

 だから私は必要に応じて『山賊』であることを明かしても、たぶん『はぐれ』の部分はわざわざ言わない。


 目の前にいる美少女のクラスは『どん底アイドル崩れ』だった。

 なんてひどいクラスなんだろうね。

 枕詞もひどければ、そもそも『アイドル崩れ』って。アイドル崩れのクラスってなんだよ。あまりにひどすぎて、もう笑ってしまうわ。


「とりあえず、ひとこと言っていい?」

「言ってみて」

「変なクラス」

「……そう、よね」

「いや、下手に励まされてもムカつくでしょ? だから落ち込まれると困るわ。それにしたって、そんなクラスがあるんだね」

「あたしだって自分の目を疑ったわよ、信じられなくて。アイドルやめて、臨時パーティーでレベル10まで必死に上げて、いいクラスになれたらって思ったらこれよ」


 いろいろとあった末のこれだ。その落胆は、ひょっとしたら私以上かもしれないね。


「でもなんで私と組もうと思ったの? 話題性があって、そこそこ強そうなソロだからってのはわかるけど。けどねー、初対面の他人に弱みを見せるタイプじゃないよね? 普通に私が誘いを蹴って、クラスのこと言いふらす可能性だって考えたんじゃないの?」

「それは当然。あたしなりに、アオイのことを調べた上でのことよ。結構、お金はかかったけど必要経費ね」


 マジかよ。そんなことまで?


「うへー」

「しょうがないでしょ、あたしだって必死なんだから」

「まあいいや。それで、私の何がわかったの?」

「アオイ、あなたが必死にハンターとして活動していること。まずはそれね。それはダンジョンでの活動時間からわかることよ。神楽坂では魔石を換金していないようだけど、ソロの状況でダンジョンで遊んでいたとは思えない。あたしは必死なの。だから、パーティーを組む人にもそうあってほしい」


 いいね、気が合うよ。私だってお金と次のクラスのために必死でやっている。それはそれはめちゃくちゃ必死にやっているよ。


「そしてアオイがソロで活動する理由、それはスキルの『ソロダンジョン』にあるのよね。これも調べたらわかったわ。面白いスキルよね」

「面白いよ。でもさ、そのスキルが超使えるからこそ、私はソロなんだよ。この意味、わかるよね?」


 いつかは誰かと組みたいと思っている。

 でも、それはいまじゃない。私専用のダンジョンの利点を捨てるにはまだ早い。命の危険をもう少し感じるようになってからでいい。


「だからこそ、あたしはアオイと組みたいと思ったの」

「どういうこと?」

「あたしにはアオイのスキルを活かすことのできるスキルがある、そう言ってるの」


 えっと、つまりどういうことだってばよ。


「見てもらったほうが早いわね。もう一度これを見て」


 テーブルに置かれたままの黒いカード、身分証を再び見る。

 裏面のステータスなどが書かれた下のほう、そのスキルのところを綺麗な指先が示していた。

 そこには『スキルリンクⅠ』とある。


「そのスキルなら『ソロダンジョン』を活かせるってこと?」


 どういうこっちゃ。


「この『スキルリンクⅠ』は、他者のスキルをひとつだけ選んで、任意の他者にも効果を及ぼすことができるの。つまり、アオイの『ソロダンジョン』にあたしも便乗できる、と考えているわ」


 んー? 便乗? なるほど、そういうことか。


 スキルのコピーだったら、それぞれのソロダンジョンに入ってしまいそうだけど、あくまで私が発動しているソロダンジョンを他人にってことなら、便乗できるのかもしれない。

 実際にやってみないとわからないけど、可能性はあるのかな。それにしてもだよ。


「え、そのスキルってめちゃ強くない? 強いスキルを持ってる奴がパーティーにいたら、それがみんなに効果あるんでしょ? ひとつのスキルしかリンクできなくても、かなり使えるね」

「あたしも強くて便利とは思うけど、代わりに制限が多いのよ。これもアオイと組みたい理由になっているわ」

「そうなん?」


 詳しく聞いてみれば、リンクさせたいスキルやその発動者、そして効果を及ぼしたい対象者に細かな制限があるらしい。例えばこのアイドル様と同じ性別であることや、似たような体形でなければスキルの効果を得られないのだとか。

 つまり男はダメだし、極端に背が高いとか低いとか、太っていたりガリガリに痩せていてもダメらしい。


「アオイならリンク対象として問題ないはずよ」

「そういうこと。ソロの私だったら、これから仲間にする奴も選べるしね」

「正直に言えばそれもあるわ。あたしは一度裏切られているから、変な奴を仲間にしたくないの。アオイと一緒に、慎重に選ぶつもりよ」


 この私、永倉葵は変ではない。そういうことで間違いないようだ。


「ちなみにほかには何ができんの? 私と一緒のダンジョンに入れそうってだけ?」

「まさか。これでも同レベル帯では戦闘能力は高いほうよ。だからアオイが強くても守ってもらう必要はないし、効果は低めだけど回復魔法も使えるわ。足を引っ張るつもりはないし、役に立てると思う」


 ほっほっほっ、それが実は甘いんだぜお嬢さん。私のウルトラハードモードなダンジョンについてこれるかな?

 これについては一緒にソロダンジョンに入れることが確定したら教えてあげよう。たぶん私がすでに第十七階層でバリバリ戦いまくっていることだって、想像できていないだろうし。


 とにかくだ。スキルのリンクが上手く機能することが前提になるけど、私の腹は決まった。

 この美少女を逃せば、こんな使えるスキルを持った仲間を迎える機会は二度とないかもしれない。ちょっとヘボくても回復魔法は魅力があるし、なによりこの美少女のやる気がいい。気に入った。


「よっしゃ、わかったよ」

「それって一緒に組んでくれるってこと?」

「とりあえずはお試しでね。で、いつから始める?」


 花がほころぶような笑顔とは、まさにこのことだろう。

 美少女アイドルの心からの笑顔に、なんだか私のやる気まで高まってしまう。


「いまからスキルの確認だけしに行かない? そこでアオイがパーティーを組んだって噂が広がれば、余計な勧誘が少しは減ると思うし」

「あ、それもあった。じゃあさっそく行こう、アイドル様」


 席を立つと腕を取られた。


「待って、アオイ」

「ん?」

「マドカよ。アイドル様じゃなくて、マドカ。仲間になるかもしれないんだから、ちゃんと呼んで。それにもう、アイドルじゃないから」

「それもそっか。じゃあマドカ、行こう」


 店を出る時には約束どおりご飯代はおごってもらった。

 タダメシは気分がいいわ!

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― 新着の感想 ―
これは良い仲間になれそうやね
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