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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑨ショッピングモールダンジョン編
281/322

【第百三十五話(3)】LiveとLife(後編)

【配信メンバー】

・勇者セイレイ

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・魔物使い雨天 水萌

【ドローン操作】

・船出 道音(漆黒のドローン)

 正直、どんな話をするかなんて未だに整理できていなかった。

 どんな言葉を与えれば、空莉は納得できるのか。

 どんな想いを、空莉は望むのか。


 ……分からないから、俺の想いを語るしかない。

「なあ、空莉。俺さ、センセーから”魔物てんでんこ”って教えてもらったんだよ」

「魔物てんでんこ?」

 空莉は「何を言い出したのか分からない」と言った想いを前面に出すように首を傾げる。

 当然のことだろう。センセーが作った造語なのだから。

「”てんでんこ”は”それぞれ”って意味だ。魔物が来たら、周りの人達は気にせずに自分達の命を優先して逃げろ……って話らしい。視聴者の皆も、思い当たる話は無いか?」

 ちらりと、ドローン——今度は視聴者へと——に語り掛ける。

 しばらくすると、俺の期待した通りコメントに各々の経験が流れ始めた。


[施設がダンジョン化した時さ。近くにいたおっさんが「娘がまだ中に」って慌ててダンジョンの中に入っていったんだよ。で、二度と戻らなかった。何が悲しいってさ、そのおっさんの娘らしい女の子がさ、パパ、パパって泣きじゃくってたんだよ]

[俺の近くにもいた。ダンジョンの中に人助けに向かって帰ってこなかった人が]

[ずっと後悔してる。なんで周りを見捨てて逃げたんだろうって]

[↑でも生きてくれたおかげで今こうしてコメントできてるだろ。俺達が居る]

[ごめん、ありがとう。今泣いてる]


 流れるコメント欄を見ながら、空莉に語り掛ける。

「”お互いが生き延びることを信じて、魔物から逃げる”……そう言っていた。大事なのは”信頼”だったんだよ」

「……信頼……」

 見学席で話を聞いていたホズミは、呆れたようにため息を漏らす。

「でもセイレイ君、約束守らずに集落に戻ったけどね」

「……」

「まあそれくらいじゃないと勇者なんて務まらないか」

 話している内に勝手に納得したのだろう。彼女はそれ以上何も言わなかった。

 

