65:ダチョウと死ぬ人
「……やっぱり、習得できてたのね。」
「わかる?」
未だ収まりそうもない食欲を持て余しながら、エルフのアメリア師匠と言葉を交わす。ナガン王都の奪還作戦の後、まぁ色々あったけど私にできることは正直何もないということで大人しく後方へと下がらしてもらった後、食事をさせてもらっているというわけだ。ウチの子たちはもうみんなお腹いっぱいみたいなんだけど……、私はまだ全然ハラペコ。めちゃエネルギー使ったからねぇ。
そんなことを考えながら、私の魔法についての話を彼女と進めていく。
「それは、ね? 魔力操作の質を見れば誰でも解るわ。……ただそれに至った経緯に私がなんて言ってあげればいいのか、正直解らないわ。」
「笑えばいいと思うよ!」
「笑えると思う?」
「デスヨネー。」
ま、正直笑ってもらった方がありがたいんだけど、『敵に体を乗っ取られそうになった上に、人格まで塗り替えられそうになっちゃった! てへぺろ!』なんて言われたらもう何も言えないよね。私も子供がそんなこと報告してきたらガチで心配するし。
と言っても私からすればもう全回復してるわけだし、耐性も手に入れたっぽいから今後同じような状態に陥ることもない。なんで心配してもらわなくても大丈夫なんだけど……、そうもいかんよねぇ。最初にぶっ放した魔力砲がなんか物質化してあの王宮に止め刺しちゃったこともあるし、おとなしく受け入れるしかあるまいて。
(ま、こんな心配してくれたり、私を想って怒ってくれる人ってとっても得難いからね。感謝して受け止めないと。)
「はぁ。まぁ貴女の規格外さは前から知っているけれどね……。そんな面倒な相手だとは思ってもみなかった。」
「確かにねぇ、死霊術師ではあるけれど完全に配下に全部任せるようなタイプじゃなかった。ちゃんと殺せたし、もう会うことはないだろうけど……。もっかい戦うのはイヤかも。」
戦って理解したことだが、アイツはおそらく準備に時間を掛ければ掛けるほど面倒になるタイプだった。もし奴があの時あの場所で私の相手をしたのではなく、もっと後。それこそ完璧に私を殺しうる準備を整えた後だったりすると……、無理だったかもしれんよねぇ。実際一回やられかけたわけだし、高原で理解してることだけど今後も精進しないと。
「……今後は貴女が新しく手に入れた力、その習熟と発展をメインでやっていくことになると思う。これまでは基礎の基礎だったけれど、魔力操作がそこまでできるようになったのなら選択肢は無限に広がって来る。魔力量を考えれば、適性のない魔法でも無理矢理使うことができる。頑張りましょう。」
「だね。悪いけど、今後もお願いします。」
そう言いながら、大皿に乗っていた料理を全て口に運ぶ。載っていた物たちが雪崩のように落ちて来るけれど、それを全て口で受け止め美味しくいただく。う~ん! おいし! 見た感じ宮廷料理人っぽい人とか結構いたし、味がなんか繊細でデリシャス! かといって量がないわけでもない。あはー! 頑張って戦った後のごはんは美味しいねぇ!
