87:ダチョウの集合
「あ、あの。レイス? 大丈夫?」
「ままたいへん。」「たおれてる」「いたいいたい?」
「だいじょうぶ?」「ごはんごはん」「さがそ!」
だ、大丈夫じゃないけど大丈夫です……。
あと子供たち? ママ大丈夫だから近くにいてね? ほんとに。疲れてたり怪我してる子にごはんをプレゼントしようっていう考えは素晴らしいしママ誇りに思うんだけど、貴方たちご飯探しに出た瞬間に迷子になるでしょ。そしたら私もっと疲れちゃうから、ほんとに。
でも気持ちは嬉しいよ、ほらお礼にぎゅーってしてやるから、おいで。
「「「わーい!!!」」」
思わず疲労であおむけにぶっ倒れていた体を無理矢理起こし、子供たちが飛び込めるように翼を広げてあげる。そうすればノータイムで突っ込んでくるこの子たち。300全員が飛び込んでくるもんだから最初に抱き着いてきた子なんかもうぎゅうぎゅうだ。まぁそれが楽しいのかとてもいい顔で笑ってくれてるけど。
(な、何とか切り抜けれたなぁ。)
私たちが今いるのは、獣王国に入る時に通った大通りの終着点。この国の王宮にある巨大な中庭だ。
少し顔を後ろに向ければちょっとアラビアンな雰囲気を感じさせる王宮と、その中で何かの対応に追われている文官たちの姿が見える。おそらく私たちが来たことに対し、どう対処するかの用意とかそんなところだろう。戦時故に急いで転移して来たけど、これ決まったのついさっきだからねぇ。仕方ない。
(……じゃあなんで事前に勧告してないのに、あんな人集まってたんだ? パレードに来てた人全員暇人だったのか?)
そんなことを考えながら、この中庭を見渡す。
どうやらここは観て楽しむようなスペースではなく、実用性メインの庭の様だ。装飾などが武骨な感じでまとまっていて、おそらく軍の式典とかに使うのだろうと言うことが推測できる。ま、私達300が入ってわちゃわちゃしていてもまだ余裕があるし、結構な人数で使えるんだろうね。
私達というか、子供たちの忘却力を考えると知らない間に町の中へと繰り出して迷子になっちゃう可能性もあるから基本的に町の外で生活する方が良いんだけど……。一時的にここをキャンプ地にしてもいいかもしれない。
(……にしても今回のパレード。問題だらけだったけど、なんとか最後までやり切ることが出来たよね。)
もうほんと久しぶりに生きた心地がしなかった。
初手で観衆を頭から食べちゃう子がいると思えば、餌付けされてる子とか、勝手にどんどん前に進んで行っちゃう子とか、近くにいた人の服飾品が気になって立ち止まっちゃう子とか、衛兵さんが着ていたピカピカの鎧が欲しくなって頂戴頂戴言い始めちゃう子とか、何故か観客に混じって歓声挙げてる子とか……。
昔のプラークでの暴走に比べればまだ可愛らしいものだったけど、数が多いのよ……!
(賢くなったおかげで、色んなものに興味を抱くようになった。だからこそ昔みたいにおいしそうな物一直線じゃなく、思い思いの方向に向き始めたからなぁ。)
団体行動が出来なくなったわけじゃない、かなり時間と労力をかけたが、誰一人欠けることなく最後まで歩き切ることが出来たことが、それを証明している。
同じことを何度も注意しなければいけない子もいたが、この失敗と成功は非常に大きなものと言える。子供たちの成長を意味するような失敗ばかりだったし、ちゃんと町の中を歩くことが出来たってのは子供たちにとっても、私にとっても非常に良い成果。
まぁでも、もうちょっとだけ私に優しくしてくれないかと思ったり……。
「まだ使えるかと思ってたエウラリアもすぐに使い物ならなくなったし。」
「……そう言えばあの子、途中から見えなくなったけどどこに行ったの?」
「自分のこと丸呑みしろってうるさかったから人混みの中に投げ捨てた。」
私のこと見たら子供の世話で一杯一杯なのが解るだろうに、自分の癖を満たすために突っかかってくる妹はいりません。まぁ多分アイツ私の記憶持ってるし、私のこと私以上に理解してるだろうから、そろそろ謝りに来そうなものなん『お姉様ー! お許しー!』……ほらね?
