【第九十七話(2)】馬鹿と天才は(後編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。
・秋城 紺
配信名:秋狐
セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。
「セーちゃんのお姉さん……沙羅姉の口調って印象に残るなーとは思っていたけど、まさかSympassの管理者とはね」
「クウリは面識あったんだよな」
「うん。普通に話してる分には弟想いのお姉さん、って記憶しかないけど」
幼馴染でもあるクウリも、姉貴の具体的な人物像は知らないのだろう。驚いた様子だったが、しかし納得したように何度もうなずいていた。
それと同様に、触れておくべきだと思ったのは姉貴の意思をベースとして生み出された存在、ディルのことだ。
「ディル。お前はそんな大切な情報を隠し持っていたのか」
「だからさ、情報はタイミングなんだって。もう皆ぺちゃくちゃと話過ぎて正直どうでも良くなってきたけどさ、本来ならもっと壮大ぶってだね……ちゃんと、適した場所を設けるべきなんだ。気付きを与えるには、より強烈な印象を与える必要があるんだ、こんな雑談交じりに話す内容じゃないんだよ、瀬川 沙羅の情報なんて」
ブツブツとディルは文句を言っていた。当人としては、もう少し適した場所で情報を伝えたかったのだろうとは思う。
当のぺちゃくちゃと大切な情報を語りまくる秋狐は、「てへぺろ」と言って舌を出していた。ウィンクはヘタクソだった。
それから、彼女は自身の身体をふわりと浮かび上がらせる。
「さってと。もう大切な情報は語ったから行くね。これから曲の収録しないとだから」
「……ああ。また、お前との配信を待っているよ」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。あ、最近リリースした、”ペンと剣”……良かったら聴いてね?セイレイ君達の配信をモチーフに作った曲だから」
「抜かりない宣伝だな……」
「セイレイ君達の配信に関係した内容だから問題ナッシング!!……っと。またね!!」
そう言うや否や、秋狐の全身に大きくラグが走る。その姿が乱れ、歪み、やがてそこに誰も居なかったかのように虚空へと溶けて消えた。
残ったのは、賑やかな店内を映し出した映像のみ。
「……姉貴……」
どこか、スケッチをする気にはなれなかった。
ふと、かつてスケッチブックに残した、姉貴の顔を見返す。陽光に透けるような、俺と同じく長い金色の髪。どこかミステリアスな雰囲気を醸し出した、俺よりも三つ上の少女。
瀬川 沙羅。
雨天はかつて、「見たことがある気がする」と言っていた。
ちらりとドローンの方を見れば、答え合わせをするかのようにちょうど雨天と思われるコメントが流れている。
[思い出しましたっ。やっぱり私に力を与えた人ですっ。でも、なんで……?]
「訳が分からない」と言った様子の雨天。彼女の疑問には俺も同感だった。
——やはり、姉貴はSympassを介して配信者同士を戦わせようとしている。それも、センセーや、四天王と言った様々な人物を巻き込んで。
「何故、姉貴は俺達を戦わせようとするんだ?」
答えの出ない疑問が、脳裏を過る。
きっと、姉貴をベースにしたディルはそれを知っているのだろうが当然、こいつは答えようとしないだろう。
俺の視線を感じ取ったのだろう。すぐにディルは鼻で笑った。
「ボクがが教えると思う?自分で考えて、気付くことだよ。自分で考えることにこそ意味がある。ぺらぺらと答えだけ示してもつまらない。リソースならたくさんある、成長の糧ならたくさんある。自分で気付かないと成長できない。与えられたものだけで成長しようなんて傲慢ってものさ、他人からの施しだけで成長しようとすることがどれほど傲慢かわかるかい?第一ね、そんな与えられることを待っている指示待ち人間が多すぎさ。何もかもまずは考えること、考えて間違えることに意味がある、そこからどこが間違っていたのか気付けばいい……」
「はいはい。自分で考えるよ」
相も変わらず、ディルはお得意の詭弁を語り始めた為に無視することにした。
こんな思考回路も姉貴の断片から生み出されたものだと考えると、どれだけ姉貴はぶっ飛んだ人間なのだろうか。
もはや、想像さえつかない。
配信の締めとして、追憶のホログラムをドローンに融合させた俺達。
