すごい会場東京ビッグドーム!
ついにやってきました。東京ビッグドームでの本選、その1回戦。私の出番だ。
リングに上がると、めっちゃたくさんの観客からすんごい歓声が響く。
こいつはやばいわ。うるさいけど超気持ちいいわ!
正面にいる対戦相手はアラサーくらいの兄ちゃんかな。真剣な顔でこっちをじっと見ているね。
こいつはあれだ、シードとかいう予選を免除された16人のうちのひとりだよね。
「ういー、こんなもんか」
あんま強そうには見えないわ。私のほうが100倍強くね? なんで私がシードじゃないんだよ。納得できねーわ。
弱そうに見えて実は強いとか? うーん、やっぱそんな感じはしないけどね。
ピカピカ光る大型スクリーンのほうを見れば、私たちの情報がでっかく書いてある。
『永倉葵スカーレット 絶望の花園オルタナティブ代表 武器:警棒』
『柏木剣介 武骨者剣客集団所属 武器:日本刀』
おうおう、私の顔写真はもうちょっといいやつ使えよ。なんかちょっと怖い感じじゃん。もっとこう笑顔のさあ、そういうのだってあるだろ。
「それでは本選1回戦第1試合を始めます。制限時間は15分です。リングアウト、ギブアップ、または戦闘続行不能と審判が判断した場合に決着とします。時間内に決着しない場合には延長戦、そして審判団による判定を――」
ごちゃごちゃした説明は事前に聞いているから大丈夫。警棒をクルクル回して、準備完了の意思を示すよ!
相手も刀を構えて、準備も気合も十分な感じだね。そうして審判が手を挙げて、
「――始め!」
振り下ろすと同時にゴングも鳴った。その直後、アラサー兄ちゃんが動いた。
鋭い踏み込みから刀を抜いて、私に向かって一閃って感じ?
でも遅いし、見え見えなんだよね。ひょいっと軽くしゃがんで避けたら、勝手に近づいてきた相手の懐に潜り込むよ。
めっちゃびっくりしてんのが、その目からわかっちゃうね。刀を振り抜いた姿勢のまま、なんにもできないっぽいね。
「ほいよっと」
右の警棒でお腹をドン、左の警棒であごをドン!
ここは見せ場だよね。いつもよりちょっと派手にかますよ。
ちょいっとジャンプ! 回し蹴りを胸に叩き込んで、リングの外まで吹っ飛ばした。
時間はどんなもんかな?
大型スクリーンに表示されたタイマーを見たら、まだ5秒しか経ってなかったわ。
がははっ、やっぱ弱いじゃん。楽勝!
「勝者、永倉葵スカーレット!」
審判のマイクを通したでっかい声が響いたのに、会場が静まり返っちゃってるね。
でも次の瞬間だよ。
「うおおおおおおおおおおおお!」
すごい歓声だ。それと拍手も。
大型スクリーンには、さっきの私の勇姿が流されている。それも違う角度だったりスローモーションだったりで何回もだ。
こうやって見ると、ちょっとハズいわねー。
でも映像が繰り返されるせいか、歓声と拍手が鳴りやまない。
警棒の超高速クルクル回転で歓声に応えてやれば、もっと大きくなった。
「いやー、こりゃ気持ちいいわ」
観客に応援されるのって、思ったよりずっと気分がいいんだよね。
なんせ5万人だっけ? そんだけの大勢の人たちが私の戦いで喜んでくれるとかさ、なかなかないわ。
がははっ、もっとサービスしたくなっちゃうね。
これが東京都大会、本選の舞台っすか。
マジすげーっす!
控室に戻ると、ひとりの空間がちょっと寂しい。
マドカとリカちゃんは観客席に行っちゃったから、次の出番までやることないわ。
どうすっかなと思っていたら、スマホの着信音が鳴った。
「んお、夕歌さん! おいすー、私の勇姿見た? 見てくれた?」
「おいすー、葵ちゃん。見た見た、すごかったわねー」
ネットでライブ中継してるらしいからね。知り合いみんなに見てねって言ってはいたけど、電話をくれるとはナイスだよ。戦い終わったら待ち時間が長いんだよ。
「まあ、よゆーだったよね」
「あの人はハンターとしてはあまり活躍していないのだけど、こういった武闘会ではよく見かける人ね。今日もシード枠だったし、結構有名人なのよ」
「ほーん? そう言われると技はそこそこだったかな。でもやっぱハンターとしてのレベルが低いとさ、ステータスの力が出せないじゃん? そのせいで弱いのかも」
「葵ちゃん。ステータスの力をダンジョンの外でも発揮できるのって、よっぽどの高レベルか天才しかいないのよ?」
私って天才だったのか。やっぱそうだよね。そうに決まってるわ!
