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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
250/322

【第百二十話(1)】創始者との邂逅(前編)

【配信メンバー】

・盗賊noise

・魔法使いホズミ

・戦士クウリ

・僧侶ディル

・遊び人アラン

【ドローン操作】

・秋狐(白のドローン)

「アランちゃん」

 ディルは、どこか気遣うように落ち着いた声音で私に声を掛ける。

 どこかモニター越しに世界を見ているような、現実離れした感覚のまま彼へと視線を送った。

「……どうした、の」

「ボク達は先に行くよ。瀬川 沙羅に一言物申さないと気が済まない」

 その声には、明確に怒気を孕んでいることに気付く。

「私も、連れて行って」

 スパチャブースト”赤”を使用した今、足手まといになると分かりながらも私はそう頼み込んだ。ディルは刹那の逡巡の後、確固たる意志の元首を横に振った。

「ダメだ。アランちゃんはもうスパチャブースト”赤”を使えないだろ」

「……でも、戦うことならできるから」

「分かってくれないか。ボクは……彼女の言葉を、君に聞かせたくないんだ」

 

 本心から、私の事を気遣っているのだと分かる返事だった。

 父親と対峙するように仕向けた彼女のことだ。これ以上に、私を……私達をより苦しませる選択を仕向けるというのは想像に難くない。

 ——だけど。

 私は、パパの痕跡を辿るようにもう一度だけ地面を撫でる。それから立ち上がって、ドローンのカメラに視線を向けた。

 もう、娯楽に逃げる時間は終わりだ。

「……それでも、行かせてほしいです。Live配信に関わった以上、最後まで私にも責任を背負わせてください」

「はぁー……いいの?より辛い思いするかもしれないよ?知らなきゃよかった、見なきゃよかった、なーんてことばかりかもよ?」

「大丈夫です。お願いします」

 私は勇者一行に向けて深々と頭を下げる。

 ディルは困ったように「あー」と唸り、忙しなくうろつき始めた。

「だとさ。どうする?おねーさん」

 それから、縋るように代理でリーダーを務めているnoiseへと視線を向ける。「金色の矛」の使用時間を終えた彼女は、元のカッターシャツと紺のジーンズを纏った姿に戻っていた。

