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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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235/235

外野が一番盛り上がる大会

 いったんダンジョンから出て、外の空気を吸いに行った。

 11月の終わりにしては気温も高めっぽいし、行楽日和ってやつだ。ダンジョン管理所の裏手のほうに回って、やっと少し落ち着いた。


「ふいー、気持ちいいね」


 スマホをチェックしたら、まゆまゆは試合の見物をしてるみたいだ。せっかく来たんだし、私を待ってるだけじゃつまらんもんね。あとで面白い話でも聞けたらいいな。

 そんなことを考えていたら、スマホが鳴った。


「もしもし? マドカー、勝ったよ!」

「見てたわよ。でもあの聖域化、明らかにおかしかったわね」

「ちょろっと聞いたわ。なんか私のところだけ結界が強くなってんの?」

「みんなで映像を確認してみたけど、間違いないわ。二試合目から、アオイの武闘場だけ光の色が違ったもの」


 やっぱそうなんだ。


「まあ、あんま関係ないけどね。私ったらあのくらいじゃ負けないし」

「それを聞いて少し安心したけど、まだ聖域化は強くなるかもしれないわ。あと配信のコメント欄も荒れてるわね。アオイに対する文句じゃないから、暇な時間があったら見てみたら?」

「へー。それより私の対戦相手がさ――」


 コメントね。わざわざ教えてくれるくらいだから、嫌な感じはないのかな。ちょっと気になるね。

 そうしてなんだかんだと雑談していたら、結構時間がたってしまった。


「うおっと。じゃあコメント見てみるね。ほいじゃ、またあとで」

「残りの試合も頑張ってね、みんなで見てるから。それじゃ」


 せっかくだから配信のコメントを見ちゃうか。

 マドカが送ってくれたリンクをぽちっとな。どれどれ。



『永倉が出てる試合だけ、聖域化の結界色おかしくね?』

『剣の紋章まで出てるとか他の試合ではなかったはず』

『完全に永倉潰しだな』

『天剣卑怯すぎ』

『それでも普通に勝つ永倉がやばい』

『これが絶望か……』

『相手からしたら絶望的な強さだからな』

『さっきの試合、同接380万とか笑うわ』

『まだ予選だろ? 凄いな』



 ほうほう、盛り上がってんね。追いきれないくらいコメントが流れまくってるわ。

 いい感じじゃん。注目集まりまくりだ。



『早く次の試合見たいな』

『他の試合の同接とは桁違いに多いね』

『大会荒らしの絶望だから注目度が違う』

『永倉VS天剣の構図になってんな』

『今や天下の天剣が、たった一人の女の子と張り合ってんのマジか』

『面白すぎて絶望のほうを応援してしまうわ』

『お前ら天剣の立場になってみろよ。本当に最悪だろ』

『永倉だけ別ゲーしてるみたいで笑う』



 誰も花園って呼んでないわ。

 やっぱ本選で勝ちまくって、インタビューとかでバシッと言ってやらないと。


 ゴミみたいなコメントもちょこちょこ見かけるけど、だいたい私のことを応援してくれてるっぽい。それは嬉しいけどね。

 よっしゃ、期待に応えてまた勝ちまくってやりますか。

 花園の代表らしく、華麗に勝とう!



