71:ダチョウと求人
遅れてしまい、申し訳ございません。
「お疲れさまでした陛下。」
「財務の奴、カンカンだったな。最後の方は顔が茹蛸みたいになっていたし。」
「……彼には悪いことをしましたね。」
崩壊したナガン王国の王都、更地となったそこに、新たに建てられた仮設住居。その中では軍師とナガンの王が言葉を交わしていた。
死霊術師に王都を占拠されるという失態を起こしてしまった彼らだったが、レイスの暴力と軍師の知略のおかげで王都の奪還、そしてその復興を始めることが出来た。しかしながら彼らの手元に残ったのは、その戦闘の余波によって崩壊した王宮。そして王都自体にも尋常ではないダメージがあった。
これを前にした彼らは『いっそのこと王宮だけじゃなく王都もフルリフォームしちゃえ!』と計画を立案。思い立ったら吉日と言うことで早速軍師が図面を引き、今後訪れるであろう戦と経済戦争に耐えうる王都を設計。それを見たナガン王が即座に建設の指示を出したところまでは良かったのだが……。
作業開始から数日後、完全武装で両手に大剣を持ち、それを振り回しながら財務大臣が殴り込みに来た。
『テメェら、国壊す気かゴラァァァ!!!!!』
まぁそれも仕方のない話。なにせ軍師さんと王さま。最近とんでもないレベルで金遣いが荒いんですもの。
「レイス殿にやられたプラーク侵攻軍の補填に、虎の子であった魔法部隊の再建費用。そこからレイス殿たちに取り入る為の費用に、ヒード王国で獣王を討つための魔道具の費用。さらにその後の軍の移動費用に、獣王国戦後の投資。そこから我々の王宮の改造費用に、高濃度の聖水の発注費用。最後に王都まるごとリフォーム費用に、王宮の再建費用……。」
「国が傾くどころか爆発四散レベルだからな。財務の奴がいなければほんと危なかった……。」
そう言いながらため息をつくナガン王。先ほどまで完全武装で追いかけて来る財務大臣相手に、軍師と一緒に謝りながら逃げ回っていたせいか、顔から疲労が見える。といっても軍師は国を守るため、そして未来の利益を確保するために動いていたわけであるし、財務は財務で正当な怒りを持ち、そして問題を"かなり危険な方法"だがなんとか解決して見せた。どちらも責めることは出来ない。
「ま、まぁ陛下? 一応何とかなりましたし、獣王国への投資も年が明ける頃には成果が出てくるはずです。直近で急がなければならない案件はもうないですし……、どうですか、一杯?」
「……うむ、良い提案だな。」
軍師が獣王国で行った"投資"。
獣王国は現在、緩やかだが順調に成長している。獣王が死亡した後は何となく雰囲気で『レイスが新しい女王じゃね?』という意識が蔓延している獣王国。しかしレイス本人が王座に就くのを拒否したことにより、『私レイスママの娘だよ! ママに任されたよ! 従ってねー!』と宣言したルチヤ王によって統治されることに落ち着いた。
獣王が統治していたころも、実質的な統治は彼の側近たちが行っていたため、獣王国の民たちも『なるなる、完全に理解した。前とあんま変わらんってコトね!』と納得。そのため統治の移行はそれほど大きな問題には成らなかったが……、経済に大きな変化が生まれた。
「言葉にすればたった一つの項目、しかしながらとても大きなものです。」
元々ルチヤ王、幼女王が統治するヒード王国は商業重視の国家である。国土が小さく特産物も少ない、故に魔物素材の加工や販売によって経済を回し、外貨を入手することで国を保つ。そんな統治方針を掲げていた国である。そんな小国に獣王国と言う広大な領地と、豊かな穀倉地域が追加されたわけだ。狂ったように投資し始める者がいてもおかしくない。
「獣王国の民の気質的に、彼らは狩猟民族と農耕民族のミックスですからね。食料が潤沢にあるからこそ尚武の気質が成り、食料の不足が起きにくいが故に商業が発展しない。それが一気に解放されたわけですから、商人たちは一斉に飛びつくでしょう。……陛下、度は高くありませんがのど越しが良い酒を用意しました。」
「キンキンに冷えているな、助かる。……獣王国の首脳陣もそれを理解しているが故に、国内の経済や体制を崩されぬように外部との取引を控えたり、国家主導で行っていた。それに文句を言う国もあったが、獣王の強さでそれを押し込む。そんなところに商人の国であるヒードが流れ込むわけだ。巨大市場の出来上がり、と言うわけだな。」
「幼いながらも優秀な幼女王殿のことです、臣下の刷新も行ったようですし、弾けるまで膨れるということはないでしょう。こちらもそうならぬように手を出すつもりですし。……戦勝国として何割かの市場を押さえております。時間が経てばそれ相応の利益が見込めるでしょう。」
