【第百十三話(3)】都心攻略配信-side noise-(後編)
【配信メンバー】
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・戦士クウリ
・僧侶ディル
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)
いつの間にか、私はとんでもない人物を育てていたのかもしれない。
「……放て」
[ホズミ:炎弾]
淡々と、彼女は杖を掲げて宣告を放つ。橙色に煌めく業火が、瞬く間に狭い廊下を飲み込んでいく。
『ま、待ってホズミちゃん。ホテルが燃えちゃったらどうするの。拠点を確保するんでしょ』
さすがの秋狐も黙っていられなくなったようで、ドローンの身体で懸命に空を泳ぎホズミの元に近づいた。だが、ホズミは冷ややかな目で秋狐を一瞥するのみでその行動を止めようとしない。
苛立ったようにため息を吐いたかと思うと、杖を青色のそれに持ち替えた。
「……はあ。燃やさなきゃいいんでしょ。氷弾よ、放て」
[ホズミ:氷弾]
切り替えた杖の先から放たれるのは氷の礫。それは燃え盛る業火の中に飛び込んだかと思うと、中心から蒸発するように炎が舞い散る。
降り掛かる火の粉を払うと同時に、私は業火の先に居たはずの魔物の軍勢を見据える。
——だが、そこにはもう魔物が存在した痕跡すらなかった。
「……行くよ」
無機質に魔物を屠るだけのロボットとなってしまったホズミが杖から手を離す。瞬く間に光の粒子と化した杖を見やった後、ホズミは淡々と通路の先へと進む。
だが、その後ろ姿はあまりにも痛々しく思えた。
「おねーさん。ホズミちゃんのこと、気にかけてあげなよ」
ディルは腰に手を当て、やれやれと言わんばかりにため息を吐いた。
彼も彼で思う所はあるのだろうが、ホズミのディルに対する好感度は地面スレスレだと言わざるを得ない。
そのことは本人も理解しているのだろう。彼自身からホズミに語り掛けることはなく、悲しみと困惑の入り混じった顔色をこちらに向けた。
私としてもホズミのことはどうにかしてあげたいとは思う。
だが、その解決方法はやはり……。
「前の私を見てるみたいだ……」
縋るものを失い、ただ目的の為だけに淡々とダンジョンを攻略してきたかつての私そっくりだ。
だが、私と違うのは彼女には「取り戻す」という希望が見えている点だ。その為なら、きっと彼女は手段を選ばないのだろう。
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[追憶の守護者:ゴブリンロード]
やがて、ビジネスホテルの最上階——屋上テラスへと到達した私達を待ち受けていたのは、ゴブリンロードだった。
全身を覆う白銀の鎧から姿を覗かせる緑色の皮膚。その右手に携えるのは「蛇腹剣」とも呼ばれるガリアンソードだった。
「待ち受けていた。盗賊noise率いる勇者一行よ」
「……はっ。随分と仰々しいお出迎えだな」
クローズドヘルムとも称される格子状にデザインされたヘルメットから、その素顔を伺うことは出来ない。だが、その見えない表情により一層不気味な感覚が生み出される。
……しかし、勇者不在の勇者一行とは妙なものだ。
以前、ホームセンターダンジョンにてゴブリンロードと邂逅した時には、非常に苦戦を強いられた。
繰り返されるピンチの中、窮地を切り抜けるべく数多のスキルを活用したものだ。
だが、今は使える手札も増えた。
——その中でも強力な手札が、一枚。
『ちょ、ホズミちゃん!?それ使っちゃったら支援額が——』
「倒せばいいんでしょ」
ホズミは淡々と赤色と青色の杖を融合させる。その杖が光源となり、周囲を目映く照らす。
何かを察したディルは、未だ状況の理解できていないゴブリンロードに向けてこっそりと人差し指を向けた。
「……スパチャブースト”青”」
[ディル:呪縛]
その言葉と共に、ディルの指先から漆黒の鎖が伸びていく。
「——なっ」
ゴブリンロードが困惑の声を上げると同時に、その白銀の鎧は瞬く間に鎖によって囚われた。いとも容易く行動の封じられたゴブリンロードは、恨めしげにディルへ視線を送る。
だが、彼も彼で申し訳なさそうに苦笑を漏らす。
「文句ならホズミちゃんに言ってよ。あんまり彼女、こんなところで時間取りたくないみたいだよ」
「小癪な……!」
