【第九十五話(2)】一つ上へ(後編)
【登場人物一覧】
・瀬川 怜輝
配信名:セイレイ
役職:勇者
世界に影響を及ぼすインフルエンサー。
他人を理解することを諦めない、希望の種。
・前園 穂澄
配信名:ホズミ
役職:魔法使い
瀬川 怜輝の幼馴染として、強い恋情を抱く。
秋狐の熱心なファンでもある。
・一ノ瀬 有紀
配信名:noise
役職:盗賊
男性だった頃の記憶を胸に、女性として生きている。
完璧そうに見えて、結構ボロが多い。
・青菜 空莉
配信名:クウリ
役職:戦士
心穏やかな少年。あまり目立たないが、様々な面から味方のサポートという役割を担っている。
・雨天 水萌
元四天王の少女。健気な部分を持ち、ひたむきに他人と向き合い続ける。
案外撫でられることに弱い。
・another
金色のカブトムシの中に男性の頃の一ノ瀬 有紀のデータがバックアップされた存在。
毅然とした性格で、他人に怖い印象を与えがち。
・ディル
役職:僧侶
瀬川 沙羅の情報をベースに、ホログラムの実体化実験によって生み出された作られた命。詭弁塗れの言葉の中に、どこに真実が紛れているのだろうか。
・船出 道音
元Relive配信を謳っていた少女。過去に執着していたが、セイレイに希望を見出したことにより味方となる。やや気が強い。
・秋城 紺
配信名:秋狐
セイレイ達より前にLive配信を歌っていた少女。運営権限を持ち、世界の真相に近い存在でもあるようだ。
ホズミが放った魔法は、一気に状況を有利にした。
自分自身が放った魔法の威力が信じられないのか、何度も自身の杖と目の前で生じた爆風を見返している。
”炎爆”の勢いに伴って更に崩落したダンジョン。がれきに埋もれるようにして、身動きの出来なくなったオーガ。
——あっという間の決着だった。
俺はすぐに動けなくなったオーガを一匹ずつ切り払っていく。
全滅を確認したところで、クウリは頭を押さえながら俺達の元へと合流。
「やっぱりホズちゃんの魔法、使いどころに気を付けないとね……」
危うくホズミの”炎爆”に巻き込まれるところだったクウリが浮かべる引きつった笑み。それから竦む足でなんとか立ち上がった。
「……あー……」
ディルはあまりの火力だとアピールするために、大の字に寝転がって気絶したふりをしていた。
ちなみにディルを放置して先に行こうとしたところで、慌てて起き上がって追いかけてきたことは説明しておく。
閉所におけるホズミの魔法の使いどころは、やはり扱いに注意しなければならない。
炎属性の魔法の使用は特に混戦状態ではリスクの方が大きく、奇襲を仕掛ける形でベストのようだ。
そのことを指摘すると
「……分かったよぅ……」
とちょっとだけ拗ねていた。すまん。
★★★☆
[結構配信も長引いてきたな。少し用事あるから落ちるわ、頑張って 10000円]
[ナイスパー。俺はもう少し視聴できるよ 10000円]
[コミュニティの方で案内図確認してる。結構探索も進んできたな、後は食品売り場くらいか?]
[わ。ありがとうございます]
[ねえゆきっち。一回、私にアカウント権限貸してもらっていいかな?]
