【第百四十一話(1)】活路を切り開くために(前編)
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・戦士クウリ
・盗賊noise
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・吟遊詩人 秋狐(白のドローン)
・魔法使いホズミ
ふと、通路の先から魔王セージの声が響く。
『勇者セイレイ。お前は、魔災の中で何を感じた?何を考えて生きてきた?』
「……俺に一体、どんな答えを望んでいるんだよ?」
通路全体から反響する声に、どう言葉を返せばいいのか分からない。
しばらくすると、再び魔王セージは低く、重い口調で返事した。
『瀬川 沙羅が意図して組み込んだプログラムによって、沢山の人々が死んだんだ。俺の家族だって、魔災の被害者だ』
「……なんでその痛みを知ってて、同じことが出来るんだよ」
千戸 誠司にだって家族はいた。なのにどうして、同じ苦しみを視聴者に与えようとしたのか。
俺がまず聞くべきだと思ったのは、それだった。
しかし返ってきたのは、俺の予想だにしない言葉だった。
『我の、理想の世界の為だ』
「……はあ?」
世界を滅茶苦茶にすることが、理想だって?
心の奥底に熱した鉄を押し付けられたような、沸き立つ怒りが込み上げてくるのが分かる。
だが、魔王は俺の感情を逆なでする言葉を吐き続けた。
『やがて、我は全人類を死に追いやる。それが、世界の為になるからだ』
「っ、何が世界の為だっ!!人を殺すことが世界の為だなんて、馬鹿げた話があるかよっ!!」
どこから聞こえるとも分からない声に対し、俺は怒りの言葉をぶつける。
千戸は、心底から魔王になってしまったのだろうか。
しかし、暖簾に腕押しだ。魔王は「ふっ」と俺を嘲笑うような声を漏らす。
『セイレイが望む世界があるというのなら、それをぶつけてみろ。お前の出す答えを、待っている』
「一方的に話をぶつけやがって……!お前は一体何がしたいんだ……っ!」
『答えを知る前に、こやつらを相手にしてもらうがな』
魔王は俺の話など、まともに取り合おうとしていないようだ。
そして。
確かに、俺達は魔王とのやり取りに時間を使う余裕を失ったようだ。
『セイレイ君っ!サポートスキル”熱源探知”!』
突然ドローンのスピーカーから、ホズミの叫ぶような宣告が響く。
それと同時に配信画面に無数に映し出される赤色のターゲットマーク。
ターゲットマークは通路を埋め尽くすような、魔物の軍勢が居るということを表していた。
通路奥の暗闇から、ゆっくりと魔物達は姿を現す。
背丈は、俺達と同じくらいか、それより低いか。
白骨化した身体を覆う衣類は、個体によってさまざまだった。
ビジネススーツを着込んだもの。よれよれのTシャツを羽織るもの。ジャージを着こんだもの。
肉体を失い、スケルトンと化した者達の骨が擦れる音が響く。
きっと、なんて曖昧な言葉で誤魔化すことは出来なかった。そのスケルトン達は——。
「……どうして、こんな酷いことが出来る?私の短剣は、人を斬る為のものではないのに……!」
noiseの持つ金色の短剣の切っ先が、静かな怒りに揺れる。
大切な人達から託されたその短剣を使って、かつて生きてきた人々を斬れ。そう魔王は試練として与えようとしているのだ。
そんな中、クウリは愁いを帯びた表情で俺に語り掛ける。
「セーちゃん。やっぱり魔王セージが作ったダンジョンと、やっていること……矛盾しているよ……」
「……どういうことだ?」
「だって、おかしい。どうして、セイレイ君の神経を逆なでする言葉選びをするの?どうして、自ら悪になろうとするの?」
「……何か、意味があるのか?」
クウリの言葉に、微かな希望が脳裏を過ぎる。
魔王セージの行動のどこかに、俺達の信じたいセンセーの姿が残っているのではないか、と。
だが、今はそれを考える余裕はない。
「無駄話は後ですっ。支援額は山ほどありますっ、もう存分に使って打開しますよ!」
俺の思考を強制的にシャットアウトさせるように雨天はそう呼びかけた。
ちらりと総支援額に視線を送れば、今や200000円を超えている。確かに、スパチャブーストを使う上で残り金額を気にする必要は無くなったようだ。
ここに来て、お金を気にする必要がなくなるとは。
対面するスケルトンの群れは、それぞれの得物を持っていた。
剣を持つ者。
杖を持つ者。
槍を持つ者。
鎌を持つ者。
弓を持つ者。
様々な得物を持つ魔物を前に、俺達は横一列に並ぶ。
「皆。合わせるぞ、覚悟は良いな?」
俺がそう呼びかけると、仲間達はコクリと強く頷いた。
どのスキルを選ぶべきか。もう答えは決まっていた。
俺は、ファルシオンを正面に突き出して「アタリを取る」ポーズを作る。
クウリは大鎌を両手で持ち、低く構えた。
noiseは隙の無い構えを取り、静かな殺意を滾らせる。
雨天は両手で握る槍の穂先をスケルトンの群れに向け、突進の構えを取る。
大きく深呼吸した後、俺達は宣告を合わせた。
「スパチャブースト”黄”!!!!」
[セイレイ:雷纏]
[クウリ:風纏]
[noise:光纏]
[雨天:水纏]
俺の纏う青白い稲妻が。
クウリの纏う吹き荒ぶ風が。
女子高生の姿に変わったnoiseが放つまばゆい光が。
雨天を包む、揺蕩う水流が。
過去を書き換えんと、スケルトンの群れに立ち向かう。
