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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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合理的でもズルいルール

 いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのクラン、天剣の星!

 そいつらが満を持して開催する武闘大会が、まさかのインチキルール満載だ!


 雪乃さんが出してくれた画面を、みんなちょっと呆れた感じで見ているね。

 一応、この大会には沖ちゃんが招待選手扱いで、本選から出場することが決まっている。私は招待されてないから、普通に予選から出るつもりなんだけど……。


「インチキっぽくね? ズルくね?」

「だよな。こんなインチキするより、最初から剣士以外の参加は認めなけりゃいい。どういうつもりだろうな」

「誰でも出場可能にしている意図を考えると、やはり興行としての注目度か」


 小難しい理由だったら、私にはわからんね。


「このルールを含めた剣聖杯については、まず理念が示されています。こちらです」


 また画面が切り替わった。



■剣聖杯理念■


『――ダンジョン時代になって以降、人類は新たな力を手に入れました。しかし、武の真髄を見失いつつあると考えます。剣聖杯はダンジョンハンターとしての、鍛えた肉体、磨いた技術、そして不屈の精神を正面からぶつけ合う『武の原点回帰』を目指すものです。本大会は武の規範を学び直し、また武の規範を体現する者を輩出することを主な目的としています』



 つまりどういうことよ? ごちゃごちゃ書いてあるけど、全然意味わからん。


「ルールについての疑問も、よくある質問としてまとめられています。それが次です」

「あんなの質問されて当然だよね。どれどれ」



【質問】使用武器の制限が厳しすぎるのでは?

【回答】間口は広く、試練は厳しくが望ましいと考えます。我々はあらゆる才能に門戸を開いています。ただし、本大会が定める『真の武』の規範は、どのような武器を扱うハンターであれ、乗り越えるべき共通の試練です。剣はその規範に最も近いと考えます。



「ういー、わからん。沖ちゃん、意味わかる?」

「つまり……誰でも参加可能だと強調はしつつ、剣士以外の勝利を困難にするルールを正当化しているのだと思います」

「まあ天剣は剣士のクランだからな。新たな剣士の発掘も目的のひとつなんだろ? だったら、目的外の奴に勝たれても仕方ねえ。その言い訳を剣こそが『真の武』とか『武の規範』とか、言い放ってやがる。そういうことだな」


 マジかよ。でもあれか、自分たちの大会なんだからね。好きにやっても、いいっちゃいいのかな。



【質問】剣士系クラス以外に対する負荷は不公平では?

【回答】武を磨くための負荷は有効と考えます。武闘場の聖域化は、特定のクラスを有利にする意図ではなく、武の精神を体現する剣士の理想的な身体運用を規範としています。剣士系以外のクラスは、この規範をクリアするための必要な負荷をかけられているにすぎません。これを乗り越えた時、武の精神の一端を体現できたと認められます。



「うおいっ、ちょっと意味不明すぎるだろ。さっきからさあ、なんなん?」

「剣士系のクラスは、無条件で武の規範を満たすという考えらしいわね。で、それを満たさない剣士でないクラスには、要はデバフ状態にすると」

「うちの結界みたいなもの?」

「ツバキの結界に入ったモンスターは、動きが鈍くなるわね。おそらく、それに似た効果があるんじゃないかしら」


 すごいわ。なんだその理由。剣士以外は不利になるんだよね? 

 正当化なんかできてなくね? ズルいところを全然、誤魔化せてないわ。


「それに聖域化による負荷が、人によって違うとも書いてあるわ。恣意的な運用が可能と読めるわね」

「最初からそれを念頭に置いたルールだろうな。黙ってやるよりはマシかもしれんが、開き直ったものだ」

「私はいつもどおりに戦えそうですが、葵はだいぶ不利になりますね」


 沖ちゃんはクラスが剣士系の侍だし、武器も普通に刀を使うからね。私と違って不利にはならないっぽいかな。


「そういやさ、ハンマーと警棒は使えないし、キックもダメって書いてあったよね?」

「もう一度映しますね。『籠手や靴による直接打撃は、勝敗判定における有効な攻撃と認めない』とあるので、手足による殴打で倒しても勝ちにはならず、書いてはいませんが場合によっては失格になるかもしれません」


