97:ダチョウと出禁ちゃんズ
「一応皆にも聞くけどさ……、お留守番、できる?」
「「「おる、すばん???」」」
一斉に首をかしげるダチョウたち。まぁこんな言葉教えたことなかったもんね。まぁ教えてたとしても覚えているか怪しいけれど……。
今後の為に色々と動くらしいルチヤを見送った後。群れの全員を集めてデレにした質問と同じものを投げかけてみたのだが、帰って来たのは全く何も解っていないお顔たち。まんまるでとても澄んだ瞳を見せつけてくれる子もいれば、頑張って思い出そうと頭を捻っている子も。でも開き直って胸を張りながら『わかんない!』って叫ぶのはちょっと違うと思うよ、私。
(まぁ『解らない・覚えていない』ってことを理解してる時点で途轍もない進歩だけど。)
文明社会での生活も長くなってきたが、やっぱり高原にいた時間と比べると後者の方が長い。あの世界じゃどこかに置いて行くなんてただの自殺行為だし、群れ全体で動き続ける必要があった。群れの統率者が一人でどこかに行くなど考えもつかないだろう。私たちは集団で行動することで生き残ってきた種族だし、それは仕方ない。
けれど親としては、子供たちがいつか成長して自立していく時に私が障害になって欲しくない。そう考えればちょっとずつでも親離れの経験を積ませたいのは事実。確かにそこに行きつくまでどれだけの時間がかかるなんて全く解らないんだけど……、そのあたりの責任を放棄しちゃママとして失格だと思うんだよね。
だからまぁ、いい機会だと考えて一緒に頑張りたいの。でもね?
(やっぱり早すぎる気がするなぁ……。)
前世の地球でも、幼い子がいる親が急に出かけなくてはいけなくことはあるだろう。そういう時は一緒に連れて行ったり、頼れる人に面倒を見て貰ったり、お金払って人雇ったり保育園とかにお願いしたり、色々と試行錯誤するのだろう。
けれど私の目の前にいるには、300近いダチョウたち。
可愛らしく、愛くるしいほどおバカで、暴力の化身。
お出かけの目的が『非公式でコソコソ』なのを考えると、連れて行くのは不可。かといってこの子たちを誰かに預ける、例えばベビーシッターさんとかを雇ってお願いするっていうのは……。
「……ウチは多分、そういうの無理だよね。うん。」
このまま私がお出かけした瞬間、どれだけ人を雇おうとも全て蹴散らして無に帰した後、四方八方に私を探しに出てしまうだろう。一応先日音楽家ちゃんことリズムが破壊した城壁は修復済みなので、子供たちの行動を抑制するゲージみたいなのはある状態。けれどリズムが破壊した時から強度はあまり変わってないので……。一度暴走すれば終わりだ。
となると、どうしてもこの子たちには更に一歩成長して貰わないといけないわけで……。
「ままー?」
「どした?」
「ごはん!」
「あぁごめんごめん。それとそこの? ご飯はさっき食べたし、おやつも数分前に食べさせてあげたでしょうが。太るぞ?」
少し脱線した思考を元に戻しながら、子供たちの言葉に応える。
いや食べないよりはずっといいけどさ、ぷくぷくのまん丸ダチョウとか見たくない……、いやごめんちょっと見たいや。でもママ肥満とかメタボとかそういうの色々心配だから、ちょっと運動量増やそうね?
「わかった!!!」
「はい良いお返事。んでお留守番だけど……。ちょっとママお仕事の予定が入りそうでね? ちょっとみんなで私のこと待っていてほしいの。」
「わかった!」
「まつー!」
「まった!!!」
「……数時間レベルなんだけど、本当に大丈夫?」
多分まだ『待つ』という概念を理解してないようで、1秒も経たずに『まった!』と誇らしげに声をあげる子たち。まぁ確かに待った上に、自分は待っていたっていう記憶を保持しながら『ほめてー!』ってこっちに寄って来るのは可愛らしいし受け入れるんだけどさ。本当に大丈夫か……?
