ややこしい事態とひとつの打開策!
ちょいと休憩をはさんだら、クラン内ミーティングの再開だ。
ただ話がややこしすぎて、ツバキと私はもうすでに限界が近いんだけど。
「次は私からいいですか? 今朝、情報通の剣士仲間が警告してくれたのですが……」
沖ちゃんのお友だち? 交流会の成果が出てんのかな。いいね。
「瑠璃さん、どのような警告ですか?」
「天剣を始めとして、いくつものクランや地方自治体が武闘大会を開くという話がありましたよね。あの話って、うちにも届いてますか?」
「私のほうで選別中ですが、想定以上に多くの招待状が届いています。大多数はお断りしなければなりませんね」
すごいね、私たちったら人気者だわ。
「それです。自発的に招待状を送ってくれたところもあるとは思いますが、どうやら天剣のサブクランのひとつがですね、大会を開こうとしている団体に対し、花園に参加意思があるなどと吹聴して回っているらしいのです」
え、なに勝手なことを言ってくれちゃってんの?
「どういう意図があっての仕業ですか?」
「剣士仲間が言うには、嫌がらせのようです。数多くの招待を拒否すれば、それは悪評に繋がりやすくなります。つまり、花園は調子に乗っていると……」
「そいつを意図的に煽って、うちの評判に落とそうって腹か? なんだそりゃ、しょうもねえな」
「いや、それだけとは思えん。花園が紫雲館と手を組んだ話は、業界では我々の想像以上に大きなニュースになっている。普通は紫雲館を恐れて、花園に手出しをしようとは思わなくなるはずだが、天剣は別だ」
すっごいクランの紫雲館が花園の味方になれば、下手な手出しはされなくなるって話があった気がするね。それなのに、めっちゃややこしい話ばっかりなんだけど。
あれ、でも逆にセーラさんたちを味方にしてなかったら、もっとやばいことになってたり?
「現状では天剣が大きなリードはしていますけど、紫雲館はガラスの森ダンジョンで結果を出しつつありますからねえ。花園への攻撃は後ろ盾となった紫雲館も黙って見過ごすわけにはいきませんから、そこへの対処で多少なりとも手間を使わされますよ」
「花園への攻撃は、紫雲館に対する攻撃にもなる。回りくどい攻撃への対処は難しく、地味だが紫雲館への負担は確実に増えるというわけか」
最悪じゃん。セーラさんたちは、超がんばってんだよね。
アホみたいな奴らのつまらんたくらみ? そんなので邪魔しようなんて、マジで許せんわ。
「参加を断ることでの悪評と、それへの対処……なるほど。雪乃さん、これって逆に利用できませんか?」
マドカがなんか思いついたっぽい。どういうことか、みんなで話を聞くことにした。
「まず、花園に多数の招待があることを公表するのよ。とても参加しきれないって。でも積極的に参加する意思は見せるの。スケジュール表の形で、いつどこの大会に参加して、どこは断らざるを得ないか、全部オープンにしてしまうというのはどう?」
「スポンサーを募っていない我々は、これまで何かをアピールすることはしていなかった。仕掛けられて黙ったままという訳にはいかんし、これからのことも考えれば、そうした試みは必要だろうな」
また面倒が増えるんかね。普通にハンターやってるだけじゃ、上手くはいかないんだね。めんどくせーね。
「意思の表明はよい考えだと思います。花園はハンターのクランなのですから、大会にばかり参加できないという旨も合わせて表明してしまえば、あまり事情に詳しくない層へもこちらの不義理ではないとアピールできます。ただ、そのためには一定数の大会へは、参加したほうが効果が高くなりますが……」
ほーん? 意味わからんたくらみを邪魔できるのかな。
それなら、そいつを叩き潰してやりたいわ。
「私はやってもいいよ! 殴り込みまくって、優勝しまくってさ。なんか賞品がもらえるなら別に損はしないし」
「いいですね、葵。大会荒らしになりましょう!」
「だよね、沖ちゃん! こうなったら逆にあれだよ。優勝しまくりまくってさ、もう参加しないでくれって言わせてやるわ!」
がははっ、なめんじゃないわよ。私たち花園をさあ!
邪魔する奴らをぶっ飛ばしまくってやるわ!
