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第15話「共に歩むとは、共に変わり行くことである」②

「――んで、結局こうなったわけか」



 民宿の一室にて、優花里は寝転がる男女の姿を見て肩を落とした。


 彼女の足元には、真白と詩子がいる。2人とも、服がはだけた様子はなく、どうやら健全に夜を過ごしてしまったようであった。


 真白と詩子のみ部屋を分けたのは無論意図したものであった。当然その先にはめくるめく欲望と快楽が渦巻くイチャラブチュッチュがあったのだが、2人はあろうことかそんな優花里の粋な計らいを無視してぐぅすぅと寝息を立てている。


 これで完全に何事も無かったのなら逆に諦めも付くのだが、よりにもよって詩子が真白の背中に抱き着いてしまっている。それもかなりキツく密着しているようで、胸元の巨峰が押しつぶされて形が歪んでいる。


 優花里は見せつけるような乳に「ッチ」と舌打ちをすると、覆いかぶさった掛け布団を掴み、勢いよく引っぺがした。



「オラァ! テメェら、さっさと起きろ!」



 バサッと布が宙に舞う。詩子は「んむ……」と薄ぼんやりとした声をあげると、そのまま真白の背中に顔を埋めた。



「あと5分……」


「もう退去時間になってんだよ! 早く起きろこのバカ共! 迷惑掛かるだろうがっ!」



 優花里が叫ぶと、詩子は寝転がったまま顔を上げる。やがて詩子は徐々に目の焦点が合ってきたようで、ぼんやりとした表情を徐々に赤らめ、「ヒャアッ!?」と飛び跳ねるように体を起こした。



「優花里!? な、なんでここに!? 勝手に部屋入ってくんなよ!」


「いや私だってそんなつもりじゃなかったけどさ。アンタらいつまでも起きて来ねぇんだもん。しょうがないから流石に起こすかって思って……」



 優花里は呆れ果てながら言う。詩子は傍らの真白の体をペしぺしと叩くと、「おい、起きろ、真白」と小声で声をかけた。


 真白はゆっくりと体を起こして、「……おはよう、詩子」と呟く。そして近くに置いた眼鏡をかけると、仁王立ちでこちらを見下ろす優花里を呆然と見上げた。



「……あら、おはよう」


「おはよう。……もう時間だよ。はよ準備して出るぞ」



 優花里はそう言って後ろを親指で指す。真白は「えっ」と呟いた後、慌ててスマホを手に取ると、表示された時間を目にして一気に顔色を変えた。



「マズい! う、詩子! 早く出る準備!」


「ま、待って! 化粧とかまだなんだけど!」


「やってる暇ないよ! 急いで!」



 2人はそのまま大慌てで、帰りの準備を済ませた。



◇ ◇ ◇ ◇



 ガタン、ゴトンと、人気(ひとけ)のない電車が揺れる。私は真白を隣に座らせながら、過ぎ去っていく窓の外の景色を漫然と眺めていた。



「……どうかしたのかい、詩子?」



 真白が私に話しかけて来る。私は「え?」と彼へと目を向けるも、「ん――」と呟いて、また窓の外へと視線を移した。



「……来てよかったなって」



 空から差し込む太陽の光に目を細めながら、私はしみじみと呟いた。真白は少しの間だけ私を見つめると、「――うん」と、同じく窓の外へと目を向けた。


 ……ただの思い出作りのつもりでやって来たのだが。今回の旅行は、私にとって、ただ綺麗な思い出を作ることよりも、遥かに大きな意味があった。


 世の中には、体験価値などという言葉があるが。綺麗な海やエモい情景に心を奪われるだけの体験というのは、結局気持ちが良くなるばかりで、それ以上に得られる物はない。


 人が手にして本当に意味のある体験というのは、きっと、他人や自分と言う存在と真剣に向き合う事なのだろう。それはどこででも出来る事で、だけど、時には、何か大きなきっかけが無ければできない事でもある。


 昨日の出来事は――私たちの喉にずっと引っかかって取れなかった小骨を、上手く吐き出させてくれた。……私と由希の関係性を、もう一度繋いでくれた。


 私たちはこれから、どこに向かっていくのだろう。今でもそんなのはわからないし、不安が無いわけでもないけれど……少なくとも、これからも、私たちは変わらずに歩き続けられるって思わせてくれた。


 この思い出は、きっと生涯忘れることはないだろう。私はキラキラと光る海面を見つめながら、なんとなく、そう思った。



「……真白」



 私は隣に座る真白の手を握る。真白はそれに驚いて、一瞬私の手を見ると、しかし、すぐにゆっくりと窓の外へと目を移して。



「……今度は、離さないから」


「……うん」



 私たちはそう声を掛け合って、電車が止まるのを待った。



◇ ◇ ◇ ◇



 それから数日が経ち。私と真白は変わらず真白の部屋でスマ○ラへと講じていた。



「ぐああああっ! 掴みにガ○ンのB合わせて来るんじゃねぇよ!」


「見事なコンボだね。こりゃあ勝てないよ」



 真白はため息を吐きつつ、床にことりとコントローラーを置く。私は体をのけぞらせながら、「うあぁ~~」とうめき声をあげる。



「は~~! ロマン技って決められた時はめっちゃムカつくわ」


「チームプレイだと決めるハードルも下がるしね。まあ仕方がないよ」


「あ~、もう嫌! 今日はもうやめとこ! なんかアニメでも見よアニメ!」



 私はみっともなく足をジタバタとさせる。真白はそんな私を見ながら、「うん」と笑いつつ、立ち上がって、自前のノートPCを立ち上げる。


 ……色々あったけど、何事もなかったかのように今までの生活が戻ってきている。私は床に寝そべりながら、ふとそんなことを思った。


 もう何日くらいこうやってバカ騒ぎをしていなかったのか。だけれど、いざヨリを戻したら、あまりにも自然と元の位置に着地してしまっている。

 私たちらしいと言えばらしいけれど、これはこれでなかなか不思議だ。不思議なのだけれど、この状況を自然と受け入れている自分がいるし、何より、これで良かったんだって心の底から感じている。


 パソコンが立ち上がるまでを、画面をにらめっこしながら待つ真白を私は傍目に見る。隣にコイツがいるという当たり前を噛み締めながら、私はため息を吐き、ポケットからスマートフォンを取り出す。


 と。いきなりピンポンと部屋の呼び鈴が鳴り、真白が「はーい!」とそれに釣られて反射的に声をあげる。



「Amaz○n?」


「どうだろ。何か頼んだ覚えはないけど――」



 真白は言いつつ、「よいしょ」と立ち上がり、私を跨いで玄関へと向かう。私はポチポチとスマホの画面を操作して、特に意味もなくソシャゲの画面を立ち上げる。


 と。次の瞬間、



「――母さん?」



 玄関から、真白の声が聞こえた。私はハッと目を見開いて、部屋の出入り口へと視線を移す。


 玄関の前には――あの、真白のお母さんが、不穏な様子で立っていた。

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