ストーリーログ5。出会い過多な旅立ち早々。 ファイル2
「……ん?」
「どうしたの?」
「ねえ? その岩壁、上れないかな?」
「え? うーん……そうねぇ」
少し、女の子は、岩の壁を眺めてるみたいで無言になった。
「まあ。一応、足がかけられそうな隙間はあるし、
やろうと思えばいけると思うけど……もしかして?」
また、ぼくの方を見た。一つぼくは、頷いて答える。
「……でも、先には行けないと思うよ」
「ううん、いけると思う」
「なんで?」
「ぼくの体格で、通れるかはわかんないけど、
上の方から、隙間風みたいな音がするから」
「ほんと? ぜんぜん気付かなかった」
信じられない、そういう気持ちのこもった声だ。
ウイト君みたいに、感情が素直に声に乗る子だな。
「ロールプレイ、なんだよね?」
木剣を、今度はモブと戦った時みたいに、
左足の少し斜め前の位置で固定して、
岩の壁を目指して歩くぼく。
そんなぼくに、女の子はそう不思議そうな声で
声をかけて来た。
「え、あ。うん」
ちょっぴり罪悪感でザワっとするけど、
ぼくはあくまで、盲目キャラをロールプレイする見えてる人。
そう設定しちゃったから、嘘を通すしかない。
一瞬、見えてないことを、言いそうになっちゃったんだけどね。
ガッと木剣がつっかかった。壁に付いたみたい。
そうなれば、今度は上る道を探る作業になる。
木剣を足元に置いてから、手探りで第一歩を見つける。
足と、手の位置。発見完了。
「よっ」
壁上り一歩目、問題なし。
「ほんとに、ロールプレイ?」
「そうだよ」
二歩目も上れた。隙間風までは、たぶんだいたい、後三歩ぐらい。
し……下のことは考えないようにしよう、うん。
「そう、なん、だ」
やっぱり、納得してない感じの、考えるような声。
「それにしては、動作が自然すぎるんだよなぁ。
音について言うことも、普段見えてたら
思いつきようがないこと言ったし」
独り言なのかな? 続けて、小さくそう言ったんだ。
鋭いな、この子。
「よし、隙間風に手がかかった」
そのまま体を引き上げて、まず頭を入れ込んでみる。
よし、大丈夫。通れそうだ。
そのまま這いずりながら、隙間風の中に体を進めて行く。
「うわ。これ……どうしよう」
上ったのはいいけど。
体半分まで通ったところで、向こう側に行っちゃった。
うまく降りないといけないなぁ。
横に腕を伸ばしてみる。ん? あ、掴まれる場所あった!
左手はいいけど、右手が掴まれるとこはっと。
左手を、腕の届く限り探してみる。
お、これはいけそう。
うにょうにょっと、体を左へ動かして、
隙間風の左端に付いた。
「いよっっ」
よし、掴まれた。後は岩の強度を信じて、下半身を滑り込ませてっ!
「よしっ、うまく降り口に取り付けたっ」
そのまま、まるではしごのようになってる、岩の出っ張りを使って、
それでも、慎重に降りる。
「ふぅ。やっと降りられた~」
ダッティーの、フワフワの音がすぐ近くでする。
「よし、今度こそ」
しゃがみ込む勢いで、そのまま抱きかかえるようにして
音の少し先から、ダッティーの背中に腕を回して
ギューっとする。
……あぁ。フワフワモフモフだぁ~。
シューン キラリーン
『ダッティーの捕獲に成功しました。
各種ステータスの基本値に、プラス10のボーナスを獲得。
ステータスウィンドウに、ラビットアイコンが
表示されるようになりました』
「あぁ、フワフワが消えちゃった」
残念差を、そのまま息に乗せたぼく。
ラビットアイコンは、たしか、そのプレイヤーが
ダッティーを、何匹捕まえたのかを示す、アイコンだったかな?
