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美琴の考え


 俺は、次の日曜日、いつもの様に朝から来て一度眠りについた美琴の頭を軽く撫でながら考えていた。


 美琴とは、幼稚園の頃からずっと一緒だった。去年の九月頃から起きた事で俺の心は悩み続けた。


 今は大分和らいだけど、そこに藤原さんが現れた。彼女は積極的で理詰めで迫って来る。そして二回もキスしてしまった。


勿論向こうからとはいえキスした事実が消える事はない。美琴にこの事を言えば当然ながら同じ事を要求してくるだろう。


 もう美琴としなくなってから二ヶ月弱。俺もきついけど美琴もきついはず。もし美琴とキスをすれば、後は考える必要もない。


 藤原さんは、俺が美琴としても良いと言った。でもするなら私にもして欲しいと。いつも平等でいたいという考えの現われだろう。


 でも本当にそんな事していいのか。美琴は今までの関係もある。ここでこの子を抱いても今までの延長線上の一つでしかないが、藤原さんを抱くという事は、全く異なる意味を持つ。


 黙っていれば分からない。そうかもしれないけど俺はそんな器用な事は出来ない。まして藤原さんの事、俺の心を読むというか仕草で察してしまうだろう。



 そうすれば避けられない状況になる。この前まで何の取柄もない母子家庭の一人の高校生だった俺の周りが、この夏を境に大きく変わってしまった。


こんな事俺なんかが消化できるはずがない。前に戻りたい。何も知らずに美琴と楽しく過ごしていた日々に。


「うーん」

 美琴が伸びをしている。可愛い。


「あっ、祐也」

「おはよ、美琴」

「おはよ、祐也」


チュッ。


「えっ?!祐也?」

「美琴の可愛い寝顔を見たらしたくなっちゃった」

「それって」

「キスだけ」

「えーっ!ずるいーっ!」

 あれほど体を合す事を拒んだのに…。まさか。


「祐也、したの?藤原さんとしたの?」

「してないよ。ただ、美琴の寝顔が可愛かったから」

「それならいいんだけど」

 何か有る。間違いない。裕也は嘘をつくのが下手だ。


「祐也、昨日藤原さんと会ったんでしょ。どうだったの。今後の予定話したんでしょ」

「うん、話した」


 俺は、昨日藤原さんに話した事、彼女から言われた事を話した。


「私は毎日一杯会っている。でも彼女は週に一回も会えないのは狡いと言ったのね。だから週一回位は祐也と会うのは当然という訳か。

 なんか理屈は分かるけど、全然面白くない。月一回だって多いのに」


 祐也がジッと私を見ている。あっ。


「祐也、私は間違えた。裕也にどんなに苦しい思いをさせたか。ごめんなさい。謝り足りないけど。

でも…自分が反対の立場になるなんて。都合良すぎると思うかもしれないけど、私は祐也と藤原さんが会うのは嫌だ」

「美琴…」


 俺は、美琴を抱きしめた。俺だって…。したらなし崩しになるのは分かっている。でも…。




「祐也、藤原さんと週一回会うのは、分かった。でもその時、私は他の人と会ってもいいの?」

「他の人?」

「今は誰って決まっていないけど。裕也があの人と会っている時、家で一人でいたら、考えたくも無い事を一杯考えちゃう」

「まさか、金丸?」

「まさかぁ、あんな奴、死んでも会いたくないわ。例えば、小山内さんとかだよ」

「俺が美琴の会う人をとやかく言う権利はないけど、小山内さんだったらいいんじゃないか」

「うん、でも何も決めてない。会わないで一人で悲しんで泣いているかも知れない」

「それは俺も悲しいよ」

「だったらそうしない様にして」




 久しぶりに午前十二時までベッドの中にいた。

「美琴、そろそろ起きようか」

「うん」


 お昼を美琴と一緒に食べた。お母さんは大学に勉強に行っている。

「美琴、来週は中間考査だ。もうすぐ考査ウィークにも入る。午後からは考査対策するか?」

「うん」


 ふふっ、やっぱり祐也がいい。




 中間考査は、十七日の火曜日から二十日の金曜日まで行われた。裕也と一緒に考査対策をしたおかげで充分に手応えが有った。


金曜日、家までの帰り道

「祐也、明日会うんだよね」

「うん、映画でも見に行こうかと思っている」

「そうなんだ。私は一人。詰まらないなぁ」

「でもこうして一緒に居れるし、明後日の日曜日は、また朝から一緒に居れるじゃないか」

「分かっているけどさ」



 今日は土曜日、もう午前十時を過ぎている。裕也はあの人と会っているんだろうな。小山内さんと会うなんて言ったけど、会う用事もない。渋山に行けば碌な事ないし。

 そうだ。三子玉のSCに入っている本屋さんにでも行ってみよう。私もしっかりと勉強しないと。



 私は、お昼を食べ終わった、午後一時に出かけた。三十分も有れば着く。ここに来るのは久しぶりだな。


 のんびりと歩いて本屋で数学の問題集を見ていると

「友坂さん」

「えっ?!」


 声の方を向くと近藤さんが立っていた。

「奇遇ですね。探しものですか?」

「はい、数学の問題集を探しています」

「今、高校二年生ですよね。これなんかどうですか?」

「これ、難しくないですか?」

「そんな事無いですよ。分からなかったら俺が教えてもいいですよ」

「それは流石に遠慮しておきます。近藤さんはどうしてここに」

「小説を探しに。見つかりませんでしたけど。ところで、今日はお話する時間有りますか」

 駄目かな。この前はお礼で話してくれたけど。


「うーん、…いいですよ」

 問題ないよね祐也。


「えっ、本当ですか。じゃあ、会計終わったら、駅の傍の〇ックでどうですか」

「いいですよ」

 変に高い所に行かない所がいい。


 少し並んでカウンタでカフェラテを頼んだ。近藤さんはコーヒーだ。二人で空いているテーブルに着くと

「友坂さん、勉強熱心なんですね」

「そんな事無いです。中間考査が終わった後ですけど、もっと頑張らないと」

「凄いですね」

「近藤さんはどんな小説を探しに来たのですか?」

「はい、今興味ある小説はシリーズものなんですけど、スペースオペラです。マイナーなので知らないと思います」

「へーっ、スペースオペラですか」

 やっぱり私の思考の範囲外だ。


 この後も話をして結局午後四時になってしまった。一時間半も話していた事になる。


「私、そろそろ帰らないと」

「あっ、済みません。こんなに長く。…友坂さん。もし良ければこれからもお話出来ませんか」


 祐也は来週の土曜日もあの人と会う。この人なら話面白いし、いいか。

「お話だけなら来週の土曜日でもいいですよ」

「本当ですか!」

「はい、またこの時間なら」

「では、来週、午後二時にここの改札で良いですか」

「はい、ではさようなら」


 やったぁ、理由は分からないけど来週も会える。話しているだけで心が落ち着く人だ。


 友坂さんが改札の中に入って行った。俺も帰るけどここは彼女を見送ってからにしよう。

ファミレスの先輩達は彼女にはお付き合いしている人がいるって聞いていたけど、こうして会ってくれるならチャンス有るかな。


――――― 


面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。

宜しくお願いします。




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