70:ダチョウとたんけん
前回、ママとマティルデさんが"繁殖"というビッグイベントを前に戦々恐々としていたわけですが、その元凶であるダチョウちゃんたちは何も気にせず楽しい毎日を送っています。
『かりごっこー!』が好きなダチョウちゃんもいるので、戦いの無い日々にちょっとだけ退屈している子もいますが、それでも仲間たちと一緒に走り回ったり穴を掘ったり昼寝するだけでもう幸せいっぱい。毎日なんかよくわかんない人たちがご飯を用意してくれますし、気になったことや見つけたものをママに報告しに行けばとっても褒めて貰えます。
高原にいた頃は、現在自身の死体を積み上げている死霊術師ちゃんみたいに、いつ吹き飛ばされてもおかしくないような生活をしていたためずっと緊張状態でしたが、ママが連れて来てくれたここは全然ヤバそうな敵がいません。ちょっとお出かけすると『なんかつよそう』な敵が出てくることもありますが、それも時々のこと。ダチョウちゃんの記憶力では覚えられない頻度です。
外敵もなく、ごはんも常に誰かが用意してくれる。そんな状態でダチョウちゃんたちは何をするか。少し気になるので、ちょっとそこら辺を歩いていたノーマルダチョウちゃんに話を聞いてみましょう。確かママに昔名前を付けて貰ったけどそれが何を意味するのか全然解らずに忘却した子ですね。
というわけで、今から何をしますか?
「うに? ……あ! やる! たんけん! やるー!」
なるほど、探検ですか! それはいいですねぇ。……ところでそんな難しい言葉誰に教えてもらったんですか?
「? わかんない!」
ですよね、デレちゃんならまだしも一般ダチョウちゃんにそんな難しいことを聞いても解るはずがありません。しかもデレちゃんでも正答率一割程度ですから仕方のないところ。……ま、基本的にダチョウちゃんたちの語彙はママから教えて貰ったものです。おそらくこの個体もたまたまママに教えて貰った単語を覚えていただけなのでしょう。
とりあえず『ごはん』以外の単語を覚えていたダチョウちゃんをヨシヨシしてあげたいところではありますが……、そもそもダチョウちゃん? "たんけん"が何を意味するか解ります?
「?????」
……ありゃ、この感じさっきまで自分が何を言っていたかすら忘却したお顔ですね。クリクリお目目とぽっかり空いたお口。可愛いですけどお話が進まないのは困りもの。ちょっとだけ教えてあげましょう。
ついさっきまで貴方は『たんけん』をする予定でした。ちなみに『たんけん』というのは自分の興味を引く物を探しに行くことですよ。とりあえず何か探してみましょう。
「おぉ~。さがしゅ! ふふん~!」
ご機嫌示す鼻歌を奏でながら意気揚々と出発するダチョウちゃん。おそらく数秒後には何をしていたのか忘却しているでしょうが、楽しい気分であることは変わらないでしょう。高原にいた頃に比べ多少賢くなったことは事実ですが、未だ記憶力に難があることも事実。時たま過去の記憶を引き出しから引っ張って来ることはありますが、絶望的に短期記憶の保持能力がありません。
「さがしゅ~♪ ……うに?」
探検とは何か、探すとは何か、そもそも何を探せばいいのかすら忘却したダチョウちゃんが少し歩くと、前からたくさんのダチョウちゃん。仲間が走って来るのが見えました。みんな『わー!』と言いながら走っています。"狩り"の時に上げる少々戦意が見え隠れする可愛いながらも勇ましい『わー!』ではなく、単純に走ることを楽しんでいる時の『わー!』ですね。かわいい。
「ぷっぷー!」
「「「うにゅ?」」」
さっきまで探検をしていたダチョウちゃん、何やらみんなが楽しそうだったので声を掛けてみます。何の意味もない可愛らしい声ではありますが、そもそもダチョウちゃんたちに言語は必要ありません。仲間が声を上げているのを見れば、自然と足を止め一斉に集まり始めます。
その場に集まったのは探検していたダチョウ、"探検ちゃん"を含めて15人のダチョウちゃん。一般的な群れの数に近いちょうどいい人数です。ここにデレちゃんやママがいれば文明的な会話が行われた可能性が高いですが、ここにいるダチョウちゃんたちはそこまで賢くありません。
彼らは簡単な言語を用いて会話することもありますが、その時の気分によって雰囲気や擬音でコミュニケーションを取ることもあります。今回は後者の様ですね。
「ん~?」
「ぷっぷー!」
「ざんじばる!!!」
「「「???」」」
……おっと、何かよくわからないことを叫んじゃった子がいますね。
たまにいるんですよね、謎の単語を叫んじゃう子。基本的に彼らの造語であることが多いのですが、たまに高原時代のママが会話相手求めて虚空に喋っている時の単語から抽出してくることもあります。
