【第百十話(1)】繰り返される始まり(前編)
【登場人物一覧】
・セイレイ
配信名:セイレイ
役職:勇者
瀬川 怜輝の身体を借りているだけの、作り物の存在。
どうやら知らぬ間に都心へと身を移していたようだs。
・荒川 蘭
配信名:アラン
自由気ままに生きている少女。
どこか掴みどころのない彼女であるが、その実力は本物である。
・荒川 東二
株式会社A-Tの社長を務める四天王。
日々娘の育て方に苦悩する、一人の父親でもある。
︎︎ダンジョン内は「光源開放」を使った時と同様にその施設内は爛々と電気の通った蛍光灯が照らされていた。
等間隔で並ぶノートパソコンの展示品。当然というかモニターは真っ暗になっており、ひび割れたそれが二度と起動することはないということが暗に示されていた。
横倒しになった棚から、ケーブル類等のアクセサリー機器が散乱している。
静かに佇む家電製品の類は、どれほど残酷になった世界の中で時を過ごしたのだろう。本来ならば、幸せに満ちた家庭の中で動くはずだったそれらは、今や陰鬱としたダンジョンの雰囲気づくりに一躍買う存在となってしまった。
しかし、また家電量販店か。
「……一番最初に配信した頃を思い出すよ」
物陰に潜み、じっと先の景色を見据える。
隙間から見えるのは、ゴブリンやオーガ、インプなど多種多様な魔物が悠然と闊歩している姿だ。
「先輩の配信、最初から見てたよー。アクションカードでも使う?」
「おい乗っかんな、重い」
「女の子に重いは失礼だよー。もうっ」
俺の背中に体重をかけてのしかかるアランが、楽しげにそう語り掛ける。
それから、呑気にキョロキョロと左右を見渡した後にちらりと一点へと視線を向けた。
「ま、そんな慎重にならなくても私に任せてっ?こんな雑魚ちゃん相手に時間かける必要なんて無いんだよっ」
「……あっ」
ひょこっと楽しそうに跳ねたアランは、俺の制止する前に魔物が闊歩する中を飛び出した。
笑みを浮かべながら、魔物の死角を軽やかに潜り抜ける。
(……嘘だろ?あんなに容易く魔物の死角を潜り抜けて……)
「ふふんっ」
それから簡単に物陰の合間を移動したアランは、したり顔でピースサインを向けた。
あまりにも人間離れした芸当を容易く行って見せた彼女に、思わず俺は東二を見やる。
「……東二さん。アランって何者なんです?」
『まあ、蘭は天才と言えるかもね』
「天才……」
noiseと初めて出会った時でさえ「こんな人間離れしたことが出来る人物がいるのか」と驚いたものだ。しかし、まさかここに来てまた並外れた才覚を持つ人間と出会うことになるとは。
挙句、アランは俺とそう年が変わらないと来た。同年代の少女にこうも上を行かれると俺の立つ瀬が無くなってくるというものだ。
「……けど、俺アランみたいなこと出来ねえぞ」
物陰から姿を覗かせれば、やはりというか魔物があちこちに歩くのが見える。
やはり倒すしかないのだろうか。
そう思い、俺は右手に再度ファルシオンを顕現させ、戦闘の体勢を取る。
『ま、待ってくれ。セイレイ君』
「……?」
俺の行動の意図を理解した東二は、そう言ってから一足先に進んだアランの元へと移動する。
何やらアランと話している様子だ。話している内容こそ聞こえないが、アランが首を傾げて言葉を返しているのが見える。
しばらくしてから、赤のドローンは俺の元へと戻ってきた。
『蘭が魔物に気づかれないタイミングを合図で教えてくれるそうだ』
「……マジかよ」
『姿勢を低く、敵の視界に入らないように、って言ってたぞ』
東二を介して行われる忠告に「分かった」とだけ返し、俺は背中を丸めて姿勢を低くする。
じっと先に進んだアランを見つめる。すると、彼女はわざとらしく両頬に手を当て、照れたような動きをしていた。
(そう言うの良いから!)
表情筋を使って必死にジェスチャーを行うと、彼女は笑いを殺しきれないまま手のひらをこちらへと向けた。
恐らく、カウントダウンだろうか?
(5、4、3、2、1……)
彼女の指が徐々に拳の中に握り込まれていくのが見える。
そして、最後に人差し指が内側に入り込んだのを確認した俺は、躊躇することもなく駆け出した。
(——0ッ!)
