【第百十二話(2)】旅立ちの日-side noise-(後編)
【配信メンバー】
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・戦士クウリ
・僧侶ディル
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)
私には絶対的な自信があった。
元々単騎でダンジョン攻略を行ってきたノウハウを持ち合わせていることに加え、配信を介して仲間達と共に数多のダンジョンを突破してきたから。
だが、今までのやり方は都会では一切通用しなかった。
『魔物10体くらい来てる!下がってっ!』
「えっまた!?全然進めないんだけど!?」
「炎弾打ちますっ!」
「ごめんこっちのフォローお願い!ゴブリン4体!」
「さすがにこれはジリ貧だねっ!?ああああもうセイレイ君の所に行かなきゃなのに……!」
どれだけ倒せども、倒せども。
行きつく暇もなく魔物が私達の元へと襲い掛かる。最初こそ「経験を持ち合わせているからなんとかなるだろう」と高を括っていたが、現実はそう甘くはないのだと簡単に突き付けられた。
[そりゃ都心では生きていけんわな……]
[桁が違う]
[無理しないで、死なないように気を付けてください 10000円]
[一歩進むだけで上等。少しずつ行こう 10000円]
コメントログを見れば、沢山の応援の言葉が飛び交っているのが見える。だが、目の前の魔物を対処するのに精いっぱいな今は、正直情けなさしか感じない。
こうして、何の成果もあげられないまま私達は都会での初回配信を終えたのだった。
★★★☆
結局、逃げ帰るようにして私達は拠点である自然公園に戻った。
帰ることが出来る場所を作れるように、船出と須藤は協力してテント設営していたようだ。いつの間にか私達がくつろぐには十分な大きさのテントと、焚き火台など必要最低限の生活を維持できる環境が作られていた。
「二人ともありがとう」
情けない気持ちを隠し、私は二人に頭を下げる。
だが、私達の配信での実態など既にお見通しだっただろう。船出と須藤は互いに顔を見合わせ、困ったように愛想笑いを浮かべる。
「皆、お疲れ様。やっぱり大変だった……?」
「生きて帰れただけ奇跡だよ」
船出の問いかけに対して、私の代わりにディルが明らかに疲れ切った顔色で答えた。いつもなら余裕綽々といった雰囲気を出している彼も、さすがに魔物の軍勢を一度に相手取るのは厳しかったようだ。
本当に、比べ物にならなかった。
ひとたび高層ビルの谷間に飾られた通りへ足を運べば、そこに存在したのはもはや数えることすら出来ないほどの魔物の群れだった。
言語さえ理解の出来なさそうな魔物が、一定の群れを作って過ごしている。そんな魔物達にとって、私達は住処を荒らす侵入者でしかないのだろう。
——魔物の本質は「依存」である。
いつか聞いたその言葉が、私の心に深く突き刺さる。
「本当に、何もできなかった。正直、舐めてたよ……」
「環境が変われば常識も変わる、か」
腕を組んだ須藤は、どこか物思いに耽るように言葉を返した。
ただ「出来ない」まま足踏みをしている訳にもいかない。打開の糸口を探さなければ。
「うん。『これだけ倒せばひと段落着く』がないからね。少し作戦会議をしよう」
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「まず、気になったところから纏めていこう」
私達はテント内に配置したテーブルを囲うようにして各々腰掛けた。それから、テーブルの上に配置したノートブックの白紙のページにペンを走らせていく。
予め情報を持っていた船出主導の元、私はなるべく理解しやすいように意見を統合する。
①同族同士で固まっていることの方が少ない。様々な種族の魔物が混ざり合い、独自のグループを形成していた。
②異なるグループ間は干渉している様子が無い。恐らく、別グループの魔物同士は他人、というスタンスが一貫しているのだろう。
③種族が一貫しない。これまでのダンジョンのように、特定の種族限定という概念が存在しない。
