【第九十八話(2)】乙女心(後編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。
・秋城 紺
配信名:秋狐
セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。
「お、あったあった。これがないと配信できないからな……」
文具コーナーで元来の目的である鉛筆を手に入れた俺は、早々にスーパーを後にしようとした。
「あ。待ってセイレイ」
「ん?」
そこで、いくつもの服を紙袋に入れて抱えた道音が引き留める。
一体何かあったのだろうか、と疑問がよぎる。
「丁度良い機会だからさ。今拝借した鉛筆とか、私が持った服とかの値段を計算しよ?」
「……?」
俺は彼女の行動の目的が分からず、思わず首を傾げるしかなかった。
だが、道音はそんな俺をよそに、机の上に丁寧に畳んだ服を並べていく。
「このワンピースが12800円。スカートが6800円……このアンクレットが2500円……」
「え、スパチャブースト”緑”四回分なのかそのワンピース」
「やめた方が良いよその考え方。これ全部で計45600円だね」
「よんっ……」
さりげなく道音が発した合計金額に、思わず絶句した。
俺が固まっている姿に、道音は苦笑を漏らす。
「今でこそこんな配信でしかお金の使い道ってないけどね。魔災前は何を買うにもお金が必要だったの。セイレイの文房具でさえもね」
「……」
「本当は、皆自分の生活の為に貯めていたお金だった。大切な家庭を守る為、大切な皆と過ごす為のお金だったの」
「自分達の生活の為に使うはずだったお金を、俺達の為に使ってくれてる……ってことか?」
「解釈はセイレイに任せるよ。さて、目的のものも揃えたし、行こう?」
一足先にスーパーを後にしようとガラスドアを開く道音。
そんな軽やかな足取りで歩く彼女の姿が、どこか眩しく見えた。
俺は、道音に言われるまで深くスパチャを与える人々のことまで考えていなかったことを恥じる。
(みんな、他にお金を使う用途があったはずなんだ)
ただ、皆が俺達を応援してくれているだけだと思っていた。ただ、俺達に力を与えてくれている、それだけなのだと感じていた。
しかし、本当の意味で俺達に希望を感じ取ってくれていたのだと、この時初めて気づく。
自分達の生活の為に使う予定だったお金を——スパチャとして惜しげもなく使ってくれているのだと。
「……道音」
気づけば、俺は彼女の名前を呼んでいた。
ぴたりと彼女の軽やかに進む足取りが止まる。くるりと振り返る彼女のワンピースが大きく波打つ。
そんな道音は、続く言葉などお見通しだと言わんばかりに柔らかな笑みを浮かべていた。
「ありがとな。大切なことを教えてもらったよ」
「うんっ。希望の種の意味、少しは理解できた?」
「完全に理解できた、なんて偉そうなことは言えないけどな。少し前に進めた気がするよ」
「それは良かった」
一つ知ったと思ったら、また知らない何かが現れる。
完全に全てを理解する日は一生来ないのかもしれないが、今はこの気づきを大切にしようと思う。
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「私も誘って欲しかったー……」
「はいはい、お菓子でも食べて落ち着いて?」
「太るからやめとく……」
置いてけぼりを食らった穂澄は、少しだけ不貞腐れていたことを俺達は知る由はない。
★★★☆
それからいくつもの日付が過ぎ、ついに俺達はストー兄ちゃんとの配信準備を進めることにした。
「さて、まずは地図の確認だ」
俺達は穂澄が開いたパソコンを覗き込む。コミュニティに添付された画像には、いくつもの階層に連なった複雑な構造をした駅構内の案内図が映し出されていた。
と言っても、地方都市のターミナル・ステーションの規模などたかが知れている。
多くの人々を迎え入れる入口。そこから改札を潜り、各路線へと続く通路に分岐している。
階段を上れば複数のホームに向かう為の広場が存在する。そこから枝葉のようにエスカレーターが配置されているようだ。
駅付近にはレストラン街や図書館と言った施設も点在しており、地域住民の交流の場となっていた過去を彷彿とさせる。
——きっと、かつては活気にあふれた場所だったのだろう。
「恐らく、ダンジョンの最深部はこのホームに分岐する広場になるんじゃないかな?この辺りならストーも動きやすいはず」
道音は地図の中に映し出された、広場の方を指差しながらそう自身の推測を語る。
「ま、あの移動能力を考えれば広い方が戦いやすいとは考えそうだね。安直と言えば安直だけど、閉所は無理でしょ」
ディルは崩れた姿勢でだらしなくソファにもたれながら、道音の意見に賛同する。たしかに、こいつの闇纏”も同様に飛翔能力を持っていることから、広大な場所での戦いとなると都合が良い。
そして、予め決めておきたいのがドローンの操作役だ。だが、それに関しては穂澄が早々に自身の見解を発した。
「とりあえず次の配信ナビゲーターは私だよね。道音ちゃんの意見の通りなら、遠距離攻撃は相性が悪いし」
「ほずっち、いつもごめんね」
「仕方ないよ。有紀さんみたいな近距離戦闘、私には出来ないからね」
己の能力を冷静に分析しながら、穂澄はそう言葉を返す。
事実として、穂澄の魔法スキルはかなり強力だ。しかしそれが通用しないというのはやはり手痛い問題である為仕方のない話だ。
そして、最も懸念すべきはストー兄ちゃんの持つスキルだが。
「ストーさんのスキルが、命中しない仕様になっているという可能性の話。絶対にそうだって言えないのは、忘れないでね」
空莉が念入りに、そう釘を刺した。
「分かってるよ。その為の俺のスキルだ」
「”雷纏”を使ってる間は、思考速度が速くなる……だっけ。それなら見切ることも出来るかもしれないけど……無茶には変わりないなあ」
「無茶は勇者の特権だからな。俺がスキルの対処、有紀、空莉が近接攻撃の対応。ディルはサポート、って感じだな」
「……まあ、そうだね」
納得がいかないといったように、空莉の声が低くなる。
もう、ここ最近は俺が無茶をすることを止める者はいなくなった。
それに見合うだけの成果を重ねてきたこと、持ち合わせたスキルからも最適な役割であるというのは誰も否定できないからだと思う。
「とりあえず、コミュニティの方で告知するね。配信は、明日正午。準備を怠らないようにしよう」
穂澄がそう取りまとめたのを最後に、作戦会議は終わりとなった。
To Be Continued……
https://www.nicovideo.jp/watch/sm44676190
棒バト新作です(告知)
【開放スキル一覧】
・セイレイ:
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
・ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
・noise
青:影移動
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:????
・クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
・ディル
青:呪縛
緑:闇の衣
黄:闇纏