「言いだしたのはあたしだから、もちろんあたしも出るわよ。別行動で、なるべく多くの大会に参加しましょ」
「そいつはいいな。だったらアタシも出るぜ」
「あー、わたしはそういうのは向いてませんねえ」
「うちも……」
「私もだ。狙撃の腕前を競う大会があればいいが、武闘大会ではそういった趣旨のものはないだろうしな」
うん、特にリカちゃんなんて防御はすごいけど攻撃は全然だからね。ツバキは結構強いと思うけど、まあ全員でやらなくてもいいわ。
「大会は私のほうで選別しているので、皆さんにとって参加しやすいものをまとめます。広報についても、これは紫雲館に協力していただこうかと思います」
なんか盛り上がってきたじゃん。やっぱ楽しくないとね。
ちょっと気分がよくなって、またあれこれと噂話みたいなことを話したら、今度はマドカが実家で仕入れた話になった。
「さっきルリが言ってた大会への参加の件だけど、これは関西でも噂になっていたわ。うちへの招待という話はいくつも耳に入ったわね。それと富山で活動中の紫雲館の話もよく聞こえてきたわよ」
「紫雲館の噂か。富山でも目立っていそうだな?」
「あたしたちにとっては、きっとポジティブな話よ。紫雲館はガラスの森ダンジョンで結果を出しつつあるみたいだけど、やっぱり星ノ宮さんのカリスマ性でしょうね。ハンターから一般層まで、幅広くファンを獲得しているみたいなの。実際にいくつものクランが公式、非公式を問わず紫雲館への協力を申し出ているみたい。噂では地元の有力クランが、もしかしたら紫雲館の傘下に入るかもって話よ」
え、さすがセーラさん。縄張りを広げちゃってるわ。
「まどか、噂話の真偽はいずれ紫雲館に直接確認できるだろう。私は海外の話が気になっているのだが」
「海外といっても西ヨーロッパの狭い範囲の話だけどね。実は日本のハンターが思っている以上に、日本の状況は大きく取りざたされているみたいよ。あたしの親には日本のハンター関連の問い合わせが連日押し寄せたって――」
私はヨーロッパとかいう、遠く離れた知らない田舎の話はどうでもいいわ。
ういー、さすがに疲れた。もういい加減に疲れたわ。でも今日の私はだいぶがんばったんじゃね?
ちょっと疲れすぎちゃって頭がぼーっとしちまうわ……。
「――アオイ!」
うおっ、びっくりした。
「なに寝てるのよ……」
「ごめんごめん、マドカさんや。でも私ったら、海の向こうの田舎の話はどうでもいいし」
「葵さん、海外の話も大事ですよ」
そんなこと言われてもねー。私はこの日本で生きていくし、ホントに関係ないからね。
「それよりアオイ、星の祠のことよ。花園のメンバーにだけは明かしても構わないわ」
「あ、マジで? よかったよ。これで堂々とコレクションを飾れるわ」
「何の話だ? 星の祠? 聞いたことねえが」
「まゆまゆ、マドカとツバキんちはやっぱすごかったってことだよ。すっごい秘密があるんだよ」
「あれを見せてあげて。そのほうが話が早いわ」
よっしゃよっしゃ。巨心石と光霊玉だよね。大事なコレクションだからね、ややこしい名前でも忘れないよ。
まずは手袋を装着。そしてテーブルに置いていたポーチから光る石を取り出して、みんなに見せてあげた。
「これだよ!」
神々しい感じに光る石だからね。みんな興味津々だ。
「これは特別なアイテムで、一般には出回らないどころか、知ってる人すら限られるわ。絶対の秘密という訳ではないのだけど、これのことはクラン内に留めておいてね」
「秘密? それほど珍しい宝石ということか」
「それにしても綺麗ですねえ。普通の宝石とは違いますよね? 光ってますし」
「そのとおりよ。実はこれ――」
細々としたところをマドカが全部説明してくれた。ツバキと私はボケっと聞くだけだ。
「――魂を進化、あるいは成長か。それによって人間としての能力や寿命にまで影響を及ぼす……にわかには信じられんな」
「でもたしかな話ってことなんですよね? 面白いですねえ」
「まどかの実家の九条家は、思った以上に凄いですね。そのようなダンジョンの管理を任されているなんて」
「あの、まどかさん。そのような貴重な物をよく持ち帰れましたね」
「だよな。葵のコレクションなんかで持ちだしちまって、バレたらマズいんじゃねえのか?」
なにを言っているのかね。まゆまゆったら。
「私はもう使っちゃったし、みんなの分もあるよ。余ったやつをコレクションで飾るだけだからさ」
「……いや、貴重品なんじゃねえのかよ?」
「なるほどな、そういうことか。葵の『ウルトラハードモード』で大量に集めたということだな?」
「そういうことよ。余分に集めたものだから心配ないわ。さっきも言ったけど、光霊玉を1回使えばそれ以上の効果はないの。アオイ、みんなの分を出してあげて」
ほいほいっと。
そうやって、私たち花園はみんなの魂が成長した。ホントかよって思うけど、ステータスは上がったし、たぶんそうなった。
あと謎の巨人が落とした虹色の宝石と、それを吸収しちゃって覚えた謎スキルについても話したけど、謎は謎のまま。
まあ、いまのところ変な感じはしないし別にいいよね。
よくわからんけど、魂から成長しちゃった私たちは、もっともっとすごくなったはず。
これからもダンジョンで暴れ回るために、まずは武闘大会で暴れまくってやるわ!
そうしたら、たぶん花園ってすげーってことにもなるよね。
ふいー、きっと将来有望な私たちに相応しい評判になるよ。
それを思うとちょっと楽しくなってきたね!