そんな私の浮かない顔を見て、何か察することがあったのだろう。群れの一部の子たちがちょっと何か不安そうな顔をしている。まだ他の子たちに波及するようなものではないが、『自分たちにとって何か嫌なことが起きる』と感じ取ったのかもしれない。
普段ならばそんな顔を晴らすために色々と動くのだが……、ちょっと今日は少しだけ踏み込ませてね?
「あのね……、もっとながーい間。待っててほしいの。」
「ながーい?」
「ながい?」
「たくさんね。ママはみんなから離れて、遠くにお仕事にしに行かなきゃいけません。転移で移動時間は0に出来るけど、話し合いをしなきゃだからとても時間がかかります。だからみんなと仲よく、お留守番して欲しいの。たっくさん待てる?」
「たくさん……?」
「うんと?」
「……まま、ばいばい?」
言葉の意味は理解していないようだが、雰囲気でなんとなく“何が起きるか”を理解してしまったのだろう。たどり着いてしまった子の顔がすぐに曇り始め、瞳に涙が溜まり始めてしまう。
「や!」
「ばいばい、や!」
「やだー!!!」
「びぃぃぃ!!!!!」
あぁぁ! ごめん! ばいばいじゃないよ! ちゃんと帰って来るから! ね! ずっといなくなるわけじゃないから! ね!
「やだー!!!」
「ぎゅー! ぎゅー!」
「いっちゃやー!!!」
けれどスイッチが入ってしまったようで、もっと強く泣き喚いてしまう子供たち。しかも私がどこかに行かないようにするためか、急に抱き着いて羽に顔を埋める子まで出てきてしまった。
ざ、罪悪感が……!
「やっぱりこうなっちゃったのね。政治が絡むから強くは言えないけれど、こっちに来てもらった方がいいんじゃない……?」
「まぁまぁお師匠様。我々には解らない高度な取引があるようですし、ね?」
「……貴女の師ではないのだけれど。」
「お姉様のお師匠様であるのならば私の師ですっ!」
そんな声の方に視線を向けると、私の魔法の師匠であるアメリアさんと、どっかから急に湧いてきた私の妹を名乗る不審者のエウラリアが歩いて来てくれている。
実は子供たちに話す前にちょっとアメリアさんに相談してたんだよね。……え、エウラリア? なんか気が付いたらいた感じ。勝手に私の隣に座って相槌打ちまくってた。
彼女たちも、泣きわめく子供たちを宥めようと思ってくれたのだろう。アメリアさんはデレのおかげか群れにもかなり受け入れられているらしく、泣きわめいている子の頭を撫でたりしながら落ち着かせている。同じようにエウラリアも子供たちに近づいたが、やっぱり不審者は不審者。泣きながら『あっちいけ!』とか言われてる。……エウ~? 今刺激しすぎると本気で攻撃し始めちゃうと思うから程々にね?
「お前のことだからご褒美になるんだろうけど、私の子で欲を満たすつもりなら縁切るからな?」
「あ、はい。……んん! お姉様、差し出がましいかもしれませんが、おそらく今のこの子たちに言葉で説明しても理解できるか怪しいかと。」
一瞬蕩けた顔を仕掛けたエウラリアだったが、私の言葉ですぐに整え直し、そんなことを返してくる。
彼女の言う通り、まだちょっと留守番という概念を完全に理解しきるのは難しいのかもしれない。デレ辺りは何となく理解して『私がちょっと離れるけど、ちゃんと帰って来る』ってのが解っているっぽいんだけど、他の子は『私がどこかに行っちゃう』で止まってしまっているようだ。
ダチョウにとって、別離はとても辛いもの。自分で言うのは何だが、私という群れにとって大きな存在がが離れていくっていうのは子供たちにとって耐えがたいことなのだろう。おそらく何度言葉で説明しても、その禁忌がこの子たちの感情を爆発させてしまい、その先に進めない。
……なんか仕事行くの嫌になって来たぞ? マジで国境線開催じゃなくて、獣王国開催に出来ない?
