外野が一番盛り上がる大会
いったんダンジョンから出て、外の空気を吸いに行った。
11月の終わりにしては気温も高めっぽいし、行楽日和ってやつだ。ダンジョン管理所の裏手のほうに回って、やっと少し落ち着いた。
「ふいー、気持ちいいね」
スマホをチェックしたら、まゆまゆは試合の見物をしてるみたいだ。せっかく来たんだし、私を待ってるだけじゃつまらんもんね。あとで面白い話でも聞けたらいいな。
そんなことを考えていたら、スマホが鳴った。
「もしもし? マドカー、勝ったよ!」
「見てたわよ。でもあの聖域化、明らかにおかしかったわね」
「ちょろっと聞いたわ。なんか私のところだけ結界が強くなってんの?」
「みんなで映像を確認してみたけど、間違いないわ。二試合目から、アオイの武闘場だけ光の色が違ったもの」
やっぱそうなんだ。
「まあ、あんま関係ないけどね。私ったらあのくらいじゃ負けないし」
「それを聞いて少し安心したけど、まだ聖域化は強くなるかもしれないわ。あと配信のコメント欄も荒れてるわね。アオイに対する文句じゃないから、暇な時間があったら見てみたら?」
「へー。それより私の対戦相手がさ――」
コメントね。わざわざ教えてくれるくらいだから、嫌な感じはないのかな。ちょっと気になるね。
そうしてなんだかんだと雑談していたら、結構時間がたってしまった。
「うおっと。じゃあコメント見てみるね。ほいじゃ、またあとで」
「残りの試合も頑張ってね、みんなで見てるから。それじゃ」
せっかくだから配信のコメントを見ちゃうか。
マドカが送ってくれたリンクをぽちっとな。どれどれ。
『永倉が出てる試合だけ、聖域化の結界色おかしくね?』
『剣の紋章まで出てるとか他の試合ではなかったはず』
『完全に永倉潰しだな』
『天剣卑怯すぎ』
『それでも普通に勝つ永倉がやばい』
『これが絶望か……』
『相手からしたら絶望的な強さだからな』
『さっきの試合、同接380万とか笑うわ』
『まだ予選だろ? 凄いな』
ほうほう、盛り上がってんね。追いきれないくらいコメントが流れまくってるわ。
いい感じじゃん。注目集まりまくりだ。
『早く次の試合見たいな』
『他の試合の同接とは桁違いに多いね』
『大会荒らしの絶望だから注目度が違う』
『永倉VS天剣の構図になってんな』
『今や天下の天剣が、たった一人の女の子と張り合ってんのマジか』
『面白すぎて絶望のほうを応援してしまうわ』
『お前ら天剣の立場になってみろよ。本当に最悪だろ』
『永倉だけ別ゲーしてるみたいで笑う』
誰も花園って呼んでないわ。
やっぱ本選で勝ちまくって、インタビューとかでバシッと言ってやらないと。
ゴミみたいなコメントもちょこちょこ見かけるけど、だいたい私のことを応援してくれてるっぽい。それは嬉しいけどね。
よっしゃ、期待に応えてまた勝ちまくってやりますか。
花園の代表らしく、華麗に勝とう!
