【第百十一話(1)】分からせ(前編)
【登場人物一覧】
・セイレイ
配信名:セイレイ
役職:勇者
瀬川 怜輝の身体を借りているだけの、作り物の存在。
どうやら知らぬ間に都心へと身を移していたようだs。
・荒川 蘭
配信名:アラン
自由気ままに生きている少女。
どこか掴みどころのない彼女であるが、その実力は本物である。
・荒川 東二
株式会社A-Tの社長を務める四天王。
日々娘の育て方に苦悩する、一人の父親でもある。
『君は選択肢を間違えた。本当に、正しい選択肢を選べなかった情けない勇者様だね』
幾度となく侮蔑の言葉を浴びせる、男だか女だか分からない加工されたような声が響く。しかし、俺はとっくにその声の主を理解している。
「姉貴……いや、作られた俺がそう認識する存在か」
そう皮肉染みた言葉を返すと、しばらく間をおいてから返事が戻ってきた。
『それはそうなんだけど、もう少しありのままで受け入れてくれると助かるんだがな?こう見えてもナイーブなんだ。ほら、鶴山君は「思考が神が作ったものから人間が作ったものに変わっただけ」と言っていただろう?あんな感じで頼むよ』
帰ってきた返事からは、加工されたような感覚が消えていた。透き通るような女性の声として、脳へ情報として処理される。
だが、この状況においてはさしたる変化だ。
「滅茶苦茶言うなよ」
『滅茶苦茶なのは君の方さ、怜輝。君は選択肢を間違えた』
「あ?何が間違えたって言うんだよ」
訳も分からずに同じ言葉を繰り返す姉貴に苛立ち、強く言い返す。
すると姉貴と思われる声は間をおいてから言葉を返した。
『いや。普通に考えればわかるだろう?あのアラン?が使った「スポットライト」を怜輝はどうにか活用しようとした。ホブゴブリンから視界を奪おうとした……ってところだろうか』
「……ああ。でも、結局は上手くいかなかった」
『そりゃそうでしょ。ホブゴブリンから見れば君達の位置なんてまるで筒抜けなんだから。周りが見えなくても、君達の姿は簡単に捉えられるんだから』
「あっ」
完全に抜け落ちていた考えだ。
俺の腑抜けた返事を聞いた姉貴が、更に大きくため息を吐き出した。
『馬鹿。阿呆。ポンコツ。なんとかしてあの子のスキルを活用しようとしたんだろうけどね』
「……姉貴はどうしたら良かったと思う?」
『わあい、姉貴って呼んでくれた。やったー!』
「……」
俺が静かに苛立っていることに感づいたのだろう。姉貴はひとつ小さな咳払いをしてから話を続けた。
『選択肢は2つあった。セイレイが暗闇の中からホブゴブリンを殴り続けるか、アランに1回死んでもらってスキルを解除するか』
「……なっ」
さらりととんでもない案を示した姉貴に絶句する。しかし俺の様子など気にも留めずに姉貴は話を続けた。
『別に怜輝の「自動回復」で蘇るんだ。合理的だと思うがね』
「どこが合理的なもんかよ。ゲームとは違うんだぞ、死の恐怖を体験させろってか?」
『でも現に君は3回も死んでるじゃないか。3回って。ウケる』
「ウケねえよ」
『ははっ』
心底楽しそうに姉貴はひとしきり笑った後、急に真剣な声音を作った。
『彼女が死を経験すること。それと、守ろうとした君を守り通せなかった不甲斐なさを経験すること。一体、どっちが彼女にとってためになるんだろうね』
「……」
『くくっ。雑談はこれくらいにしようか。またね、怜輝。次もお話ししよう』
「出来るだけ会わないことを願ってるよ」
『確かに』
その言葉を最後に、世界は緑色の光に包まれた——。
★★★☆
突き刺すような光が、網膜を刺激する。
瞼の裏が光に照らされて視界全体が赤く染まった。じりじりと刺激する眩しさにゆっくりと目を開く。
「……っ」
静寂と化した、凄惨な激戦の跡が残る家電量販店だ。
俺はその中で息絶えたのだろう、辺りに視線を送れば俺かホブゴブリンか分からない血飛沫が飛散していた。
(この光景を視聴者に見せることが無くて良かったよ)
真っ先に考えたのは、自分の姿をいつも見てくれている視聴者のことだった。
どんな時でも視聴者のことを意識していることに気付き、「はは」と苦笑が漏れる。
「アランは、無事に戻れたかな」
ポケットに入れていたスナック菓子を取り出し、静かにそれを頬張った。徐々に全身の傷が癒えていくと共に、身体から重みが抜けていくのが分かる。
「……戻るか」