軍師が所属するナガン王国だが、獣王国との戦いのときの貢献度はそこまで大きくない。というかダチョウの一人勝ちだったのでレイスの総どりであり、ヒード王国の一人勝ちである。しかしながらナガン王国が参戦したことは事実であるし、同盟国として兵を出したことも事実。
軍師はその点をプッシュし、更に『飛び地になるんで領土要らないです。』といったことも相まって新たに生まれるであろう市場に食い込むことに成功した。すぐに利益を上げることは出来ないが、長期的に見れば金の卵を産む鶏である。
ちなみに先ほど財務大臣に捕まった軍師が首を絞められても生還できたのはコレのおかげである。(これがなかったら多分ブチギレた財務大臣にやられてた。もちろん王も。革命されずに良かったね☆)
「……レイス殿がいる限り、ヒード王国以外がこの大陸の平定を行うのは難しいでしょう。つまり武力による勝利は不可能。今後彼女を中心にヒード王国、ナガン帝国、獣王国での連合が出来上がるでしょうが、その中心に立つのもダチョウを抱えるヒードです。」
「直接顔を合わせて理解したが、レイス殿は権力などに興味はないだろう。自身が庇護する子供に重きを置いていた。それを弱点と言えばそうなのだが、誰も竜の逆鱗に触れたいとは思わぬだろう。」
「……左様ですね。」
少し言葉を濁しながら、そう答える軍師。彼が仕える王はそういったが、竜の逆鱗に触れることの恐ろしさを理解できぬ人間を、彼は理解している。そして彼自身もその一人であり、その必要があれば激怒されることを前提に動き、策を練る算段も整えていた。
確実に自身は死ぬだろうが、それでも国のため、王のためならば最善を求め行動するのが軍師だった。
「レイス殿がルチヤ王を自身の子として認めた以上、引き抜きはさらに難しくなりました。つまりヒード王国の優位は彼女たちが死去するまで続くか、より強い強者の登場まで変わらぬと考えられます。……陛下の夢であった、大陸の制覇と"帝国"との戦い、これに至る道筋はかなり厳しいものへと成りましたな。」
「故に、"経済"と"技術"か。」
「はい。時間はかかるやもしれませぬが、それが最適かと。」
酒を飲みかわしながら、彼らは言葉を紡ぐ。
武力で勝てぬならばそれ以外で、この大陸は依然として戦国時代であり、虎視眈々と周囲を伺い、自国の利益を求めて動き続けるだろう。そんな大陸の中央部にできたこの連合、彼らからすれば格好の的だ。広大な領土を持ちながらも動かせる特記戦力は二つ。レイス率いるダチョウと、ナガンの軍師だ。
レイスとそのほかのダチョウたちは切り離して考えてもいいかもしれないが、未だ群れを率いることのできる存在がレイスしかおらず、次点のデレは未だ完ぺきではない。団体で行動しなければならない以上、守れる範囲は限られている。
たった二つの特記戦力で広大な国境線を守れるとは言い難い。いずれ周辺国が早いもの勝ちと一斉に攻めてきてもおかしくない状況だ。おそらくどこか一国が動き出した瞬間、ほぼすべての周辺国がパイの取り分をもとめ走り出すだろう。そして始まるのは、大陸での勝者を決める大戦争。
「(国土は荒れるだろうが、レイス殿の動かし方さえ間違えなければ、そして帝国の横やりさえ防げれば十二分に勝機はある。)」
そして勝利した後、いや勝利できなくとも、ダチョウという最強の武を持つヒード王国に劣らぬように、富と技術を手に入れておかなければならない。単純な力で負ける以上、それを打ち負かせる、もしくは引き分けまで持ち込めるレベルのものが必要だ。
王都の再建というのも、この町を大陸最大の商業都市。莫大な富を生み出す場所へと作り変えるためのもの。
「ま、今は雌伏の時、って奴ですね。場が整うまで全力で周辺国を惑わして、レイス殿の好感度を稼ぐことにいたします。」
「あぁ、頼んだぞ。軍師。」
「御……「伝令ッ!」」
軍師が芝居がかった礼を返そうとしたとき、彼らがいた仮設住宅に一人の兵士が駆け込んでくる。軍師と王が国家方針を定めるために言葉を交わしていた場所だ、半ば酒盛りを始めようとしていたとしても人払いは完璧に済まされている。しかしながらそんな場所に飛び込んでくる伝令、明らかにただ事ではない。
即座に伝令から手渡された書簡に目を通す軍師だったが……。
「…………は?」
◇◆◇◆◇
私、ダチョウ獣人のレイス! こっちは最近伯爵になったけど忙しすぎて家名とか全然考えられないマティルデ伯爵! 今彼女からよくわからん相談受けて混乱してるの!