やってきました。4回戦。
私の武闘場の周りは、さっきより人でごった返している。盛況でいい感じだ。カメラの台数も意味わからんくらい多い気がする。
みんな私の戦いが見たいんだよね、たぶんそうだよね。それとも相手のほうだったりすんのかな。
「永倉ーっ、かましてやれや!」
「派手な試合やってくれよ!」
「葵ちゃん頑張ってー!」
このダンジョンだと音の反響がすっごいわ。でも声援は気分が盛り上がる。
がははっ、やったるぞ。
今度の相手は大柄な兄ちゃんだね。斧使いかよ。体格に合うでっかい斧だけど、また剣じゃないんだね。
だいぶごっつい鎧を着てるし、防御力もそれなりに強そう。
「よろしく頼む。お前との対戦は見物人が多くて気合が入るな」
大柄で顔もちょっと怖いけど、明るい感じの兄ちゃんだね。
「私も気合入ってるよ! でも剣じゃないのに、よく勝ちあがってこれたね。聖域化ってどんなもんだった?」
「俺のほうは思ったほどではなかったな。しかし映像で確認したが、お前の試合の聖域化は威力が違ったように思えた。実際、どうだったんだ?」
「そんなでもなかったけどね。対戦相手はキツそうだったし、たぶん人によるわ」
「あの薙刀の使い手は厳しそうだったがな……いずれにしてもやってみればわかるか」
空気を読んだ審判のおっさんが、話のキリのいいところで進み出てきた。
筋肉モリモリの腕がすいっと上がれば、また聖域化が始まる。
今度もうっすらした青い光。剣の紋章が地面に2個ある状態で、さっきより1個多い。そんでもって、さっきより体が重く感じるね。
「うぬうっ!?」
「それでは…………始めっ」
斧の兄ちゃん顔が険しいね。めっちゃ辛そう。
「おーい、大丈夫?」
「なんのこれしき! 情けはいらん、かかってこい!」
いいね。そうこなくっちゃ。
「ほいじゃ、いくよ」
「相手にとって不足なし、全力の『剛力』で迎え撃つ!」
スキルを使ったっぽいね。すごいパワフルな動きでこっちに向かってきたわ。だいぶ体は重そうだけど。
「おおおおおおおおおっ」
気合はすごいけどね。辛そうだし、早めに終わらせてやるかな。
「おりゃー」
力のこもった斧の叩きつけを避ける。パワーは感じるけど、とにかく遅い。聖域化のせいでめっちゃ遅い。私に当たるわけないわ。
ひょいっと避けながら、棍棒剣で背中をペシンと叩けばそれだけで倒れてしまった。でもって、起き上がれない。
ダメージは全然ないと思うけど、聖域化のせいだね。がんばって起き上がろうとはしてるけど、ダメっぽい。あ、あきらめた。
「――戦意の喪失によって、勝者、永倉葵スカーレット!」
なんかもう、剣士じゃない奴らは気の毒だ。せっかく自分の戦いを見せようって集まったはずなのにさ。
こんな戦いを配信で流されまくったら、マジで可哀そうだよ。すっげー弱く見えちゃうし。なんか私まで悲しい気持ちになるわ。
あと華麗に戦いたいのに、そんなことをする間もなく終わってしまう。つまらん!
斧使いの兄ちゃんは明るい感じだったのに、悲しそうにトボトボと帰っていってしまった。
ういー、なんかなー。
私にはものすごい声援が送られているけど、あんまりはしゃぐ気にならんね。
いっぱいあるカメラにはちょろっとサービスしてやるとして、まあいまはこんなもんで許しておくれ。
次は剣士と戦って、気持ちよく勝ちたいわ。
控室で休んだり、うろちょろしている間にいい時間に。
次の試合の5回戦は、予選の最後だったかな。
予選を突破して本選に出られるのは32人で、招待された特別枠の人たちも32人。でっかいイベントだよね。
「――永倉葵スカーレット」
呼ばれて武闘場に進み出る。サクッと勝って決めちまおう。
どんどん負けた人が帰っていって、ちょっとだけでもダンジョンの中の人が減ったかなと思いきや。全然そんなことはなさそう。
私の武闘場の周りにも、その向こうほうにもめっちゃ人がたくさんいる。
相手の人も出てきたけど、今度は女の剣士だね。やっと剣士だよ、これで遠慮はいらなくなるね。
あ、服に剣のマークの紋章が入ってる。天剣の人かな?
おうおう、ちょっとテンション上がってきたわ! 周りがうるさいし、近づいてあいさつしましょうね。
「おいすー、対戦よろ!」
「……チッ」
え、なんだよこいつ。さすがに感じ悪すぎだろ。
せっかく楽しくなってきたと思ったのにさあ、やっちまうぞ。まったくもう。
武闘場の周りがなんでかすごい盛り上がっている。審判が進み出てきたんで、女からはいったん離れた。
そうすると審判が手を上に伸ばして、また青い光に包まれる。
前よりも一段と濃い青な気がするね。剣の紋章も……あ、また増えてるわ。今度は3つかよ。
「うおー」
さすがに私でもきつくなってきたかな。ちょっとだけね。
まあ剣士のための大会だからね。このくらいのハンデは仕方ないわ。
「それでは…………始めっ」
いいよいいよ。こんなつまらん手でも使わんと、私には勝てないってことだもんね。
それにしても周りはめっちゃ盛り上がってるのに、私は全然楽しくないわ。対戦相手が弱っちすぎるんだよ。
あ、そういやこれって予選の最後なんだよね?
それなのにこの女剣士もあんま強そうじゃない。テンション下がるわー。
ちょっとはがんばっておくれよ。頼むからなんか、すごい技とか使っておくれよ。
そうじゃないと、私が楽しめないだろうが!




