表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ぼっち・ダンジョン  作者: 内藤ゲオルグ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

219/235

【Others Side】懲役ダンジョンのイレギュラー

【Others Side】


「大量のアリ……これは気味が悪いですね」

「ざっと数百の虫はさすがにな。とりあえず、勢いを削ぐぞ!」


 まゆが広範囲におよぶ『酩酊の濃霧』を発動させた。アリ型モンスターの大群は、霧に包まれると同時に動きを鈍らせる。多数が動きを止めて、倒れる個体も出ていた。


「かなり効いてんな。これなら薄く広げてやりゃあ、連発しなくてすみそうだ」

「私は左側に切り込みます!」

「任せる。私は正面から右にかけて仕留める。なにかあれば梨々花が指示を出せ」

「わかりましたあ!」


 瑠璃が走り出し、膝立ちの体勢になった銀子が狙撃銃の轟音を鳴らした。

 銀子は青い魔法の弾丸を次々に発射し、すべてを的確に命中させている。絶え間なく響く発射音が反響し、仲間の戦意を高めていた。


 酩酊状態になったアリは弾丸が命中すると同時に光に変わり、威力の高い弾丸は後ろにいるアリまでまとめて光に変えてしまう。

 素早く丁寧に、銀子は右の端から中央に向かって順に撃っていく。そして左側で刀を振るう瑠璃の存在を意識しながら、今度は中央から右側に折り返し、また順に撃ち抜いていく。


 淡々とした作業じみた射撃に見えても、そこには必殺の意志が込められていた。



 そして瑠璃もまた、作業じみた討伐を繰り返している。

 動きの止まったアリの急所を断つか刺し、最小限の力で光に変えていく。


 本命は奥の部屋にいるであろうイレギュラーであり、その前に力を使い果たすわけにはいかない。

 事前の話を忠実に守り、しかし油断なくアリのモンスターを始末していった。


「銀子さん、通路側からもモンスターが来ました!」

「なに!? アリ型か?」

「違いますし、そんなに数はいません。ここに入らないよう止めておきますね」

「そうしてくれ。あとで対処する」


 梨々花が退路となるはずの通路からやってきたモンスターを、アリと戦う空間に入れないよう盾と盾を拡張するスキルで完全にせき止めた。


「ちっ、奥の部屋からも出てきやがる。順調とはいえ、これじゃキリがねえぞ」

「焦るな、減らすペースのほうが上だ。無限に湧き出るはずはない、そのうち必ず尽きる」

「だといいがな。おう、瑠璃! 疲れたら休めよ、アタシが前に出てもいい」

「まだまだ余裕です!」

「梨々花はどうだ?」

「こっちは全然大丈夫です!」


 多数のモンスターとの戦闘は、4人とも慣れていた。しかし、7人での戦闘とは違い心身ともに疲労の進行速度が早い。

 誰もが知らず知らずのうちに焦りを覚える中、銃声と呼びかける声が互いを励ました。



 ――そうして、小一時間が経過した。


 絶え間なく攻撃を続け、最後の1体が光に変わった時、全員が安堵の表情を浮かべていた。


「終わったか……いや、これからが本番だったな」

「いまからイレギュラー戦って考えるとうんざりしちまうな。瑠璃、へばってねえよな?」

「私はまだ大丈夫です」


 言葉のとおり、瑠璃は力を温存できていた。その分、銀子が消耗していたが、これはあらかじめ想定した展開だった。


「通路側のモンスターも、あれから追加は来ませんねえ」

「ああ、退路については問題なさそうだ。奥に行って、本命を片付けよう」

「休まなくていいのか?」


 まゆの言葉にも、銀子は鋭い視線で本命がいると思われる奥の通路を見据えている。


「兵隊アリだけで時間を使いすぎた。刑務所から出る時にも邪魔が入る可能性はある。なるべく早く終わらせたい」

「銀子さん、それは油断ですよ。わたしは魔石を集めるので、その間少しだけ休んでください」

「そうだ、休めよ。短時間でも結構変わるだろ。アタシも休みてえ」

「……そうだな、わかった」


 迷う様子を見せた銀子だったが、素直に受け入れ座り込んだ。

 3人が座って休み始めると、今度は梨々花がスキルを使って大量に散らばる魔石を集め始めた。そうして時計を見ながら、いつもよりゆっくりと回収を終えた。


「ところでなんですけど、魔石の大きさからして、ここは第二十階層だと思います」


 梨々花が魔石をひとつ手にしながら推測を述べた。


「第二十階層でしたか。ウルトラハードに比べてしまうと、モンスター単体はかなり弱く感じましたね」

「数のせいでアタシら4人だと、きつかったけどな。だがさすがに、イレギュラーは甘くねえだろ。楽には終わらねえだろうな」

「はい、イレギュラー戦には期待ですね」


 激しい戦闘への期待に、瑠璃は目を輝かせていた。


「わたしは楽に終わりたいですけどねえ。そろそろ、行きます?」

「そうしよう。休憩はここまでだ」


 じっと休んでいた銀子が立ち上がった。それにならって全員が立ち上がる。


「よし、簡単だが方針はこうだ。まずは梨々花が前で守りを固めてくれ。まゆは状態異常を仕掛け、私はどこか弱点がないか探る。瑠璃はここぞという場面に備えて、力を蓄えておけ」

