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テーマ『映画館でのとある出来事』
映画館は人をメランコリックにする、なぁんて。
子供時分、ここはむしろ期待に胸踊らせる特別な空間で、どうしても思い出にひっぱられてしまうみたい。
当時、地元に映画館はなくて、夏休みが迫ると誰かが言った。
映画に行こう!
有志を募って街に遠征は一大イベントで、すぐに話は広がって、我も我もと1クラス分に届こうかという人数に膨れ上がる。
移動時の交通機関から大迷惑をおかけしたに違いない。
私の傍らには、一際はしゃぐ奴もいたしね。
「座席を倒していいですか?」
「うん、でないと映画館は座れないね」
なんて馬鹿な事ばかり言って。
あいつは、今、何をしてるのか。
あんな風に無邪気に集まるなんて事、もう起こらない、正しく青春の1ページだった。
まあ、私も大人になったし、どうせなら映画みたいな物語が始まらないかな、たはは、なんちゃって、とか思っていたら。
「あのう、お隣の席は、空いていますか?」
来た。
「空いてないよ、とっとと座って」