ふぅっと一息吐いて、気を取り直して。
ぼくは、蘭が前に言ってたことを、実行することにした。
RPGでは、どんな部屋でも一通り物色してから、その場を出る。
アイテムが落ちてることがあるんだって。
このヴェルソのゲームジャンルは、VRMMORPG、
RPGの一種だからね。この話は、実行しておかないと。
モブと戦う前と同じく、自分の体を白杖替わりに、
この、声がすぐに反響するほど狭い場所を調べて行く。
ガツンと足が、なにか硬くて重たそうな物を蹴った。
しゃがみこんで、大きさを確認。
高さは、脛半分ぐらいしかない。
この、かまぼこみたいなかっこうは……宝箱かな?
「こんなところに宝箱なんて。
いったい、なにが入ってるんだろう?」
ルプグ、お金か。序盤に役立つ装備品か。回復アイテムか。
それとも……ひょっとしたら、レアアイテムだったりして?
鍵はかかってないな。
「よし。開けるぞ」
生唾飲んじゃった。宝箱を開ける。緊張するっ。
ガチャリ。箱が開くとっかかりが動く。
グググっと、少しずつ蓋が上に上がって行く。
うわぁ。この、重たい箱を開いて行く感じ。
すっごいワクワクするっ。
ガンッ。
これ以上開かないところまで、めいっぱい開いたみたい。
それじゃ、中身を。
「……布。服?」
ピコン
『黄昏色の名装を入手しました』
「えっ!?」
驚いた。驚かざるをえなかった。
黄昏色の名装。
実装されてるレア装備品ではあるけど、
まだ誰もみつけていない、レア中のレア装備。
こんな序盤に置いてあったなんて。
しかも。それを、ぼくが入手しちゃうなんて……!
『黄昏色の名装の、作成レシピが開放されました。
黄昏色の名装が、シクレショップで購入可能になりました』
あまりのことに体が小刻みに震えてたら、そんなシステムメッセージが聞こえた。
「なんですって?!」
壁の向こう側で、女の子がびっくりした。
今のメッセージは、全プレイヤーに表示された、ってことなのかな?
って言うより、まだいたんだ。
とっくに、アインスベルグに行ったんだと思ってたよ。
このゲームは、レア装備は誰かが入手することで、
素材による作成が可能になったり、
店で売られるようになったりする。
そんな仕様になってるから、それが開放されたことで
レア装備を誰かが入手したことがわかるんだ。
今のメッセージがそれだね。
ただ、購入金額は高いし、素材での作成には厳しい制限がある。
所持数は、一種類につきプレイヤーでは一つずつ、
プレイヤー複数人のグループであるパーティーでは、
パーティー単位で、一種類一つずつの使用制限があるんだよね。
複数人が同じ物を持ってた場合は、パーティー単位で
誰かのを一つだけ使える、ってことみたい。
公式ホームページの、レアアイテムの項目には、
レアアイテム レア装備品ばかりを求めることで、
プレイの幅を狭めないための配慮
って書かれてた。
はしごみたいな出っ張りを上って、表側に戻る。
どうしよう。顔を出すところまではいいんだけど……。
裏っかわみたいに降りられるかどうか、確認してない。
「心配しないでシオン君。あたしが引きずり下ろすから、
上半身出しちゃって」
「え? なんで、ぼくの名前を?」
「木剣に書いてあったから。ほら、早く」
「あ……うん」
言われたとおり、上半身を出して、だらーんっと壁に沿う形でぶら下げる。
たしか、コウモリってこうやってるんだっけ?
