【第百四話(2)】世界の希望(後編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。
・秋城 紺
配信名:秋狐
セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。
・須藤 來夢
配信名:ストー
船出 道音より運営権限を引き継いだ、漆黒のパワードスーツに身を包む青年。今回の配信相手でもある。
人々の喧騒が遠ざける感覚さえ抱く。
実際に周りの環境音が消えたわけじゃない。俺が、意図的にストーの話を聞き漏らすまいと遠ざけたのだ。
後ろでは、固唾を飲んで様子を伺う仲間達の空気が伝わる。
「……そうだな。本当に、彼は失われた想いを取り戻す為の唯一無二の存在なんだ」
そんな張り詰めた雰囲気の中、ストーは静かに語り始めた。
配信画面にしっかりと自身の姿を映すように、わざとらしいほどの身振り手振りを交えて。
「noise……いや、一ノ瀬。お前はかつて、他人を見下し、遠ざけるような存在としてセイレイ君の前に現れた」
『随分と過去の話をするんだな?』
ドローンのスピーカーから、noiseの冷え切った声が響く。きっと、noiseも何を言い出すものかと緊張しているのだろう。微かに語尾が震えているのに気づいた。
「そう、過去の話だ。セイレイ君と関わった、触れ合った人間は、みな等しく失われた感情を取り戻す。まるで、仕組まれたかのように」
『……仕組まれた訳では無いだろう。実際、セイレイは私に寄り添ってくれたんだ』
「ああ、それもそうだな。けど、彼と関わって以来……何故か昔の自分を思い出すことが多くなった。そう、魔災前の、な」
『おい、待て。それがセイレイの能力だって言うんじゃないだろうな?あまりにも荒唐無稽なことを言っている自覚はあるか?』
noiseは明らかに動揺を隠すことが出来ていない。
俺だってそうだ。
そんな他人の感情さえもお膳立てされたものだとしたら……何が本当だというんだ。
だが、ストーはあざ笑うかのように非情な言葉を続ける。
「魔災に直結した原因の企業、”Tenmei”の社長がセイレイ君のお父さんである瀬川 政重。世界を救う為に存在するアプリ、”Sympass”の管理人がセイレイ君のお姉さんである瀬川 沙羅……本当に、そこまで君の身内が揃っているのにセイレイ君は本当にただの一個人かい?」
「……」
「セイレイ君。君は望まずとも”失われた感情を取り戻す力”を持つ。それが、君が”勇者セイレイ”である証明だよ」
「……俺は……」
言葉を返すことが出来ない。
何か反論しないといけないのに。
——俺は、周りの誰とも代り映えのない一個人、瀬川 怜輝なんだって。
勇者セイレイというアカウント名を持つだけの、周りと何ら変わりない人間であるはずなのに。
「君は、周りの一般人とは違う。望もうと望むまいと、君は勇者であることを止められない」
「黙りなよ。偽物の武闘家め」
低く、鋭く響く声音と共に、ストー目掛けてチャクラムが襲い掛かる。
「おっと」
ストーは苦笑を漏らしながら、それを容易く躱して見せた。
体勢を立て直し、困ったように眉をひそめてチャクラムを投擲した人物——ディルへと視線を送る。
「随分と強引な話の割り込み方をするね、いつも君は」
「セイレイ君は確かに世界にとって花開いた希望の種さ。だけど、全てが予定調和みたいな言い方をするのは止めなよ」
「君だってわかっているだろう?セイレイ君はこの世界に——」
ディルはストーの話を遮るように、再びチャクラムを投擲。それを再び右手に顕現し直し、再度投擲。
何度もチャクラムの投擲を繰り返し、ストーに話を続けさせようとしない。
「黙れって言ってるの。全てがお膳立て、だって?ボク達がセイレイ君の言葉に揺れ動かされた想いも、何もかも、作られたものだって言うのか?冒涜だ。セイレイ君だけじゃない。ボク達に対する冒涜だよ」
「……っと。相も変わらずディル君は滅茶苦茶なことが好きだね」
「はっ、褒められてもうれしくないね」
体勢を立て直したストーに向けて、吐き捨てるようにディルは顔を背ける。
一瞬の膠着の後、ストーは図書館を後にするように連絡通路へと歩みを進めた。
「セイレイ君。君は特別であることを止められない。俺とは違ってね……決着を付けよう」
「……俺だって皆と変わらない、普通の人間だよ。違いなんてない」
「そう思ってるのは君だけさ」
やがて、ストーは図書館から姿を消した。
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『とりあえず、追憶のホログラムを融合させる。セイレイ、何か考えるのは後にしろ』
「わかったよ」
noiseは、気を遣ってかそう伝える。
それから、ふわりと空を舞うドローンが追憶のホログラムに融合されていく。それと同時に、ホログラムが生み出していた景色は、再び二度と機能することのない、寂れた姿へと戻っていった。
[information
”撮影禁止区間”が解除されました。以降、自由に撮影が可能となります。]
静寂を取り戻した光景の中、俺の思考は再び沼のように深く沈む。
「……俺は、周りの人間と、同じではないのか?」
失われた感情を取り戻す力——ストーはそう言った。
それ自身は、決して悪いものではない。だが、それがいつでも俺の望むままに呼び起こせる力だとしたら……。
「セイレイ君」
気づけば、ホズミは優しく俺の右手を握っていた。ゆっくりと、彼女は俺の手を両手で包み込むように優しく握りしめる。
「私は訳の分からない力に踊らされてついてきたわけじゃない。私の意思で、私の本心で、君の傍にいるんだ」
「ホズミ……」
「私だけじゃない。クウリ君も、有紀さんも、雨天ちゃんも、道音ちゃんも……あとついでにディルも」
ディルが「ボクはついでかい」とぼやいていたが今は空気を読んで無視する。
それから、ホズミは空を舞う純白のドローンへと視線を向けた。