誰にともなく独り言を漏らしながら、俺は家電量販店のガラスドアを開けて外に出る。
「セイレイ君。大丈夫か?」
「……東二さん」
ガラスドアを出た先に居たのは、スマホを触ったまま視線だけをこっちに向けた荒川 東二だ。
配信は切っていたのだろう。ドローンの姿ではなく、元々のやり手の若社長と言ったそれでその場に存在していた。
一体どこまで、何を見ていたのか。
聞きたいことは沢山あった。しかし最初に聞くべき内容は決まっている。
「アラン……蘭は、無事戻れましたか」
「ああ、無事に帰ったよ。正直危なっかしいところもあったが……帰ったら声を掛けてやってくれ」
「ありがとうございます」
俺は東二に一礼すると共に、帰路の方向へと視線を送る。
やはりというか、ビルの狭間を埋め尽くすように蠢く魔物の群れが、あちらこちらを闊歩していた。
「……東二さん。帰りも頼む」
俺は魔物の群れを睨みながら、右手に力を入れた。
想いに応えるように、光の粒子がやがてファルシオンを作り出す。
「分かっているよ。これ以上蘭に嫌な思いを俺だってさせたくないからね」
東二は俺の動きに倣うようにして、スマホを操作した。それと同時に彼の姿が赤のドローンの姿へと変化していく。
『頼んだよ。セイレイ君』
「当然だっ!スパチャブースト”青”!」
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今日、この日に至るまで私は無敵だった。
無敵だと思ってた。
無造作に放り投げられたゲームカセットが埋め尽くす部屋の中で、私は何をするでもなくブラインドから差し込む光に視線を送る。
今までは外の景色など興味が無かったのに。
「……せん、ぱい……」
まだ知り合って間もない、彼の姿に思いを馳せる。
ずっと、勇者セイレイのファンだった。
魔物と戦うことに苦労したことのない私からすれば「何やってるんだろう」と思うことは正直あったけど。
それでも、仲間達と力を合わせて困難を乗り越える、という光景には憧れた。
私もこんな風に、一致団結して強力な敵と立ち向かうヒーローになりたいって思ってた。
……けど、現実はどうだろう。
——……アラン。お前はもうスキルを使うな。
——良いから行けよっ!!テメェが居ると足手まといなんだよっ!!
「……はは。足手まとい……」
本当に、彼の言うとおりだと思う。
私は自分のやり方で、先輩の力になろうとした。先輩が一番能力を発揮できるように、自分なりに支援するんだって意気込んでいた。
……けど、先輩は……。
「なん、でっ……」
気づけば頬を温かいものが伝っていた。
パパのドローンの映す配信画面が脳裏を過ぎる。
先輩の体力ゲージが底を尽きた、ただ「死」を示すだけの表記が、頭の奥底にこびりついて離れない。
私が先輩の邪魔をしたからかな?
私が先輩に迷惑をかけたからかな?
私が自分勝手に行動したからかな?
「ご、めん、なさ……い。やだ、ごめんなさい……」
自分のせいで、先輩が死んだ。
その後悔がずっと離れない。たった一日関わっただけなのに、ぐるぐると何度も彼の面影が脳裏に映像として映し出される。
「……っ」
私は先輩の名残を確かめるように、彼を寝かせていたベッドに顔をうずめた。
……先輩の匂いがする。
脳に匂いを焼き付けるように、何度も顔をこすりつけた。
「先輩、好きです。好きでした。ずっと、ずっと、先輩のファンだったんです……」
そうぽつりと呟いた途端。
ぱたん。
扉が何故か締まった音がした。
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「……なあ、東二さん。俺、蘭ともう顔合わせられねえよ」
「見なかったことにしてあげてくれないか。蘭も年頃なんだ……」
助けを乞うように東二に語り掛けたが、彼は困ったように笑みを浮かべるのみだった。
先ほど締めた扉がゆっくりと、再び開いていく。
「なっ、な、なな……なっ」
明らかに引きつった表情の蘭が、こっそりと姿を覗かせていた。
助けて。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
・セイレイ:
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
・アラン
青:紙吹雪
緑:スポットライト