「滅んじゃえ」
短く、物騒な言葉を吐いたと共に、ホズミは杖の融合により生み出された光を纏う弓矢の照準をゴブリンロードに向ける。
その光の矢の先端を中心として、圧縮されたようなエネルギーが大気を震わせる。
[ホズミ:極大消滅魔法]
「……こんなところで時間使いたくないの」
世界が真っ白な光に包まれる。
取り巻く光を纏いながら放たれた矢が、あっという間にゴブリンロードを貫く。
「なっ……」
貫かれた傷跡を中心に、ゴブリンロードの全身を這うようにして光が侵食する。それは魔物の全身に留まり切れず、やがて体外に激しく光の奔流として迸り始めた。
「……ホズちゃん。あんまりだ、こんなの……あんまりだ」
あまりにも滅茶苦茶な配信方法を繰り広げるホズミに、クウリは心配そうな声音で呟いた。
こうして、ダンジョン化したビジネスホテルの攻略はいとも容易く行われたのだった。
いわば、勇者一行の配信における醍醐味である「追憶のホログラムの起動」を行う。
魔災以前のかつての光景を映し出す追憶のホログラム。その映像は、二度と現実世界で見ることが出来ない光景を呼び覚ますものとして、欠かすことの出来ないものだった。
本来ならば、その映像に心動かされた人々のコメントで賑わう所だったが。
いつまで経っても、コメント欄が更新されることはない。
どこか気まずさを抱いたように、皆揃ってコメントを更新せずに沈黙を貫いていたのだ。
原因は分かっている。
「……もう、いいかな」
ホズミは冷ややかな視線を私へ向ける。
まるでお葬式のようなムードだ。せっかくの空気をぶち壊しにしたホズミに対し、思わずため息が零れた。
「……うん、そうだね。追憶のホログラムを融合させよう。それで、今日の配信は一旦止めようか」
「分かった」
まるで表情の読めないホズミの言葉に同意しながらも、秋狐へと目配せする。
白のドローンである彼女はわたわたと慌ただしく空を泳ぎながらも追憶のホログラムへと近づく。
『つ、追憶のホログラム。融合します』
そうして、白のドローンは追憶のホログラムに密着する形で引っ付いた。
ホログラムと化した世界が、再び元の世界へと融合していく。
かつての光景が消え去っていく。
[information
魔石:大 を獲得しました]
そのシステムメッセージが流れると共に、追憶のホログラムは……そして、ダンジョンはこのビジネスホテルから消失した。
ダンジョンの攻略を確認したホズミは、一足先に屋上テラスを後にする。
「あっ、待ってホズミちゃ……」
「私は先に空いてる部屋見つけて休んでるね」
「あ、うん……」
そうして、完全にホズミの姿は見えなくなった。
私は助けを乞うように、ドローンへと視線を向ける。
「……ねえ。皆、今のホズミちゃんを見てさ、どう思う?」
しばらくしてから、コメント欄に視聴者の見解が流れ始めた。
[魔王が現れた後のセイレイを見てるみたい。切羽詰まってる]
[それなー。ちょっと見てて危なっかしいって言うか]
[いつか壊れそう]
[ホズミちゃんって結構セイレイに依存してるのかな]
[でも、分かる気もする。俺も両親失って、何か胸の奥がぽっかり空っぽになったって言うか]
[皆、一回は大切な人を失っていますもんね……]
[とりあえずお疲れ様。セイレイのことも気がかりかもしれないけどさ、慎重に行こうぜ]
いつものように、私達を応援する声。労う声。その一つ一つに心が温まるような気持ちを抱く。
育ての親である千戸が居なくなり、挙句大切な幼馴染であり想い人を失ったホズミ。
「……とりあえずは、進むしかないかな」
打開策をどれだけ考えても、答えは見えてこない。
どうすることも出来ないと悟った私は、一つため息を吐いて秋狐へと「配信を終わろう」とだけ告げたのだった。
--当配信は終了しました。アーカイブから動画再生が可能です。--
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
noise
青:影移動(光纏時のみ”光速”に変化)
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:金色の矛
ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
ディル
青:呪縛
緑:闇の衣
黄:闇纏