 ややこしいわ。わかりやすく、短くはっきり書けよ。


「使っていいのは50センチ以上の刃物だけってことだ。ナイフじゃ長さが足りねえし、葵も剣を使うしかなさそうだな」

「アオイ、武器はたくさん持ってるわよね?」

「全然使ってないけど、いっぱいあるよ。剣とか使わんから、得意じゃないけどねー」


 普段と違う戦いも面白いっちゃ面白いかな? そうでも考えないとやってられねーわ。


「聖域というものの効果が、どの程度の威力かわからないのは厄介だな」

「これは剣士以外がどうというより、アオイを潰しにかかっているようにしか思えないわ」

「だろうな。剣士以外を勝たせたくねえ、そんでもって最も厄介なのは葵だ。蒼龍杯は年齢別でのエントリーだったが、葵は明らかに群を抜いて強かったからな。ここ最近の大会でも葵は圧勝してるからよ、露骨な葵潰しだろうぜ」


 がははっ、やっぱそうだよね? 私ったら、めちゃ強かったよね?

 まあいいよ。かかってこいの気持ちでやっちまおう。


「よっしゃ、私はこのくらい跳ね返すから全然大丈夫! 沖ちゃんと一緒に勝ちまくって、天剣の奴らをビビらせてやるわ!」

「はい! 決勝で戦いましょう」

「そうなったら盛り上がるよね。もう剣聖杯を乗っ取ってやるわ」


 なんか気合が入ってきたよ。


「あ、そういえばさ、剣聖杯って勝ったらなにがもらえんの?」


 いいもんもらえたら、また気合が高まるし。


「目玉となる賞品はクラン『天剣の星』への加入権です」


 は? なんだよそれ。全然、いらねー。

 高まった気合が、へにょへにょになってしまったわ。


「もちろんそれだけではありません。副賞もあります」

「うおっと、なんだよー。びっくりしたよ、雪乃さん」


 さすがにね? 誰もが天剣に入りたいなんて、そんな思い上がりはしてないよね。

 てゆーか、天剣の奴らも出場するなら、そんな権利もらっても意味ないし。そりゃあ、ほかにあるよね。


「副賞は何がもらえるのですか? 剣聖杯ですから、やはり剣ですかね」


 沖ちゃんは興味津々だね。刀とか好きだし、そういうのがあればやる気が高まるよね。


「優勝した場合には、こちらの装備が副賞になるようです」


 また画面が切り替わって、カッコいい感じの装備品の写真が映った。



■布都の籠手:疲労軽減、斬撃威力上昇の籠手。

■疾風火神の靴:移動速度を上げ、気配を断つ靴。



 ほうほう。どんなにすごそうでも私はお気に入りの装備があるから、装備系は全然いらないわ。

 でも沖ちゃんには、いい感じの装備っぽいね。刀とか剣じゃないけど、悪くはなさそう。


「いいじゃねえか。この規模のでかい大会で、天剣もしょうもない景品は用意しねえだろ。瑠璃には相性よさそうだしよ、使えそうじゃねえか?」

「まさに剣士向けの装備ですね」

「剣聖杯は、とことん剣士向けのイベントってことみたいね。天剣の本音としては、アオイには参加してほしくないんじゃない?」


 なんかね。


「葵姉はん、ほんまに出るん?」

「だって剣聖杯って、でっかいお祭りみたいなイベントになってんだよね? そりゃ出たいよ」


 めっちゃ嫌そうにされてるし、お得なことも全然なさそうだけど、面白そうだからね。


「そもそも葵さんが出場しないことは、天剣にとっても大きなマイナスになるはずです。すでに公表している予定でもあるので、もし辞退する場合には揉めると思いますよ」

「え、そうなん?」

「葵ちゃんは人気者なので、視聴者数が稼げるじゃないですか。いまから辞退なんかしたら、そういうので文句言われますよねえ」


 おお、なるほど。そっか、私ったら超人気者だしね。


「そうだよね。私の勇姿を見たい人たちがいっぱいいるもんね」


 しょぼいことばっかりする天剣の奴らにひと泡吹かせるためにも、いっちょがんばりますかね。

 楽しみにしてくれる人たちが、いっぱいいるのも嬉しいしね。


 沖ちゃんと一緒に大会を荒らして、盛り上げまくってやろう!


 そうしたら、ちょっと特別感ある武器でも使うかな。たまには、そういうのもいいよね。

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はよ暴れるの見たいな どんな武器でいくんだろうか 無難に形が剣なだけの鈍器かな? 私が怖くて作ったルールみたいなのでお望み通り辞退しますね^-^ って言った時の反応も見てみたくはある 歴史とか語っ…
鉄塊のような大剣とか持ってこうぜ!
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