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第18話「愛と友情は紙一重」①

 夕食を食べた後。私はリビングのソファーに寝そべり、ダラダラとスマホをいじっていた。


 真白はお父さんに呼ばれてどこかへと出かけてしまった。彼氏のいなくなってしまった私は、必然、自分の家で、何をするわけでもなく時間を潰すと相成ったのだ。


 もっとも、別に真白がいたとて、やってることは変わらなかっただろうが――。私はYouTubeに流れてくるなろう系モドキななんかイライラするスマホゲームのCMをボケっと見つめていた。



「詩子」



 と。私のお母さんが、突然私に声を掛けて来た。



「ちょっと、いい?」



 お母さんはそう言うと、私の足下に座った。私はすぐに体を起こして、「なに?」と言いながら、お母さんへと擦り寄る。



「アンタが連れて来たあの子だけど。いい子じゃない! 何も言わなくても晩御飯の片付け手伝ってくれたし、浮気とか絶対しないタイプね」


「……まあ、そうじゃなければ選ばないでしょ」


「アンタもあの子を見習いなさいよ。片付けとか全部親任せにして。女の子なんだし、ここで家事できるアピールしないと、あの子から嫌われちゃうわよ?」


「……大変申し訳ございませんでした」



 私はケラケラと笑うお母さんに、軽くそう言いながら頭を下げた。


 ――真白から嫌われる、か。ふと、私の脳内で、お母さんの言った言葉が反響する。


 ……真白のお母さんは、自分の夫のことを心の底から毛嫌いしていた。それはもう、出会って5秒で理解出来てしまうほどに。


 だけど、あんな関係性の2人でも、昔は恋をして、お互いを本気で好きでいたはずだ。それが、今は見る影も無いと言うだけで。


 ……私のお父さんとお母さんは、割と仲が良い方だと思う。クリスマスのリア充みたいにイチャイチャこそしていないけれど、お互いが軽口を叩いたり、それを許し合ったり……。



「……お母さん」


「ん?」



 ぽつりと、気が付けば私は呟いていた。そして、お母さんが私に首を傾げるのを見ると、私は浮かんだままの言葉を、するりと声に出す。



「……夫婦円満の秘訣って、何?」



 ほんの一拍だけ、間が空いた。お母さんはほんの一瞬だけぽかんとすると、すぐにクスリと笑って、「なぁに、突然?」といじらしく尋ね返してきた。



「そんなこと聞くなんて、アンタ、よっぽどあの子にゾッコンなのね」


「ほっとけよ、別に」


「まあ、そうねぇ……。夫婦円満の秘訣、ねぇ。……う~ん、考えたことなかったなぁ……」



 お母さんはそう呟くと、顎先に人差し指をあて、ぽく、ぽくと時間を掛けて考え始めた。


 秒針がコク、コクと音を立てる。お母さんは「う~~~~ん……」と眉間にしわを寄せて考え続け、やがて、へにゃりと眉尻を下げて私に答えた。



「……ぶっちゃけ、相手によるとしか言いようがないわね」


「え~……」


「そりゃそうよ。だって、どれだけこっちが頑張っても、相手が頑張ってくれなかったら意味がないもの。……もちろん、逆も然りね。そう考えると、ウチは恵まれてるわね。お父さん、私のことも、アンタらのことも、ちゃんと大切にしてくれているもの」



 お母さんはまた調子が良さそうにケラケラと笑った。


 ……そう言う事が聞きたいんじゃないのに。私はお母さんの意見に納得はしつつ、望んだ回答と違う物が返って来たことに「むぅ」と頬を膨らませた。



「まあでも、アンタたちなら大丈夫でしょ」


「……え?」


「だって、ぶっちゃけ。……アンタ、あの子と友達みたいなノリで付き合ったでしょ?」



 私は「えっ、」と目を丸くしてしまった。



「わかるわよ。だって、こんなこと言うとあの人に失礼だけど……。真白くん、男としてはちょっと、ねぇ?」


「……お母さん。一応言っておくけど、私、アイツの彼女なんだけど?」


「でも、だから良いのよ」



 私は「え?」と、お母さんの言葉に首を傾げた。お母さんはまた一拍置くと、思い出に耽るように微笑みながら、ゆっくりと天井を見上げた。



「私もそうだったの。……26とか、7の頃かな。周りが結婚し始めて、私も焦り始めてね。色々本を買ったりして、婚活を頑張ったけど……なんか、みんな違うって思ってね。そんな折だったかな。私のお父さんとお母さんが、見合いの話を持ってきたのよ」