「や、休み、休みが欲しい。なんかルチヤ王がこっちに遷都するとかよくわからん事企んでいるみたいだし……。なんでぇ。なんでこんな厄介事ばっかり流れ込んでくるのぉ!」
「……え、えっと。ちょっち私も混乱してるから最初から確認して良い? あと落ち着こ? ほれ、水。」
「す、すまない……。うん、ちょっと落ち着いた。思考を整理したいし、最初から頼む。」
えっとまず、私がなんか疲労でおかしくなってるっぽいから保育士さんを雇おうって話になったんだよね? 全然心当たりないんだけど、虚空に向かって私が話しかけてたから『これヤバいんじゃね?』って話になって、本格的に子供の面倒を見てくれる人を募集しちゃおうって話になったと。
「あぁ、おせっかいかも知れぬがこちらでそういう形に纏まった。もし相性などが悪く世話できないとしても、プラークは現在絶賛人手不足だ。人間はどれだけいてもいい。」
あぁ、今絶賛制作中のプラーク大農園とか、料理人さんとか、輸送関係の人手ね。防壁の外に今後訪れるであろうダチョウによる飢餓に備えるために建設中の大農園に、毎日絶賛死にかけてくださっている料理人さんたち、そしてその料理の材料を支えてくれてる輸送関連の方々。う~ん、どこも人足りてなさそう。
輸送はね~、私も転移魔法陣とかで手助けできるかなぁ、って思ってたんだけど……。
「転移の件も頼りにしたいのが、防衛の観点からいくつも設置するのはやめておいた方がいいという話になってな……。」
あの転移魔法陣だけど、"少人数での転移"、例えば一人だけの転移とかだったらアメリアさん級の魔法使いであれば連発できることが解ったんだよね。ほら、転移させる重量によって消費する魔力量が変わるみたいな奴。つまり軽ければ軽いほど消費魔力が少ないのよね。
と言うことは、各地に私が『色んなとこで食料買ってプラークに持って帰るぞ!』と言う風に魔法陣を設置してしまうと、『どこでも行ける扉~』みたいな感じで敵さんが飛んでくる可能性が高まっちゃうので防衛のことを考えると難しいよね、ってコトみたい。
「そうなると、どこか一か所に集めて一気に輸送する必要があるのだが、そうなるとどっちみち輸送に関わる人手が必要になって来る。」
「なるほどねぇ。……それに、私も私であんまり子供から目を離したくないのよね。だからそういう輸送は出来るだけ数を控えたい感じ。」
ウチの子供たち、賢くなってくれたのはいいんだけど、ちょっといたずらと言うか、好奇心が爆発して好き勝手し始める子が増えちゃってね……。この前も食糧庫の襲撃とかしちゃう子もいたし、私のアクセサリー食べてみようとしてる子もいた。
相変わらず自分の影を敵だと思って喧嘩を売り、影を攻撃したと思えば地面を蹴っちゃって、いつの間にか穴掘りに移行してる、って子もいるんだけど、ヤバい子は結構色々しちゃってるんだよね。
一瞬、デレにお願いしてある程度動きを制限してもらおうかな、って考えたこともあるんだけどね……。デレは他の子よりも賢いってだけで、別に一番お姉ちゃんだとか、そういうわけじゃない。そもそも私たちダチョウの間にあるのは母と子供の関係だけで、子供の間に優劣や順番は決まってない。みんな平等だ。
(デレが自分からやりたい、と言ったことでもないのを任せるのは親として駄目でしょうよ、って話。最近アメリアさんに魔法を教わろうとしてるみたいだし、デレはデレの好きなことをするべきだ。)
ホントはね、ウチの子全員に好き勝手させたいんだけどね……。流石にアクセサリーとか飲み込んでお腹痛い痛いに成ったら可哀想だし、誰かに迷惑かけるのなら止めるべき、あと魔法陣みたいなの描いちゃって暴発させてるあの子も止めた方がいい。この前明らかに転移しそうな奴描いてたし……。
「となるとまぁ、最初の話。私の手伝いをしてくれる保育士さん的な人? それが必要だよね、って話になるわけだ。」
「あぁ、故に募集を掛けてみたのだ。」
そう言いながら、履歴書っぽいのを取り出すマティルデ。人相書きみたいなのと、その人の経歴が書いてある紙だね。さっき『明らかにスパイのような奴や、適性の無い人間、信用が薄い人間は弾いた』って言ってたからまぁ書類選考を勝ち抜いた皆様なのだろう。
……あ、安心してね! マティルデはお祈りメール送った人にも『こういう貴方にあったお仕事があるんですが、どうです? 貴方なら即採用ですよ!』って書類もついでに送ってくれてるみたいだから! 落ちても安心! みんなもプラークを支える人間になろう! ……まぁでも料理経験のある人は、速攻で"ごはん!"料理人さんたちが『新しい"仲間"だァ!』って言いながら半ば拉致みたいなことをして、確保するらしいけど。
ウン! レイスチャン、ナニモシラナイ!
