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小ネタ置き場  作者: 港瀬つかさ


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15/16

闇を斬る(異形狩り少女)

 ひとつ、ふたつ、みっつ。

 静寂に響くのは何かを数える声音だ。女とも男ともつかない声だ。幼いとも年老いたとも取れる声だ。奇妙に耳に残る、だというのにつかみ所の無いその声が、暗闇に響く。

 よっつ、いつつ、むっつ。

 数える声は続く。ぞわり、ぞわりと空気が蠢いた。声に呼応するように揺れるのは、風か、気配か、或いは視認できぬ何かであるのか。

 ななつ、やっつ、ここのつ。

 そこでぴたりと、声が止まった。暗闇に差し込む僅かの月明かり、その真下に佇む影に気づいたのだろう。そこに立つのは、緋袴の少女だった。

 いや、おそらく少女であろうという面差しをしている。柳眉を不愉快そうに顰めた顔立ちは端正だ。一種造作めいた美しさがそこにある。感情を宿していなければ、人形かと思っただろう。

 おそらく少女というのは、その髪型にあった。髪は女性の命と言われる中、うら若き乙女でありながら彼女の頭髪は短い。

 それも、まるで男子のような短さだ。緋袴を纏う乙女のそれとは思えぬ髪型。髪には霊力が宿る。神職に連なる女性は皆、長く豊かな髪をしているのが通説だ。

 それを思えば、彼女は様々な意味でちぐはぐだった。その手に持つのも、無骨な作りの太刀である。


「夜毎御魂を攫うのは貴様か」


 朱唇から零れ落ちた声は、確かに少女のそれだった。まるで凍土のような冷ややかさを持って少女は告げる。その瞳に宿る感情は、凪いでいた。

 怒りも憎しみも恨みも何もない。あるのはただ、無を見据える冷たさだけだ。相手を取るに足らぬと見なすかのような瞳は、けれど彼女の整った顔立ちにひどく似合っていた。

 白魚のような繊手が握る太刀の拵えは、見事なものだった。値を付ければいかほどになるか。むしろ、値を付けることが出来ぬほどの業物だ。


「どうせならば我が家の目の届かぬ場所でやれば良いもの」


 低く吐き出された言葉は本心なのだろう。一歩、少女は足を踏み出した。ざわりと空気が揺れる。彼女を拒むような気配に、けれど少女は物怖じしない。

 太刀の磨き上げられた刀身が月明かりを反射する。その光が一瞬だけ、影を焼いた。影の中にいた《何か》が、その一瞬で移動する。


 闇がざわめく。少女と《何か》の戦いの火蓋が、静かに、切って落とされた。





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