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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
②総合病院ダンジョン編
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【第二十七話(2)】 relive配信(中編)

「あ、一ノ瀬先輩。お疲れ様です」

もう二度と、会えないと思っていた。


「私は……一ノ瀬先輩が好きです!付き合ってください!!」

もう二度と、彼女の言葉を聴けないと思っていた。


「一ノ瀬先輩ー!おはよう!!」

無邪気に笑う彼女の声も。かつて俺だった、自分を慕う声も。


「ゆきっちさあ……あれだけクールな先輩は何処にいっちゃったの」

女性の姿に変化しても、変わらず後輩として接し続けてくれた彼女。

あの日、魔災に巻き込まれて全てを喪って。二度と会えないと思っていた。


----


本当なら、声を張り上げて泣きたいほど聞きたかった彼女の声。もう二度と聞けない、ふとした時に思い出せるかどうか、そんな声だったはずだ。

決して、こんな形で聴くことはなかったはずなのに。


「道音っっっっ!!お前ストーに何をしたんだっ!!なあ!!答えろよ!!」

『あはっ、あはははははは!!!!相も変わらず真面目だなあゆきっちはさあ、もう少し肩の力を抜きなよ、あはっ♪』

激昂し、短剣を構えるnoise。彼女に相対するは、船出 道音の声を発する漆黒のドローンだ。

そのドローンは勇者一行の面々の姿を確認するように、カメラを眼球のようにきょろきょろと動かす。やがて、そのカメラはホズミが操作する純白のドローンに向けられた。

『……ねえ、そこのドローンさあ』

『なんですか?』

船出は冷ややかな声でドローンを介して、ホズミに尋ねる。しばらくして、船出は静かな声で言葉を続けた。

『それ、貴方のものじゃないでしょっ。誰の身体か分かって使ってるの?』

『……身体?』

言葉の意味がまるで分からず、ホズミは船出の言葉を反芻した。船出は呆れたように大きなため息の音をスピーカーから漏らす。

『……まあいっか♪そのドローン、大切にしてね?』

その二人——いや、二つのドローンの会話に割って入る一人の少年がいた。

「……他人の心配よりも、自分の心配だよね?」

二つのドローンの間に割り込んだディル。すかさず、チャクラムを漆黒のドローンに向けて投擲した。

空気を抉るように向かう鋭い一撃が、真っすぐにドローンに向かって襲い掛かる。

『わっ、器物破損未遂だよー?もうっ♪』

だが船出は余裕綽々といった様子だ。チャクラムが漆黒のドローンに直撃する前に、ストーは宣告(コール)を終えていた。


「スパチャブースト”緑”」

[ストー:CORE GUN]


そのシステムメッセージと共に、ストーの右腕が再び銃の形に変形。そのまま腕を伸ばし、チャクラムに向けて発砲する。

甲高い金属音を奏でながら、そのチャクラムは興醒めしたように勢いを殺された。

ドローンに直撃する寸前で、ひらひらと空気の影響を受けつつ堕ちていく。やがて、それは地面に落ちる前に光の粒子となり世界から消えた。

「ストー!!邪魔をするなっっ!!」

怒りの収まらないnoise。ストーと思われる漆黒のパワードスーツを身にまとった男向けて、短剣を勢いのままに突き出す。

だが、ストーはnoiseの手首を叩き、その一撃の軌道を逸らした。

「……女ハ、殴ラナイ主義ダ」

静かに諭すように、ストーの口から片言の言葉が零れる。

「どの口が!!」

その彼とも思えない口調に、怒りの奔流は留まることを知らない。以前あった彼とは明らかに異なる空気が、言葉を、雰囲気を介して全身を這い巡る。

不安にも似た怒り。その感情に任せてnoiseは留まることを知らず流星の如く連撃を振るう。

「ふざけんなよ、お前……!!なんで私達に刃を向けるんだよ!!」

「……」

ストーはnoiseの言葉に耳を貸さず、パワードスーツに身を包んだ姿でnoiseの攻撃を捌いていく。その手に獲物は握られておらず、ただ純粋に防御に徹しているようだ。

「ストーさん、申し訳ありません」

ライトはストーの腕目掛けて、拳銃を発砲する。乾いた発砲音と共に、弾丸がストーに襲い掛かった。

「邪魔ヲ、スルナ」

しかし、パワードスーツの外装を貫くことはできず、打ち負けた弾丸がストーの足元に転げ落ちる。

「……やはり、厳しいですか……やむを得ません。スパチャブース……」

「スパチャブースト”青”!!!!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

宣告(コール)しようとしたライトの声を遮って、セイレイの声が響く。その刹那、淡く、青い光を足に纏ったセイレイがストーの元へと飛び掛かる。

noiseの前に立ったセイレイは、勢いのままに顕現させたファルシオンを振り下ろす。

「なんでだよ、なんでだよストー兄ちゃん!!俺は、俺は!!」

「……オ前ハ、何モ知ラナクテ良イ」

セイレイの一撃に弾かれるようにして、ストーは大きく後ずさりする。だが、更に距離を詰めるようにしてセイレイは駆け出した。


——その全身に、緑色の光が浮かび上がり始める。

「誓う、誓うんだ!!」

『ばっ……セイレイ君!!もう、スパチャは……!!』

その異変が何を示すのか察知したホズミは、慌ててセイレイに叫ぶ。しかし、彼はもう留まることを知らなかった。

駆け抜け、ストーに何度も剣を振り下ろしながら。大きく感情のままに宣告(コール)する。

「嫌だ!もう、俺の知らないまま誰も居なくなるのは!!止めて見せる、助けて見せる!!絶対に、諦めるものか!!!!」


[information

セイレイ:スパチャブースト”緑”を獲得しました。

——]

