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天明のシンパシー  作者: 砂石 一獄
⑧大都会編
227/322

【第百九話(2)】市街戦配信(中編)

【配信メンバー】

・セイレイ

・アラン

【ドローン操作】

・荒川 東二(四天王:赤のドローン)

 一体ずつ相手にしていては処理が追い付かない。

 四方八方から襲い掛かるゴブリンの群れを見て俺は瞬時にそう把握。青い光の纏う足で滑るようにアスファルトの地面に着地し、勢いのままに身体を捻る。

「ぜあっ!」

 掛け声を発しながら、返す刃で魔物を切り裂く。

「ギィッ」

 斬撃をもろに喰らったゴブリンのか細い悲鳴が鼓膜を介して情報として伝達される。

 切り裂く勢いに押されたのだろう、魔物の群れが一同に怯んだ。

 ——その隙を逃さない。

「っ、吹っ飛べ!」

「あっ馬鹿!?」

 後ろからアランの困惑した声の聞こえた気がした。しかし、今の俺にはその声の意味を探る余裕はない。

「っらあ!」

「ギッ」

 握ったファルシオンの切っ先にゴブリンを引っ掛け、そのまま群れ目掛けて弾き飛ばす。

「ギァッ」「ギィ!?」「ガッ」

 ボウリングよろしく、俺の放ったゴブリンの投擲は見事に命中。様々な悲鳴を散らしながらゴブリンの群れが大きく吹き飛んだ。

「っし!」

 心の中で小さくガッツポーズを決める。

 しかし、俺は背後に近づくゴブリンに気付いていなかった。

「ギアアアアッ!」

「……っ!?」

 その慟哭にも似た叫び声によってはじめて俺は背後からの奇襲に気付く。

 恐らく一撃は耐えられるだろうが——咄嗟に自信を庇うべくファルシオンを水平に構え防御の体勢を取った。

 しかし、ゴブリンの眼前に鋭い槍の穂先が割り込む。

「とりゃ!」

 アランの甲高い叫び声が響くと共に、薙ぎ払う一撃に伴ってゴブリンの喉元が貫かれた。

 ゴブリンが灰燼になるのを見届けたアランは、嘲るように俺を見下す。

「あはっ♡こんな女の子に守ってもらっちゃう先輩可愛いね?私がずっと守ってあげよっか」

「……助けてくれたのは礼を言うよ」

「ったくもー。正直じゃないなあ♪」

 長い柄の槍をくるくると手慣れた動作で振り回しながら、アランはゴブリンの群れを見据える。

 どこか余裕さえ感じる彼女の姿には、鮮やかさというよりいっそ恐ろしさすら感じた。

「情けない先輩にちょっとだけサービスっ♪これが私の能力だよ、スパチャブースト”青”っ♡」

『おい、蘭待て!?』

 ドローンの姿となった東二が困惑の声を漏らす。

 一体どのようなスキルなのか、固唾を飲んで彼女の次の行動を見守る。

 

 ……しかし。

[アラン:紙吹雪]


 まるで彼女を祝うかのように、色鮮やかな紙切れが彼女の周りに降り注いだ。

 それ以上の変化は見られず、システムメッセージが配信画面から消えた。

「ふふっ……どやあ」

 だがアランは満足げに両腕を開き、恍惚の笑みを浮かべる。

 どやあ、と言われても。

「……これだけ?」

「うん?うん」

「他に効果は?」

「ないよ?」

「……」

 正直、スキルの無駄遣いという感想しか出てこなかった。

 スパチャブーストを発動する為には、そのスキルカラーに応じた支援額を消費する。

 青は500円。

 緑は3000円。

 黄は20000円。

 以前はスキル内訳によって支援額が違うケースもあったが、ここ最近は一律この金額だ。

 つまり、アランのスパチャブースト”青”は500円を使って紙吹雪を降らせるだけ。

 一切戦闘に干渉することのない、ハズレスキルだった。

「……アラン。お前はもうスキルを使うな」

「何で!?」

 不貞腐れたようにアランは頬を膨らませる。

 しかし、これ以上駄弁っている暇はない。


「お前の言う”分からせ”とか知らねーけどさ。足引っ張らねーようにしないとな」

 改めて残る魔物の群れに視線を向け、そうアランに語る。

 すると彼女はくすりと小さく笑みを零した。

「ふふ、意地張っちゃう先輩かーわいい♡ずっと私に守られていればいいんだよっ♪」

「女の子に守られる勇者様、なんてカッコつかねー、だろ!」

 俺とアランは共に肩を並べて魔物の群れへと立ち向かう。


「っ、スパチャブースト”青”!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 システムメッセージが流れると同時に、両脚に淡く、青い光が纏う。