 私はおじいちゃんとおばあちゃんを思い浮かべながら、「お見合い?」と相槌を打つ。お母さんは「うん」と頷くと、そのまま語りを続けた。



「お父さん……アンタのお父さんのことね。言っちゃあなんだけど、凄くチョンとしていてね。マジメを絵に描いたような見た目で、まあ、それまで会って来た男の中でもぶっちぎりで『なし』だったの。カッコよくないし、童貞臭かったし。ていうか、童貞だったし」


「はぁ……」


「あの人、当時30歳だったんだけど。30なっても女の子と付き合ったことがないなんて、何かおかしいでしょって。私も変な影響受けてたから、そう思ってたの。でも、両親の手前、付き合わないわけにはいかないじゃない?」


「……そういうモンなの?」


「そういうモンなの。それで仕方なく、まあ、ちょっとの間だけならって付き合ったのだけど……。あの人、ずっと私に優しくしてくれてね。何より、私にえっちなことしようとしなかったのよ。そりゃあ、童貞のままだわって」



 ……ああ。私は自分とお母さんの胸を交互に見て、色々なことを察してしまった。


 ……うん。大事だよね、そこ。私は母親の遺伝子の強さを儚みつつ、お母さんの女としての苦労に心の底から同情した。



「そこが決め手だったかなぁ。私のペースに合わせてくれて、私にがっつかなかったのよ。確かに、男らしくはなかったし、スマートではなかったけど……隣にいてくれるような安心感があって、私にはそれが嬉しかったのよね。まあ、そのせいで苦労したこともあるのだけどね」



 お母さんの眉間にぐいっとしわが寄り、「本当、アイツいつまでも手ぇ出してこなかったんだから」と呟いた。その禍々しいオーラに私はまたも心の底から同調し、『うんうん』と内心で頷いた。



「それで、思ったのよ。きっと愛情って言うのは、友情に似ている感情なんだって」



 と、お母さんの声がほんの少しだけ大きくなった。私はお母さんの言葉に意識をピンと張ると、「――友情?」と、お母さんの言葉をそのまま繰り返した。



「うん。……ほら、言うじゃない。恋は盲目って。……きっと、『好き』って気持ちが前に出ちゃうと、人って、その人のことをちゃんと見れなくなるのよ。けど、そうじゃなくて――『信頼』から始まった関係性なら、きっと、その人のことをちゃんと理解して、選ぶことができると思うの。……それに、夫婦になれば恋なんてどうせ冷めるわ。家族になるって言うことは、特別な関係が日常になるってことだもの。熱を持っていたからできたことも、段々とやらなくなるものよ」



 お母さんの言葉を聞き、私はただ、黙って頷くことしか出来なかった。

 ――確かに、そうだ。どれだけ強い感情でも、長い時間が流れれば、やがては弱くなってしまう。


 恋心が冷めた後に残っていたものが、恋に絆されて見えなかったところだとしたら。真白のお母さんが「あんな人だとは思わなかった」と言っていたのも、つまりはそういうことなのだろう。



「でも、だからアンタは大丈夫。アンタの恋は、きっと、恋から始まった物じゃない。……ちゃんとあの子と向き合って、あの子を信頼して、その上で選び取った愛だから。

 胸を張りなさい。アンタが辿って来たあの子とのこれまでは、きっと、全部意味があったのだから」



 お母さんがそう言って、私の背中をさする。私はほんの一瞬、真白と出会った時の事を思い出し、「――うん!」と、笑いながら返事をした。

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