「この調子で優勝するしかないわ。もう決まったも同然だよ」
「そんなこと言って油断してると、意外な相手にやられちゃうわよ?」
「いやいや、私ったらまだ全然本気じゃないし。むしろ本気で戦いたいよ。予選もやったけどさ、みんな弱っちいんだよね」
「本気じゃないの? 容赦ないわねー、なんて思ってたのに」
「あんなの全然だよ。それでさあ――」
弱っちすぎて、本気でやったらぶっ殺しちまうからね。気を使う私も大変なんだよ。ちゃんと手加減しないとだし。
そんなことを夕歌さんに話していたら、まあまあ時間が経っていた。
「――ごめん、そろそろ仕事に戻らないと。試合はちょこちょこ見るから、がんばってね」
「うん、夕歌さんまたね」
次の試合までまだ時間あるけど、あんまうろうろすんなよって言われてるからね。どうしたもんかな。
別の奴の試合がモニターで流れてるけど、あいつらも全然弱っちいわ。見ててもつまらんし、マジで暇だね。
「ういー、でもこれなら派手に勝って、評判を上げられるかな。あんだけ超たくさん客がいるんだし、たぶんライブ中継見てる人はもっといっぱいいるよね」
私も花園も評判爆上げになること間違いなし!
今日も来週も、その次も勝って、あとは天剣主催の大会でも勝ちたいね。やっぱ天剣のが本命かな。
この東京都大会もすごい注目されてるだろうけど、天剣主催の大会が一番だって言われてる。
そこに殴り込んで、目立ちまくりたいわ。
あらかじめ目立っておけば、この先はもっと目立つよね。
どうせやるなら、ガツンとかましてやらないと。
よっしゃ、お次も派手に勝つぞ。
――東京都大会本選2回戦。
ベスト16に勝ちあがった奴らが、準々決勝をかけて戦うのがここだ。
準々決勝とか聞くと、なんだかわくわく感がこみ上げる。いいね!
対戦相手の兄ちゃんも気合入ってる感じだね。
ほーん、今度の奴は刀じゃなくて剣? でも細っこい剣だね。ちょこっと殴ったら折れちまいそうだよ。
あれ、折っても怒られないかな? 戦いなんだし、場合によっちゃ仕方ないよね。私だってわざとそんなことはしないけど。
「――始め!」
試合が始まってすぐ、剣士の兄ちゃんが動いた。
低い姿勢で下のほうから突き上げるような感じ?
前の試合で私がしゃがんで避けたからかな。ちゃんと考えてやってるなら、いい感じだよ。
ただ、やっぱ遅いんだよね。
「おりゃー」
ちょいっと横に動いて、片手の警棒をフルスイングだよ。
突き出された剣をガキンと吹っ飛ばしつつ、勢いのまま回転してもう片方の警棒をお腹にドン!
兄ちゃんは硬そうな防具でこらえたけど、踏ん張りすぎなんだよね。
「とうっ」
動きが止まった兄ちゃんのあごに、ジャンピング飛び膝をお見舞いした。
もう遅いんだよね。防がれるなって思った時には、もう次の手の準備をしてるんだからさ。
仰向けに倒れた兄ちゃんとほぼ同時に、ストッと着地を決めた。そうしたら、また大歓声と拍手の嵐だよ。
「がははっ、もっとほめておくれよ!」
どんどん調子に乗って、華麗に勝ちたいもんだね。
応援してくれれば、もっと派手にやってやりますとも!
いやー、東京ビッグドームってマジで気持ちいいわ。ここ、気に入っちゃったわ。
あ、そうだよ。この会場って私のものにできたりするのかな。
売ってくれないかね?