[船出近距離特化だろ。画面酔いするだろうからあんまり参加しない方が助かるんだが……]
[あー。私の目がカメラの役割になるかもだもんね。そこはちょっと元運営としてうまくやるから、お願い]
『確かにみーちゃんの能力は把握しておきたいね……分かった』
[ありがとう]
ダンジョン内の攻略を着々と進める俺達を他所に、noiseは視聴者や道音と共に作戦会議を行っている。
会議には参加せずに黙って話を聞いているが、どうやら次の戦いでは道音——Relive配信の”アカウント権限”を試す方向性で固まったようだ。
実際、船出が使ったスキルである”ノアの箱舟”がダンジョン内ではどう機能するのかは早々に確認しておきたい。
さすがにダンジョン全体が空に舞う……なんてことはないと思うが。
そうこうしている内に、再びのそのそと大きく動く物陰を認識。俺は仲間達に向けて『静かに』と伝える為、人差し指を立てて唇に当てる。
仲間達が頷くのを確認した俺は、持ち前の身体機能を駆使してひょいと瓦礫を飛び越えて続く道を確認。
商品棚と瓦礫が交互に覆いかぶさる道の先。オーガが目視できるだけで6体、厳戒態勢を敷いてうろついているようだ。
(6体、いる)
俺は口パクと両手指を使って、ドローンのカメラに向けてそう意思伝達を行う。
それからホズミの方を見て、瓦礫の隙間へと指を差す。
「……!」
俺の意図に気づいたのか、赤色の宝玉が携えられた杖を顕現させ、大きな魔石をセット。
杖先を、瓦礫奥にいるオーガの群れへと向ける。
ホズミは大きく深呼吸し、覚悟を決めたように叫ぶ。
「——……いっけぇ!!」
[ホズミ:炎爆]
その甲高い声と共に、杖先を飾る赤色の宝玉から伸びる炎の弾。それは瞬く間にオーガの群れの中へと入り込み。
次の瞬間には、轟音と共にオーガが瞬く間に吹き飛んだ。
舞い上がる土煙と、崩落した天井から降り注ぐ瓦礫がオーガに襲い掛かった。
しかし、中には炎爆のダメージをほとんど負っていない者もいる。そんなオーガ達が戦闘態勢をとる前に、ドローンのスピーカーからnoiseの声が響く。
『みーちゃんっ!!』
「おっけー、任せてよっ。ドローン操作、頼むね!!」
『了解っ』
ドローンの中から道音がひょいと飛び出す。漆黒のワンピースを纏った彼女の姿は、まるで漆黒の影のようだ。
そんな彼女は何の躊躇もなくオーガの群れの中へと駆け抜けていく。
「さ、Relive配信の時間だよ。見せてあげる、フック船長の力を」
道音が指を鳴らすと共に、駆け抜ける彼女を赤を基調としたコートが覆っていく。
漆黒と、赤。
二つの色に彩られた道音の左手にはワイヤーフック。右手には湾曲刀が顕現していた。
[information
Relive配信にアカウント権限が貸与されました。スパチャブーストは使用できません]
「さ、召喚獣、船出ちゃんの力見せてもらおうじゃん」
「召喚獣って言うなあっ!」
ディルはオーガへと駆け抜ける道音に対してあんまりな物言いをした。それに対し、道音はワイヤーフックを駆使しつつ縦横無尽に駆け巡りながらツッコミを入れる。
配信画面をちらりと見れば、消費額は20000円。雨天の時と同様の消費額だった。
「ガアアアアッ!!」
「おっと、危ないなー」
道音はオーガの振り下ろし攻撃をまるで踊るかのように華麗に回避。
舞い上がる漆黒のワンピースと赤色のコートに揺れる彼女の姿は、まるでダンスでも踊っているかのように見る者を魅了する。
自身の姿を映すドローンのカメラに向けて、道音はにこりと妖艶に笑う。
「ふふ、shall we dance?」
「ガアッ!!」
「あはっ、そんな図体じゃ踊るなんて無理かっ」
スーパー内を縦横無尽に駆け巡る道音は、まるで全ての攻撃を予期しているかのように攻撃を避け続ける。
noiseのような、洗練された技術によるものではない。見るもの全てに魅せるように、くるくると可憐な姿を見せつけていく。
一定の距離をとった道音は、高らかに手を上げる。
「じゃあ、皆を連れていくよ。誰一人、置き去りになんてさせないから」
[船出:ノアの箱舟]
コメント欄にシステムメッセージが表示されると共に、道音を中心として地面のアスファルトが大きくめくれ上がる。
「ガッ!?」
そして、それはオーガ達の足場も同様だった。
突然せりあがる地面に困惑の声を漏らす。
「見せてあげるね、ほらっ」
道音は柔らかに微笑むと共に、左手に装着したワイヤーフックを空中に停滞したオーガに向けて放つ。
そのがっしりとしたオーガの肉体を支えとして、道音は大きく跳躍。オーガに着地すると同時に、湾曲刀による斬撃を素早く食らわせる。
「ガッ……」
「次っ!」
次から次へと、空を舞うかのように跳躍を繰り返す道音。
それは、彼女にしかできない配信の見せ方——いや、魅せ方だった。
