偉そうな人は偉そうなことを言う!
なんでかわからんけど、マドカとツバキのじっちゃんに会うことになってしまった。
あいさつはしたいから別に会うのはいいんだけどね、かしこまった感じがちょっと居心地悪いわ。
でも超和風で、立派な感じの居間はいいね。こういうのもなかなかだわ。
ただ、やっぱどうにも落ち着かない。気をまぎらわしたいね。綺麗な畳の上をゴロゴロしまくりたいわ。
あ、そうだ。
「ねえねえ、ふたりのじっちゃんてどんな感じ?」
実際に見た家の感じからして、たぶんすっごい偉い人だよね。地元の名士みたいな。
私はよくわからんけど、九条家ってなんかすごいっぽかったし。
やっぱりそんな家のじっちゃんは長老感あるんだろうね。お高くて豪華な和服で、ヒゲとかめっちゃ伸ばしまくりで、杖とか持ってるんだよ。たぶん。
「話の通じる人ではあるけど、厳しい人でもあるわね」
「白髪がふさふさ」
「ほーん。ヒゲは伸ばしまくってないの?」
「ヒゲ? 伸ばしてないわよ」
なんだよ。ヒゲがなかったら長老感が薄いじゃん。がっかりだわ。
「まあいいや。てゆーか、なんで私が真ん中に座ってんの?」
マドカとツバキは私の両サイドに座っている。意味がわからん。なんでだよ。
それにふたりともちょっと緊張してるっぽい。それも意味わからん。自分たちのじっちゃんだよね?
「お爺様はアオイと話がしたいのよ」
なんでだろうね。やっぱ大都会での孫の様子が聞きたいのかな。港区とかで、ブイブイいわせてないか心配してんのかな。
それか可愛い孫の心の友に、お菓子とかお小遣いとかくれんのかね。そういう感じかな。
よし、もらえるものは全部もらって帰ろう。私はプレゼントを贈って気持ちのいい心の友として、じっちゃんに接しよう。すっげー喜んであげようね。
「あ、まさかだけど、警備員さんと追いかけっこしたのを怒られるわけじゃないよね? あれはあいつらが悪いんだからさ」
「葵姉はん、不法侵入」
「いやいや、だって門のとこにピンポンなかったじゃん。入るしかないよね?」
「なんで連絡しないのよ? せっかくスマホ持ってるのに」
「玄関にいきなり私がいたらさ、超サプライズになるじゃん」
そのために遠路はるばるやってきたのに。
ちょっとわいわいとしていると、スライド式の古風なドアが横にススッと開いた。
するとそこにはグレーのスーツを着たビシッとした格好の紳士が立っていた。背筋がピンと伸びていて、白髪だけど若々しい感じだね。
「お爺様」
マドカとツバキが姿勢を正したけど……え、これがじっちゃん?
めっちゃダンディじゃん。でも長老感が全然ないんだけど。
長老なら和服だろ。ヒゲも生やしてないしさあ、もっとがんばってくれよ。
「まどか、つばき」
ダンディなじっちゃんが孫娘たちに軽くうなずいてから、私のほうを見た。にらまれてはいないっぽい。よかった、怒られるコースじゃなさそうだね。
「君が永倉葵か」
「おいすー! そうそう、私が永倉葵だよ。よろ」
じっちゃんはでかいテーブルをはさんで、私の向かいに座った。やっぱ威圧感あるわ。こういうところは長老っぽいね。
緊張感あるわーと思っていると、じっちゃんは私をじっと見ている。なになに、やっぱ怒られる感じ?
私は全然まったく悪くないけどね、心の友のじっちゃんが相手だし、さくっと謝ってなかったことにしてもらうかな。それがいいよね。ホントだったら私が謝ってもらいたいくらいなのにさ。
あれ、そうだよ。やっぱ納得できねーわ。
おうおう、じっちゃんよ。潔く私に謝れよな!
「孫から話は聞いている」
え、え、なにを? 急に話が始まってしまった。
「君たちは短い期間でかなりの実績をあげているそうだな」
「うえ、あ、はい。みんなでがんばってるんで」
なんだよ。ほめてもらえる感じ?