極力足音を殺し、迷うことなく地面すれすれまで体勢を低くして駆け抜ける。
どういう理屈なのか想像さえつかないが、彼女の言った通りに魔物に一切気づかれない。
俺はそのまま、いともたやすく魔物の群れの中を通り抜け、アランと合流することが出来た。
「ゼロ♡ゼロ♡ゼロ♡」
「……何言ってんだお前」
「あっ、来たー!私が居ないとダメダメな先輩だっ♡」
満足そうにドヤ顔を向けるアラン。
実際彼女がいないと魔物の群れを潜り抜けることが出来なかった為、彼女の功績なのは間違いない。
「……正直、驚いたよ。まさかこんな簡単に魔物の群れを回避できるなんてな」
「どやあ」
アランは褒めてほしそうに頭をこっちへと向ける。無視しても良かったのだが、少しくらいは彼女のわがままに付き合ってあげても良いだろう。
「えらいえらい」
「んふふっ」
若干投げやりに彼女の頭を撫でたが、それでも満足したらしい。
アランはふやけたような言葉と共に、だらしない笑みを浮かべていた。
『セイレイ君……あんまり他人に誤解を与えるような行動、しない方が良いと思うぞ……』
「……」
東二は苦笑の声と共に、そう語り掛けた。
正直、それに関してはぐうの音も出ない話だ。
(そりゃアランの心配もしない訳だ)
東二は最初、アランが一人でダンジョンに行こうとした時一切止めようとしなかった。
彼女が一人でダンジョンに向かうこと自体、恐らく日常茶飯事なのだろう。
今回は俺が共に行動すると知ったからこそ付いてきただけに過ぎない。
「先輩、置いて行くよー?」
「悪い、今行く」
「はやくはやくっ」
——今考えても仕方のないことか。
パタパタと小走りで先に進む彼女の背中を目で追いながら、俺は慎重にダンジョン化した家電量販店内を進む。
★★★☆
「よっと」
アランは残った魔物をいとも容易く切り払う。それと同時に、魔物だった灰燼が巻き上がる。
俺も対峙していた魔物にとどめを刺した後、アランの方へと振り返った。
「もう少しでゲームカセットがあるところ、なんだよな?」
「うんっ。あ、カウンター奥ね?間違ってもゲームカセットのコーナーに行っちゃダメだよ、カッコn敗っ」
「はいはい」
アランはディルとは異なる意味で、理解できない言い回しを繰り返す。
俺としては余裕がないため、話半分に聞き流しながらも周囲を警戒するしかない。
「ほらーっ。おいでおいで、大丈夫っ」
そんな俺とは正反対に、まるで警戒心さえ微塵にも感じない足取りで駆けるアラン。
ようやく目的のゲームカセット売り場へと辿り着いた俺達。
アランはひょいとレジの置かれたカウンターを飛び越え、のれんで隠された従業員専用通路へと姿を隠す。
「先輩はちょっと待っててー!」
「言われなくても待ってるよ!」
がちゃがちゃと騒がしくカセットを漁る音が聞こえる。やっていることは泥棒のそれだが、今となってはそれを咎める者は誰も居ない。
彼女を待っている間、手持無沙汰だったので念のため周囲の警戒に時間を使うことにした。
しかし魔物の群れを撃退した今となっては、ただ静寂のみがその空間を取り巻いている。
「……昔は、どんな景色だったんだろう」
『セイレイ君としては、やはり気になるところか』
「ああ。ここには追憶のホログラムはないのか?」
追憶のホログラム。
ダンジョンの最深部には必ず配置されていた、魔災以前のかつての光景を映し出すホログラムを生み出す装置のことである。
勇者セイレイが行う配信のメインイベントと言っても遜色のないものだ。それを皆に見せることが俺達の配信の意味だった。
魔災に伴い、失った想いを呼び起こさせること——それが、俺が今まで行ってきた行動だ。
『……少なくとも、俺はこの中では見たことは無いよ。恐らくTenmei本社がこの都心全体の核だと思うが……』
「東二さんの拠点……ダンジョンか。そこからは遠いのか?」
『遠くはないが、結構歩く。大体徒歩30分くらいだけど、魔物の群れがいる中で進むのは大変だろう』
徒歩30分。
魔物の群れがいる中で、それだけの距離を進むのはどれほど厳しいのか想像に難くない話だ。
「……やっぱり、皆と合流するのは前提条件だな」
世界の真相を握る企業であるTenmeiが映し出す世界をやはり知らなければならないのだろう。
それが、俺にとってどのような影響を及ぼすとしても、避けては通れない問題だ。
「先輩、お待たせ!……あっ、パパも」
『俺はついでか』
「細かいこと気にしないでよ、みみっちいよパパ」
『みみっちい……』
ぞんざいな扱いを受けた東二は呆然とした声を返す。
何はともあれ、目的の品(と言えば聞こえは良いがゲームのことだ)は問題なく手に入れた。
ただ、今回は帰りも油断してはいけない。
「……これから、帰りだな」
「ビビりだなあ、先輩っ。私に任せて?」
「分かったよ。アランに任せる」
ダンジョン慣れしているアランは誇らしげに胸を反らす。
……反らすほどの胸はないが。
「今失礼なこと考えなかった!?」
「別に」
To Be Continued……
【配信メンバー】
・セイレイ
・アラン
【ドローン操作】
・荒川 東二(四天王:赤のドローン)