人混みに押し潰された後に踏まれでもしたのだろう、多種多様な足跡を全身に付け恍惚とした笑みを浮かべながらこちらに向かって来る私の自称妹。声色的にガチで反省しているっぽいのだが、顔が顔なので全く信用できない。……まぁ事故防止のために視界に入るほぼすべての存在に『不死』を付与してたのは観てるし、『硬質化』で食われそうになった人守ってたからそれでトントンにしてやる。
とりあえずその顔は子供の教育に悪いから顔洗って整えてこい。
「はいお姉様!!!」
「いいお返事。……はぁ。色々、難しいよねぇ。」
「にゅ?」
そう呟きながら、一番近くにいた子供の頭を撫でる。
ウチの子たちに、なんか急に生えて来た妹、ヒード・ナガン・獣王国による連合国の成立とそれに反抗する周辺国による包囲網、戦の行方に他国家の特機戦力、挙句の果てには私が獣王ときたもんだ。どれか一つでも突き返せるのならばすぐにお返ししたいよ。あ、子供たちは例外ね? 誰にもあげない。
「あぁそうだデレ。そっちはどうだった? お母さん最後までずっと走り回って対処してたからしっかりとそっちの状況把握できてなくてさ、大体うまく行ってたっぽいけど……。どう?」
そう言いながら他の子たちに“おしくらまんじゅう”状態にされていたデレをキュポンと引き抜き、顔を覗き込んでやる。
私は全体のフォローでボロボロ、騒ぎを収めて全員を前に進めるのに必死だったため、問題を起こさなかった真面目ちゃんたちの確認はそれほど出来てない。デレの周辺はそういう子ばかりで、かなり良い感じに仲間たちの指揮が取れていたと思う。
ちゃんと言う通りに出来てた真面目ちゃんたちを思いっきり褒めるのは確定として、その立役者であるデレは彼らよりもたくさん褒めてあげようと思ってたんだけど……。私の意に反して、彼女の顔色はあまりよくない。
「でれ、ちっぱいした。」
「ん? そうなの?」
しょんぼりする彼女の顔をうにうにとほぐしながら、アメリアさんの方を見る。
彼女の説明を聞くに、どうやら群れの半分、150の管理を任されたのにちゃんとできなかったのがショックだったようだ。最後まで統制できてたのは30以下で、残りの120は暴れ回る前の子たちと一緒に暴走しちゃっていたらしい。
成長した今のデレであれば、戦闘時に置いて300を指揮することが出来る。まだアメリアさんの補助は受けているし、私の補助も適宜入れている。けれどそれだけのポテンシャルがあること、そしてこれまでその数を指揮できていたという成功体験が、彼女にはある。けれど今日のデレは、それが出来なかった。
まだ何か大量に数える、と言うことはできないようだが、300と30の数の違い位はこの子にも理解できている。だからこそ彼女にとって今日は失敗だったし、残り全てを何とかまとめ切った私を見て『ママみたいに上手く出来なかった』と落ち込んでしまっているようだ。
「そっか……。デレ? 確かにできなかったのは残念かもだけど、ちゃんと一緒に最後まで歩けた子もたくさんいたんでしょう?」
「……うん。」
「それ、すっごいことなんだよ。」
なにせ今日のみんなはテンションFullMAXだった。たくさん人はいるし、みんな騒いでるし、見たこともない新しい場所。普段の精神状態とは少し違うのだ。確かに全員の意識を合わせ目標を絞った行動を行う戦闘状態の指揮と比べると、各段に難しい。何せみんなフリーなのだから。
私ですら収めることは出来たけど、コントロール出来てないでしょう? そんな中で30も指揮を保たせるってのはほんと凄いことなんだよ。だって私と貴方たちは“親と子”っていう関係性だけど、デレと他の子は“兄弟や姉妹”って感じでしょう? それなのに不満を出さずちゃんとやり切れたのはお母さん凄いと思うな。
ほーら、好きなだけ褒めちゃう。よしよしー!