[ストーを取り返せ]

[負けないで]

[でも、スパチャが……!!]

[いけーーーーーー]

[ねえ待ってスキル名なに]

[ログ早い]

[頑張って、セイレイ!!]

[勇者の力を見せてやれ]

[いけいけいけいけ]


システムメッセージがコメントログに一瞬表示されたが、流れるコメントによりどのようなスキル名なのかホズミは確認することが出来なかった。

だが、コメント欄のことなど気にも留めずセイレイは大声で宣告(コール)する。

「スパチャブースト”緑”!!!!」

刹那、セイレイの全身を緑色の光が覆いつくす。

そのまま、あらゆる方向から流れる剣戟をストーに叩き込む。だが、その全てをストー防がれ、彼には一撃も入らない。

ストーの後ろで、漆黒のドローンのカメラがじろりとセイレイを捉えた。

『はぁ、もういいや。飽きた。ストー、終わらせてあげて?可哀想だから』

「……コレモ、宿命ダ」

鋭く振り下ろされたセイレイの一撃を受け止めたストー。大きく身を引き、正拳突きの構えを取る。

『セイレイ君!!逃げて!!』

「——っ!!」

「遅イ」

ホズミの懸命の声も届かず、ストーの拳はセイレイの腹を貫く。

「ぐっっっっ!!!???」

衝撃波が彼の全身に伝わり、その勢いのままにセイレイは吹き飛んだ。

激しくアスファルトの壁に叩きつけられ、土煙が舞い上がる。大きくひび割れたアスファルトが、彼を覆うように崩れ去る。

「セイレイ!!!!」

noiseは慌てて、緑色の光を覆ったままアスファルトの中に倒れ込んだセイレイへ駆け寄った。

しかし、この世は非情だ。

ホズミから、悲痛の声が静かに響く。


『……勇者、体力……全損……っ……』


「……はぁ?」

その報告に、ディルの顔が大きく歪む。

静かに揺らめく怒りが、彼の全身から迸り出す。

「ねえ、君達。何をしたのか、分かってる?ねえ?」

怒りの帯びた視線は、ゆっくりとストーと、船出の声をした漆黒のドローンへと向けられる。

そんな彼らをあざ笑うように、漆黒のドローンは楽しそうにくるくると飛び跳ねるように動く。

『あはあっ♪あはははははは!!死んだ!!死んだ!!勇者様、こーんなあっけなく死ぬんだ!!あははっ!!ざまあみろ、だっ!!正義なんか謳わなければ!!希望なんか、見なければ!!生きることだってできたのに!!あははっ!!!!』

「……」

空を楽しそうに泳ぎ、踊る漆黒のドローン。彼女とは反対に、漆黒のパワードスーツを身にまとったストーは静かにその場に佇んでいた。


「……もう、お前らは喋るなよ」

ディルは、高く手を頭上に掲げる。

留まることのない怒りに身を任せ、ディルは宣告(コール)した。

「——スパチャブースト”赤”」

[ディル:浄化の光]

その瞬間、熱光線がストーと、船出を覆いつくす。

「スパチャブースト”赤”。スパチャブースト”赤”。スパチャブースト”赤”。」

[ディル:浄化の光]

[ディル:浄化の光]

[ディル:浄化の光]

——。


何度も、ディルは淡々と宣告(コール)する。

言葉の代わりに。収まることのない怒りの代わりに。何度も、何度も、ディルは宣告(コール)を繰り返す。

光が、船出を、ストーを穿つ。

徐々に爆風にアスファルトは抉れ、屋上庭園は元の形を失っていく。


「——諦めるものか……っ、不可解な現象は存在するんだ、存在するんだ!!」

「セイレイ君……君はまだ未来を描きたいんでしょう!?知りたいんでしょう!?」

noiseとライトは、懸命にアスファルトの瓦礫をどかしながら、セイレイに声を掛ける。だが、亡骸と化した彼には、その声は届かない。

緑色の光を覆ったまま、彼はぐったりと、地面に投げ捨てられた人形のように。二人の呼びかけに応じない。

『お願いします……この世に、救いがあるのなら……まだ、この配信を、終わらせないで……』

純白のドローンのスピーカーから、ホズミの切なる声が響く。

涙に潤んだ声が、静かに響いた。


セイレイの指先が、ピクリと動いた気がした。


To Be Continued……

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