なんでこんなにまで
季節も四月二十二日になると随分暖かくなる。もうダウンやコートは着なくて良くなった。
例によって、祐也と一緒にエスカレータを昇ると
「祐也、じゃあ、いつもの所でね」
「ああ、待っている」
私は、左に曲がってあいつを見ると、あらーっ、また凄い格好で居る。通りすがりの人がジロジロ見ているのが分かる。
首から少し覗ける白いシャツに銀色のネックレス。濃いグレーの長めのダブルジャケット、同じ色のパンツ、それに足元はエナメル質の靴だ。前回と同じでどこのファッションモデルかと思ってしまう。
私が近付くと気付いた。
手を上げながら私の傍に寄って来る。
「友坂さん、おはようございます」
その声に周りの人がまた私に注目する。止めて欲しい。私なんか、○○クロだっていうのに。
「おはよ、金丸さん」
「今日もあの喫茶店行きましょう」
「止めとくわ」
「えっ、なんで?」
また、待たされるなんてまっぴらだわ。
「今日は〇ックの少し上に在るトドールにしましょう」
あそこなら美味しいミルクティがある。もうホットは飲まない。
「分かりました」
せっかく、またあそこに行けるかと思ったんだけどな。
回廊坂を上がって行く間も、すれ違う人達や、ガードレール沿いに居る人達が、目を丸くして見ている。そしてその目で私を見て呆れた顔をしている。もう会うのよそうかな。
トドールに入って、カウンタでミルクティを頼んだ。あいつはアイスコーヒーだ。二階に上がって二人で席に着くと、やはり注目の的だ。
「あんたさぁ、もう少し普通の洋服着れないの。いつもいつもファションショーみたいな洋服着てさぁ」
「これ似合わないですか?」
「似合っているわよ」
やったぁ、ついに感想もらえたぞ。
「でもね、私がこんな格好でしょ。不釣り合いなのよ、あなたとは。だからもうそんな恰好ばかりするなら会わないわ」
「えっ!い、いや。俺は友坂さんに気に入って欲しくて」
「だったらもう止めなさいよ。そんな服」
俺の服装に意見を言っている。これって絶対に進歩だよな。
「分かりました。じゃあ、次からは普通の洋服で」
「誰が次も会うって言ったのよ。都合よく言葉取らないでよ」
もう少し柔らかく行って貰えないのかな。
―見て、あの子。
―あんな格好しているのにゴッチの最先端モデルを着ているイケメンに凄い事言っている。
―私も呆れている。
―鏡見た事無いんじゃないの。
いきなり真司が立った。声の方に行って
「お前達に彼女の素晴らしさの何が分かる。知った口聞くんじゃねぇ!」
「「ご、ごめんなさい」」
あっ、二人とも帰っていちゃった。これって営業妨害?
「済みません。くだらない輩が居るもんですね。友坂さんの様に素敵な人にあんな事言うなんて」
「な、何言っているのよ。あれは正しいじゃない。私はあんたに合わないの。合う人と一緒居れば」
「嫌です、じゃあ、本当に普通にして来ますから、また会って下さい。お願いします」
「はぁ、何言っているの。考えとくわよ」
凄い進展だ。ここ迄会話で来ている。
「ところで、今回もその洋服見せに来ただけなら私は帰るわよ」
「えっ、でも。友坂さん、まだ一口も飲んでいないですよね。ミルクティ勿体ないですよ」
何言っているのこの男は。
「分かったわよ」
私は、半分位一気にストーローで飲み込むと
「これでもういいわ。帰る」
「じゃあ、俺も」
「あんたはここに居たら」
「家に帰ります」
その流れで、二人でトドールの店の外に出た。
―おい、見ろよ。
―おう、いい金づるがいるぜ。
―女も可愛いしな。
―じゃあ、いつもの通りだな。
私達が回廊坂を下ろうとした時、いきなり私達の前に三人のチャラ男が現れた。思い切り目付きの良くない連中だ。
「威勢のいいお兄ちゃんとお姉ちゃん、顔貸してくれねえかな」
「なんだ、お前達は」
「別に俺達が誰だっていいんだよ。おらぁ来いよ」
囲まれる形で強引に横の路地に連れて行かれた。
「兄ちゃん、俺達ちょっと金欠なんだ。金貸してくれねえか。それとこの姉ちゃんもさ」
「何言っているんだ。お前達に差し出す金なんて無い!」
あら、はっきり言う人だ。
「何だと」
いきなり真司の胸倉を掴もうとして避けた真司にもう一人の男が殴り掛かった。あっ、避けた。こいつ喧嘩強いの?
