バディ 1 100:0
ジェイクは勢いそのままに警察署の駐車場を出ると、歩道で柄の悪い男とぶつかりそうになったので身体をすり抜けるようにしてかわし一瞥した。
驚いたのだろう、怒鳴り声を上げようした腕の太い男はジェイクの顔を見て引きつった顔をする。息を呑みそそくさと離れていったのに鼻をしかめると、通りを挟んだ向かいのダイナーに足荒く入った。
「おー、ジェイク。今日はまたいい面してんなぁ。いつものでいいか?」
唸るような返事に気にする事もなくカウンターから手を上げているのは親父の代からここに店を構えている食堂の主人、オリバー。ブルックス警察署御用達の店だ。
もうしばらくすると日勤を終えた警官達が食べにくるが、十七時を過ぎた中途半端なこの時間はぽつぽつと近所の客がいるぐらいだ。
ジェイクは通りに面したカウンターにどかりと座る。
しばらくして、はいよ、とオリバーが〝いつもの〟を机に持ってきてくれた。紙に包んだローストビーフとチーズのパニーニとワンプレートにはビーンズとポテト、熱いブラックコーヒーの隣には小さな赤いチョコスティクが付いている。
「チョコは頼んでねぇ」
「たまにゃいいだろ、いらなきゃ尻にしまっておきな」
ジェイクは甘い物が好きではないのだが、どういう訳かオリバーはこうして時折サービスと称してチョコをそえてくる。歯が浮くぐらい甘いこいつを唸りながら食べる時もあるし、この菓子に目がない奴へ投げて消費しているのが常だ。
いつもの癖で皿にあるビーンズとポテトを先にやっつけながらふと、アイツは〝食べる〟という行為をするのだろうか、と思った。
「いや食べねぇだろ、実体があるのかないのかもわからねぇってのに」
フォークでビーンズを転がしながらパニーニをかぶりつく。焼かれて固くなったバンズを咀嚼することで忘れようと思っても脳裏には昨日の件が浮かんでくる。
「ジェイク、この人が今日から君のパートナーだ」
そう警部であるラルクから言われジェラルミンケースの中を見せられた時はただのインカムにしてはやけに厳重だな、と思った。
骨伝導で耳にかけると自動的に電源が入るなど最新の技術が使われているそうだ、とエレナというドクターから送られてきたデータをみながらラルクが無感動に話している。
「ようは遠隔からサポートするって事だろ? 今までと変わりないならそれでいい」
ジェイクはそう言いさっとインカムをセットし、それよりもこっちだ、とラルクから渡された資料の事件概要を見た。
オリビア・カーターという女児が一昨日から行方不明になっていた。ブルックス郊外にある中流階級の娘で小学校も休まず行くような品性良好、両親は家出なんてあり得ない、何か事件に巻き込まれたと泣き崩れている。
「近所の友達の誕生日パーティーに呼ばれて楽しんだ後、帰宅途中に姿が見えなくなった、か。年齢が十二ならボーイフレンドとしけ込んだ可能性は?」
「いや、色恋にはうとい方らしい。聴取した彼女の友人達もそのように口を揃えているし、学校関係者も同意見だ」
「連れ去りの犯行か? ……やっかいだな」
「ああ、捜査範囲を広げなければいけない」
一昨日の夜からとすると丸一日経ってしまっている。車で移動しているならばすでにこの地を離れたかもしれない。
彼女の家の周辺の捜査と共に検問の指示をしなければな、とラルクが周辺地域の地図を広げたところで、涼やかな声が耳に入ってきた。
『……いいえ、犯人は近所にいる可能性が高いわ』
「ドクター?」
するりと口を挟んでくる当たり、相当自信があるのだろう。ラルクが意見を求めるように問いかけている事にもジェイクの眉はぐっと寄っていく。
「どういう経緯か知らねぇが実働は初めてだろ、しばらく黙っていてくれませんかね、先生」
『あら、特定の人と組むのは初めてだけど特殊捜査に呼ばれてサポートした事はあるわよ? よろしければ詳しいデータを送りますけど』
「ジェイク、今までのバディと同じだ、チームとして動け」
淡々と喋る滑らかな口調に舌打ちをしようとした所でラルクからの強烈な圧を感じた。ひたりと見据えてくる目が感情的になるなと語っている。ジェイクは大きく息をついた。
「そんなの見ている暇ねぇだろ。犯人が近くに居る根拠は」
嫌味の一つでも言ってきたらインカムの電源を切ってやると思いながら発言を促すと、意外にも相手は『ありがとう』と一声かけて根拠を喋り出した。
『十二の女の子、中級階級で優等生、色恋に疎いならばある程度常識的な人となりね。見知らぬ人についていく事はまず無いわ』
「歩いている間に襲われたとしたら行きずりの可能性も捨てきれないのでは?」
もしここで間違えると一刻の猶予もない、とラルクは捜査範囲を広げる判断をすぐに出来るよう内部通話機を握りしめながら問うのだが、答えは意外にも手前からきた。
「いや、難しいな……」
「ジェイク?」
ここを見ろよ、と行方不明者の自宅とパーティー会場となった家の道路を挟んで向かい側に面した建物を次々と指す。
「コンビニに本屋、それぞれ点在はしているけれども軽食屋まである。悲鳴を上げたら必ず目につく距離だ。目撃情報はないんだろ?」
「ああ、自宅からパーティー会場へ歩く姿は見られているのだが、帰宅の足取りが掴めない」
『だったら決まりね』と事もなげな調子でさらりとインカムが告げてくる。
『犯人は顔見知り、しかも彼女がある程度話したことがあるぐらい信頼を置いている、近所に住む人物だわ』




