【第百三十四話】賑やかな時間
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・船出 道音(漆黒のドローン)
「くっ、こ、殺せっ」
「ダメ―っ、感情が乗ってない!ほら、もっと!」
「くっ、殺せー!」
「分かってないなあ、高いプライドを捨てきれず、それでいて恥辱に塗れた雰囲気を出して!」
「くっ、殺せ……っ」
「良いねーっ!最高、予想通り有紀ちゃん似合うなあこういうの」
「……何やってんだこいつら」
一体何を見させられているのか。
秋狐の前で正座するのは囚人服を着せられたnoise。どういう訳か、noiseは秋狐から謎の特訓……?を受けていた。
noiseの隣で同じくちょこんと正座する雨天は、軽蔑の滲んだ目で秋狐を見上げる。
「あの、秋狐ちゃん。馬鹿やってないで早く先に進みません……?」
ため息交じりの言葉を受けてなお、秋狐は楽しげな笑いを崩さなかった。
「ノンノン、雨天ちゃんも覚えておいた方が良いよ?プライドの高い人が屈辱に塗れる姿が一番面白いんだからっ」
「性格悪いです」
「雨天ちゃんに言われたくないけどねっ」
それから、秋狐は傍らに置いたワゴンから、稲荷寿司の乗った皿を取り出した。
「さ、まずは雨天ちゃんからだよ。散々私を弄んだ罰も兼ねて、ね」
恨みの籠った声音に、雨天は引きつった笑みを漏らす。
「うげー……嫌です……」
そこで、秋狐が持った皿を見て「あれ?」と疑問の声を漏らす。
「あれ、そう言えば今回は空莉君じゃないんですね?」
「ん?うん、空莉君は次のお題の準備中だよ」
「次の準備って何してるんです?」
「……話逸らそうとしても駄目だよ」
「えへ」
空莉の話題を散々引っ張ろうとしたのを秋狐に見透かされ、雨天はペロリと舌を出した。
「……はあ、仕方ないです。行きますね」
それから明らかに気分の沈んだ表情で、ひょいと稲荷寿司を口に運ぶ。
「もう少し躊躇って欲しいなあ」
「……ん、んぐ。あ、美味しいです」
雨天は、何のリアクションも見せることなくきょとんとした表情を作った。
「え?」
そんなはずはない、と言った様子で秋狐は困惑の声を漏らす。
「……辛くない?」
「行けますよ、普通の稲荷寿司ですっ。秋狐ちゃんも食べたらどうですかっ」
「……ちょっと確認するね」
まじまじと雨天を見つめていたが、そこに偽りを感じ取ることが出来なかったのだろう。秋狐は皿に残った稲荷寿司を口に運ぶ。
——だが。
「ふっ、ごふぁっ?!ふぇ!ふぁ!ふぁあああああ!?」
もはや言葉で表現するのが難しい悲鳴を漏らしながら、突如としてワゴンに手をかけて蹲る。
そのあられもないリアクションを繰り広げる秋狐に対し、雨天は声を上げて笑い始めた。
「ぷぷっ、あはははははっ!最高ですっ、秋狐ちゃん!」
「っ、これも演技……!?」
「辛いですよっ、舌の奥がヒリヒリしますもんっ」
悶え苦しむ秋狐の姿がよほど面白かったのだろう。雨天は「べーっ」と自身の舌を見せつけながら、秋狐をからかい続ける。
「やー、良いもの見れましたっ。バレたらバレたで有効活用できますね、これ」
「雨天ちゃんは絶対敵に回せない、ね……これ……いたぁ……」
「あ、飲み物あるじゃないですか。それ飲んだらどうですか」
雨天はわざとらしく、ワゴンの上に置かれたコップを指差しながら楽しげに笑う。
——恐らく、その飲み物の正体も分かった上でだろう。
「……い、いやぁ……私は良いかなぁ……」
「そうですか?残念です」
俺は、傍らで彼女達の姿を配信し続ける漆黒のドローン——道音に声を掛ける。
「なあ、道音。お前。いつかの時さ、雨天のこと……四天王最弱とか言ってなかったか?」
『……言ったね』
「俺らの中で一番やばいだろ、あいつ」
『……』
道音は気まずくなったのか、ふわりと空を泳いで俺の傍から離れた。
そんなリアクションを繰り広げる中で、徐々に表情が固まっていくのは。
「……ねえ、もうやめにしよう?良いことないよ、放送事故だよ」
noiseは、カチカチに引きつった表情筋を無理矢理動かして笑顔を作る。