「……えへへ。」
「あ! ずるい!」
「やって! やって!」
「ごはんまだ?」
はいはい、他の子は順番ねー。あとデレは一際頑張ったからみんなよりちょっとだけ長めでーす。文句言ってもいいけど、拗ねないように。あ、それと腹ペコちゃんはもうちょっと待ってな。お母さん王宮の人にご飯用意してもらえるか聞いてきてあげるから。
とりあえず“よしよし”してもらいたい子は一列に並んでくださーい! せいれーつ!
子供たちの元気な声を聴きながら、全員を撫でていく。デレはまだ少し引きずっている様だったから持ち上げて肩車させておいた、頭にぎゅっと捕まりながらニコニコしてるっぽいし、ある程度このままにしておけばちゃんと回復できるだろう。他の子もやってほしそうに見てるし、こっちも順番ね。
そんな風にみんなと過ごしていると、視界の端。王宮の方に何か動くものが見え、こちらに向かって誰かが走ってきているのが見える。アレは……、ルチヤか。
「ママー! お迎えに上がりましたー!!!」
◇◆◇◆◇
私の前に現れたのは、小さい彼女。ヒード王国という私達が所属する国家の現国王であり、幼いながらも国政を滞りなく行っている天才。ルチヤだ、よく幼女王って呼ばれてるけど……、ちょっと背が伸びたね。
普段はヒードの国主として恥じないようにお姫様みたいなドレスを着ていることが多いのだが、今日は獣王国のスタイルに合わせているようだ、若干アラビア系の民族衣装っぽい感じ、毛皮を持つ獣人向けの通気性を重視した服装になっている。
そんな彼女の呼びかけに答えそちらの方に向けば、自然と頭に乗ってるデレも同じ方向を見ることになる。……まぁご存じの通り、デレとルチヤはあまり相性が良くない。仲が悪いとか、嫌い合っているわけではないし、全く仲良く出来ないわけじゃないのだが……。
「あ! デレ姉様ずるい! 私も! 私も肩車してください!」
「やだ! ここデレの! ルチヤにあげない! あっかんべー!!!」
「あ~~!!! なら私もベー! です! べー!!!」
げ、元気ねぇ。
無理に仲良くしなさいとは言わないけど、喧嘩しちゃだめよ。種族は違うけどみんな家族なんだから。……というかデレ? そのあっかんべーって誰に教わった? 覚えてない? なら別にいいけど、それ使うの禁止ね。あと二人とも女の子が舌出して変顔しないの。綺麗な顔がおかしくなっちゃうよ?
「「はーい!!!」」
……もしかして仲良かったりする? でもまぁいいお返事。花丸上げちゃう。さ、デレはそろそろ交代ね。他の子も肩車して欲しそうな顔してるし、降りてくださーい。ルチヤは悪いけど他の子たちが終わった後ね? こういう順番はちゃんと守りましょう。
っと、それでルチヤ。たぶん私が魔力を込めておいた魔法陣でこっちに来たんだってことは解るけど、何かあったの?