「お、お待たせいたしました。きのことガーリックのパスタになります……。」
そんなことを考えていると、荷台を引きながらお運びさんたちが巨大なパスタを持って来てくれる。見た感じ人間二人分ぐらいの体積が大皿の上に君臨してるね、う~ん、いい香り。あ、それ重いでしょ。自分で運ぶから置いといていいよ? あ、あとフォーク類とか持てないからさ。ちょっと下品な食べ方になっちゃうんだけど……、見ないでね♡
「も、もちろんでございます。」
「あ、あと最初の方に頼んだビーフシチューあったでしょ? あれもう鍋ごと持って来てくれればいいからさ。お願いね。」
「は、はい! ただいま!」
私がそういうと、逃げるように厨房の方へと走って行くお運びさん。いやごめんね? ほんと。でも全然空腹が収まらなくてさ……、今日だけで魔王が5ダースぐらい吹き飛ぶレベルの魔力消費しちゃったし、脳だけじゃなく全身も一回作り直してる。その上心臓貫かれたりとか、業火で全身常に焼き続けてたようなもんだから滅茶苦茶お腹減っちゃってさ……。ハンガーノックとかにはならなかったけど、とんでもなくエネルギー消費しちゃってるんだよね。
「だからそんな化け物を見るような眼でこっち見ないでくれる、師匠?」
「無理よ。……どんだけ食べたの貴女。」
「え~っとね。多分ウチの子たちが食べた量はさっきので超えたはず。」
そう言いながら、パスタの山に顔を突っ込む。前世の両親が見たら顔をしかめるようなテーブルマナーであるが、勘弁していただきたい。ダチョウの翼は細かいものを持てるほど器用じゃないんですよ……。フォークもってくるくる回してお上品に、とか絶対ムリ。あと空腹がヤバいのでそんなことしてる暇があったら何か腹に詰め込みたい。
「食べるスピードもおかしいし……。デレ、真似したら駄目よ? 喉詰まらせちゃう。」
「マネ? ……できにゃい! むり!」
あとママちょっと怖い! だいじょうぶ!? と言ってくれるデレ。あはは、まぁいつもみんなと同じかちょっと多いぐらいしか食べないしねぇ。高原じゃもっぱら子供優先で飯の配分とかもしてたし。私ががっついてたらビビるか。でもごめんねデレ、ママのお腹の中にいる10人くらいの魔王さんたちがお腹空いたってピーピー喚いてるの。やっぱりママだからちゃんと食べさせてあげないといけないのよね……。
『え、俺たちのせいっすか?』
『なんもしてないというか、任された仕事しかしてないんですけど……。』
『我々を言い訳に使わないで頂きたい。』
うるせ。あと魔力如きが勝手に人格もって反論してくるんじゃねぇ! 黙ってろ。
「……話を戻しましょうか。貴女のこれからの魔法鍛錬の話。」
「そやね。」
アメリアの声に相槌を打ちながら、完食しきったパスタの皿を後ろに積み重ねられた山の一つに重ねる。同時にワイン樽を片翼で持ち上げ、割った上蓋の隙間から中の真っ赤なワインを流し込んでいく。
「これまでは基礎訓練、自分の中で感覚を掴んでいくようなものだったけれど。ここからは知識も詰め込んでいきましょう。一応教本も用意してあるし、昔の伝手を使えば貴女がやってみたい魔法の指南書を集めることもできるわ。」
「なるなる。」
「貴女の適性的に火がメインにはなっていくと思うけれど……。一度適性を見て貰って、より高い適性の属性から色々修めていきましょう。例え実戦で使えなくても知識は力になるわ。」
頷きながら彼女の話を促す。確かに、知識と言うのは力だ。高原で何もしなければ基本死ぬしかないし、さっきの死霊術師との戦いでも私の知識不足が追い込まれた要因の一つと言えるだろう。アイツの血の魔法とかを理解していれば他にもやりようがあったはず。それにあの時は圧倒的な魔力差と回復能力でなんともなかったけれど、あの魔力を阻害してくる魔法たち。あれを最初から連発されていたら死んでいた。
(『不和の戦槍』、だっけ。あぁいうのも知識があれば対策なんか立てられるのだろう。)
高原を見れば理解できるが、私のような力でゴリ押ししているようなタイプは、更に上の力を持つ奴にゴリ押しされて死ぬ。獣王に死霊術師、こっちにも高原レベルに戦える奴はいる。私の名、ダチョウの名は今後どんどん周辺国に広まっていくだろう。私以上の相手に対抗するためにも、まだまだ力がいるってことだ。
「といっても……、当分は休養に充てなさい。」
「……え? てっきり今からなんかする、ってノリかと。」
「さすがに体を乗っ取られかけた人間に今すぐ鍛錬しろとは言えないわ。それに……。」
私の疲労も抜けてないしね、と続ける彼女。そう言いながら彼女は自身の魔力を見るように促してくる。
言われた通り目に魔力を流し、彼女の体内を覗いてみると……。ほとんど魔力が残っていない。更に残っている魔力もとても弱弱しいように感じられる。普段はもっと力強いというか、絹の糸のように滑らかな魔力が川のように流れている。確かにこの疲弊具合を見ると何か教わっている場合ではない。というか私よりも師匠が休養を取るべきでは???