「現在レベルは24と聞いた。異例の成長速度で、これは君の影響によるところが大きいのだろう」
「いやー、まあそうかも?」
みんなのがんばりと三鷹ダンジョンのお陰がでかいけど、私だってクランマスターとしてがんばってるからね。
「だが」
え、なによ。急に声のトーンが低くなった?
「永倉さん。君のような人間と一緒にいて、儂の孫娘は本当に安全なのだろうか?」
なになに急に。どういうことよ。
「遠く離れていても君の噂は耳に入る。どこに行っても問題を起こしていると聞くが?」
そうかな。そんなことなくね?
「身に覚えがない、という顔をしているが自覚がないのはより質が悪い」
「お爺様、たしかにアオイはうっかりしているところがありますが、自らトラブルを起こすような真似は滅多に……」
マドカが途中で固まってしまった。なんでだよ、ちゃんとかばっておくれよ。
まあ、今日はちょっと追いかけっことかしたけどさ。
「葵姉はん、どっちかと言えば巻き込まれとる」
「そ、そうよね」
「うん、そうだよ! 私ったら巻き込まれるほうだから。トラブル起こすとかさ、そんなの濡れ衣だよ」
ぶっ飛ばしたくなっても、いつもちゃんと我慢するからね。
じっちゃんよ。いくら地元でお偉い感じの人だからって、意味わからん噂なんかで他人をせめるとは感心しないわ。
いくら心の友のじっちゃんだからって、私も怒るぞ。怒っちまうぞ?
「では噂が間違っているということか?」
「そうだよ! そんなもんでっちあげだよ。たぶん、私にぶっ飛ばされたストーカー野郎とか不審者がさ、逆恨みでテキトーな噂を流しまくってんだよ。まったくもう、許せんわ」
ぶっ飛ばしたことあったわ。でもあれはあいつらが悪いんだよ。
「実際にそうした事例があります。お爺様、アオイに対するその評価は不当です」
そうそう。言ってやっておくれよ!
なんだよこのじっちゃん。マジで私にケンカ売ってんのかー?
「あとじっちゃんさあ、安全とかなんとか言ってたけどさあ、私たちったらめっちゃ強いからね? 大都会の危険も私のクランだったらむしろ安全だから!」
マドカはいろんな奴に狙われてるからね。単なるナンパだけじゃなくて、小難しい理由でもさ。私たちは自由を大切にするクランだから、余計なことをたくらむ奴らは許さんし。
「過大な自信に思えるが」
「そんなことはないって! いや、ホントホント」
花園は新進気鋭の超有望なクランだからね。これからももっと強くなること間違いなし!
じっちゃんは厳しい目つきでじっと私を見つめているけど、なんだろうね、意外と敵意みたいなもんは感じないかも? 不思議なじっちゃんだね。
「……言葉だけでは足りないな。それに君のクランは人数が少ないとも聞いている。これは大きな弱点だと理解しているか?」
うーん、まあね。花園は人数めっちゃ少ないわ。それに口先だけ立派なことをほざく奴らはいっぱいいる。それだけじゃダメってのは、まあ言いたくもなるのかも。
「じゃあどうしたらいいの? 実力、見せちゃってもいいよ」
また警備員さんたちとやりあってもいい。まとめてぶっ倒せば、ちょっとは認めてもらえるよね。私はひとりでも強いし、力を合わせたらもっと超すごいんだって。
「ではそうしてもらおうか。そうだな……まどか、つばき」
ふたりは真剣な顔でじっちゃんを見つめている。また緊張感あるよ。
「お前たちも永倉さんに同行し、光霊玉とまでは言わないが、巨心石をいくつか手に入れろ。それができれば当面の活動は認めよう」
なんのこっちゃ。わけわからんことを言うなよな。
あと認めるとかさ、勝手なことを言いやがって。まったくもう。
「永倉さん。不満があるようだが、もしそれができなければ儂は孫が東京に戻ることを許すつもりはない。まどかは両親がロンドンにいることもあってな、そちらに行かせるつもりだ。つばきも同行させる」
急になんの話だよ。マジかよ。
ロンドンって外国のどっかの街だよね? いや、ホントにマジで?
そんな大事なことをいきなり言い出すなよ。ずるいだろ。




