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ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


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229/235

期待高まる次の目標

 最初の一撃を弾いても、小汚い道着野郎は止まらない。

 こうなるのが最初からわかっていたかように、槍をすぐに引き戻して今度は足元を狙ってくる。

 ほうほう、次のことも考えたコンパクトな攻撃だね。でも全力じゃなさそう。


「おー、そういう感じか。やるね」


 ひょいっと警棒で槍を横に弾き、ジャンピング攻撃!

 やっぱり大勢の観客の前だからね、見栄えのする戦いをしないとだ。私ったら今日は気分がいいから、ちょっとサービスしちゃうよ。


 空中でくるっと体をひねりつつ、頭に向かって警棒を振り下ろした。すると相手は弾かれた槍の穂先じゃなくて、手元のほうを上にかざして受け止めた。

 おお、ちょっと予想外の防御だったわ。上手いね。


 私の警棒は2本あるから、ここで一気に決めちゃうこともできたけどね。やっぱ決勝だし、いくつか見せ場を作らないと盛り上がらんからねー。


「ほいよっと」


 道着の腕を軽く蹴っ飛ばして、距離を取りつつ着地した。

 うん、やっぱすっごい歓声だ。いまの攻防は盛り上がったっぽいね。


「永倉! お前の強さは普通じゃない。わかっていたつもりだったが……」


 のんきに話しかけてくんなよな。戦いの最中なのに。


「だが、俺も簡単には負けられん」


 槍を構え直した小汚い道着野郎だけど、それで急に強くなるわけじゃないからね。

 すでに私のほうがずっと強いって、わかったっぽいよね。まあ気合を入れ直して損はないよ。


 今はいっぱいの観客が見守る決勝なんだから、しょぼくてつまらん試合はできない。そんなことになったら最悪だ。

 そんでもって、私はめっちゃカッコよく目立ちまくって、花園の名を高めてやるのだよ。そのための役に立っておくれ。


「おおおおおおっ、くらえええっ」

「ほいほいほいっと! ほいほいっと!」


 高速で槍が突き出されまくるのを、片手の警棒で弾きまくる。


 元はといえば、天剣の子分どもが変なことをたくらむから、私だって興味もなかった大会に出ているんだよね。

 道着野郎は悪い奴じゃないっぽいけど、私の踏み台になるがいいわ!


「まだまだあああああああああっ」


 途切れない槍の連続突き。速い上に力強い。体力もすごいし、大舞台に相応しい奴だと思う。

 でも私はもっともっと超強いからね。片手だけで防御しつつ、もう片方の警棒はクルクル回して威嚇するよ?

 だんだん息が上がってきたね、そんなもんで終わり? そろそろ、こっちからもいっちゃうよ。


「うおりゃー、ウルトラハード警棒術!」


 がははっ、ここからは私の番だよ。


 連続突きを大きく弾いたら、ドンと一気に距離を詰める。私のほうがずっと速いんだよね。

 槍を引き戻そうとする動きは当然間に合わないけど、サービス精神旺盛な私はやっちまうよ。戻そうとする槍をわざわざ殴って、叩き落とした。そんなことしてる暇があったら、野郎自体を殴ったほうが早いのにね。


 武器を手放しちゃうなんて、道着野郎もまさかと思ったよね? 顔がもう超びっくりしてるわ。それくらい威力があったんだよね!

 でもびっくりしても動きを止めたらダメだよ。


「終わりだよ!」


 ズドンとお腹を警棒で小突いてやった。

 道着風の防具はそれなりの防御力はあったと思うけど、それでもダメージは通った手応えがある。

 でも根性だね。道着野郎はがまんした。


「ぐほっ……ま、まだだ」


 槍を落とした道着野郎は、気合だけで私を殴ろうとする。しぶといね。


「根性あるじゃん」


 まあ、だからって終わりなのは変わらんけど。

 拳を警棒でバシンと払ってから、無意味にくるりと一回転してお腹に警棒をドン! 今度こそ倒れたね。


 ま、こんなもん? 一応の見せ場は作れたよね。


 チラッと大型スクリーンを見たら、80秒を経過したくらいだった。

 決勝だし、これまでで一番長く戦ったね。まあ、それでもこんなもんか。


「――勝者、永倉葵スカーレット!」


 一瞬の謎の間を置いて、会場が爆発したように盛り上がった。

 これだよ、これ。この盛り上がりのために、私もちょっとはがんばったんだから。


「うおおおおおおおおおおおおっ」

「絶望の花園、オルタナティブ!」

「永倉葵スカーレット!」

「東京都大会制覇!」


 紙吹雪がドバドバ上から降り注いで、歓声と拍手が鳴りやまない。

 あれこれ言われているっぽいけど、ほんのり聞き取れたのは私やクランの名前かな? あとはなにを叫んでんのか全然わからんわ。


 大型スクリーンには、会場を見回す私が映されている。

 おーいと手を振ってやったら、ドカンと超盛り上がった。


 邪魔なくらいにでっかいトロフィーと、賞品の東京都のいろんな施設を1年間無料になるパスをもらってまた盛り上がった。


 うーん。楽勝だったけど、勝つってやっぱり気分がいいね。

 特にこんなでっかい会場での優勝は、めっちゃテンション上がるわ。


「永倉さん、永倉さん! 東京都大会優勝、おめでとうございます。いまのお気持ちは?」


 なんかマイクを持った姉ちゃんが話しかけてきた。

 インタビュー的なやつだよね? よっしゃ!