「瑠璃、お膳立てはアタシらがしてやる。きっちり決めろよ」

「この時のために温存してましたから。その時には全力でいきます」

「頼りにしてますよ」



 4人は最終確認を終えて、通路の奥に踏み込んだ。するとそこには、予想に違わずイレギュラーモンスターがいた。

 象ほどもある巨大なアリだ。それを目の前にしても、先頭を走る梨々花は速度を緩めない。


 以前『ウルトラハードモード』で対決したイレギュラーが放つプレッシャーと比較すれば、だいぶ力が劣っていると梨々花は感覚的にわかっていた。


「来ますよお!」


 攻撃の前兆を読み取った梨々花は、足を止めてすかさず『不動防御』と『拡張魔力装甲』を発動した。

 それとほぼ同時に巨体からは想像もできない、滑るような移動からの突進が盾とぶつかった。不動の梨々花は、魔力によって分厚く大きくなった盾でガードし、さらにスキル『不壊の盾』の効果も合わさりびくともしない。


 完全にイレギュラーの突進を受け止めた。

 すると盾の陰にいた銀子とまゆが、それぞれ左右に飛び出す。


 まゆは『耐性喰い』を発動しながら、自身が持つあらゆる状態異常のスキルを順に発動した。

 銀子は巨大なアリの見るからに硬そうな外殻を除き、関節や柔らかそうな腹部に向かって狙撃銃を発射した。


「ちっ、毒はあんまり効かねえが『昏睡の誘い』だったら、一瞬だけ効果ありだ!」

「クラススキルか! 消耗は重いだろうが、その一瞬が役に立つ。まゆはできる限り続けろ、私の『静止の蛮声』は効果がない!」

「わかった!」

「瑠璃はもう少し待て!」


 いまにも飛び出しそうな瑠璃を銀子が抑えた。


「銀子は早く弱点を見つけろ、アタシもそんなに持たねえぞ!」

「腹は柔らかいが再生能力が凄まじい、ここをいくら攻撃しても無駄だ。関節は……多少なりとも削れているか? よし、瑠璃は頭と胸のつなぎ目を狙え! 私もそこを集中攻撃する!」

「いきます!」


 瑠璃が飛び出したタイミングで、まゆの消耗が限界近くに達していた。


「クラススキルは撃ち止めだ! アタシは『耐性喰い』だけに専念するぞ!」

「イレギュラーが動き出しますよ!」


 梨々花の警告の直後、アリが大口を開けて瑠璃にかみついた。

 しかし、それはスキル『替玉の術』による残像だった。イレギュラーは諦めずに、瑠璃の残像を何度もかみ砕く。それを見た銀子は、関節への攻撃から頭部への攻撃に切り替えた。


 アリの目や触覚を狙った銃撃は、瑠璃への執拗な攻撃を中断させることに成功した。

 さらに『不動防御』を解除した梨々花が、大楯でアリを殴りつけてはまた『不動防御』を発動し、イレギュラーの行動を必死に食い止めていた。


「助かります! いきます『疾風穿刀』ッ」


 瑠璃はスキル『春雷歩法』を使った素早い動きで移動し、強力な多段突きを発動、アリのくびれに亀裂を生み出した。


 イレギュラーも大人しくやられはせず、刃のような腕を振り回す。すると銀子が銃撃で腕の関節を狙い、梨々花も盾で押さえ込みにかかり、瑠璃の攻撃を支援した。


「次で決めます……『刀影斬撃』ッ」


 傷を負わせたところに、再び瑠璃が斬撃を浴びせる。鋭く振り下ろした刀がくびれを部分的に切り裂くと、魔法の影の刀がより深く叩き斬った。

 首と胸を繋ぐ部位が半分近くも断たれ、致命傷に思われたがまだイレギュラーは光に変わらない。

 するとイレギュラーの体が赤い光を帯び始めた。さらに刃のような腕をめちゃくちゃに振り回し、瑠璃を遠ざけようとしている。


「これ、危ないですよ!」

「やらせるな!」


 叩きつけられる腕を防御しながら梨々花が警告を発し、銀子が切れかかった部位を集中的に狙って撃つ。しかし、なかなか完全には両断できずイレギュラーは倒れない。


「ちっ、どう見てもやべえな。あと1回だけ『昏睡の誘い』で止めてやる。瑠璃、次こそ決めろよ!」

「わかってます!」


 これまで一緒に戦ってきた仲間同士、タイミングを合わせることに不安はなかった。


「いざとなったら、わたしの後ろに!」

「大丈夫、これで決めます…………『虚空』」


 まゆのスキルが発動した直後に、瑠璃はとっておきのスキルを発動した。スキル『虚空』によって転移し、上段に構えた刀を渾身の力で振り下ろす。


「――『黒雷閃刀』ッ!」


 いまの瑠璃では万全の状態でも1日に数回しか使えないスキルを連続で発動した。

 短距離を転移する『虚空』からの、極めて強力な『黒雷閃刀』に繋げる攻撃。これは彼女にとっての切り札だった。


 黒い稲妻を伴った斬撃は見事にイレギュラーモンスターを両断し、すぐさま光の粒子へと変えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