これはおそらく他のダチョウちゃんたちとまともに会話することができず若干病み始めた結果、かのロボットアニメの内容を口頭でずっと朗読していた時の単語でしょう。たまたまそれを覚えていて、響きが気に入って覚えてたんでしょうねぇ。
「う~?」
「わかる?」
「わかんにゃい!」
「あっしまー!」
ダチョウちゃん、それ二作目の奴ですよ。アルファベットの最後の奴が付く作品です。
おっと、そんなことを話していると新たな参加者がやってきましたね。とっとこ足を動かしながらやって来たのは……。食いしん坊のダチョウちゃん、おくびにソーセージを巻いてオシャレしたり、食料貯蔵庫に侵入した子ですね。どうやらみんなが集まっているのが気になってやって来たようです。
「なに~?」
「「「???」」」
「……あ! そうだ! たんけん!」
食いしん坊ちゃんが問い掛けますが、みんな自分が何をしていたか覚えていません。しかしながら探検ちゃんが上手く思い出すことが出来たようで、先ほどまで自分が何をしていたのかを発表します。
「おぉ~!」
「しゅごい!」
「たんけん! たんけん!」
ダチョウちゃんたちは難しい言葉を言った探検ちゃんに拍手を送ります。さっきのよくわからないロボットの単語には反応しませんでしたが、彼らの小さな脳みその中にママが「探検」という言葉を使用した情報が残っていたようです。ママが使うような難しい単語を扱えたということは、ダチョウちゃんたちの中では拍手喝采の出来事。口々に探検ちゃんに向かって誉め言葉を投げかけます。
……でもまぁその探検ちゃん含め全員が単語の意味を理解していないみたいなので、私の方で補足しますね。
探検ってのはこうこう、こういうものですよ~。
「「「へぇ~。」」」
「……いまのだれ?」
「うに???」
「わかんない!」
「……いっか!」
「うに!」
「たんけん、たんけん~!」
「さがす! さがす!」
「なにを?」
「……ごはん!!!!!」
そう叫ぶのは、食いしん坊ちゃん。どうやら小腹が空いていたようで、みんなの声をかき消すような大声でそう叫びます。ちょっと遠くにいたママも「何かあった?」と視線を向けるほどの大声。みんな少しだけびっくりしますが、「ごはん」という単語は数多くのダチョウが真っ先に覚える単語であり、使用率もママと並ぶほどに高いものです。即座に全員の頭の中に彩り豊かな『ごはん』の図が浮かび上がります。
「ごはん!」
「ごはんだ!」
「さがす! さがす!」
「うに! いくら!」
……え、その"うに"ってウニだったんですか? と言うかなんでイクラも知ってるの?
「にゅ! しってる! ごはんある!」
そう食いしん坊ちゃんが声を上げ、プラークの防壁の外に建築された一つの建物を指さします。そうです、前回何人かのダチョウちゃんたちが発見し潜入したことで中にあった美味しい作り置きの料理たちを食い散らかしちゃったあの貯蔵庫です。
……あれ、もしかしてコレマズい感じですか?
「ほんと!」
「いく! いく!」
此方の懸念を他所に、次々と賛成の意を表していくダチョウちゃんたち。こうなればもう誰も止められません。全員の目が一斉に同じ建物を見つめ……
「「「わーーー!!!!!」」」
発進です。
ダチョウちゃんの足でほんの十数秒。即座に目的地に到着した彼らは食糧貯蔵庫の前に陣取ります。少し遠くの方からママが状況を把握し、ロケットスタートを決めたような音がしましたがそんなもの食欲の前には無力。ごはんスイッチが入った彼らには目の前のごはんのことしか頭にありません。
貯蔵庫の扉、ここを開ければ目の前に広がるのはいっぱいのごはん。そう思いながら、以前ママがしていたように扉の片方を足でゆっくりと押してみますが……。
「あり?」
「うに?」
「あかにゃい。」
「あかにゃいねぇ。」
どうやら鍵がかかっているようです。よくよく観察すれば解りますが、ドアの取っ手の所に大きな南京錠みたいなものが引っ掛かっています。これまでは鍵なんて付けていなかったのですが、ダチョウによる襲撃を受けたことで防犯設備の向上が行われていたようです。
「む! おこった!」
ですがダチョウちゃんたちからすれば、そんな鍵ただの紙切れと何も変わりません。お腹が空いて来たのでごはんがありそうなところに来てみれば、目の前に存在するのは行く手を阻む扉。この前は軽く押すだけで中に入れたのに、今日の意地悪な扉さんは押しても中に入れてくれません。
もう少し賢ければ鍵の存在に気が付き、ちょっと噛みつくことで破壊とスマートに問題を解決できたことでしょうが、ごはんモードのダチョウにそんなもの理解できるわけがありません。食いしん坊ちゃんは、いつもは少し押せば開けてくれる扉さんが意地悪して入れてくれない、と考えてしまいます。
そんな時、ダチョウちゃんはどうするか。
みんなー、わかりますかー? あ! その顔はみんな解ってる感じですね。では皆さん一緒にやってみましょう!