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「きっと、辛かったはずなんですっ。どこかの誰かさんの思惑に良いように利用されるだけの人生じゃなかったはずなんですっ」
「オワ……ラセ……テ」
杖を持ったスケルトンが放つ”炎弾”を、雨天は自らを纏う水流で受け止める。
彼女は切なさの滲む笑みを浮かべながら、スケルトンの群れを水流で押し流す。
「もう、こんなっ!私みたいに誰かに利用されるだけの存在を作っちゃ駄目なんですっ!」
雨天は激しく荒れ狂う水流をコントロールしながら、次から次に襲い掛かるスケルトンを巻き込んでいく。
俺は雨天が動きを阻止するスケルトンに向けて駆け出す。
「こんな生き方、お前らも望んでなかったはずだよなっ!自分の望む生き方さえ奪われてさあっ!!!!」
青白い稲妻を纏ったファルシオンを駆使して、鋭い突きを放つ。
「——ッ」
鋭い一撃を受けたスケルトンは、迸る電気に大きく怯む。そして、大地を駆け巡る水流を介して、俺が放った稲妻が伝播。瞬く間に複数のスケルトンが感電し、その動きを縛られる。
「私の純粋を濁らせたセイレイ君の罪は重いですよ?」
「言い方に語弊があんだよっ!」
「純潔を穢した、の方が良かったです?」
「もっと駄目だろうが!」
雨天はくすりと悪戯染みた笑みを浮かべる。
俺は悪態を吐くように言葉を返しながら、攻撃の合間を縫って襲い掛かるスケルトンの群れと向き直った。
そんな俺を庇うように割り込むのはクウリだ。
「安寧を奪われて、幸せを奪われてっ、こんなつらい思いをさせて何が世界の為なんだっ!」
激しく吹き荒ぶ風を纏ったクウリが放つ大鎌の一撃。それは鋭い突風を引き起こし、全く間に直撃を食らわせたスケルトンを遠くまで弾き飛ばす。
灰燼を撒き散らしながら消えゆくスケルトンを横目に、クウリはさらに次の攻撃を仕掛ける。
「お母さんみたいに、理不尽に苦しめられた人が居たっ!何かに縋るしか出来ない人を悪用することなんて許すもんか!!」
地面に叩きつけた大鎌から、より強烈な突風が巻き起こった。
その一撃を契機として、彼を取り巻いていたスケルトンが激しく壁に叩きつけられた。
「ドウ、シテ……」
だが、仲間を盾に高く跳躍するスケルトン。それはクウリ目掛けて襲い掛かる——。
「わ、待ってっ」
クウリは慌てた様子で片手で自身の顔を庇う。
そんな彼を守る形でnoiseは躍り出た。
「スパチャブースト”緑”っ!」
[noise:金色の盾]
女子高生の姿をしたnoiseの左腕に、金色の盾が顕現する。noiseはその盾を正面に突き出し、スケルトンが放つ槍の一撃を受け止めて見せた。
「皆の時間を盗むのなら、ちゃんと大事に使わないと駄目なんだっ!力は、誰かを虐げる為のものじゃないっ!」
攻撃を受け止めた金色の盾から光を帯びた蔓が伸びる。それは、いとも容易くスケルトンの全身を拘束した。
そのスケルトン目掛けて振るう金色の短剣。
全身に光を纏うnoiseが放つ一撃。まばゆい光はまるで追憶のホログラムを彷彿とさせた。
「その人らしさを、奪うなぁっ!!」
noiseの突きが直撃したスケルトン。傷口を中心として、光が迸る。それはやがて全身を包み込み、光の世界の中へと消えた。
スケルトンだった光の粒子を左の掌で受け止めながら、noiseはぽつりと呟く。
「もう、未来の見えない世界なんて……終わらせないと」
——だが、どれほど経ってもじり貧だった。
「っ、はっ……ま、まだいるんですかっ!?」
徐々に限界を迎えつつある雨天が、半ば怒りをぶつけるように叫ぶ。
どれだけ倒しても、倒しても。
スケルトンの群れは止め処なく溢れてくる。
その上、遂に俺達のスパチャブースト”黄”のスキル発動時間は限界を迎えた。
「っ、時間切れか……」
俺の全身を纏っていた青白い光が虚空に消える。
大気に溶け行くそれを見届けた俺は、再度「雷纏」を使用すべく宣告しようとした。
「スパチャブース……」
「ま、待ってくださいっ、セイレイ君っ」
だが、雨天はすかさず俺の宣告を阻む。
「なんだよ、雨天」
「……ここは私に見せ場をくれませんか」
息も絶え絶えと言った様子だが、雨天は自らそう名乗り出た。
だが、彼女は見るからに体力の限界を迎えており、そう戦えるような状態には見えない。
「雨天こそ下がってろ。もうヘトヘトだろ?」
「だ、だからこそですよっ……。魔王との戦いまで体力は持ちません。だから、ここが私の最後の見せ場なんです」
掠れた声でそう告げる雨天。そこに雨天なりの覚悟を見た俺は、見せ場を譲ることにした。
「……分かった。でも、駄目そうなら見せ場を奪うぞ」
「分かってますよっ」
雨天はコクリと頷いた。
それから左手を高く掲げて、静かに口を開く。
左手に握られていたのは、小さな魔石だった。
「——誓いますっ」
それは、スパチャブースト”赤”に繋がる誓い。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
赤:???
クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
赤:???
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:純水の障壁
黄:水纏
赤:???




