【第百二十六話(1)】ドローンの姿を持つ者達(前編)
【配信メンバー】
・勇者セイレイ
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・魔物使い雨天 水萌
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)
「むむむ」
あまりにも、リビングに集まった俺達の表情は硬かった。
それもそのはず、Tenmei本社で邂逅したSympass運営である瀬川 沙羅との一件だ。
俺の実の姉である彼女は、自分が満足する配信の為だけにあまりにも無茶苦茶なことをしてくれた。
「むむむむ」
俺……勇者セイレイは、瀬川 沙羅に洗脳され、あろうことか仲間達と敵対する形となった。
赤のドローンであるDrive配信の荒川 東二も、彼女のいいように扱われ……挙句、倒さざるを得ない結果となった。
そして……。
「……空莉」
ちらりといつもダイニングテーブルで空莉が座っている場所に視線を向ける。
自らの記憶を消去する為にアカウントを消去した彼だったが、瀬川 沙羅によって強制的にアカウントを復元された。
記憶を取り戻し、一ノ瀬の家に戻って来てからというものの、何か思うことがあるのだろう。何か物思いに耽るように、バルコニーでぼうっとすることが増えた。
話しかけてはみるものの、暗い表情を浮かべて「大丈夫」と返すのみで、何も打ち明けてくれそうにはない。
「むむむむむ」
自ら捨てたいと願った記憶なのだ。恐らく思い出した記憶に何かがあるのだろう。
いつか打ち明けてくれるのを待つしかないのだが……。
こぞって神妙な表情を浮かべている俺達の顔をさっと見渡したanotherは、ふうと息を吐いた。
「配信は見たが、なかなか堪えたようだな」
「まさか本当に人類の存続の危機とは思わねーだろ……」
俺達が、瀬川 沙羅の望む配信に応えることが出来なければ。
あるいは、俺達が全滅し”勇者パーティ”のアカウントが非公開にでもなろうものなら。
……瀬川 沙羅は全人類の思考を書き換え、強制的に彼女の信者へと作り変えるだろう。
もし、そうなってしまったら、人々は二度と安寧の日々に戻ることは叶わない。
「俺達は、最後まで配信者として全うするより他はない」
俺の言葉に、隣で座っていた穂澄が真剣な表情で頷いた。
「うん。皆で力を合わせて抗おう」
「頼りにしてるよ、穂澄」
「任せて」
俺達が持つスパチャブーストも着々と、解放されつつある。
今となっては、穂澄と一ノ瀬がスパチャブースト”赤”を使えるまでに成長した。元々の配信サイトの仕様を考えると、“赤スパ”と呼ばれる通りスパチャブースト”赤”が最後に解放されるスキルなのだろう。
「……俺も、スパチャブースト”赤”をもう使えるんだな」
俺にとっての、スパチャブースト”赤”の鍵はこれまでの配信で描いてきたスケッチブックだった。
(いつの間にか、価値観を変えられるまで配信に影響を受けていたんだな)
恐らく、スパチャブースト”赤”を発動する誓いはその時にならないと自覚さえできないだろう。
ならば、自然とその言葉が出るまでは通常通り配信を行うとしよう。
「くっらーーーーーい!!!!!!」
「おわっ」
しびれを切らしたように、立って話を聞いていた秋狐が突如として叫んだ。
ウェーブがかった橙色の髪を揺らし、彼女はびしっと俺を指差す。
「暗い、暗いよセイレイ君。配信者がそんな辛気臭い顔してどうするの」
「暗くもなるだろ。むしろお前がテンション高すぎるんだよ」
「辛い時、苦しい時ほど楽しまなくちゃ!ほら、笑って笑って、あっぷっぷ!」
秋狐はそう言って変顔を作る。
「ぶっ」
あまりにも恥を投げ捨てて作る変顔に思わず噴き出した。
元々端正な顔立ちをしているだけに、そのギャップが激しい。
「お、お前……それは卑怯だろ……ふふっ」
「あ、笑った。私の勝ち!」