ドローンスキルは新たに開花せず、やはり大きな魔石一つのみを手に入れたのみだった。
--当配信は終了しました。アーカイブから動画再生が可能です。--
★★★☆
配信を終え、拠点である有紀の家へと戻った俺達。
少し思考を整理しようと思い、俺は有紀の家の隣に立つ来客用の豪邸へとふらりと立ち寄った。
特に意味もなく、廊下に並ぶ絵画を眺めていく。
簡単そうに見える絵でも、それを作り上げるのにどれほどの精巧な技術が組み込まれているのか分かる。
「……どれだけの、すげー人らがこの世界を作ってきたと思っているんだ」
絵の世界でも。配信の世界でも。歌の世界でも。勉強の世界でも。
どんな世界にも、偉大な先駆者が居る。そんな先駆者たちのおかげで、世界は成り立っていたはずだ。
それら全てを、魔災は奪っていった。
精巧な技術で作られたものの集大成であるこの豪邸を見る度、複雑な心境に駆られてしまう。
「……答えに近いのに、遠いね」
「あ、穂澄……」
穂澄は俺の隣に立って、同じように絵画を見る。
「……うん。私はセイレイ君ほど絵は分からないけど……きっと私にはこんな絵は描けない」
「俺も、だよ」
こうして、二人っきりで話すのはいつ以来だろうか。
気づけば、皆と共に行動する日々が続いていた。そんな中で、穂澄と二人で話すことなど長らくなかった気がする。
そんな中、突如ホズミは口を開いた。
「私さ、最近技術ってなんだろう、って考えるの」
「技術?」
「うん」
「……穂澄は、どう考えているんだ?」
俺の問いかけに対し、穂澄は「うーん」と首を傾げて唸る。それから、自身が背負うリュックサックにちらりと視線を向け、言葉を紡ぐ。
「……考えていても上手く話せないね……えっとね、一朝一夕じゃ出来ない手段のこと、かな」
「一朝一夕じゃ出来ない手段?」
「うん。例えば、有紀さんの相手の攻撃を予測して回避する、みたいな戦闘技術。あれは私やセイレイ君には絶対真似できないよね」
「……無理だな」
穂澄が語るのに連なって、俺は自然と有紀の戦闘スタイルを思い出す。
全てが彼女の予定調和なのかと思えるほど、相手の攻撃を先読みして躱す——などと言った技術は、きっと俺には出来ない。
「そう。セイレイ君のスケッチ能力も、空莉君の情報を纏める能力も私は持たない。でも、逆に私のパソコン操作技術だって、皆には簡単に真似できない自信あるよ」
「確かに、皆お互いに持ち合わせてない力を持っているな……」
「助け合い、だよね。私達はそんな積み重ねをしてきたものを合わせて、配信を介して支え合ってる」
「……」
誰かの支えがあって、俺達は生きている……か。
穂澄と話していると、徐々に考えが纏まっていく気がした。
「私だって正しいことを言えている自信はない。けど、自分一人で世界を動かそうとすることが最善とは思えない」
「……ああ。そうだな」
「自分一人で全部決めようとするのは間違ってるんだ……って伝えられるのは私達だけだよ」
「だな……悪い。少し迷ってた」
「ううん。大丈夫、ちょっとは考え纏まった?」
「お見通し、か」
そう言葉を返すと、穂澄はいたずら染みた、子供のような純粋な笑みを浮かべた。
「伊達に幼馴染やってませんからっ」
ストー兄ちゃんとのこと。
秋狐とのコラボ配信。
都心にいるという四天王の赤のドローン。
俺達の育ての親である魔王セージ……いや、センセー。
そして、姉貴。
まだまだ考えることは多い。
でも、皆となら乗り越えられる。
この時はそう思っていた。
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ずっと。
ずっと。
遠い先の話だ。
——セイレイ君。ねえ、セイレイ君!?私のこと分からない!?ねえっ!?
——いつか、知らなきゃいけないことだったんだよ。でも、教えたくなかったな。
——セーちゃん、戻って来てよ。僕達の所へ……!!
——おい!セイレイ、こっちを見ろ!!お前の居場所はここだろ……!?
俺が、そんな皆から遠ざかろうとするなんて、誰が想像できたのだろう。
To Be Continued……
【開放スキル一覧】
・セイレイ:
青:五秒間跳躍力倍加
緑:自動回復
黄:雷纏
・ホズミ
青:煙幕
緑:障壁展開
黄:身体能力強化
・noise
青:影移動
緑:金色の盾
黄:光纏
赤:????
・クウリ
青:浮遊
緑:衝風
黄:風纏
・ディル
青:呪縛
緑:闇の衣
黄:闇纏




