ストーリーログ8。エリクシオン・サーガ。 ファイル1
「おかえりなさい。シオンさん、アヤメさん。
無事の帰還。なによりです」
アインスベルグに戻ったぼくたちは、早速ファイターズギルドに行って、
今は、ちょうど受付嬢さんに話しかけたところ。
「お二人とも、認定クエストを達成されてますね。
では、ファイターズギルドの代表にかわりまして、
あなた方を、一員として認定いたします。おめでとうございます」
「「ありがとうございます」」
思わず答えちゃったら、アヤメちゃんもそうだったみたい。
「これからお二人は、ファイターとして依頼を受け
その報酬を利用して、武具やアイテムの購入をしたり、
パーティの立ち上げをしたりなど、様々なことが可能になります。
詳しくは、ファイターズカードのヘルプを参照してください」
「「わかりました」」
またハモっちゃった。
「依頼、クエストですね。クエストの選択 受領は、
各所のギルドで、ランクに応じた物を選ぶことが可能です。
身の丈に合わないクエストは危険ですので、
ファイターさんの安全を考慮して、
制限させていただいております」
この辺は狩りゲーと似てるな。
「ですが、パーティの一員として行動する場合は、
パーティのリーダーの、ファイターランクまでのクエストが、
受領可能となっています。
とはいえ、身の丈に合わないと思ったら、
相応のクエストを、別に受けることもできますので、
クエストの難易度を考慮して、同行するかを決めてくださいね。
強いメンバーがいるからと言っても、過信は禁物ですよ。」
「「はい」」
パーティーで行動できるから、ソロプレイとは別に
パーティー用に、ランク制限があるんだな。
この辺は、狩りゲーと違うところだね。
「それと。アヤメさんは、対人戦に勝利したことで、
レベルが1、上がっています。おめでとうございます」
「え? ほんとに?」
びっくりしてるなアヤメちゃん。
「おめでとうアヤメちゃんっ」
思わず、ちょっと声がおっきくなっちゃって、
「……失礼しました」
ってちっちゃく言う。ちょっと顔が熱いです。
でも、レベル上がったって言う受付嬢さんだけど、
たしかレベルアップしたら、その場でファンファーレが鳴るはずだよな?
チュートリアル終わってなかったから、
経験値がストックされた状態になってて、
レベルアップしなかったのかな?
「あ、うん。ありがとう」
アヤメちゃん、聞くからに戸惑ってるのがわかる声だ。
「ステータス画面を確認してみてくださいね」
「あ、はい。わかりました」
アヤメちゃんの答えから、一秒ぐらい経ってから、
「それでは。これからファイターズギルドの一員として、
よろしくおねがいします」
って受付嬢さんは、改まった挨拶をしてくれた。
「こちらこそ、よろしくおねがいします」
ぼくが頭を下げると、
「よ、よろしくおねがいします」
慌ててアヤメちゃんも、受付嬢さんに返した。
その慌てっぷりがちょっとおかしくて、
軽く吹き出しちゃった。
「いこう、シオンくん」
ちょっと強めに、ぼくの手を掴んだアヤメちゃん。
「ごめん、あんまり慌てるから」
たぶん、むっとしたんだろうなと思ったから謝ったんだけど、
「きにしてないです」って、やっぱりちょっと、むっとした声で言われて、
アハハって苦笑が漏れた。
アヤメちゃんは、そのまま自分の右腕に、
ぼくの左手をあてがってくれた。
ほんとに、すごいなぁ。こういう気遣い、すぐできるんだから。
アヤメちゃんの腕を掴んだ。手引きの状態に戻って、
ぼくたちはファイターズギルド、アインスベルグ支部を出た。
「えっと。エリクシオン・サーガを、探せばいいんだよね」
「そうだね」
ファイターは一人一つずつ、拠点としてパーティーハウスって言う
専用のスペースを使うことができるんだ。
ソロプレイ用の区画と、パーティープレイ用の区画に、
それぞれ一つ、作ることができる。
「ねえ、ぼく。どうしたらいいと思う?」
「なにが?」
「ああ、ごめん。パーティーハウスの話。
ソロプレイするつもりがないから、
ソロ側いらないんじゃないかって思うんだけど」
「そうだね。でも、あたしはソロ側にも作っておく」
「どうして?」
「ん? うん。もしかしたら、一人になりたい時。あるかもしれないから」
「そっか》
そう言われると、少し考えてしまう。
「シオンくんも作っておいたら?