真司も殴り返す。ヒットした。ちょっと強いのね。それを見ていた私にもう一人の男が
「お前来いよ。可愛い顔しているじゃねえか。楽しもうぜ」
いきなり腕を掴んで来た。
「痛い、止めてよ」
「あっ、友坂さん」
真司が私を助けようとして、相手している二人より私の腕を捕まえた男の腕を掴んだけど、反対の手で殴られた。
よろめいたけど真司が殴り返した。でもここ迄だった。後ろから羽交い絞めにされて、殴られた。真司も羽交い絞めを解いて応戦したけど多勢に無勢だ。
私は急いで警察を呼ぶと、周りにいた人も警察だーと言って騒ぎ始めた。男達は
「おい、ヤバいずらかるぞ」
三人が逃げて行った。私が真司に近付いた時は高価な洋服は所々が破れたり傷だらけになっていた。
「あんた馬鹿ね。私なんか気にしないで二人を先にやっつければ良かったのに」
「そんな訳にはいきません。ごほっ、ごほっ」
やっと警察官が来た。そして救急車も来て私も一緒に病院に連れて行かれた。彼が治療中に私は警察官から色々事情を聞かれた。
あいつが治療室から出てくるとストレッチャーに乗って病室に運ばれ、その後はあいつと私の二人が事情を聞かれた。
やっと警察が帰って行くとベッドの上で
「済みません、かっこ悪くて」
「それより、怪我どうだったの?」
「打ち身や打撲だけです。大した事ないです」
その割には頭に包帯を巻いて顔にはガーゼ、両方の拳は包帯を巻いているし、足も包帯を巻かれている。大丈夫そうにない。
「あんた、なんでここまでするのよ」
「友坂さん。大好きな人を守るのは当たり前です」
「……………」
何言っているの。それに…何よこの感覚。こんな馬鹿に同情してどうするの。スマホが鳴った。祐也からだ。
「ちょっと外すね」
「はい」
『祐也、私』
『どうしたんだ?いくら待っても来ないし』
『今、病院』
『えっ、病院?美琴何処か怪我したのか?』
『私じゃない。あいつ』
『はぁ?』
私は祐也に事情を話した。その上で
『今日はごめん。明日会う』
『仕方ないな。じゃあ明日な』
俺はスマホを切った。あいつが美琴を守るために暴漢三人と喧嘩したって?美琴大丈夫だったのかな?
私は、真司の両親が来たので帰ろうとすると父親が
「友坂さん、迷惑を掛けてしまったようだ。申し訳ない」
「いえ、迷惑を掛けたのは私の方です。今日は帰ります」
「そうか、友坂さん、真司とはどうだね?」
どういう意味で聞いたんだろう。はっきり言うか。
「はい、会いたいと言われた時は会っています。でもそれだけです。今日の様な格好はもう止めて欲しいと言いました」
「そうしたら?」
「次会う時は普通の恰好で来るそうです。でも私は会うかは分かりません。こんな事にもなりましたし」
「そうか、普通の洋服すると言ったのか!」
やはり私の目に狂いはなかった。この子なら馬鹿息子の頭を入れ替えてくれるかもしれない。
「友坂さん」
「はい」
「あなたにお付き合いしている人が居るというのは聞いている。だから真司と付き合ってくれとは言わない。でも何とかあなたの力で真司の頭の中を入れ替えさせて欲しい」
「……………」
どう答えていいか分からないけど
「出来るか分からないですけど」
それだけ言うと私は頭を下げて病室を出た。真司なんかとはもう会いたくない。でもあいつは私を守ってくれた。もしあいつが守ってくれなかったら…。
家への帰り道、あいつの事をどうするかで頭の中が一杯だった。
―――――
面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひフォローとご評価★★★★★を頂けると嬉しいです。
宜しくお願いします。