だが、秋狐はワゴンに体重を預けながら、よたよたと身体を起こした。
「さ、させない……っ、私は、この役目を果たすまで……っ」
「そのシーンだけ切り取ったらカッコいいんだけどね……」
ちらりと雨天の方を見てから、noiseは覚悟を決めたように頷く。
「さあ、盗賊noise!今ここに散るっ」
「散っちゃダメじゃないかな」
潔い前向上と共に、noiseは稲荷寿司を口に放り込んだ。
——一瞬、何故かホズミへと視線を向けた気がするが。
「——っ、くっ!?秋城ッ、お前……、これはやりすぎだぞ!?」
「男が出てる」
男性の口調となり、恨めがましくnoiseは秋狐を睨む。
「くっ、クソッ!痛えっ、だが……」
口を懸命に抑えながら、何故かnoiseは皿に残った最後の稲荷寿司を手に取った。
「まだ食べるの!?」
「っ、スパチャブースト”青”!」
[noise:影移動]
突如として、noiseは宣告を発する。
訳も分からずに始まった彼女の奇行に、秋狐のみならず全員が目を丸くした。
「おい、noise何してんだ!?」
俺は訳も分からずに叫ぶが、既にスキルは発動した後だ。
影の中に潜り込むようにして、配信画面から消えるnoise。地中に消えたnoiseの影が、檻を潜り抜ける。
次に彼女の姿が現れた先は、ホズミの背後だった。
「ホズミちゃんも、道連れだっ!」
「えっ」
呆けているホズミ目掛けて、noiseは稲荷寿司を口の中に突っ込んだ。
「むぐっ」
ホズミの表情が、ぴたりと硬直。
それから、彼女の瞳が涙に潤み出す。
「……っ、うっ……?!」
口元を抑え、懸命に手をばたつかせ始めた。それから、右手に杖を顕現させ、背後に立つnoise目掛けてその杖を振るう。
「むー!んぐ、むっ!」
「あははっ、これで皆等しく罰ゲームだっ」
「むー!!」
ホズミは涙目となり、懸命にnoise目掛けて杖を振り回す。だが、noiseはけらけらと笑いながら、ひょいと幾度となく襲い掛かる攻撃を躱し続ける。
やがて、疲れ果てたのだろう。ホズミはげんなりとした様子で項垂れ、恨みの籠った視線だけをnoiseに向けていた。
「私……お題クリアしたのに……」
「あははっ、飄々としたホズミちゃんのリアクションが見れて満足だよっ」
「悪趣味……」
最後に小さくため息をついてから、そして体勢を立て直す。
俺達は改めて、秋狐に視線を向けた。彼女も彼女で頬を撫でながら、困ったように笑う。
「あはは、本当に無茶苦茶なことするのが好きだね、皆……」
「私は何もしてないんだけど」
疲弊した表情でホズミはぽつりと呟く。秋狐はホズミに苦笑いを向けた後、指をパチンと鳴らした。
「おっ」
「わあっ」
すると、徐々にnoiseと雨天の服装が囚人服のそれから元に戻る。同時に、彼女達——というかnoiseは脱獄した為に雨天だけだが——を囲っていた檻が消えた。
「あっ、やっと出れました」
雨天はぴょこっと俺達の元に戻る。
それから、秋狐はエレベーターの方へと視線を送った。
「さ、次が最後のお題だよ。屋上駐車場へ行くよーっ!おー!」
空高く腕を伸ばし、秋狐は俺達を導く。
「……最後、かあ」
noiseはどこか寂しそうにぽつりと呟いた。
「私も、もうちょっとこの配信続けたいです。こんなに皆でワイワイした配信、初めてでしたし」
雨天も名残惜しそうに、ショッピングモールを見渡す。
「楽しい時間も、いつか終わっちゃうもんね」
ホズミは腰に手を当てて、静かにため息を吐く。
「また、全てが終わったらやろうぜ。いつでも出来るだろ」
俺は、最後にそう無責任な言葉を吐いた。
全ての配信が終わると同時に、俺がこの世界に留まっている保証など……どこにも無いのに。
『うん、全部終わってから、またやろう?いつだって出来るよ』
道音も恐らく俺の言葉の意味を理解していないだろう。俺の無責任な言葉に同意しながら、そう返事した。
そろそろ必要になりそうな気がして、総支援額に視線を送る。
残り支援額は、96500円だった。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:スタイルチェンジ
緑:???