使う使わないはともかくさ。
作ることで、なにか制限されるわけでもないんだし」
「……うん。そうだね、そうしよう」
アヤメちゃんに押される形にはなったけど、
ぼくもソロプレイ区画に、パーティハウスを作ることにした。
***
「じゃ、エリクシオン・サーガ。探しにいこう」
「うん」
今ぼくたちは、ソロプレイ区画にある、
パーティハウス関連の、設定をする場所を出たところだ。
手続きを、アヤメちゃんにやってもらった結果、
ぼくとアヤメちゃんのハウスは、お隣さんになった。
その方が、使うことがあった場合に
エリクシオン・サーガのメンバーと、
合流するのが楽だからってことで、そうしたみたい。
ソロプレイ区画も、他の場所と同じで
けっこう人の気配がする。ソロプレイヤーも、それなりにいるんだなぁ。
「パーティハウス、全都市共通なんだよね。
なんか、変な感じ」
そう笑いを含んで言うアヤメちゃんに、
ぼくはそうだねって、同じような声で返す。
狩りゲーの場合、拠点があるのはソロプレイの側だけで、
マルチプレイは、各プレイヤーが一時的に集まる
って形式で行われる作品が多い。
複数地区をまたぐゲームの場合、
一応は、各地区の拠点が使えることに理由づけがされてるから、
全地区で拠点が使えるのに違和感はない。
けどこういう、ソロプレイとマルチプレイが繋がってて、
なおかつ複数地区をまたぐタイプのゲームだと、
家が自分にくっついて来てるみたいで、
変な感じがする。
しかも、このヴェルゼルガ・ソードは、
生の感覚があるから、余計に違和感がすごい。
「ん? なんだろう。なんか、ザワザワしてない?」
ぼくが言うと、「え? そっかなぁ?」とアヤメちゃん。
気付いてないみたい。
『おい見ろよ。あれ、黄昏色の名装じゃね?』
『ほんとだ。アインスベルグにいて、持ってるってことは……まさか?』
「シオンくんの装備のこと、言ってるみたいだね」
どうも、アヤメちゃんにも聞こえたみたいだ。
『レア装備入手した上に、美少女までゲットかよ。
なんだあいつ、運よすぎじゃね?』
『ああ言う、アバターがかわいいプレイヤーって、
ヤロウとかだったりすんだよなぁ』
「失礼な人達だなぁ」
「でも、たしかにぼく。運はいいかも」
「え。あ、そうだね。たしかに……そうかも、ね」
なにを思ったのか、アヤメちゃんの声がてれてる。
「だって。いきなりダッティー捕まえられたし、
レア装備も手に入れられたし。
おまけに介助者までいるんだもん」
「えっ。あ、ああ、うん。そうだよね、アハハ」
アヤメちゃん、なんでか苦笑した。
「どうしたの?」
「え、あ、うん。なんでもない。いこ」
「うわ、ちょっと。アヤメちゃん、歩幅広くなってるっ?」
引っ張る勢いが強まってて、ぼくはバランス悪く
トタトタと、小走りさせられてしまった。
歩幅が広いって言うのは、引っ張る勢いが強い理由を
推測して言ったんだ。
「あ、ごめん。でも、あれ? シオンくんバランス崩れてない。
勢いは強かったけど、あたし、引っ張る力そのものは変えてないんだよ?
それだとまえのめりになってそうなのに……もしかして。
これがレベルアップした結果?」
1レベルアップすると、各種パラメータに
10のプラス補正が入るんだ。
ラビットアイコンが一つついたぼくは、
実質、レベル2と同じステータスになってるんだよね。
ついさっき。ダッティーを捕まえる前までだったら、
もしかしたら、ぼくはアヤメちゃんの言うように、
前のめりになってたかもしれない。
「っとっと。そうかも」
一応は、引っ張られ方に、なんとか合わせられた。
少し早歩きで、介助されることになったよ。
『ちくしょう! このリア充め! 爆発しろ!』
『そうだ爆発しろ! それと黄昏色の名装くれ!』
たしか、この「リア充爆発しろ」って、
出始めたのが2010年台に行くか行かないかのころだ
って聞いたことがあるけど、2034年の今でも、
こうして使われるって、すごく使いやすいんだろうなぁ。
リア充そのものが生きてるんだから、こっちが生きてるのも当然か。
「あたしたちは、リア充じゃないんだってば!」
「装備はあげません!」
ソロプレイヤーさんたちに見送られて?
ぼくたちは、多人数パーティハウス区画に、
彼等から逃げるように、走って向かった。
ーー転びそうでヒヤヒヤしながら。