 やってきました。4回戦。

 私の武闘場の周りは、さっきより人でごった返している。盛況でいい感じだ。カメラの台数も意味わからんくらい多い気がする。

 みんな私の戦いが見たいんだよね、たぶんそうだよね。それとも相手のほうだったりすんのかな。


「永倉ーっ、かましてやれや!」

「派手な試合やってくれよ!」

「葵ちゃん頑張ってー!」


 このダンジョンだと音の反響がすっごいわ。でも声援は気分が盛り上がる。

 がははっ、やったるぞ。


 今度の相手は大柄な兄ちゃんだね。斧使いかよ。体格に合うでっかい斧だけど、また剣じゃないんだね。

 だいぶごっつい鎧を着てるし、防御力もそれなりに強そう。


「よろしく頼む。お前との対戦は見物人が多くて気合が入るな」


 大柄で顔もちょっと怖いけど、明るい感じの兄ちゃんだね。


「私も気合入ってるよ! でも剣じゃないのに、よく勝ちあがってこれたね。聖域化ってどんなもんだった?」

「俺のほうは思ったほどではなかったな。しかし映像で確認したが、お前の試合の聖域化は威力が違ったように思えた。実際、どうだったんだ?」

「そんなでもなかったけどね。対戦相手はキツそうだったし、たぶん人によるわ」

「あの薙刀の使い手は厳しそうだったがな……いずれにしてもやってみればわかるか」


 空気を読んだ審判のおっさんが、話のキリのいいところで進み出てきた。

 筋肉モリモリの腕がすいっと上がれば、また聖域化が始まる。

 今度もうっすらした青い光。剣の紋章が地面に2個ある状態で、さっきより1個多い。そんでもって、さっきより体が重く感じるね。


「うぬうっ!?」

「それでは…………始めっ」


 斧の兄ちゃん顔が険しいね。めっちゃ辛そう。


「おーい、大丈夫?」

「なんのこれしき! 情けはいらん、かかってこい!」


 いいね。そうこなくっちゃ。


「ほいじゃ、いくよ」

「相手にとって不足なし、全力の『剛力』で迎え撃つ!」


 スキルを使ったっぽいね。すごいパワフルな動きでこっちに向かってきたわ。だいぶ体は重そうだけど。


「おおおおおおおおおっ」


 気合はすごいけどね。辛そうだし、早めに終わらせてやるかな。


「おりゃー」


 力のこもった斧の叩きつけを避ける。パワーは感じるけど、とにかく遅い。聖域化のせいでめっちゃ遅い。私に当たるわけないわ。

 ひょいっと避けながら、棍棒剣で背中をペシンと叩けばそれだけで倒れてしまった。でもって、起き上がれない。

 ダメージは全然ないと思うけど、聖域化のせいだね。がんばって起き上がろうとはしてるけど、ダメっぽい。あ、あきらめた。


「――戦意の喪失によって、勝者、永倉葵スカーレット!」


 なんかもう、剣士じゃない奴らは気の毒だ。せっかく自分の戦いを見せようって集まったはずなのにさ。

 こんな戦いを配信で流されまくったら、マジで可哀そうだよ。すっげー弱く見えちゃうし。なんか私まで悲しい気持ちになるわ。


 あと華麗に戦いたいのに、そんなことをする間もなく終わってしまう。つまらん!


 斧使いの兄ちゃんは明るい感じだったのに、悲しそうにトボトボと帰っていってしまった。

 ういー、なんかなー。


 私にはものすごい声援が送られているけど、あんまりはしゃぐ気にならんね。

 いっぱいあるカメラにはちょろっとサービスしてやるとして、まあいまはこんなもんで許しておくれ。

 次は剣士と戦って、気持ちよく勝ちたいわ。



 控室で休んだり、うろちょろしている間にいい時間に。

 次の試合の5回戦は、予選の最後だったかな。

 予選を突破して本選に出られるのは32人で、招待された特別枠の人たちも32人。でっかいイベントだよね。


「――永倉葵スカーレット」


 呼ばれて武闘場に進み出る。サクッと勝って決めちまおう。

 どんどん負けた人が帰っていって、ちょっとだけでもダンジョンの中の人が減ったかなと思いきや。全然そんなことはなさそう。

 私の武闘場の周りにも、その向こうほうにもめっちゃ人がたくさんいる。


 相手の人も出てきたけど、今度は女の剣士だね。やっと剣士だよ、これで遠慮はいらなくなるね。

 あ、服に剣のマークの紋章が入ってる。天剣の人かな?


 おうおう、ちょっとテンション上がってきたわ! 周りがうるさいし、近づいてあいさつしましょうね。


「おいすー、対戦よろ!」

「……チッ」


 え、なんだよこいつ。さすがに感じ悪すぎだろ。

 せっかく楽しくなってきたと思ったのにさあ、やっちまうぞ。まったくもう。


 武闘場の周りがなんでかすごい盛り上がっている。審判が進み出てきたんで、女からはいったん離れた。

 そうすると審判が手を上に伸ばして、また青い光に包まれる。


 前よりも一段と濃い青な気がするね。剣の紋章も……あ、また増えてるわ。今度は3つかよ。


「うおー」


 さすがに私でもきつくなってきたかな。ちょっとだけね。

 まあ剣士のための大会だからね。このくらいのハンデは仕方ないわ。


「それでは…………始めっ」


 いいよいいよ。こんなつまらん手でも使わんと、私には勝てないってことだもんね。

 それにしても周りはめっちゃ盛り上がってるのに、私は全然楽しくないわ。対戦相手が弱っちすぎるんだよ。


 あ、そういやこれって予選の最後なんだよね?


 それなのにこの女剣士もあんま強そうじゃない。テンション下がるわー。

 ちょっとはがんばっておくれよ。頼むからなんか、すごい技とか使っておくれよ。


 そうじゃないと、私が楽しめないだろうが!

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 今の状況、ほぼ『アニオリ回の大界○星編で、悟○が界○様に重りのトン数をめちゃ増やしてもらう→超化して余裕で修行→他の界○様ビビる』な展開みたくなってますよねww 多分裏では天剣の…
剣士以外マジで可哀想だね…
こういう相手の思惑をパワーでつぶしていく展開好きだわぁ
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