【第百十七話(1)】全ての元凶のいるダンジョン(前編)
【配信メンバー】
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・戦士クウリ
・僧侶ディル
・遊び人アラン
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)
「まず真っ先に確認するべきなのは、荒川。キミの能力だよ」
ディルは、私に値踏みするような目線を向けた。
まあ当然の問いかけだろう。彼らからすれば、私が最も謎の存在なのだから。
——正直、彼らがどう私を評価するのか怖いのはある。けど、言わないと話が進まない。
「えと、ですね。私のスキルは——」
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私の持つスキル「紙吹雪」「スポットライト」「ホログラム・ワールド」について説明を終えた後に見たディルの表情は、まさしく驚愕といったものだった。
「……え?身体能力強化スキルとかは持って無いの?嘘?」
「な、ないです」
「……すご」
ディルは困惑を誤魔化すことが出来ない様子だ。それから顎に手を当て、物思いに耽り始めた。
次に私に質問を投げかけたのは一ノ瀬だった。
「ね。蘭ちゃん?ここに来るまですごい数の魔物と出会ってるはずなんだけど、君とセイレイはどうやって攻略したの?」
「え。正面突破以外に何があるんですか?」
「しょっ……」
私としては「何を当たり前のことを」としか思わなかったが、どうやら一ノ瀬にとっては……というか勇者一行にとって衝撃の事実だったようだ。
あ、そう言えば勇者一行は必要最低限の消耗で済むように立ち回ってたっけ。私がおかしいのかな。
「……世界は広いなあ……正面突破とか……ええ……?」
一ノ瀬はこめかみを押しながらうんうんと唸っている。だが、そうしている時間はないと思い直したのだろう。
ひとつ頷き、私に意見を求める。
「蘭ちゃん……傷が癒えてすぐのところ申し訳ないんだけど、君の力も借りたい」
「それは、もちろん。私だって先輩を助けたいです!」
「そう言ってくれて嬉しいよ。すごくありがたい」
むしろ願ってもない話だ。勇者一行の力を借りることが出来るのは心強い。
だが、前園は話に割って入る。
「ん、待って。話を先に進めないでよ」
「どうしました、前園さん?」
何か不都合でもあっただろうか。そう思って質問を投げかけると、前園は私含めた面々を見渡しながら話を続けた。
「スパチャブーストを使うことが出来るのは4人までだよ。1人はどうしても戦力外になってしまうから、控えに入る必要があるけど」
「あ、だったら僕が控えに入ろうか?」
青菜は遠慮がちに自ら意見を主張する。しかし、最善と思われる答えは——。
「いえ。私はスキルを使えなくて大丈夫です!」
「……やっぱそうなるよね。ちょっと不便かけるけどごめんね」
「そんなっ、お気遣いありがとうございますっ」
前園は心底申し訳なさそうに頭を下げたが、元よりスキルは無いも同然だ。
「じゃ、配信準備始めるねっ。穂澄ちゃん、告知お願い」
「分かった」
白のドローンである秋狐はのんびりと欠伸を繰り返しながら、前園にそう語り掛けた。それから前園は、背負ったリュックサックを置き、パソコンを操作。Sympassのコミュニティにて配信開始の告知文章を打ち込み始める。
こうして有名人の配信準備を見ることが出来るのはかなり貴重だ。
だが、今の私にはそれに感動している余裕はない。
「……すぅ……はぁ……」
緊張をほぐすように大きく深呼吸を繰り返すので精一杯だから。
勇者一行の足を引っ張らないように。
先輩とパパをちゃんと助けられるように。
——失敗は許されないのだから。
「どーんっ!」
「きゃっ!?」
そんな私に、突然体当たりの如くのしかかってきた少女が居た。
「えへへー、こんにちはっ。雨天ですっ」
「あ、雨天さん。こ、こんにちは……」
「多分年近いですよねっ、敬語抜きで良いですよーっ」
雨天は場違いなほどに無邪気にぐいぐいと来る。
