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21、おじさん、嘘を塗り固める

作品のサブタイトルにナンバリングしました。



「……なあ、俺たち森から出られないんじゃないか……?」


 


 俺たちは森の中でゴブリンの集落を見つけ、そこで冒険者たちに狼藉をはたらいていたゴブリンたちを討伐し、冒険者たちを蘇生させてゴブリンたちの死体や集落を焼き払った。


 その最中にクウちゃんはとあるものを構成要素に使って受肉し、その存在は3次元のものへと固定された。


 その結果、7次元の存在として顕現したクウちゃんの恩恵でチートなレベルアップを果たしていた軽トラのレベルが元に戻ってしまったため、ここまで森の生い茂る木々の中を走破してきたスキルが使用不能となり、軽トラの車幅では森から出られなくなってしまったのだ。






「なあクウちゃん、なんか打開策ある?」


「道とかないか探してみましょ?」


「いや、ねえだろ」



 この異世界に当然自動車はない。馬車はあるはずだが、営林局や森林組合も電線を通す鉄柱も無いのにわざわざこんな人里離れた森の奥まで木々を切り拓いて道を作るわけがない。




「道がないなら作ればいいわ!」


「だからスキルがねえんだよ」



 クウちゃんってホントはすごい(存在)なはずなんだが、こうして会話をしていると世間知らずお嬢様感がすごい。パンがないならケーキを食べろ見たいなことを堂々と言い放たれても困る。俺が市民革命を起こさないうちに悔い改めて欲しいものだ。




「スキルはなくても私たちには愛があるわ! 愛があればすべてはうまくいくわ!」



 こんどはオペラ歌手みたいなセリフを吐き始めた。愛があるのかは俺にはまだわからんが。




 ん、待てよ。スキルがなくても愛がある……。スキルはなくても……『悪路走破』のスキルはなくても…… 別のスキルで突破する方法はあるかもしれない。




 クウちゃんの言葉から無理やりヒントを得た俺は取扱説明書を見ながら思考を巡らせる。




「これだ!」



 クウちゃんの受肉により軽トラのレベルは元に戻ったものの、幸い、無限収納インベントリにあたる『無限搭載』のカスタムスキルは健在であった。

 

 俺は目の前に立ちはだかる木を『自動搭載』で、『無限搭載』の亜空間に放り込む。木の根が抜けた目の前の地面は『悪路走破(1)』の整地(走行進路の路面を整地。走行後一定時間で道は元に戻る)で均す。整った地面を前進し、後ろにさっき収納した木を戻す。


 この繰り返しで遅々とした速度ではあるが前に進むことができた。




 隣の席では


「やっぱり愛の力は偉大だわ!」



 と言っている人もいるが、ツッコミどころが全く分からなかったのでスルーする。





 だが、ある程度前に進んだところで新たな問題にぶち当たった。



「あれ……? 村ってどっちの方向だっけ?」



 俺はすっかり道に迷っていた。道などないので正確には方向を見失っていたというべきか。




 森の中で魔物を探してさまよい、途中で見つけたゴブリンの後をつけて行ったりしたので完全に自分の位置が分からなくなってしまった。獲物を求めさまよううちに迷うとは、山のタケノコや山菜採りで遭難する典型的なパターンになってしまった。



 タケノコや山菜採りとはある意味命がけなのだ。趣味的に自分の家庭で食べるにせよ、山菜販売所に持ち込んでお金に換えるにせよ、山を愛する人たちにとって山の幸はまるで宝物でもあるかのように人々の心を魅了する。

 足もとにあるタケノコや山菜を貪欲に捜し求める人たちは、その行動に夢中になり視点を地面から離すことはない。その結果、自分では真っ直ぐ直線的に進んでいた感覚であってもその足跡は大きく曲がりくねってしまう。

 そして、腰の痛みや疲労で一息つこうと顔を上げて周囲を見回したとき、自分の位置が全く分からなくなっていたという事態に陥る。迷わないよう木に目印をつけていたとしても、夢中になっていた時間はその目印すらも見失わせるのだ。



 で、山菜ではないが獲物を追って山に入った俺たちの現状だ。



 右も左も分からないどころか、東西南北どっちを向いているのすら分からない。この状況でやみくもに前進するのは悪手だ。




 だったら、




『カスタムスキル「カーナビ」が発現しました。CP(カスタムポイント)を20使用して有効化しますか  Y/N?』




 やっぱり発現したか!