せーのっ!
「「「わー!!!!!」」」
そうですね、暴力です。
ダチョウちゃんたちの突撃は瞬く間に扉を破壊し、内部へと侵入することに成功します。
目の前にいた意地悪な扉さんは消し飛んでスッキリ、そして貯蔵庫には案の定ごはんがたっぷり。一つ障害を乗り越えることで、その達成報酬としてご飯を手に入れる。素晴らしき成功体験をすることが出来たわけですね!
そんなダチョウちゃんたち。美味しそうなご飯を目の前にクリクリお目目をキラキラさせますが……。
背後に、とてつもなぁ~く。ヤバい気配がします。
そう、これは。前にも感じたことのあるような感覚。
ガチで怒ってる時のママです。
「なぁにしてるのかなぁ?」
一斉に振り返るダチョウちゃんたち。ぶち壊したはずの扉の前にいるのは、全身の羽が逆立ち真っ赤なオーラが漏れ出たこわ~い雰囲気のママ。お顔は笑っているはずなのに全然楽しそうじゃありません、というか無茶苦茶怒ってます。こわいです。おしっこちびりそう。
「「「ご、ごめんなさい~~~!」」」
その後、みっちり絞られましたとさ。
ちゃんちゃん。
「あと、そこの。お前も説教な? 正座。」
あ。はい。ごめんなさい。
〇愉快なダチョウちゃんズ(命名ナレーター)
・探検ちゃん
好奇心旺盛、とりあえず興味を引くものを触ったり蹴ったり口に入れたりする。先日ママのアクセサリーを発見し丸呑みしようとしたためママに怒られた。『手の届かない場所に隠してたのにどうやって見つけたの……』とはママの談。
・食いしん坊ちゃん
とにかく食い意地張ってる子。時たまお腹が痛くなるまで食べ過ぎてママに怒られちゃう子でもある。仲のいい他の食いしん坊たちと同じように最近体重が増えてきているのでママ主導のダイエットトレーニングを後日受けることになった。ママは『太り過ぎると足やったりするからね……』とコメント。
・海産物ちゃん
ママが過去に話した海産物の名前を思い出した子、うにはあの黄色いウニのことではなく、疑問や言葉にすることができない感情を表している単語であるため本人は何を言っているか理解できていない。イクラもママが過去に『なんかいくら食べたいなぁ、あのプチプチした奴』と言っていたのを偶々覚えていた。
・サンラ〇ズちゃん
語彙にガン〇ム系列の単語が混じってしまった子。ママが精神崩壊しかけていた高原時代の単語を数多く覚えており、時たま「きゅべれい!」と叫んだりする。間違えて覚えているのも多々あるため、原形をとどめていない物も多い。ママから若干『どうにかしてアニメ本編をこの子に見せられないかな……』と思われている。
「……なぁ、アメリア殿。」
「? どうしたのマティルデ。急に伯爵になって疲労困憊?」
「あぁ。ほんと私何もしてないのに……。っと、その話ではない。先ほどな、レイス殿が子供たちに説教をしていたのだがな。」
「食料保管庫のドアを壊しちゃったって奴ね。聞いたわ。」
「その時な、何故か虚空に向かって説教をしていてな……。『見てたのなら止めろよ』とか『子供に変なこと教えるな』とか『というかそもそもお前誰だよ』とか言ってて……。やはり疲れが溜まっているのではないかと。」
「あ~……。やっぱり300もの面倒見てると大変なのね。休ませなきゃ。」
「我らだけでは限界もあるし、本格的に保育士の雇用を進めた方がいいかもしれぬ。」
「そうね。すぐにやるべきだと思うわ。……貴女も大変そうだし、手伝えることがあったら言ってね。」
「恩に着る。」