あまりに突拍子もない彼女の行動に、私は呆然としながら言葉を返した。
「……24歳ですよね。10も年上の雨天さんに敬語抜きはちょっと……」
「ふぐっ!?……久々にその指摘されましたっ……というか、14歳なんですね」
雨天は私から飛び降り、それからくるりとその場で一回転した。レインコートがその動きに連なりふわりと揺れる。
「大丈夫ですっ。蘭ちゃんだけが気負わなくていいんです。私達が居ますからっ」
「でも、私が強かったら……」
「ぶー。頑固ですねぇ、セイレイ君の悪いところ影響されてますよっ」
不貞腐れながら、私の右手を雨天は両手で優しく包み込んだ。
それから、穏やかな笑みを浮かべる。
「一人で到達できる強さなんてたかが知れてますよっ。だからこそ皆で力を合わせるんですっ」
「……皆で」
「はいっ!皆でセイレイ君も、蘭ちゃんのお父さんも助けましょっ!」
……皆で、か。
ほとんど一人で戦ってきた私にとって、誰かの力を借りるというのは初めてのことだった。
先輩が私に教えてくれた気付きが、一歩進む勇気をくれる。
ね、先輩。私ね、スパチャブースト”赤”の鍵、持ってるんだよ。
ずっと勇者一行のファンだった、私が持つ鍵はね——。
「……ありがとっ♪」
「ん?」
もう、ウジウジする訳にはいかない。
きっと、先輩もパパも期待するはずだから。いつものお調子者の私の姿を。
「ふ、あははっ♪見ててよ、皆っ。可愛い可愛いアランちゃんの戦いを、ね♡」
「あ、はい。期待してます」
テンションの落差について行けない雨天は困惑した声を漏らす。
そんな彼女の肩を叩き、私はボソリと雨天の耳元で囁いた。
「ありがと、雨天ちゃん。期待しててよね」
「……はいっ」
硬直した雨天の耳が赤くなる。「可愛いなあ」と思ったがこれ以上からかうのはよそう。
秋狐が雨天の傍に歩み寄るのを視界の端で捉える。
それが配信の準備完了の合図だと悟った私は、右手に槍を顕現させた。
戦闘態勢を取った私を、前園はちらりと見やる。
「頼りにしてるよ。配信名は……」
「アラン、だよ♪任せてよ先輩達っ、天才配信者、アランちゃんをご覧あれっ♡」
「配信になるとキャラが変わるタイプね。一ノ瀬さんと同じだ」
前園は態度を一切変えることなく、自らも右手に赤色の杖を顕現させる。
「……こほん」
後ろで話に触れられた一ノ瀬の咳払いする声が聞こえたが、今は気にしている暇はない。
それから、一ノ瀬は私達の前に出た。自らも腰に携えた金色の短剣を引き抜き、一ノ瀬はその切っ先をTenmei本社に向ける。
口調は既に、配信者のそれになっていた。
「……行くぞ。Live配信の時間だ、目的は勇者セイレイの奪還。そして、遊び人アランの父、荒川 東二の救助だ」
「ひゅーっ、かっこいーっ♪」
冷やかすようにそう茶々を入れると、調子が狂わされたのか一ノ瀬は苦笑を漏らした。
それから、ふと思い出したように秋狐——既に白のドローンとなっていたが、その方向へと視線を向ける。
「……ちゃんと撮れてる?」
『大丈夫だから安心して?有紀ちゃんカッコつかないよそれじゃあ』
「だっさ」
あまりにも締まらない配信の幕開けに、思わずそんな言葉が漏れた。
それからドローンへと視線を送り、ホログラムが映し出すコメント欄に視線を送る。
[久しぶりの新規加入か]
[遊び人って……]
[メスガキってやつでしょ。昔よく漫画で見たわ]
[分からせられるやつじゃん]
[草]
[まあセイレイと一緒に行動してたんだったら実力は保証できるか。頑張れ 10000円]
[正直口の悪さならディルで慣れてるからなあ……]
[たしかに]
「さすがに適応早すぎでしょ」
数多の環境の変化に共に飲まれてきた視聴者なのだから仕方ないと言えば仕方ないが。
(何だか配信者と共に視聴者のメンタルも強くなってる気がするなあ)
……というのが正直な本音だった。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
ディル
青:呪縛
緑:闇の衣
黄:闇纏
アラン
青:紙吹雪
緑:スポットライト




