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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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ぼっちハンターが送るこれからの日常

 鎖が腕に巻きついた驚きと焦り、そして謎の興奮が一瞬にして行き来し、そのまた次の瞬間だ。

 左腕に巻きついた鎖は、ちょいと腕をひねるだけで簡単に壊れて外れた。


「お、おお? あ、そういうことか!」


 そうだ、私ははぐれ山賊。その私を拘束することは、たぶん簡単なことではない。

 山賊になってしまったことには大いに文句を垂れたいところだけど、得たクラススキル『拘束具破壊』が想像以上に強いらしい。雑魚モンスターの使う拘束具くらいなら、たいした力もいらずに破壊可能みたいだね。


「あぶねー」


 あの鎖は私の左腕を絡めとり、行動を封じようとしたものだ。脳ミソのない骸骨がたくらんだ、まさかのチームプレーだろうか。

 そのまさかを証明するかのように、タイミングよく弓矢が撃ち込まれる。

 本来なら鎖で動きを封じたところに弓矢で攻撃、さらには刀や槍で攻撃するつもりだ。すでに骸骨くんたちが動き始めている。


「なかなかやるじゃんね」


 さすがは第十七階層のモンスター。動きがいい。

 でも、すでに私は鎖を破壊した時点で斜め後ろへと下がっていた。そのお陰で弓矢は外れ、槍は空を突く。

 刀を構えた骸骨が迫るも、左手には投げた斧がすでに戻っていた。迫る骸骨に向かって、また斧を投げつける。投げつつ、同時に動く!


 並ぶように立つ骸骨くんを弓矢からの盾にするように立ち回る。

 立ち位置を気にしながらハンマーを振るい、掲げた左手に戻ってくる斧は戻り次第にまた投げる。すごい便利な武器だ。


 右手のハンマーは必殺で、敵の防具や防御姿勢など関係なく一撃で光に変えてくれる。

 投げた斧はコントロールが悪いせいで狙ったところに飛んでくれないけど、戻ってくる軌道は立ち位置次第で誘導できることにすぐ気づいた。それによって戻りがてらの軌道で骸骨くんに当てられる。

 防御力の高い敵なら一撃では倒せないだろうけど、カルシウムの足りていない骸骨くんなら問題なくやっつけられる。


 このままゴリ押しで全部倒せそう。でも、それはしないと決めている。

 魔石と経験値の獲得とは別に、私自身の戦闘能力を高めたい。左手の指にはめた瀬織津姫せおりつひめの指輪の効果は、戦闘技術の向上とある。


 装備のアシストのお陰で、素人の私が一切の支障なくモンスター退治をやってこれたと思う。この装備のアシストなしでも戦えるようになるのが目標だ。指輪の効果を私自身のモノにする。


「漠然とやんな! 敵を見ろ! 考えて動けーっ!」


 モンスターの動き出しから攻撃を予測、回避か防御か、攻撃ではね返すかを瞬時に選択し行動に移す。

 考えなくても適当にやれていたことを、考えてやるからいつものようには全然できない。明らかに動きがぎこちなくなり、選び取るべき選択肢を普通に間違える。


 なんだよ、私はやっぱり弱いね。


 完全に装備とスキルのお陰でやってこれていたわけだ。どっちも私のものではあるけど、いまの私が使いこなせているはずもない。

 つまり、数字上のレベルが上がらなくたって、私にはもっともっと強くなる余地がある。


 次のレベルへの必要経験値が、当たり前のように100万を超えるウルトラハードモードだからね。努力しなければ、どこかで行き詰まる。超絶カッコいい、そしてすっごいクラスをゲットするため、私はがんばるよ!


 スキルの使用にも慣れるため『カチカチアーマー』と『キラキラハンマー』を織り交ぜながら、第十七階層で最初の戦闘を終えた。

 後に残されたのは9個の高品質魔石だ。これひとつで結構な値段になるはず。たぶん3万円とか?

 あとちょっと戦ったら、第十五階層の転送陣から帰るとしよう。



 気合の入った労働は、その分疲れも激しい。

 第十五階層の転送陣前で、また真の自由を感じながら装備をすべてパージ、次元ポーチに放り込む。

 そして英国お嬢様風の服にお着替えだ。


 5着も買った白のリボン付きブラウスは同じように見えて、実はリボンのボリュームや袖口の形が違っていたり、色が白っぽいだけで若干異なっていたりもする。ジャンパースカートも同様で色だけでなく細部が違う。

 私としては割とどうでもよかったけど、その辺に選んでくれたプロのこだわりがあるらしい。


 くつしたやストッキング、ロリータシューズ、そして帽子までいろいろ買った物の中から、それこそテキトーに選んで身に着ける。

 組み合わせはテキトーでも大丈夫と、プロが太鼓判を押してくれたのだから心配ない。オシャレタウンでも大手を振って歩ける。

 たぶん、ファッションのプロからすれば、次元ポーチの色や形にも口を出したいところだろうけど、私にそこまでのセンスはない。普通にいつも使っている白のポーチを使うだけだ。


「あー、疲れたー、お腹減ったー、お風呂入りてー」


 帰りの準備ができたら、ささっと転送陣にイン!

 ぱぱっと地上に戻れば、もう午後9時近いのに多くのダンジョンハンターがいるではないか。

 さっさと帰って休みなさいよ、まったくもう。邪魔くさいなあ。


 帰還の登録だけ済ませたら足早に神楽坂ダンジョンを後にした。足早というか、もう走って出ていった。話しかけられそうな気配がしたからね!


 なんの用事か知らんけど、見知らぬ奴らに気やすく話しかけられたくねーわ!

 ダンジョン管理所から外に出ても、ダッシュ移動は継続だ。疲れていてもダンジョンから出ても、まだ力が余っている。


「そういや、ホテルのレストランって何時までだっけ?」


 さすがに深夜営業まではしていない気がする。食べてから帰るとしよう。

 真っすぐホテルに向かう道からは一本外れ、ちょっと嫌だけど人の多い道に入る。するとすぐそこには、馴染みのある看板が!


「ナイス、やっぱこれこれ。牛丼よね」


 初めて訪れた神楽坂店にもかかわらず、我が家に戻ったかのような安心感だ。

 極めてリラックスした気分で注文を済ませ、贅沢よくばりセットを胃袋に収めていく。

 それに今日の私は昨日までとは違う。背筋をピンと伸ばし、ひざもそろえてきちんと座る。食べる姿はお洋服にふさわしく優雅に。

 ふふふ、完璧な一日の締めくくりに相応しい。



 ところがです。私の完璧な一日の終わりは、まだここからだったのです。

 腹ごなしの散歩がてらに、また知らない道を歩いているとですよ?

 なんとそこには、オシャレタウン神楽坂に存在するとはまさか思わないオアシスがあったのです。


「マジかよ、銭湯あるじゃん」


 しかも古き良き伝統建築風の銭湯だったのです。

 変にオシャレを気取ったやつではなく、伝統的なスタイルの銭湯です。軟弱で中途半端なやつとは店構えが違います。もう見るからに気合が違います。


 これは行くしかない。ホテルの部屋の狭いお風呂では、決して得られない快楽があそこにはあるのだから。

 またしても初めて訪れるはずのそこに、私は我が家に帰るような気持ちで吸い込まれたのです。

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― 新着の感想 ―
はっきりステータス差がある故の余裕……それでいて成長は怠らにゃい
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