「正直今すぐ休みたいわ。けどね……?」
「……けど?」
「貴女、あの魔力砲で王宮を全壊させた件。どう落とし前付ける気かしら。」
その言葉に、思わず『ゲ』という声を漏らしてしまう。
言葉にされなくても解る。『しんどいけど私が言わなければ貴女何もせずに帰ろうとするでしょう、いくら軍師やナガンへの好感度が低くてもそれは駄目なのは解るわよね?』という顔をしている。
「い、いや~。その件はですね? 軍師に許可貰ってたというか、なんと言いますか……。」
「親が誰かの物を壊して、謝らないというのは色々問題なんじゃない?」
「うぐッ! で、ですよね……。」
「それだけ魔力を扱えるようになったのなら、単純な土木作業でも力を発揮できるはずよ。貴女に魔力切れはないようだし……。空腹を満たしたらとりあえず手伝いに行ってきなさい。子供たちはデレと一緒に見といてあげるから。」
「は、はーい。」
◇◆◇◆◇
さて、ナガンの王都でレイスママがヘルメット片手に土木作業を始めたころ……。
リマ連合。ナガン王国の西に位置し、高原にも接している場所にいる死霊術師は頭を悩ませていた。
「……なんか三回ぐらい死んだんですけどぉ。」
【死亡カウンター:3】
なんと死霊術師ちゃん、意気揚々と高原へと転移したのはいいのですが転移した瞬間に即死するという現象に見舞われておりました。幸い復活は問題なく成功し、三回とも先ほどと同じように血で満たされたバスタブの中で目を覚ましております。自身の復活方法に不具合がなく、同時に回数を重ねても大丈夫であることを確認できたのはよかったのですが……。
「見えたのは豊かな大地、ですが見えたのは一瞬だけで確実に上から大きなものに叩き潰されるような感覚……。」
高原へと転移した瞬間に、高原の洗礼を受けるという悲しい出来事を繰り返しておりました。
体に残る痛みや、最後の記憶を考えるに何かに叩き潰されたのは確かです。一回目の死によってソレを理解した彼女は即座に自身の体に耐衝撃耐性や、魔力による硬質化を施して出発したのですが……。やはり同じように死にました。カワイソ。
そのため更に自身の硬度を上げるため、拠点に保管していたアンデッドたちから魔力を巻き上げ魔王一人分まで強化。その魔力によって身体能力すらも向上させてもう一度同じ地点へと転移したのですが……。やはり同じように死にました。
「転移魔法自体は正常に作動しているっぽいですよねぇ……。となると攻撃を受けて、死んでいるわけですか。……うふふ、明らかに獣王よりも強い存在ですねぇ。といってもこれ以上は資源の浪費。場所を変更して、あちらに拠点を作れるまで頑張りましょうか。」
死霊術師の目標は、高原にて最上の素材を手に入れること。先日のレイスとの戦いで見せた通り、彼女は単純にアンデッドを部下として使うだけではなく、それを消滅させることで大幅なバフを自身に掛けることができる。そしてそのバフは消滅させた存在の強さに比例すると言うわけだ。故に、高原という最上の環境でなんとしても死体を手に入れることが必要になって来る。
(とりあえず、私を三度も殺した存在は放置しましょう。どこの生態系でも同じですが、強き者がいれば弱き者もいる。そして弱き者は種として生き残るために数が多い。まずはその弱者の死体から収集しましょう。)
そんなことを考えながら、転移する座標を少しずらし、魔法陣を起動する彼女。その顔には未だ笑みが浮かんでおり、何度死のうとも高原と言う"巨大な金鉱山"を前にして心の高まりを抑えることが出来ないといったところだろう。
「じゃ、四度目の高原探索。いってみましょー!」
【死霊術師転移中】
「…………死んで、ない。よし! 死んでない! ここ大丈夫! よ、よかったですぅ。」
転移時の光が収まっていき、彼女が四度目の高原へと足を踏み入れる。最初は周囲を警戒しながらその身に降りかかる衝撃に備えていましたが、幸いなことに何もやって来ません。思わずガッツポーズをしてしまう彼女。何度も死を重ねたので死への恐怖という物はかなり薄くなりましたが、未だ痛覚は克服しておりません。なんとか高原へのワクワクで恐怖を薄めていましたが、全身を押しつぶされるという激痛を何度も経験したいマゾでは決してないのです。
「ほんと、ほんとよかった……。さて、気を取り直しましてぇ。……ちょっとした茂みがありますね。」