「で、問題がコイツだな。」
そう言いながら、マティルデが一組の書類を手渡してくれる。そこに描かれているのは、髪を伸ばしこの世界の聖職者のような服装をした女性。注意書きを見る限り髪色は金。経歴を見ると元聖職者なのだという。
「それで、その書類の下の方を見て欲しいのだが……。」
書かれているのは、彼女の地元での経歴。なんでも過去ナガン帝国と戦争をしていたというトラム共和国の出身らしい。ナガンの北に位置する国家であり、そこで聖職者として働いていたが、途中で職を辞し戦場へ。当時軍を率いていたナガンの軍師とバチバチにやり合っていたそうだ。
……まぁそれだけならまだいい。一応軍師に『こんな経歴の奴来てるけどダイジョブ?』とは連絡を入れるだろうが、仕事をしてくれるのなら経歴など正味関係がない。面接なりなんなりをして、ウチの子との相性や私が信頼置ける人物かを判断し、OKだったら保育士として頑張ってもらうだけ。そう、それだけなんだけど……。
この履歴書ね、本人自由記入欄みたいなのがあるんだけどね……。
『トラム共和国で特記戦力やってました! 二つ名は『不死』です! 仲間を絶対に殺させないことと、ナガンのクソ軍師に吠え面をかかせるのが得意です! 夢は軍師の臓物を神に捧げる事! なんでもするのでよろしくお願いしまぁーす!』
「……これ、マジ?」
「マジです……。」
なんで他国の特記戦力が知らんうちにプラークに来て就活してるの……???
「い、一応あの"通信"の魔道具を使い、軍師殿に連絡を取ったのだがな?」
『すいません、なんかそっちに行っちゃったポイです。トラム共和国からナガン王国を経由して、そちらに向かったようなのですが、ちゃんと"旅行客"として入国申請だして、現場の者が『特記戦力! コワい! おたしゅけ!』と脳死で許可出しちゃったせいで止められませんでした。後、死ぬほど私恨まれてるので当分そっちにはいけません。本当に申し訳ない。』
「と、返答された。滅茶苦茶申し訳なさそうな顔しながら『必ずお詫びの品を送りますので……』って言ってたしマジだと思う。」
「えぇ……。」
な、何やってるのほんとに……。と言うかトラム共和国だって? すごいな。自国の最高戦力をスパイとして堂々と送り込んできた、ってコトでしょ。マジで頭おかしいな……。というか国境沿いの人たちも可哀想に。言ってみれば私と子供たちがガチ戦闘モードで『通るけど、何か?』みたいなことされたわけでしょ?
「い、いや、それがな? 軍師殿に聞いたところトラム共和国の方からな? 『なんかウチの特記戦力どっか行ったんですけど、知りません? 軍師殿滅茶苦茶恨まれてましたし、殺しに行ってませんか?』という連絡が来たみたいで……。」
「えぇ……。」
なんか、もう。色々大丈夫か???
「あ、ちなみにだが、この『不死』殿の直接的な戦闘能力はそこまで高くないらしいのだ。準特記戦力以上はあるが、特記戦力とは言えぬ程度のものらしい。しかしその身に宿す"異能"が化け物じみていてな……。なんでも何十万という兵士に"不死"の状態を付与できるとのことだ。自分にも付与できるようで、槍で全身貫かれてもスキップしながら敵陣に突っ込んでいったこともあるらしい。」
「えぇ……。」
「付け加えると、後30分後に彼女の面接が控えてる……。」
「えぇ……。」
〇レイス
えぇ……。bot
〇マティルデ
どうしたらいいか解らん。仕事増やすな!
〇軍師
昔、不死ちゃんのいる共和国と戦争になった時、彼女含め不死の兵士たちをメタメタにやっつけ、最終的に一月ほど生き埋めにして無力化した。そのため滅茶苦茶恨まれてる。和平の際に顔を合わせる機会があったそうだが、『お前を殺す』(デデン!)をされたらしい。
〇不死ちゃん
元聖職者、女版デッドプールみたいな性能であり、不死を他人にも付与できる。ダチョウが気になったので遊びに来たら求人が貼ってあったので応募した。『わたしは不死だからダチョウのことがよくわからなくて、"ダチョウを知る"ために旅をしてるんだ。その途中で"保育士の求人"を知ったんだよ。』
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