「あ、はい! ヒードで行うべき仕事を粗方終えたので、こっちに転移してきました! ……それに、ママにも会いたかったし!」
そう元気に言いながら、笑顔を浮かべる彼女。
まだ完全な全面戦争状態に陥っているわけではないが、私達連合国は周辺国と戦勝状態になってしまっている。南側は高原という人が住めない暗黒地帯になっているため侵攻を受ける必要はないのだが、連合国西側に位置するナガン王国は北と西、中央部に位置するヒード王国は北に、東側に位置する獣王国は北と東に敵を抱えている状態だ。
ナガンが持つ通信技術で戦場を支え、最大戦力である私たちが転移することでどこにでも出現するって方式で防衛作戦自体はすでに組み上げて行っているらしいのだが、連合国の中で唯一特機戦力を失ってしまった獣王国が一番守りが薄いという状態になっている。
「戦力はママで十分足りると思いますが、後方でのサポート。戦時体制への移行や補給路の選定。国境部隊の整理などヒードではできない作業が大量にあります。本来は時間を掛けてする予定だったんですけど……。」
そう言うルチヤと私が思い浮かべる人物は同じ、そうエウラリアだ。
アレがなんか私に懐いて? 妹になった挙句、元の所属であった共和国を裏切り、その裏切りが即座にバレてしまったからこそ、戦争が起きてしまった。頭サツマな共和国が速攻で戦線を開いてしまったが故に、これに合わせて周辺国が結託して攻めてきてもおかしくない状況になってしまったのだ。
「ヒードにはじいや……、じゃなかった。宰相を残し、北部国境線に大半の軍を結集させています。既にママたちの“食”に関する情報をあえて敵に流し、大量の食糧を輸送しているので相手からすればずっと北にママたちが詰めているように見えるはずです。この時間稼ぎの間に、獣王国の基盤を整えるためにこちらに来た、という感じですね。」
「なるほどねぇ。」
んで実際ヒードの北から敵が攻めて来たとしても、転移ですぐに対応できるから“虚偽”が虚偽じゃなくなる。食料もあるからある程度の滞在も出来るし、その上相手からすれば怖くてもう二度と攻め込めなくなっちゃうってわけか。後は元外交畑の宰相さんが交渉して、良い感じの停戦条約を結ぶ。
あちらさんの特機戦力次第ではあるけど、“ヒード王国”に関しては大大丈夫、ってことだね。
うんうん。さっすがルチヤ。頑張ってるね~。順番待ちになってるから一番最後になっちゃうけど、とびっきり褒めてあげる。あぁそれと、折角だからこっちにいる間は一緒に寝ようか。忙しいだろうけど、ちゃんと息抜きもしなきゃ。それとママに出来ること、手伝えることが合ったらなんでも言うんだよ。
「やった!」
「……でもお母さん、幾つか聞きたいことあるんだけど……、解ってるよね?」
「うぐっ! ……じゅ、獣王の件ですよね?」
そうそう、解ってるじゃん。いや、ママ怒ってるわけじゃないよ、うん。実際そっちの方が統治とかしやすいだろうしね? でもさ……。流石に何も言わず勝手にやってるのはどうかと思うなぁ? 私こっち付いた瞬間大量の人に迎え入れられたんだよ? ありがたいのはそうだけど、もうちょっとママに相談してほしかったな~。
「しゅ、周辺国にママが獣王国にいるって伝えた方が抑止力になるので、その情報を流してたら市民にも伝わっちゃって……。気が付いたら王都に来るっていう噂が集まっていたというか……。」
さらに、獣王国の気質的に強さこそすべてだから私やヒードの人間ってだけじゃ属国化したとはいえ言うことを聞いてくれないんですけど、ママからの信任を受けた。それに私がママの娘ってことを広く公表すればすごく指示が通りやすくなったと言いますか、ママの威光すげぇ! と言いますか……、って続けるルチヤ。
いやまぁそんな感じだとは思ってたけど……。というかそんなに私のネームバリューってすごかったの?
「それはもう! 何せ前獣王を打ち倒した訳ですから! そのせいで各部族の族長たちが毎日『今日獣王様来てない? 挨拶したいんだけど。』って言いに来るほどで……。こっちの文官たちが辟易するほど来てるみたいです。」
「あ~、それ会った方が良いやつ?」
「はい! 出来ましたら!」
はいはい、了解。
……まぁ、私の子として受け入れた子が頑張ってるのに、親の私が何もしないってのはダメだろう。“群れ”がメインである私からすればどちらかを天秤に乗せた時、迷わず群れを取るが、それが仕事をしない理由にはならない。この子が求めるならば、答えるのみだ。
「でもさ、正直王様の振る舞いとか解らないから教えてくれる? ルチヤ。」
「もちろんです! ……あ、デレ姉様も一緒にしますか?」
「あたりまえ! デレもいっしょ!!!」
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『ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~』
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