(でも外交だから全部私達の意見が通るとは限らないんだよなぁ。)
ルチヤのことだから色々考えて獣王国で上手く出来ないか動いてはくれるだろうけど、それを相手が受けるかどうかは話が別だ。全部が全部私達の思い通りに行く可能性の方が低い、『希望通りにならなかった』ことも考えて何か対策練るしかないだろう。
「……あぁ、そうだレイス。小さなことから始めてみたらどう?」
「小さなこと?」
「えぇ、例えば貴女が少しだけ隠れてみる、とか。段階を踏んで頑張ってみる、って感じかしら? その間に私達も試行錯誤して対応策を考えるの。」
「なるほど! さすがお姉様のお師匠様! 年の功という奴でしょうか! 私も全力でお手伝いいたします!」
「…………年の功は否定しないけど、貴女役に立つの?」
「もちろんですとも!」
◇◆◇◆◇
というわけでなんか超やる気なエウラリアが『私に考えがあります!』とか言いながらフンスフンスしてたので、任せて任せてみることにしたのだが……。
「何、その後ろの人たち。」
「お気になさらず! ボランティアの方々ですので!」
いや気にするんだけど……。
自称私の妹が連れて来たのは、結構な数の獣人さんたち。どうやら仕事を抜け出して来たのか、途轍もなくすがすがしい顔をしている人もいるのだが……。どこからどう見ても共通点が一切ない。肉食系の獣人もいれば、草食系の獣人もいる。種族や性別、身分すら関係なしに搔き集められたようにしか見えない。というかこの前の執務で私の仕事手伝ってくれた国の大臣さんいない? 他人の空似か?
「はい! そうです! 実は前々からお姉様のご負担を軽減できないかと思い、希望者を集めていたのです! もちろん全員に『不死』を付与済みなので、事故は起きても最終的に労災には成りません! 治るので! しかも皆さん私と近しいものをお持ちなので……。全部『ヨシ』!」
「何が『ヨシ』だよ。」
「まぁまぁともかく、まずは我々にお任せください! ちゃんとオモチャもご用意いたしましたし、数時間のお守りは必ずや……!」
彼女がそう言うと、後ろの方からボランティアの方々? が何かの袋を台車に乗せて運んでくる。見た目と皮の質感からおそらくサンドバックみたいな存在だとは思うのだが……。私の隣にいるアメリアさんがすっごく顔を顰めている。
何かと思い、私も目を凝らして見てみれば……。なんか細かく動いている上に、魔力を発しているように見える。ちょっと耳を澄ませば『ユルシテ、ユルシテ』のようなか細い悲鳴のようなものが。
私の顔色の変化で察したのだろう。即座にそれをエウラリアが蹴りつけ黙らせているが……。
「お、お前。マジで何持ってきたの……?」
「あいや失礼。まだ調教が足りなかったようで……、もうちょっと調整してからお持ちしますね、はい。あぁお姉様はお気になさらず。ほら先日お姉様に歯向かって子供たちに吹き飛ばされた愚かな獅子族の者がいたでしょう?」
あぁ、なんか吹き飛ばされたから消息不明になったっていう……。
「やはり贖罪の機会は必要かと思い、少し“お話”致しまして。ダチョウの皆様と遊んでもらおうと思い持ってきたんですよ。いや本当にいいご身分ですよね。贖罪しながら快楽を得れるなんて。……羨まし。」
「お前マジで何やってんの!?」
一瞬エウの頭を叩きそうになるが、ご褒美になってしまうので何とか押しとどめる。というか!
おま、おま、おま! ほんと何してんの!? 確かになんか私が獣王になったことが気に喰わなかったせいか急に襲い掛かって来た人ではあるけど、子供たちにぶっ飛ばされてそれでお終いって話だったでしょうが!? いやまぁ敵に容赦をしないのは正しいことだとは思うけれど、なんかもう容赦ってレベルを行き過ぎてただの拷問になってない!? さすがに哀れみが勝つよ!? というかなんでボランティアの人たちはそれ見ても無反応なの!?
「いやだってここ獣王国ですよ? 力こそ正義ですし。立法も司法も行政も王の名のもとに成り立ってる国ですから、そんな王に歯向かう存在とか市民でも処理しようと動きますよ。それに一応そっち方面の権限持つ大臣さんが許可出してくれましたし。違法行為じゃないです!!!」
「陛下におかれましては、ご機嫌麗しゅう。」
「やっぱ大臣さんだったか! というかほんとに何してんの!? そもそも、そんなのを子供のオモチャとして持ってくんなバカ!!!」
「ッ/////!!!」
「無敵かほんとにッ!?」
私の暴言に喜んでしまうエウラリア。なんでコイツは、ほんとにもうッ!