秋狐は勝ち誇ったようにしたり顔を浮かべる。
してやられた、と思ったが同時にどこか彼女に羨ましい気持ちが生まれていた。
「……そういや、最後に声出して笑ったのいつだっけな」
「セイレイ君いつも難しい顔してるからねー。難しいことばっか考えてるとハゲるよ、円形脱毛症って知らない?」
「やめろやめろ」
「あははっ」
冗談めかして楽しそうに笑う秋狐。
彼女の自由気ままな空気に当てられ、いつしか緊張した空気が緩んだように感じる。
「まあ、ありがとうな。おかげで少しだけ気が楽になったよ」
「ふふんっ、これでも配信者ランキング2位ですからっ。2位、2位だよーっ」
「何度も言わなくても良いんだよ」
ご機嫌にくるくるとその場で踊るように回る秋狐。だが、しばらくしてから思い立ったようにソファに座って漫画を読んでいる船出に視線を送る。
「はいっ、道音ちゃんっ」
「ん?私?」
呼ばれると思っていなかったのか、道音は不思議そうに秋狐の方に振り返る。
だが秋狐は彼女の返事も待たないままに、むんずと腕を掴んだかと思うと強制的に立ち上がらせた。
「えっ、何?」
「はーい道音ちゃんはこちらへどうぞーっ。ドローン1名様ご招待ーっ」
「ねえ何?何なの?説明して?」
「ふふーっ」
道音は戸惑いの声を零しながら、秋狐に連れ去られてリビングから姿を消した。
賑やかな秋狐が居なくなったことに、再びリビングには静寂が戻る。
「紺ちゃんのことだから、心配はしてないけど……何しようとしてるんだろうね」
秋狐の後ろ姿を見送った一ノ瀬は苦笑いを零す。
俺が不在の間に、いつしか白のドローンへと帰還していた彼女。どこか自由奔放な彼女の行動は、未だに読めないままである。
だが、仮にも配信者として上位に立つ存在の彼女だ。
俺達が理解できないだけで、彼女なりの信念を持って行動しているのだろう。
「……まあ俺達も出来ることから少しずつ解決していくか」
ふと窓から外の景色に視線を送れば、懸命に槍を振るう雨天の姿が見えた。
「えいっ、とりゃっ……!」
息も絶え絶えと言った様子だが、幾度となく突きを放っている。
元々はDive配信としてその力を存分に振るっていた彼女だったが、瀬川 沙羅に配信者の力を奪われてしまった。
そんな彼女は今、再び配信者としての力を取り戻す為に日々特訓に励んでいる。
「ぜぇ……ぜぇ……」
遂に体力を使い切った彼女は、煩わしそうにレインコートのフードを外した。それに伴って、くすんだ青色のミディアムに整えた髪が揺れる。
雨天は、それから服が汚れるのも気にせず、大の字になって切りそろえられた芝生の上に寝転がった。
「よう、頑張ってるな」
俺は窓ガラスを開け、仰向けに寝転がった雨天へと声を掛ける。
「あ、わわ」
彼女は慌てた様子で恥ずかしそうに身体を起こし、衣服に着いた土を払い落とす。
「無理すんなよ、疲れてんだろ」
「……そう言う問題じゃない、ですっ。デリカシーないですよっ」
雨天はむくれながらも言葉を返す。それから、ゆっくりと立ち上がって、ひょこっと俺の元に近寄ってきた。
正確には、俺の隣に立つ穂澄に、だ。
「あの、穂澄さんっ。後で手合わせお願いしていいですか」
「ん、私?いいけど……そんな動ける自信ないよ?」
「大丈夫です。お願いしますっ」
雨天は礼儀正しくペコリと頭を下げた。
……最初の頃を考えると、随分と彼女も成長したように思う。
背は低いままだけど。
「セイレイ君、変なこと考えてないです?」
「……んな訳ねーだろ」
「あ!目を逸らした!」
雨天は再び不機嫌そうにむくれた。
コロコロと表情の変わる彼女と言い、自由気ままな秋狐と言い、彼女達の透き通るような感情に心が安らぐのを感じる。
「……ははっ」
たまには、声を上げて笑うことも大事なのだろう。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
赤:形状変化
雨天 水萌
青:???