「なんか、本当に都会って感じ」
集った意見を見た船出は、苦笑交じりにそんな言葉を漏らす。
「どういうこと?」
「微妙に他のグループと距離感ある感じとか、色んな魔物の多様性がある所とかね。個性を重視してるって感じ」
「ふうん……色々な人が居るってことかな?」
「まあその解釈で良いかも。地方のダンジョンだと、ゴブリンやゾンビ、みたいに一貫してたじゃん?今になって思えばあれは協調性の象徴だったのかもね」
確かに、思い返せばこれまでのダンジョンではボスを筆頭として、様々な小型の魔物があちこちを闊歩していた記憶がある。
「なるほどね。みーちゃんなんだか詳しいね」
「都心の方じゃないと可愛いアクセ売ってないからね。男だった頃の名残でファッションに無頓着だったゆきっちとは違うの」
「……」
何故か嫌みたっぷりに言われた気がする。昔の私、何か船出の気に障ることでもしただろうか。
……っと。今はその話は置いておこう。
「じゃあ、本当に別々のグループだって思えばいいんだね。ボスが統括している訳じゃなくて、それぞれ別のグループに属しているって感じ」
前園はまとまった情報に対し、自らの意見を主張する。
その言葉に船出はこくりと頷いた。
「ほずっちの解釈で大丈夫。どう?何か見えそう?」
「ひとつの大きな塊じゃなくて、複数の小さい群れで構成されてる……なら、行ける気がするよ」
「おっ」
前園は何か閃いたのだろう。彼女の言葉に、皆関心を寄せたように身体をそちらへと向ける。
「このやり方なら。鍵は私と、有紀さんだよ」
「ん?私?」
「期待してる」
-翌朝-
『さて、ホズミちゃん。期待しても良いのかな』
「任せて」
魔法使いホズミは、配信開始と同時に右手に赤色の杖を顕現させる。それを抱きかかえるように胸元に寄せ、静かな足取りで自然公園を後にした。
彼女の後ろを辿るように、私達も静かに歩みを進める。
そんな私達の後ろで、秋狐が操作する白のドローンはふわりと浮かぶ。
『じゃ、今日も頑張ってこっと。あ、そうだ。サポートスキル使えるんだった』
「え?」
『サポートスキル”モニターシェア”っと』
なんてことのないように、秋狐はのんびりとした声音で宣告する。それと同時に、配信に参加している私達の眼前にドローンから映し出される配信画面と同様のモニターが生み出された。
……昨日は、そんなスキルなど発動させた記憶が無い。
「えっ、秋狐さん。これ、何?」
戦士クウリは眼前に映し出されたモニターを指差し、茫然とした様子で問いかける。
秋狐は「やべ」と言葉を漏らす。
『いやー、本来のドローンの所有者さ、私じゃん?それでサポートスキル、使えるの今思い出した……』
「それ昨日からやって欲しかったな」
『ごめんごめん。善処するよ』
しかし、戦闘時にドローンへと視線を向けなくてよくなったのは非常にやりやすい。
私達は手慣れた動きでそれぞれ別々の物陰に隠れる。そこから各々見える景色を共有し、危険の有無を確認し合う。
秋狐が生み出した「モニターシェア」を存分に活用し、コメント欄を介して情報共有を図る。
[ホズミ:敵影無し。そっちは?]
[クウリ:ゴブリン4、オーガ5、インプ2]
[ディル:ボクのところはゴブリン4。強化個体もいるね]
[noise:私も敵影無しだ。私の方から進もう]
[ホズミ:分かった]
私の意見に賛同するように、仲間達と合流。静かに物陰から続く道を睨みながら、耳を澄ませる。
「魔物は……恐らくいない。進もう」
隠密技術を持ち合わせた私が先導し、ビルの谷間を駆け抜ける。
その間にも魔物がいないかどうか、素早く目配せを行うことは怠らない。
やがて、私達は開けたスクランブル交差点の前に辿り着いた。
さすがに、これから先の戦いは避けられないようだ。
To Be Continued……
(そう言えば長らくanother出してないな……まあいいか)
【配信メンバー】
・盗賊noise
・魔法使いホズミ
・戦士クウリ
・僧侶ディル
【ドローン操作】
・秋狐(白のドローン)