「陛下、この場にいる者たちは全て陛下に深い忠を捧げる者たちでございます。近辺の調査も済み、経歴や“思想”の確認も済ませております。身分や立場こそ散らばっておりますが、ぜひご活用頂ければ。」
「あ、うん? ありがとう? ……とりあえずその可哀想な人解放してあげて、うん。子供たちに見せないように。」
「すぐに。」
大臣さんがそう言えば、すぐにボランティアの人たちが動き出し、サンドバックを何処かに運び始める。あ、一応ある程度回復させてから解放してあげてね、うん。私と敵対した人とは言え、流石にそのまま放り出したら野垂れ死んじゃうでしょう? それだと気分悪くなっちゃうし……、お願いね?
さて、とりあえずエウが持ち込んだ物の対処は終わったってことで本題に入ろうと思うんだけど……。つまりここにいるボランティアの人たちをベビーシッターとして雇う、みたいなことを言いたいわけ?
「そう言うことです!」
「却下。」
「なんで!?」
いやお前が幾ら『不死』を付与できたとしても、肉体強度はそのままでしょう? 何かのはずみで誰かが弾け飛んで血まみれになれば、うちの子たち確実にスイッチ入っちゃうじゃん。たぶんそこから『狩り』が始まってトンデモナイことになるよ? うん。
んでそうなったら多分大暴れになるだろうし、この前の脱走みたいに城壁が吹き飛んでもおかしくない。そうなればみんな塵尻に走り去って行っちゃうわけだから……。どう考えてもダメでしょうが。私が頼みたいのはお留守番とお守りであって、鮮血飛び散る猟奇パーティじゃないのよ。
というか幾ら不死でも、スイッチ入ったらこの子たち気にせず“食う”よ? さすがにそれは……。
「陛下。」
「ん?」
「ご褒美でございます。」
「……ん?」
「我らにとって、それは苦痛ではなく褒美でございます故。」
「んだんだ。」
「妹様みたいに全てが対象ではないのですが……。」
「あわよくば血肉になりたい!」
「こう、自分を味わって頂くとか最高ですよね。」
「今日この日の為に、肉質を高め続けて来た……!」
「…………ん??? あーうん。あー……。とりあえずわかった。」
とりあえず全員出禁ね? もちろんエウラリアも。
「「「「「なんで!?」」」」」
いやそりゃだって教育に悪いから……。
人の子供を利用して性的興奮を満たそうとしてる奴らに頼む仕事なんか、ねぇ? 別に癖を否定するつもりはないけど、子供利用する上に誰かに迷惑かけるのはダメでしょうよ。見なかったことにしてあげるから子供たちに近づかないでくれる、普通に。
確かにある意味最適、事故が起きてもお互い同意の上? だから無問題かもしれんし、獣王国の法的に私がOK出したら問題ないのかもしれないけど……。ウチは食人種族じゃないので他を当たってください、マジで。食べれちゃうのは確かだけど、そこは絶対譲りません。カニバリズムはご勘弁!
とにかく皆さんお帰りでーす。みんなバイバイしてあげようねぇ?
「ばいばーい!」
「ごはん?」
「ごはん! たべる! ……たべる?」
うんうん、良く我慢できたねぇ! そうそう、こいつらご飯じゃないから大正解。あとで王宮のシェフさんにおやつお願いしてあげようねぇ! というわけでエウラリア? 後ろの連れてとっとと帰った帰った。同好の士見つけて嬉しいのかもしれんけど程々にしないと姉妹の縁切るぞー。……まぁそもそも完全な他人なんだけど。
「そんなご無体なっ! でもこうやって雑に扱われるのも結構……ッ♡♡♡」
「なんかもう無敵すぎて逆に感心するな、本当。無視とか放置してもお前からしたらご褒美なんでしょ?」
「はいっ♡♡♡♡♡」
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え、エウラリアが何でもしますので! どうか!
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