【第百三十五話(3)】LiveとLife(後編)
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・船出 道音(漆黒のドローン)
正直、どんな話をするかなんて未だに整理できていなかった。
どんな言葉を与えれば、空莉は納得できるのか。
どんな想いを、空莉は望むのか。
……分からないから、俺の想いを語るしかない。
「なあ、空莉。俺さ、センセーから”魔物てんでんこ”って教えてもらったんだよ」
「魔物てんでんこ?」
空莉は「何を言い出したのか分からない」と言った想いを前面に出すように首を傾げる。
当然のことだろう。センセーが作った造語なのだから。
「”てんでんこ”は”それぞれ”って意味だ。魔物が来たら、周りの人達は気にせずに自分達の命を優先して逃げろ……って話らしい。視聴者の皆も、思い当たる話は無いか?」
ちらりと、ドローン——今度は視聴者へと——に語り掛ける。
しばらくすると、俺の期待した通りコメントに各々の経験が流れ始めた。
[施設がダンジョン化した時さ。近くにいたおっさんが「娘がまだ中に」って慌ててダンジョンの中に入っていったんだよ。で、二度と戻らなかった。何が悲しいってさ、そのおっさんの娘らしい女の子がさ、パパ、パパって泣きじゃくってたんだよ]
[俺の近くにもいた。ダンジョンの中に人助けに向かって帰ってこなかった人が]
[ずっと後悔してる。なんで周りを見捨てて逃げたんだろうって]
[↑でも生きてくれたおかげで今こうしてコメントできてるだろ。俺達が居る]
[ごめん、ありがとう。今泣いてる]
流れるコメント欄を見ながら、空莉に語り掛ける。
「”お互いが生き延びることを信じて、魔物から逃げる”……そう言っていた。大事なのは”信頼”だったんだよ」
「……信頼……」
見学席で話を聞いていたホズミは、呆れたようにため息を漏らす。
「でもセイレイ君、約束守らずに集落に戻ったけどね」
「……」
「まあそれくらいじゃないと勇者なんて務まらないか」
話している内に勝手に納得したのだろう。彼女はそれ以上何も言わなかった。
どこか気まずい沈黙を感じながら、俺は空気を切り替えるように咳払いする。
「なあ、空莉。お前はさ、他人が自分で生き抜く力を信頼していたか?」
「……それは」
「”自分の力で全部守れるはずだから”って思っていなかったか?」
「……」
「他人の強さを信用出来なかった。だから全部自分でやろうとした」
ここが、きっと攻め時なのだろう。
俺は低い姿勢を取り、ダッシュの構えを作る。
「俺とお前と、決定的に違う所があったとしたら……そこだろうなっ!」
「……っ」
そのまま、大地を蹴り上げた。砂埃が舞い上がるのを感じながら、俺は何度もアスファルトを蹴り上げて加速する。
「なあ!一人で全ての責任なんてさ、背負う必要なんてねーんだよっ!」
もう、スキルは必要ない。
「いくらでも話くらいなら聞いてやるっ……それが……」
ファルシオンを振り抜き、俺は鋭く剣を空莉の胸元に突き立てる。
「友達ってもんだろうがっ!!!!」
ついに、空莉のお稲荷ポイントも全損した。
手に持っていたファルシオンを光の粒子に変え、俺は空莉に手を差し伸べる。鎌鼬の姿をしていた空莉から、茶色の毛が消えていく。
「一人で出来ることなんてたかが知れてるだろうが。馬鹿野郎が」
「……魔王が現れてからずっと、一人で抱え込んでたセーちゃんが言えた義理?」
「耳が痛ぇ話だな。そりゃ当然、俺だって間違える……だからお前らが必要なんだよ」
「相も変わらず口説き文句が上手いね」
空莉は噴き出すように笑みを零した。
それから、俺の手を握って立ち上がる。
「僕の罪も、一緒に抱えてくれるの?」
「はっ、交換条件だよ。お前の辛いを受け入れる代わりに、俺の辛いも受け入れてくれよ」
俺の言葉を聞いた空莉。
——どういう訳か、彼はニヤリと楽しそうな笑みを浮かべた。
「……ツラい、じゃなくて今はさ。カラい、を一緒に受け入れてくれる?」
「は?」
嫌な予感がする。
その不穏の答え合わせをするように、ワゴンの上にお皿を乗せた秋狐が俺達の元にやってきた。おい、いつの間に準備した。
「いいね、最高にドラマティックな配信だった!という訳で最後はもちろんこれだよね」
嘘だろ、感動の演出で終わりじゃないのかよ。
頬が引きつっていくのを感じつつ、秋狐に視線を向ける。
「なあ、終わりで良くないか?いい感じに締まっただろ、おい。空莉」
続いて空莉に視線を向ける。彼は先ほどまでの愁いを帯びた表情はどこへやら、楽しそうに笑っていた。
「友達としてさ、やっぱりこういうのは一緒にやるべきだと思うんだよー。僕だけやっても意味ないでしょ」
「罰ゲームの意味がねえだろうがっ!?」
もう泣きたい気分だ。だが、さっきの言葉を撤回できない以上、逃げ場がない。
「あああああああもう!わーったよ、おい!お前らも来いよ!」
こうなったらやけっぱちだ。見学席で待っていたnoiseとホズミに向けて叫ぶ。
すると、二人は顔を見合わせた後、苦笑いを浮かべながらやってきた。
「このまま、罰ゲームの話がなあなあで終わってくれたらよかったんだけどね」
「あー……くっ、殺せ!の気分だよ」
noiseはそれ気に入ったのか?
