【第二章】序幕
第二章です。
よろしくお願い致します。
[魔災後当日]
鳴り止まないサイレンが病院を取り巻いた。既に辺り一帯は火の海となっている。
私はスタッフを招集し、すぐさま災害対策部門を創設。次々に運ばれてくる急病人の人命救助に当たった。
ドラゴンやゴブリンなどと言った非現実的存在の話が耳に入るが、医療従事者としてはやることは変わらない。ただ、元来の災害と大きく異なるのは切創や熱傷などの事例が特に多いことだろう。
トリアージを行い、命の優先順位を決めて、適切に点滴や酸素吸入などの医療処置を行っていく。
DMAT――災害派遣チームがいつか支援に来てくれる。それまでの辛抱だ。
その時はそう思っていた。
[魔災後三日]
待てど暮らせど、DMATによる医療支援が届かない。徐々に医療物資も減少し、使う事の出来る滅菌物品も目に見えて減ってきた。にも関わらず、魔災に伴った被害者は日を増すごとに増えていく。
テレビやラジオも繋がらなくなり、どこか自分が名も無き孤島に閉じ込められたような感覚を覚えた。
もしかすると、他も似たような被害に巻き込まれているのかも知れない。
そう思うと、これから先の希望が見えなくなっていった。
どれだけ大きな病院と言えども資源には限りがある。
水道水が断水により使えなくなったことにより、血液内の不純物を取り除く治療である、透析が実施できなくなった。それに伴い、腎機能に問題のある患者が日に日に衰弱していく。しかし、私はそんな患者を静かに見届けることしか出来なかった。
ストレスと不安ばかりが募っていく。一体、これから先どうなっていくのだろうか。
[魔災後一週間]
遂に、薬局内の薬剤に限界が見え始めた。一部の理学療法士などの屈強な男性スタッフが医療物資確保のためにと、危険を顧みずに外に出た。しかし、生きて帰ってきたのは3割にも満たなかった。
それだけの犠牲を伴っても、持って帰ってくることの出来た物資はまるで雀の涙だ。こんなわずかな物資のために、彼等は命を落としたというのか。
その為、私はスタッフへの外出禁止令を出すしか無かった。患者の命よりも、私は共に仕事に励んできた者達の命を優先する。
傷病人に提供する調理の材料すら厳しくなっていく。やむを得ず、災害用の備蓄食料を病院食として提供することにした。
[魔災後二週間]
私は命の選択に迫られることになった。抗血栓薬や、降圧剤などの高齢者が主として内服している薬剤が無くなったのだ。高齢者はおろか、先天性の難病を持つ者でさえもこれから先、生き延びるのは厳しいだろう。
恵まれた医療物資の供給が急速に滞ったことで、『全ての人が等しく生きる』と言うことは不可能になった。
薬剤を提供することが出来なくなったことから、人々の不安はやがて怒号に姿を変える。私はそれぞれの不安と恐怖に満ちた罵詈雑言に真正面から向き合わざるを得なかった。
そんな人々も、徐々に数を減らしていった。亡くなった人に顔布を乗せる度、「ああこんな顔だったのか。怒った顔しか見たこと無いから知らなかった」という感想が何度も過った。何度も、何度も私は人の死と向き合った。
救いたいのに、救えない屍ばかりが重なっていく。希望は一体何処にあるのだろうか。
[魔災後三ヶ月]
私は医者なのだろうか?私の目の前に重なるのは、救えなかった命ばかり。ベッドすら足りなくなり、霊安室には腐敗臭漂う亡骸が綺麗に並べられていた。
物資は底を尽き、その場しのぎで命を繋ぎ止めることが精一杯。
しかし、それ以上どうすることも出来ずにただ寄り添うことしかできない。ただ隣にいて、その死を出来るだけ安らかに迎えることが出来るように手を握る。
救いたかった、救いたかった、救えなかった。ごめんなさい。ごめんなさい。
懺悔ばかりが募り、徐々に私が壊れ始めるのを自覚する。
だが、心の片隅のもう一人の自分が告げる。
――いっそこんな無力な自分なんて、壊れてしまえばいい。
そんな私の思いに応えるように、魔物が病院を襲いかかった。
[魔災後十年]
私は、惨めにも生きていた。無様にも、生きていた。
何も守れなかった、何も救えなかった。
命からがら病院から逃げ出した私は、集落の一個人として生きることにした。医者という素性を隠して。
もう二度と、誰にも期待などされたくなかったから。
人の命を救うんだ、立派なお医者さんになるんだ。そう夢見たあの日の私は、もうどこにも居なかった。
そんな時、インターネットが復旧し、Sympassというサイトが現れたことを知る。その配信サイトの中で、[勇者パーティ]を名乗る配信者の動画が話題になっているのを知り、ふとそのサムネイルをクリックした。
そこに居たのは、魔物の巣窟と化した家電量販店を取り返すために戦う、少年少女の姿だった。
ああ、なんと愚かな少年少女だろうか。魔物に真っ向から立ち向かい、人々に希望を与えようとしている。
無謀だ。そんな事をしたって、救えない命は必ずあるんだ。
――ありえない、そう思いたかった。
勇者とか言う者達も無力であるべきだ。
そうで無ければ私の無力を肯定する理由となってしまうから。
そんな中、ストーという名前で呼ばれている男が死戦期呼吸に陥ったという。心臓が正常に機能していないのだ。適切な処置を行わなければ、死に至る。
だが現状は、魔物と戦っている最中だ。あまりにも絶体絶命な状況だった。
――ほら見ろ、やっぱり救えないじゃないか。私は正しいことをしたんだ。
思わず私はほくそ笑む。どれだけ懸命に目の前の命を救おうとしても、限界があるのだ。彼等自身がそれを証明してくれたのだと思うと、私はおかしくて堪らない。
しかし、そんな中でも諦めない女性がいた。noiseという女性は必死に叫ぶ。
『――そして私が許可する、吸入薬を砕いて中の粉末魔素をストーの口の中に突っ込めっ!!』
粉末魔素。初めて聞く単語に私は驚愕した。現代医学には存在しなかったはずの名称が、彼女の口から飛び出す。
彼女の指示に従った勇者。心臓マッサージに重ねて、粉末魔素という得体の知れないものをストーという男の口の中にねじ込んでいく。
すると、あろうことか、驚くことに彼は息を吹き返したのだ。
私は信じられなかった。
救えなかったはずの命を救う手段を持つ勇者一行を。
私は知りたいと思った。
私が持ち得なかった、命を救う手段を持つ彼等の知識を。
私は会いたいと思った。
無謀だと知りながら、魔物と立ち向かう若い者達と。
To Be Continued……
あー、自分で書いておいて何なのですが。
重くてごめんなさい。