 noiseも考え込むように顎に手を当てたが、やがて自らに言い聞かせるように強く頷いた。

「……わかった。ただ、自己責任だからな」

「承知の上です」

「ならいいんだ、行こう。私だって彼女に色々と聞かなきゃいけないんだ」


 後ろでは、魔素吸入薬を吸い込み、傷の癒えたクウリがホズミに介抱されながら歩いていた。

「歩ける?クウリ君」

「大丈夫だよ、ホズちゃん。ありがとね」

 クウリは柔らかな笑みを浮かべるが、ホズミの表情はどこか沈んだままだった。

「……セイレイ君は、無事だと思う?」

 ホズミの問いかけに、クウリは真剣な表情で頷く。

「より面白い配信を求める沙羅姉が、セーちゃんに乱暴な扱いをするとは思えない……でも」

「でも?」

「とんでもないことが起きるような、嫌な予感がするんだ。すごく、すごく……」

「……」

 クウリの言う「嫌な予感」の正体は、私含めて誰も理解できなかった。


 ★★★☆


『屋上へ参ります』

 エレベーターに乗り込んだ私達を、無機質な音声メッセージが迎え入れる。

 滑車の滑るような音を響かせながら、そのエレベーターは私達を屋上に連れていく。複雑な構造をした鉄骨の隙間から覗く景色は圧巻と言わざるを得ない。


 ——それが、平和な世界での光景だったなら、の話だけど。


「ろくな景色じゃないね」

 ホズミは忌々しげに口を歪め、そう呟いた。

 私だってそう思う。

 見える景色はと言えば、魔災によって倒壊した家屋やビルがドミノ倒しのように重なったもの。それらを突き破って聳え立つ桜の木々が、あちこちを侵食している。

 昔パパに連れられて行った高層タワーから見える景色とは、全く異なる光景が広がっていた。

 あの頃の景色も、パパも、もう存在しない。

「……どうして、こうなったんだろう」

 ……もう、あの頃には戻れない。


 傷心に浸っている最中、ぽーん、と情けないような警告音がスピーカーより鳴り響いた。

『やあ、諸君。まもなくTenmei本社の屋上へと辿り着くわけだけど。どうだい、私の配信企画は』

「瀬川 沙羅ッ!よくも、こんなことを出来たなッ!」

 心の内からあふれ出す怒りを抑えることが出来ない。彼女に伝わるように明確に敵意をむき出しにする。

 noiseが慌てて「堪えて!」と抑え込むが、怒りの奔流は収まることを知らなかった。

「殺してやる!瀬川 沙羅、お前は私がこの手でっ!!」

『おー、大いに結構。それでこそだよ、配信とはこうでなくっちゃ』

 傍観者を極めた瀬川 沙羅は楽しそうにけらけらと笑う。まるで、映画でも眺めるかのような口ぶりだ。

「人の心が無いの!?どうして、こんなことを平然とできるっ!?ねえ、答えてっ!!」

『くくっ、配信が盛り上がるなら何だってするさ。Sympass運営として、仕事は果たさないとね』

「っ、お前は……私を、パパを何だと……っ!」

 まるで話の通じない瀬川 沙羅に、苛立ちを抑えきれない。

「アランちゃん、代わって」

 そんな私の肩を叩き、noiseは静かにスピーカーを睨む。

「初めまして、瀬川 沙羅さん」

『おや、礼儀正しいね。うちの怜輝が世話になっているよ』

()()()……ね。ご丁寧な返事どうも。質問しても、大丈夫でしょうか?」

『なに、堅苦しいのはよそう。運営はユーザーと対等であるべきだよ……で、何かな。私に答えられる質問かい?』

「むしろあなたにしか答えられない質問です。貴方の父であり、Tenmeiの社長である瀬川 政重は一体どうなさったのですか?」

 noiseは極力平静を装って、質問を投げかける。

 しかし、私は気付いていた。彼女が強く握りこぶしを作っていることに。

 そんなnoiseとは対極的に、瀬川 沙羅は「ああ」と思い出したようにのんびりと返事する。

『殺したよ。魔災が起きた日にね』

「何だと?」

『一ノ瀬 有紀、前園 穂澄。二人は商店街ダンジョンで見た、追憶のホログラムの光景を覚えているかい?業火の中に消える、瀬川 政重の姿を』

 その言葉に、noiseとホズミは互いに顔を見合わせた。

 しばらく目配せした後、二人は頷き合う。

「覚えているさ。千戸先生……千戸 誠司に、スマートフォンを手渡した時の景色のことだろう?」

『そうだ。父はホログラムの実体化実験に致命的なエラーが生じたと知った時から、何とかして世界を修復しようとしていたよ』

「……それは、当然のことだろ?責任を感じるのは自然なことだ」

『あの日も、千戸にセイレイを預け、自らはTenmeiに戻って被害を最小限にとどめようと業務に取り掛かろうとしたようだ。だが、勿体ないじゃないか』

 「勿体ない?」とnoiseは訝しげに反復する。

 

 瀬川 沙羅の回答は、悪い意味で彼女らしいものだった。

『せっかく、ゲームの世界が現実のものとなるんだ。わざわざ戻す必要なんてないだろう?』

「……お前は……っ、それで一体どれだけの人が死んだと思ってるんだ……!」

『おおよそ全人口のうち八割、だったかい?』

「そういう答えを望んでるんじゃないっ!」

 ついにnoiseも怒りを抑えきれなくなり、スピーカーに向けて怒鳴りつける。

 

 しかし、瀬川 沙羅はやはりというかまともに取り合おうとしない。

『くくっ……さて、まもなく屋上に到着します……かな。待っているよ』

 一方的にそう告げ、さっさとスピーカーを切ってしまった。

 

 それを黙って聞いていたディルは、苛立った様子で吐き捨てるように呟く。

「……だから、あいつの言葉を聞かせたくなかったんだ。自分のことながら、反吐が出るよ」

 彼の言葉に同意するように、コメントが加速する。


[全ての元凶はアイツなのか?]

[だとしたら魔王は一体どういう立ち位置なんだ。あいつも世界を滅茶苦茶にした一人だろ]

[ディルと、瀬川 沙羅……元は同じ二人なのに、どうしてこうも違うんだ]

[正直、許せない。あいつが居なかったら]

[私も、彼女のことは許せません。ですが、彼女が居なかったらセイレイ君はいない……]

[まるでトロッコ問題でも聞いているような気分だよ。全世界の人の命を救うべきだったのか、たった一人の命を見殺しにするべきだったのか]

[トロッコ問題か……懐かしいな]

[ごめん。難しいことは分からんからこれしか出来ん。頑張ってくれ 10000円]

[だよなー。俺もこれしか無理だわ 10000円]


『屋上に到着しました』

 簡潔に、無機質なアナウンスが流れる。それと同時に、エレベーターは一度大きく横揺れした後に、完全に停止した。

 それと同時に、私達を招き入れるようにエレベーターの扉が開く。

「……あなたにどんな理由があったとしても、やっていることは悪でしかない。瀬川 沙羅……」

 

 私は、静かな敵意を胸にエレベーターから外に出た。

 総支援額、44500円。

 

 To Be Continued……

【開放スキル一覧】

noise

青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)

緑:金色の盾

黄:光纏

赤:金色の矛

ホズミ

青:煙幕

緑:障壁展開

黄:身体能力強化

クウリ

青:浮遊

緑:衝風

黄:風纏

ディル

青:呪縛

緑:闇の衣

黄:闇纏

アラン

青:紙吹雪

緑:スポットライト

黄:ホログラム・ワールド

赤:悟りの書

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