やがて、秋狐がセッティングした皿を囲うように、俺達は立った。
少し離れた場所では、雨天がによによと笑みを零しながら冷やかしの視線を送る。
「やー、良いですねえ高みの見物」
彼女の隣で浮かぶ漆黒のドローン。そのスピーカーから道音の冷ややかな声音が響く。
『雨天ちゃん……自分の言葉覚えてる?』
「ん、なんか言いましたっけ」
すると、しばらく間をおいてから道音は言葉を返した。
『こんな時は稲荷寿司でも食べたい気分です、って言ったね?』
「あっ」
雨天の表情が、瞬く間に引きつっていく。それから、ばつが悪そうに彼女は目を逸らした。
「……あれは、ノーカンだと思うんです。場の空気ってあるじゃないですか」
『いやー勇者一行は一蓮托生だからさ、皆で仲良く締めようよ』
「じゃあ船出先輩も食べましょ!ほら、ね!?」
『私は撮影班なので部外者ですぅー!』
「あっ!?ズルい!?」
「……何やってんだあいつら」
しばらくギャーギャーと揉めていたが、やがて雨天の方が折れたようだ。項垂れながら、俺達の隣に並んだ。
「……何なんです、この配信。カッコよく締めて終わり、で良いじゃないですか」
それに関しては俺も同意なのだが。秋狐はそうではないらしい。
「最後まで道理を通してこそLive配信だよ!楽しく行こう、おー!」
「……ああああ、もう、わーったよ!全員、稲荷寿司を持て!」
皿の上に乗せられた稲荷寿司を、俺達は手に取る。
——何故か、秋狐もそれを手に取っていた。
「お前も取るのかよ」
「その方が面白いでしょ?」
「……はぁ……」
これがプロ意識というものなのだろうか。
よく分からないが、俺は最後にカメラに向けて叫ぶ。
「じゃあ……いただきます!」
俺達は、同時に稲荷寿司を口に運んだ。
阿鼻叫喚。
「むぐ、むー!ん、んー!」
ホズミが声にならない悲鳴を漏らしながら、涙目で何かを訴える。八つ当たりするように、noiseの背中をバシバシと叩く。
「くっ、お前ら……!やっぱりとんでもねえもの食わせたな!?いくら締めとは言え……くっ!!穂澄、叩くのを止めろっ」
noiseは男性の頃の口調に戻りつつ、理性的に怒りの言葉を浴びせる。
「ふぁ、ふぇ、ふぁあああああっ!あーっ、ふぁあああああああ!!!!」
秋狐は訳の分からない悲鳴を上げながら、バタバタとあちこちを走り回る。
「ごふぅ!?げふっ、げふっ!」
俺は、むせ込むのを抑えることが出来ずに蹲る。
「……痛いです。結構ヒリヒリしますね、これ……」
雨天だけは冷静さを崩すことなく、げんなりとした表情を浮かべていた。
「……あ、行けるかも。これ。美味しい」
「は!?」
空莉はどういう訳か、稲荷寿司を喜んで食べていた。それから、ちらりと悶絶する秋狐に向けて問いかける。
「紺ちゃん、これもうちょっと食べていい?」
「ふぁ、ふぇ!?嘘でしょ!?食べれるの!?」
秋狐は困惑の悲鳴を漏らす。空莉はその反応を同意と取ったようで、嬉々としてわさび入りの稲荷寿司を次から次へと食べ始めた。
「結構いける、これなら全然大丈夫!」
「こいつやべえ!おい、こいつやべーぞ!?」
ある意味でとんでもない映像が流れ続ける。
俺達の配信を観ている視聴者の、賑やかなコメントが流れるのを視界の端で捉える。
[楽しそうで何より]
[いいじゃん、たまにはこういう時間も大事だよな]
[それはそれとしてクウリの舌おかしくない?]
[なんで食べれるんだ]
最後の四天王、青菜 空莉との配信は賑やかに終わりを迎えたのだった。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:純水の障壁
黄:水纏




