くまの世界
かぐつち・くまナぱさま
くまー
ある朝、うちのフェレットくんが、くまになっていました。
いつものように、飼い主のわたしを起こしに来てくれたのですが──
細長いはずの彼の頭を、ふとんの中から、寝ぼけまなこで撫でてみて、思わず声が出ました。
「なっくん? 頭が丸いよ!?」
目を開けて、びっくりしました。
白いその色はそのままに、なっくんが、ちいさなくまさんになっていたのです。
そしてじぶんの顔を手で触って、また声が出ました。
「わたしもくまになってるやん!」
起きて、鏡で確認すると、ピンク色のくまでした。
触り心地はふわっふわのもっふもふで、ぬいぐるみみたいにかわいいくまでした。
わたしは思わず、また声をあげました。
「わたし、一生、このままがいい!」
外へ出ると、天気がとてもよくて、冬なのにポカポカでした。
わたしは大型トラックの運転手です。
仕事場へ行くと、大型トラックがかわいい軽トラに変わっていました。
荷台にはおおきなくまさんが、巨大な熊手を手に持ち、乗って待っていました。
「おはようございます」
わたしが挨拶すると──
「はよ、行こ、くまで」
おおきなくまさんが笑ってくれました。
なっくんを助手席に乗せて、しゅっぱつしました。
わたしの体がおおきいので、なっくんは窮屈そう。
でも楽しそうに『くっ、くまっ』と声を出し、子どもみたいに窓からの風と遊んでいました。
ところでどこへ行くんだっけ──
どこでもいいや、楽しければ。
お外の景色はいつものコンクリートだらけの工業団地じゃなくなってて、とても色とりどりでお花もたくさん咲いてる丘の上でした。
軽トラの横に『しゅんぱつりょく』と書いてあります。
いつもはただ、会社の名前が書いてあるだけだったのに、しゅんぱつりょくに変わっていました。
よくわからないけど、そうだ、しゅんぱつりょくなんだ。
この世はしゅんぱつりょくだ。弾みをつけて、走ってこ。
「はっはっは」と、荷台のおおきなくまさんが、しゅんぱつりょくたっぷりに笑ってくれました。
わたしは何のために生きてるんだっけ?
なんでもいーじゃん。
あかるくて、楽しくて、なんでもできちゃう世界。
しゅんぱつりょくで生きていこ。
助手席でなっくんが、にこっと笑ってくれました。
どこへ行って、何をするのかなんて、わたしも、なっくんも、おおきなくまさんも、誰も知りませんでした。
それでよかったのです。しゅんぱつりょくは、その場の思いつきなのですから。
やりたいことが思い浮かんだらやればいい。
人間の世界が、くまの世界になったら、とても楽しい、しゅんぱつりょくの世界に変わったのでした。
これからはただ、楽しく生きていこ。
老後の貯金とか考えず、生き当たりばったりで。
くま!