「最高っす! 盛り上がってくれて超嬉しいっす!」

「終わってみれば、全試合圧勝だったと思います。次の目標などありますか?」

「次? とりあえず、ほかにもあちこち出るんで、そこでも勝ちたいっすわ!」


 また会場が盛り上がる。みんな楽しそうで嬉しいね。


「剣聖杯にもエントリーされていますね。永倉さんはそこでも優勝を狙いますか?」


 そんな大会あったっけ。あ、天剣のやつってことかな。まあどれでもいいや。


「えっと、出るからにはどんな大会でも勝ちたいっす! そりゃあ狙うは優勝っす!」


 そう言ってやれば会場がまた「うおおおっ」って盛り上がった。こりゃ楽しいわ!


 景気のいいことを言えば、景気のいい声援が返ってくる。気分が盛り上がるね。

 たいして意味があるとは思えない質問にテキトーに答えて、あとは退場だ。

 盛り上がりまくった会場から出ていくのはちょっとだけ寂しい気持ちになるね。


 リングから降りようとしたら、小汚い道着野郎がまだ残っていた。なんか私を待っていたっぽい。


「永倉、俺の完敗だ」


 素直な奴じゃん。でもやっぱこいつ臭いわ。ちゃんと毎日風呂に入って、服は洗濯しろよ。まったくもう。


「そうだね。でも今日の中だと、キミが一番強かったと思うわ」

「俺は天剣のエース候補などと言われていたが、実際はそうではない。決勝でそうだったように、実は俺は剣よりも槍のほうが得意なんだ。あくまで剣にこだわる天剣には、俺以上に剣の腕が達者なエース候補がほかに数人はいる」

「ほーん? そうなんだ」


 だからなにって感じだけどね。


「剣聖杯にはお前も出るのだろう? 気を付けろ」

「あ、それだよ。その剣聖杯ってなに?」

「天剣が主催する大会のことだ。あのな、さすがにそれを知らないのは……まあいい」


 そんなこと言われても初めて聞いたからね。


「とにかく、出場するなら気を付けろ。剣聖杯は上級クラスを得てないハンター、その中で剣士の頂点を決める大会だ。今回は剣士以外の出場も認めているようだが、あくまでも剣士の大会だ。剣士でない者にとって、不利になるルールが作られている」


 あー、そういや蒼龍のおっさんがそんなこと言ってた気がするね。ちょっと思い出した。


「その不利な大会でさ、私が勝ったらめっちゃ面白いじゃん。だから別にいいよ」


 観客もきっと盛り上がるよね。


「実はルールはまだ練っている最中と聞いている。今日の結果を受けて、剣士でない者にはさらに厳しいルールに変わるだろう」

「だから別にいいって。最悪、両手を使ったらダメって言われても私は勝つよ? 私ったらキックだけでも超強いからね!」


 めちゃくちゃなルールだって、別にいい。どんとこい!


「お前と戦った俺には、その言葉が強がりでないことがわかる。あまりにひどいルールを設定して、その上でもし負ければ最悪だ。しかし公平にして負ければメンツが……やはり相当厳しいルールを正当化し、勝ちにこだわるだろう。それでも出場するか?」

「もう出るって言っちゃったしね。そりゃ出るよ。けど私が圧勝しまくっても、うらみっこなしで頼むよ。がははっ、まあどんなルールにしたって、私が勝っちゃうけどね!」


 元はと言えば、沖ちゃんに手を出そうとするのが悪いんだからね。私と沖ちゃんで勝ちまくって、お前らのところになんか用はないんだよって、わからせてやるわ。


 ほっほー、小脇に抱えたトロフィーがまた増えるね。

 なんとか杯のトロフィーも、私のコレクションに加えてやるわ!


 むしろ、あれだよ。

 思いっきり不利なルールにしといてほしいわ。そっちのほうが、私はたぶん楽しいし。

 そうじゃないと私が普通に勝っちまうよ。それじゃあ、つまらんよね?

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― 新着の感想 ―
更新お疲れ様です。 胴着さん(仮名)…じゃない轟さん、天剣所属なのにわりとまともな性格なんですね。くちゃいけど(笑) しかしオレ流ルールで勝ちにこだわるとか…それで負けたら恥さらしってレベルじゃなく…
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