 俺は慣れ親しんだスキルを駆使して、敵陣に切り込む。魔物に囲まれるのも気にせず、次から次に切り払っていく。

 だが、当然全てを躱せるわけではない。

『セイレイ君!無理は禁物だ、オーガの攻撃が——』

「——ぐっ!?」

 赤のドローンを操作する東二の言葉が耳に入るより先に、俺の身体はオーガの振るう一撃に吹き飛ぶ。

 咄嗟に身体を庇うように全身を丸めたが、衝撃はそれを容易く貫く。

 アスファルトに叩きつけられながら、俺はざらついた地面の上を滑る。

「……かはっ……っ」

 全身に鈍い痛みが残る。立ち上がれないほどではないが、何度も食らうものではない。

 視界の滲む中、ドローンのホログラムに映し出された配信画面を見やる。


 ——俺の体力は、おおよそ4割ほど減少、と言ったところか。

 響く痛みを堪え、体勢を整えて立ち上がる。

「先輩、相変わらず無茶が好きだよね。配信、いつも見てたよ?」

 そんな俺を庇うように、アランが槍を構えてじっと敵を見据える。

 敵の群れは俺達を生きて返すまいと我先に襲い掛かってきた。

「——あはっ、大丈夫だよっ!みんなそんな必死にならなくても、私が相手してあげるからね☆」

 アランは槍を振り回し、矢次早に襲い掛かる魔物の群れを次から次に切り払う。

 その穂先が軌道を空に残す度、灰燼が舞い上がる。陽光に反射する軌道が彼女を照らす。

 流れるように切り払うその斬撃の最中、彼女は隙を見て俺にスナック菓子を放り投げた。

「はい、どうぞ先輩!可愛い後輩からのお裾分けだよ」

「……悪い」

 空中でキャッチしたそれの包装をすかさず解き、俺は迷いもなくスナック菓子を咀嚼する。

 口の中にほんのりと塩気のある味が染みるとともに、全身の痛みが和らいでいく。


 ”ホログラムの実体化”によって生み出されたスナック菓子には傷を癒す効力を持つ。

 もはや、配信者にとっては共通の事実だった。

「っと。誰かと一緒に戦うって初めてだから勝手分かんないなー……わっ」

 アランはぶつくさとぼやきながらも次から次に襲い掛かる敵をいなしていく。だが、それも徐々に限界を迎えつつあった。

 次から次に襲い掛かる敵の群れを対処する中、彼女は死角から襲い掛かるゴブリンに気付いていない。

『蘭!』

「……やば」

 東二の声で奇襲に気付くが、対処するには厳しい状態だ。


「スパチャブースト”青”!」

[セイレイ:五秒間跳躍力倍加]

 今度は俺が彼女を守る為。淡く、青い光を纏った足で躍り出る。

 それから振るう一撃でゴブリンの持つ短剣を弾き飛ばす。

「次っ!」

「ギィッ……!」

 返す刃でゴブリンの胴に叩き込んだ一撃に伴って、瞬く間にゴブリンの姿が灰燼と消える。

「っ、先輩」

「俺が道を切り開く!アランは開いた道をこじ開けろっ!」

「……指示が雑だよ、ねー?」

「どうせ理解出来るだろ!理解(わか)って見せろっ!」

「あー……もうっ!勇者様の相手は大変だなあ……!」

 無茶な指示を出しているのは理解しているが、アランほどの実力ならそれが可能だろう。

 そう確信した俺は、彼女の前に立つ形でファルシオンを構える。

「目的はあの家電量販店だよな?」

「うんっ、期待してるね、先輩っ♡」

「任せとけっ!」

 ファルシオンの切っ先を正面に構え直し、俺は迎撃の構えを取る。

 深く深呼吸した後、俺は勢いのままに宣告(コール)した。

「——スパチャブースト”黄”!」

[セイレイ:雷纏]

 正直東二の貯金残高をがっつり使ってしまって申し訳ない気持ちはあるが、打開するためには必要なスキルだ。

 全身を心地良い感覚が突き抜けると同時に、青白い稲妻が身体を這い巡る。

 それと同時に、思考がクリアになり敵の機微たる動き全てが情報として伝わってきた。

「切り開くっ!」

 魔物の群れ目掛けて迷うことなく俺は突進する。

 青白い稲妻が、俺が居た痕跡をアスファルトの地面を焦がす形で刻む。


 背後からアランが槍を構えて楽しそうに走り抜けるのが見える。

 「さっすが先輩っ♡可愛い後輩の為に必死になっちゃうの、ほんと大好きっ……あ、ごめん今のナシ」

 自分が呟いた言葉に顔を赤らめるアラン。

 だが、今はそんなことに構っている暇はない。

「ぜあああああっ!!」

 青白い稲妻が、瞬く間に魔物の群れを貫いていく。


『……ゲームカセット取りに行くだけ、だよなあ……そこまで必死にならなくても……はあ』

 俺達の姿を撮影していた、ドローンの形に化けた東二はポツリとそう呟いていた。

 内心彼の言葉には同意だったが、今はそれに触れないで欲しい。


 To Be Continued……

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