 車で迷ったと言ったらこれ(カーナビ)でしょ!


 


 レベルが「12」になった軽トラの現在のCP(カスタムポイント)最大値は65ポイント。ゴブリンの後をつけるときに発動した『隠蔽』の有効化を解いて使用していたCP50ポイントは戻っている。



 心の中で「Yes」と唱え、カーナビが軽トラのダッシュボードに現れる。



 見た感じ、サイズも機能も普通のカーナビに見える。ただ、画面を見るとほとんどが真っ暗だ。どうやら自分の通ったところの範囲しか明るく表示されないらしい。

 

 そのためか、画面には真っ黒の中にヘビがのたくったように明るい部分が見えるような表示になっている。この世界の地図データなどどこにもないだろうからこれは仕方がないのだろう。


 幸い、カーナビ発現前の移動データも反映されていたことと、表示範囲の拡大縮小は可能だったので現在位置とセバン村の相関位置を知ることができた。





 異世界で森に閉じ込められ、森の中で道に迷うというアクシデントを軽トラの不思議パワー(ご都合主義)でなんとか乗り越え、俺たちは森に入った地点の湿地帯まで戻ることができた。ここまでくれば村に戻るのに困ることはない。




 ここで、後ろの荷台で気を失っていた冒険者たちが動き出したようだ。俺たちにとってはいいタイミングで目覚めてくれた。


 


 俺とクウちゃんは、森を抜ける最中に話をまとめていた。その内容は、冒険者たちへの現状説明と、クウちゃんを含めた「設定」だ。


 このまま村に戻ったとして、どうしても村人たちに冒険者やクウちゃんの事を説明しなければならない。


 

 冒険者たちがゴブリンに殺され、凌辱されていたところを助けて蘇生したと言ったらどうなるか。


 信じてもらえないならまだいいが、神の奇跡を起こしたかのように大きな騒ぎになるかもしれない。


 そもそも、この世界に死者を蘇生させる魔法や魔法薬があるのかは分からないし、あったとしても生死の理を超える力というのはそれなりに貴重な能力であることは容易に想像できる。




 もしこの軽トラの能力がこの世界の人々に周知されてしまったらどうなるか?



 牧歌的なセバン村の中で村人たちを助けながら慎ましく生きていけるのならいいが、そううまくはいかないだろう。おそらくは噂という情報は大きな町や都市へと駆け巡り、貴族なり豪商なり王族だったりと、金や権力を握っている連中の目に留まり何らかの干渉を受ける。


 俺の当面の目的はこの世界で日本の家族への仕送りの金を稼ぐことなので、うまくいけば貴族なりの召し抱えとなって金には不自由しなくなるかもしれないが、それほど話がうまく進む可能性は限りなく少ないと思われる。


 多くの場合、金や権力を持っているやつらの行動原理は自己顕示であり既得権益の維持拡大だ。いいとこ二束三文、悪ければ身柄を強制的に拘束されたりしていいように使われる可能性がとても高い。



 それに、問題は俺一人の都合だけにとどまらない。


 こと、地球という星にあっては闇の勢力は傘下達に秘密結社という徒党を組ませ、国や政財界のトップを手下として奴らの都合のいいように作り上げた法や慣習で制度に基づいて金や財や自由を奪っていた。

 この異世界でも同様の仕組みがあるとすれば、光の勢力の一員たるクウちゃんにとって敵を利する行動を強いられてしまう事になるやもしれない。

 

 なので、この軽トラの死者蘇生などの能力は極力秘匿しておきたい




 だが、そのためには今まさに目を覚ましかけた冒険者たちの処遇が問題となる。


 前述のとおり、冒険者たちには死者蘇生という軽トラの能力を秘匿してもらわなければならない。命が尽きた後でさえあれほどまでに弄ばれていたのだ。落命するまでの記憶もあるだろうし、恐らくはどういう順番で誰から命を奪われていったのかも最後に絶命した者は覚えているだろう。


 たとえ俺が「瀕死になって気を失っていたところを運よく助ける事が出来た」と説明しても腑になど落ちない。どうしても、(軽トラ)に死者蘇生の能力があることは開示しなくては齟齬が出る。


 単に軽トラの能力を秘匿するのならば、意識が戻らないうちにゴブリンの集落なり森の中に意識のまだ戻らない冒険者たちを置き去りにしてくれば事は足りていたかもしれない。だが、いくらHPとMPが全快になっているとはいえ、いつ目が覚めるかもわからない、あんな目に合った者たちを魔物のでる森の中に放置するわけにもいかなかった。



 


 それにもうひとつ、俺の隣、軽トラの助手席に座っているクウちゃんの存在だ。


 朝、村を出るときにクウちゃんの存在はこの世界にも村人の意識や記憶の中にもなかった。それが、夕方に村に戻ったときに当然のように軽トラに一緒に乗っていたらどうなるか?