「ふっ!」
気合の声がしたと思った直後に、ビュっと音がして。
ぼくは、両方のわきの下を掴まれた。
そのままストンと、地上へ真っ逆さま。
「っ?!」
息を飲んだのもつかの間、下半身が後からついてきて
奇妙な重みを感じた。
そして、ぼくの体は、ちょっとだけ角度をつけた
座椅子みたいなかっこうになってしまった。
「はい、立って立って」
「あ、うん」
言われて、一度地面に手を突いてから、
ぼくは立ち上がって、壁下にあるはずの木剣を探した。
「あれ? あれ、ない? 木剣がない??」
「ん? ああ、ごめんごめん。あたしが持ってる」
ぼくの背中を、軽く剣の腹部分で叩く女の子。
探すのをやめたぼくに、左側から体に沿わせるように、
木剣を壁に押し付けた。
だから、ぼくはそれを右手で掴む。
そしたらオッケーの声といっしょに、
木剣の柄が、地面にズっとこすれた。
返してくれたみたいだね。
「ねえシオン君」
立ち上がるぼくに、女の子は声をかけた。
「なに?」
「君、さ。もしかして……
お昼にベルソ買ってた人?」
雲竜印の音の方向、
つまり、女の子のいる方に体を向けたのと同時、そう聞かれた。
「え?」
ポカンとした。開いた口がリアルに塞がらない。
「二人組でいた。白い棒持ってた方。違う?」
「え、あ、その……そう、です」
「そっか。やっぱりそうだったんだ」
「どうしてわかったんですか?」
思い当たることはある。でも、まさか?
「シオンって名前と木剣の使い方と、それと」
一呼吸。緊張に、またぼくは生唾を飲み込んだ。
「見えない人のふりするには、あまりにも発言が自然に出すぎてたから、
もしかしてと思ったんだ」
「え、あの、ちょっとまって」
「ん?」
「ひょっとして……あの時いたの?」
「うん。『えっ』ってびっくりした人。あれ、あたし」
「ええっ?!」
予想はした。したけど、そんなことってあるの?
大声でびっくりリアクションしちゃったぼくを見て、
女の子、アハハハって楽しそうに笑ってるよ……。
「実は、あたしもあの後ベルソ買ってね。
アインスベルグにつく直前にダッティー出たから、
捕まえようとしたんだけど、捕まえそこねちゃったんだ。
で、おっかけてこっちまで戻って来たの」
「そ……そうだったんだ」
驚くやら、びっくりするやら、目を丸くするやら。
「で、どうする? せっかくだし、いっしょにアインスベルグ行く?」
「あ、うん。腕に掴まらせてくれるんなら」
「わかったよ。ちょっと恥ずかしいけどね」
そう女の子は苦笑いみたいな、でも
てれてるような声でそう言った。
雲竜印があるから、一人でもアインスベルグまでは行けるとは思う。
でも、せっかく知り合った、ちょっとだけでも
ぼくの事情を知ってる人だし、それに道しるべありの白杖ありの上で、
更に人に掴まって行くって、安心度が更に上がるんだよね。
「ありがとう。ええっと……」
「ああ、ごめん。名乗ってなかったよね。
あたしはアヤメ、格闘家だよ。よろしく、シオン君」
そう言うと、女の子 アヤメさんは、ぼくの左手を掴んで、
自分の腕に沿わせてくれた。
掴まれ、ってことだと思って、ぼくはそうした。
……やわらかいなぁ。ウイト君とも、モブとも長老とも違う。
これが、女子の腕……か。
「よ……よろしくおねがいします、アヤメさん」
蘭以外の女の子の腕に掴まるの、かなりドキドキするけど。
でも、自分で言った以上は掴まらないと。
「さん付けは、やめてくれないかな。なんか、くすぐったくって。
呼び捨てか、せめて アヤメちゃんがいいかな。
いやならアヤメさんでもいいよ」
「……努力します」
せいいっぱいのぼくの答え。
アヤメ……さ……ちゃん、は。
そんなぼくの答えを聞いて、フフフって楽しそうだ。
ぼくたちは、森から元の道に戻るために歩いて行く。
ぼくは、緊張の手汗を気にしながら……。
現在のシオンのステータス
括弧内のEは現在装備中を表してます。
アバターネーム:シオン
性別:男
レベル1
ラビット1
職業:剣士
HP:100+10=110
MP:100+10=110
物攻:30+10(プラス15)=55
魔力:40+10=50
物防:40+10(プラス5、プラス10)=65
魔防:40+10(プラス10)=60
素早:40+10=50
属性ダメージ30%カット
地形ダメージ・フィールドダメージ無効
バッドステータス無効
即死無効
スキル:雲竜印
所持アイテム
初心の木剣
装備品
ヌルマタイトの剣(E)
黄昏色の名装(E)
革の鎧(E)
影護のアルカー(E)