 どこか気まずい沈黙を感じながら、俺は空気を切り替えるように咳払いする。

「なあ、空莉。お前はさ、他人が自分で生き抜く力を信頼していたか?」

「……それは」

「”自分の力で全部守れるはずだから”って思っていなかったか?」

「……」

「他人の強さを信用出来なかった。だから全部自分でやろうとした」

 ここが、きっと攻め時なのだろう。

 俺は低い姿勢を取り、ダッシュの構えを作る。

「俺とお前と、決定的に違う所があったとしたら……そこだろうなっ!」

「……っ」

 そのまま、大地を蹴り上げた。砂埃が舞い上がるのを感じながら、俺は何度もアスファルトを蹴り上げて加速する。

「なあ!一人で全ての責任なんてさ、背負う必要なんてねーんだよっ!」

 もう、スキルは必要ない。

「いくらでも話くらいなら聞いてやるっ……それが……」

 ファルシオンを振り抜き、俺は鋭く剣を空莉の胸元に突き立てる。


「友達ってもんだろうがっ!!!!」

 ついに、空莉のお稲荷ポイントも全損した。


 手に持っていたファルシオンを光の粒子に変え、俺は空莉に手を差し伸べる。鎌鼬の姿をしていた空莉から、茶色の毛が消えていく。

「一人で出来ることなんてたかが知れてるだろうが。馬鹿野郎が」

「……魔王が現れてからずっと、一人で抱え込んでたセーちゃんが言えた義理?」

「耳が痛ぇ話だな。そりゃ当然、俺だって間違える……だからお前らが必要なんだよ」

「相も変わらず口説き文句が上手いね」

 空莉は噴き出すように笑みを零した。

 それから、俺の手を握って立ち上がる。

「僕の罪も、一緒に抱えてくれるの?」

「はっ、交換条件だよ。お前の(つら)いを受け入れる代わりに、俺の(つら)いも受け入れてくれよ」

 俺の言葉を聞いた空莉。


 ——どういう訳か、彼はニヤリと楽しそうな笑みを浮かべた。

 「……ツラい、じゃなくて今はさ。カラい、を一緒に受け入れてくれる?」

 「は?」

 嫌な予感がする。

 その不穏の答え合わせをするように、ワゴンの上にお皿を乗せた秋狐が俺達の元にやってきた。おい、いつの間に準備した。

「いいね、最高にドラマティックな配信だった!という訳で最後はもちろんこれだよね」

 嘘だろ、感動の演出で終わりじゃないのかよ。

 頬が引きつっていくのを感じつつ、秋狐に視線を向ける。

「なあ、終わりで良くないか?いい感じに締まっただろ、おい。空莉」

 続いて空莉に視線を向ける。彼は先ほどまでの愁いを帯びた表情はどこへやら、楽しそうに笑っていた。

「友達としてさ、やっぱりこういうのは一緒にやるべきだと思うんだよー。僕だけやっても意味ないでしょ」

「罰ゲームの意味がねえだろうがっ!?」

 もう泣きたい気分だ。だが、さっきの言葉を撤回できない以上、逃げ場がない。


「あああああああもう!わーったよ、おい!お前らも来いよ!」

 こうなったらやけっぱちだ。見学席で待っていたnoiseとホズミに向けて叫ぶ。

 すると、二人は顔を見合わせた後、苦笑いを浮かべながらやってきた。

「このまま、罰ゲームの話がなあなあで終わってくれたらよかったんだけどね」

「あー……くっ、殺せ!の気分だよ」

 noiseはそれ気に入ったのか?


 やがて、秋狐がセッティングした皿を囲うように、俺達は立った。

 少し離れた場所では、雨天がによによと笑みを零しながら冷やかしの視線を送る。

「やー、良いですねえ高みの見物」

 彼女の隣で浮かぶ漆黒のドローン。そのスピーカーから道音の冷ややかな声音が響く。

『雨天ちゃん……自分の言葉覚えてる?』

「ん、なんか言いましたっけ」

 すると、しばらく間をおいてから道音は言葉を返した。


『こんな時は稲荷寿司でも食べたい気分です、って言ったね?』

「あっ」

 雨天の表情が、瞬く間に引きつっていく。それから、ばつが悪そうに彼女は目を逸らした。

「……あれは、ノーカンだと思うんです。場の空気ってあるじゃないですか」

『いやー勇者一行は一蓮托生だからさ、皆で仲良く締めようよ』

「じゃあ船出先輩も食べましょ!ほら、ね!?」

『私は撮影班なので部外者ですぅー!』

「あっ!?ズルい!?」

 

「……何やってんだあいつら」

 しばらくギャーギャーと揉めていたが、やがて雨天の方が折れたようだ。項垂れながら、俺達の隣に並んだ。

「……何なんです、この配信。カッコよく締めて終わり、で良いじゃないですか」

 それに関しては俺も同意なのだが。秋狐はそうではないらしい。

「最後まで道理を通してこそLive配信だよ!楽しく行こう、おー!」

「……ああああ、もう、わーったよ!全員、稲荷寿司を持て!」

 皿の上に乗せられた稲荷寿司を、俺達は手に取る。

 

 ——何故か、秋狐もそれを手に取っていた。

「お前も取るのかよ」

「その方が面白いでしょ?」

「……はぁ……」

 これがプロ意識というものなのだろうか。

 よく分からないが、俺は最後にカメラに向けて叫ぶ。

「じゃあ……いただきます!」

 俺達は、同時に稲荷寿司を口に運んだ。


 阿鼻叫喚。

「むぐ、むー!ん、んー!」

 ホズミが声にならない悲鳴を漏らしながら、涙目で何かを訴える。八つ当たりするように、noiseの背中をバシバシと叩く。

「くっ、お前ら……!やっぱりとんでもねえもの食わせたな!?いくら締めとは言え……くっ!!穂澄、叩くのを止めろっ」

 noiseは男性の頃の口調に戻りつつ、理性的に怒りの言葉を浴びせる。

「ふぁ、ふぇ、ふぁあああああっ!あーっ、ふぁあああああああ!!!!」

 秋狐は訳の分からない悲鳴を上げながら、バタバタとあちこちを走り回る。

「ごふぅ!?げふっ、げふっ!」

 俺は、むせ込むのを抑えることが出来ずに蹲る。

「……痛いです。結構ヒリヒリしますね、これ……」

 雨天だけは冷静さを崩すことなく、げんなりとした表情を浮かべていた。

 

「……あ、行けるかも。これ。美味しい」

「は!?」

 空莉はどういう訳か、稲荷寿司を喜んで食べていた。それから、ちらりと悶絶する秋狐に向けて問いかける。

「紺ちゃん、これもうちょっと食べていい?」

「ふぁ、ふぇ!?嘘でしょ!?食べれるの!?」

 秋狐は困惑の悲鳴を漏らす。空莉はその反応を同意と取ったようで、嬉々としてわさび入りの稲荷寿司を次から次へと食べ始めた。

「結構いける、これなら全然大丈夫!」

「こいつやべえ!おい、こいつやべーぞ!?」

 ある意味でとんでもない映像が流れ続ける。


 俺達の配信を観ている視聴者の、賑やかなコメントが流れるのを視界の端で捉える。

[楽しそうで何より]

[いいじゃん、たまにはこういう時間も大事だよな]

[それはそれとしてクウリの舌おかしくない?]

[なんで食べれるんだ]


 最後の四天王、青菜 空莉との配信は賑やかに終わりを迎えたのだった。

 

 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

セイレイ

青:五秒間跳躍力倍加

緑:自動回復

黄:雷纏

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

赤:形状変化

雨天 水萌

青:スタイルチェンジ

緑:純水の障壁

黄:水纏

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