 「そこらで拾った」なんて言い訳をしたとして、たとえここが異世界だとしても、若い女性が森や草原によく落ちているという事はないだろう。

 日本でならナンパでもして連れてきたかもしれないという想像も働くかもしれないが、見た目は10代半ば女の子を連れているのだ。どっちみち俺は人さらいの犯罪者になってしまう。

 ちなみに、正直に「別の世界の高次元から光の球の状態で顕現し、ゴブリンの身体を使って肉体を得た」なんて話ははなからするつもりはない。おじさんは異世界でおとぎ話の作者になるつもりはないのだ。



 これらの問題の解決の為にはセバン村に戻らず別の町なり村なりを目指すという選択肢もあるにはあったが、俺個人の気持ちとして、何も知らない異世界に迷い込んだ自分を受け入れてくれた優しいあの村の人々に何も告げずに去るといった行動はとりたくなかった。


 そこで、この「設定」を構築しておく必要がある。「設定」といっても言葉を変えれば単に嘘の口裏合わせだ。




 大まかに言えば、冒険者たちがゴブリンの集落を見つけた。そこにはちょうど、どこからかさらわれてきた女の子(クウちゃん)が連れ込まれるところであり、冒険者たちは女の子(クウちゃん)を助けるべくゴブリンたちに戦いを挑んだ。順調に討伐していったが、ゴブリンキングが現れて形勢が逆転し冒険者たちは窮地に陥る。そこにたまたま現れた俺と軽トラと協力してみごとゴブリンの集落を殲滅する事が出来たというストーリーのでっち上げだ。


 村の人たちも、俺の魔道具たる軽トラはどれだけ衝撃を受けても壊れないし、荷台に乗れば乗った人の怪我が回復する事ということは知っている。

 なので、傷ついた冒険者たちを荷台に乗せて守り回復させながら、軽トラの突撃と冒険者たちとの合わせ技でゴブリンキングを倒したという話が成り立つだろう。


 なお、クウちゃんはゴブリンにさらわれた恐怖で記憶を失ったことにする。同じく記憶のない俺と一緒の境遇という事で気が合い、記憶の手掛かりが見つかるまでは俺と行動を共にすることになったことにしておく。

 記憶喪失の大バーゲンセールの様になってしまうが、これが一番納得を得られる話だろうと思う。




 俺は軽トラを降り、後ろの荷台に回り込む。


 早速冒険者たちにことの次第を説明しようとしたが……。


 まずは心のケアから始めなければならないようだった。






〇軽トラステータス


名称:軽トラ 異世界仕様車


レベル:12

 HP ∞ ・MP max/20,000 ・SP 11/13・CP 45/65


≪分類≫:魔法道具


≪レア度≫:幻想級


≪運転者≫:橘隼人(専用)


≪固有スキル≫:

・MP駆動

・車体不壊

・成長可能性保持

・搭乗者保護

・積載物保護


≪スキル≫:

・MP自動回復(1)

・火属性魔法(1)

・水属性魔法(1)

・土属性魔法(1)

・風属性魔法(3)

・氷属性魔法(1)

・雷属性魔法(1)

・回復魔法(3)

・光魔法(1)

・精神干渉(1)

・時空干渉(1)


≪カスタム≫:

〈機能系〉

・エアコン(1)

・MP電力変換(1)

・幌(-)

・洗車(1)

・無限積載

・自動積載(1)

・カーナビ(通常)(+)(New!)


〈戦闘系〉

・轢く(1)

・撥ねる(1)

・隠蔽(-)


〈操作系〉

・悪路走破(1)


〈生活系〉

・異世界売店

異世界CDキャッシュディスペンサー



≪恩恵≫:時空


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