[まるで見世物を見ているみたい]
[綺麗]
[すごいな……雨天とはまた違う戦い方だな]
[さすがですっ、船出先輩っ]
蛍光灯の光に反射した道音の姿は、大きく煌めいて見える。
その姿は崩落した世界の中でも潰えることはない。彼女が美しく舞う姿が、一つの芸術となり配信を介して伝わっていく。
やがて、全てのオーガを切り裂いた道音はすたりとドローンのカメラ前に着地。
彼女の背後に舞い上がるオーガだった灰燼が、まるで花吹雪のように彼女を取り巻く。
「過去は消えはしない。でもそんな私を皆は許してくれた……だからこの力は未来のために使うよ」
そう道音が呟くと共に、彼女の姿は光の粒子となる。
光の粒子は、やがてドローンの中に完全に吸い込まれた。
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[私が近距離特化。雨天ちゃんは広範囲特化……って感じかな。アカウント権限の貸与でも、役割は大きく違うね]
[確かにそうですね。混戦状態だと船出先輩の戦い方じゃ相性悪いですし、逆にオーガ?みたいなカチカチの敵だと私じゃ厳しいです]
[どう力を使うかの判断は皆に任せる。戦況判断は私の仕事じゃないからね]
[船出、カッコ良かったよ]
[当たり前でしょ。私を誰だと思ってるの]
『調子に乗らないの』
気高く振る舞っている船出の姿が容易に想像でき、noiseは呆れてため息を吐く。
しかし確かに、コメント欄に流れる道音の考察は的確のように思えた。
スキルの新たな使い方を知ることが出来、有益な配信を行えているはずだ。
そして俺は今回の配信を介して、”雷纏”に秘められた使い方を知ることになる。
また、一つ上の戦いに適応するための力を、”雷纏”は持っていた。
To Be Continued……
総支援額:41500円
[スパチャブースト消費額]
青:500円
緑:3000円
黄:20000円
【ダンジョン配信メンバー一覧】
①セイレイ
青:五秒間跳躍力倍加
両脚に淡く、青い光を纏い高く跳躍する。一度に距離を縮めることに活用する他、蹴り技に転用することも可能。
緑:自動回復
全身を緑色の光が覆う。死亡状態からの復活が可能である他、その手に触れたものにも同様の効果を付与する。
黄:雷纏
全身を青白い雷が纏う。攻撃力・移動速度が大幅に向上する他、攻撃に雷属性を付与する。
②クウリ
青:浮遊
特定のアイテム等を空中に留めることができる。人間は対象外。
緑:衝風
クウリを中心に、大きく風を舞い上げる。相手を吹き飛ばしたり、浮遊と合わせて広範囲攻撃に転用することも出来る。
黄:風纏
クウリの全身を吹き荒ぶ風が纏う。そのまま敵を攻撃すると、大きく吹き飛ばすことが可能。
③ディル
青:呪縛
指先から漆黒の鎖を放つ。鎖が直撃した相手の動きを拘束する。
緑:闇の衣
ディルを纏う形で、漆黒のマントが生み出される。受けるダメージを肩代わりする効果を持つ。
黄:闇纏
背中から漆黒の翼を生やす。飛翔能力を有し、翼から羽の弾丸を放つことが出来る。
④ホズミ
青:煙幕
ホズミを中心に、灰色の煙幕を張る。相手の視界を奪うことが出来るが、味方の視界をも奪うというデメリットを持つ。
緑:障壁展開
ホズミを中心に、緑色の障壁を張る。強固なバリアであるが、近くに味方がいる時にしか恩恵にあやかることが出来ない為、使用には注意が必要。
黄:身体能力強化
一時的にホズミの身体能力が強化される。攻撃力・移動能力・防御力が大幅に上昇する他、魔法も変化する。
魔法
:炎弾
ホズミの持つ両手杖から鋭い矢の如き炎を打ち出す。
一度の炎弾で3000円と魔石一つを使用する。火力は高いが、無駄遣いは出来ない。
:マグマの杖(身体能力強化時のみ使用可)
地面に突き立てた杖から、マグマの奔流が襲いかかる。ホズミの意思で操作可能。
一度の使用で10000円と魔石一つを使用する。高火力であるが、スパチャブーストの使用が前提であり、コストが高い。
:氷弾
青色の杖に持ち替えた際に使用可能。氷の礫を射出し、直撃した部分から相手を凍らせることが出来る。
炎弾と同様に、3000円と魔石一つを使用。
:氷壁
氷塊を射出し、直撃した部分に巨大な氷の壁を生み出す。死角を作り出す効果がある他、地面を凍らせることにより足場を奪うことも出来る。
魔石(大)一つと、10000円を消費する。
ドローン操作:一ノ瀬 有紀
[サポートスキル一覧]
・斬撃
・影縫い
・光源解放
[アカウント権限貸与]
①雨天︎︎ 水萌
・消費額;20000円
・純水の障壁
・クラーケンによる触手攻撃
②船出︎︎ 道音
・消費額:20000円
・ワイヤーフックを駆使した立体的な軌道から繰り広げられる斬撃
・ノアの箱舟