「そもそも、そんな意味の分からない力で他人を動かす勇者様に視聴者はついてこない。セイレイ君だから、皆ついてくるんだよ」
「そう、なのかな」
「うん。君は、誰よりも普通の人間……だからこそ、皆にとって希望なの。それを忘れないで」
「……分かった」
少しだけ、ホズミの言葉に心が軽くなった感覚を抱く。
何度迷うのだろう。何度、俺は他人の言葉に心を揺るがされるのだろう。
「ありがとう、ホズミ……そして、皆」
俺は、改めて皆に頭を下げた。
「セーちゃんが抱え込みがちなのは何度も見て来たよ。リラックスしたいのならまた無理にでも横にするけど」
「遠慮しておくよ」
クウリがいたずら染みた笑みを浮かべてそう言うものだから、ついつい苦笑いが零れる。
——特別とか、特別じゃないだとか、考えるのは後にしよう。
「……戻ろう。noiseの所へ」
過ぎる葛藤を胸の奥にしまい込み、俺達は図書館を後にした。
★★★☆
再び駅前広場に戻ってきた俺達をnoiseが迎える。
「お帰り。一旦配信止めて休憩にしようか」
「……ああ。そうさせてもらうよ。視聴者の皆もありがとうな、また再開するタイミングで告知するよ」
[気にすんなよ。ずっと配信を追ってきた身だ、お前がどんな存在だろうと変わらねえよ]
[共に配信を介して感情を共有してきました。セイレイさんは私達の顔を知りませんでしょうが、心はいつも1つです]
[まあ、怖いよな。自分が周りと違う、なんて言われたら。疎外感あるよな]
[今頃生きてたら息子と同じ年だったんだよ、セイレイって。色々葛藤もあると思うけど、いつでも聞くからな]
[セイレイ君。セイレイ君の能力がどうあれ、最後に救ってくれたのはセイレイ君の言葉なんです。能力じゃないんです]
[確かに、心当たりが無いわけじゃないよ。徐々に君と関わっていくにつれて、無くしていたはずの想いが戻ってきたし。でも、それって悪いことじゃないでしょ?セイレイからすれば他人を操作してるような感覚で気持ち悪い、って思ってしまうかもしれないけどさ。私の本心はここにある。ついて行くのは私の本心だから]
「……っ」
視聴者の温かい言葉に、思わず涙が潤む。
何か声を出すと、嗚咽が漏れてしまいそうで言葉を発することが出来なかった。
それでも、何か言わないと。
どれだけ苦しい時も、辛い時も、配信に付き合って皆の為に。
「……あ、ありが、とう……皆。俺も、さ、皆のこと……大切だって、思ってる……」
その言葉を最後に、もう立っていられることは出来なかった。
心配した皆が、俺の元へ駆け寄ってくる。
皆の行動一つ一つが愛おしくて、かけがえのないものに思えて。
——俺の今までの行動に、存在に嘘なんて何ひとつない。
この時は、そう思っていた。
たった1つ違うのは。
俺自身が、”作られた勇者”だった、ということだけだ。
--当配信は終了しました。アーカイブから動画再生が可能です。--
To Be Continued……
総支援額:9500円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
また、思考能力が加速する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③ディル
青:呪縛
指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。
緑:闇の衣
ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。
黄:闇纏
背中から漆黒の翼を生やす。飛翔能力を有し、翼から羽の弾丸を放つことが出来る。
漆黒の羽には治癒能力が備わっている。
④ホズミ
青:煙幕
ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。
緑:障壁展開
ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。
黄:身体能力強化
一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。
魔法
:炎弾
ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。
一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。
:マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)
地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。
一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。
:氷弾
青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。
炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。
:氷壁
氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。
魔石(大)一つと、10000円を消費する。
:極大消滅魔法
2つの杖を組み合わせることにより、光を纏った弓が生み出される。
放つ矢は、七色の光と共に絶大な火力を併せ持つ。50000円消費する。
ドローン操作:一ノ瀬 有紀
[サポートスキル一覧]
・斬撃
・影縫い
・光源解放
[アカウント権限貸与]
①雨天︎︎ 水萌
・消費額;20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃
②船出︎︎ 道音
・消費額:20000円
・ワイヤーフックを駆使した立体的な軌道から繰り広げられる斬撃
・ノアの箱舟