彼女の眼前に広がるのは、高原ではちょっと珍しい低木の茂み。地平線の先までも大地を望むことができるこの高原では珍しい木々の集まりです。範囲は大体小さな村程度、低木と言っても1mくらいの高さがあります。身を隠すのには適していそうですし、地面を掘ってちょうどいい拠点を作るのにも最適そうです。
「おぉ……。これはこれは。3度も死んだかいがあったでしょうか? 魔力探知をしても私よりも強そうな反応はなさそうですし、とても良い場所かもしれません。……ふふ、ここをキャンプ地としましょうかぁ。」
そうと決まれば早速動き出さねばなりません。彼女は先ほど行った魔力探査によって発見した物体に向かって動き始めます。彼女だけでも拠点を設置することは可能ですが、どうしても一人で何かをするには限界があります。そのため手っ取り早く自分よりも弱い存在をアンデッドにして労働力として確保しようという作戦です。
「たしかこのあたりに……、あぁ、ここでしたかぁ。」
茂みの中へと足を進め、ほんの少し歩いた場所で軽くしゃがむ。その視線の先には50㎝ほどの可愛らしい毛むくじゃらの生物がおりました。死霊術師ちゃんの存在を知覚した瞬間、手に持って齧っていた木の実をポロリと落とし、硬直します。
「魔力量はそんなに多くないですしぃ、強さはそれほどですねぇ。……けど、ちゃんと四肢があるのとぉ、"弁えてる"ってのが高得点ですねぇ。」
彼女はそう言いながら、毛むくじゃらに近づく。死霊術師の言う通り、そのカピバラのような二足歩行のケモノはしっかりとした四肢を持っている。そして尚且つ眼前の個体は棒を握り、呆然としながら彼女の方を向いていた。つまり棒を握り、木の実を持って齧る程度の器用さを持ち合わせているということ。アンデッド化し、上手く扱うことができれば格段に拠点作成までの時間が短くなるだろう。
そして何よりも彼女は、眼前のケモノが自身の強さ。そして彼女の強さを理解していることを非常に満足していた。たとえどんなに弱い存在であっても、わざわざ奇声を上げながら襲い掛かってくれば気が滅入るというもの。しかしながらこのように自身の死を受け入れ、おとなしくしている存在が目の前にいればなんて都合の良い生き物かと機嫌がよくなってしまう。
彼女は先ほどよりも格段に良くなった気分を全身で表しながら、ゆっくりとそのケモノを持ち上げる。
「よくよく見てみれば……。あなた、結構可愛らしい顔してますねぇ? そんなに強くなさそうですし、探せば数もいるでしょう。作業要員としては満点……。」
ケモノの両脇を抱え、毛皮の感触、そしてその体のモチモチとした感触を楽しみながらそう呟く彼女。
しかしながらソレは、眼前のケモノによって遮られる。
一閃。
死霊術師が現状把握できるギリギリの速度で、ケモノの腕が振るわれた。彼が持っていた何でもないような枝が一瞬視界から消え、残像を残しながら死霊術師の首へと迫る。その速度、そして込められた力。決して50㎝程度のケモノが出していい力ではない。訓練された屈強な兵士が一生を掛けても到達できぬような斬撃が、放たれた。
「あぶッ!」
然しながら、相手は死霊術師。アンデッドたちのバフがあったとしても、特記戦力の中で上の下ほどの力量を発揮したレイスと戦い生き残った人物である。例えバフがなかったとしても特記戦力並みの能力と魔法知識を所有している。即座に全身に魔力を流し、全身を硬質化。放たれた斬撃を肌で受けることで事なきを得る。
「……さ、さすが高原といったところでしょうかぁ。」
そう言いながら、自身の血によって構成された両腕からケモノに向かって血を流し込み始める彼女。今の決死の斬撃だが、魔力によって防御していなければ確実に首を刎ねられていました。自身が配下に置くアンデッドたちに比べればまぁ弱い方ではありますが、とんでもない拾いものです。これ以上攻撃を喰らわぬようにするためにも、"同一化"の魔法をかけ早めにアンデッド化する方がいいでしょう。
「アンデッドに成ったら、仲間の情報を教えてくださいねぇ? そしたらみんな仲良く、"同じ存在"に成れますからぁ。」
彼女がそのセリフを言い終わるころにはアンデッド化が終わっており、高原に来て初めての部下が出来た死霊術師ちゃん。思わず頬を緩めてしまいます。高原の外ではこのケモノ一体で生態系の覇者に成れそうな力を持っていますが、チマチマと茂みに隠れながら木の実を齧っていたところを見るに、高原の中ではそこまで強い個体ではないのでしょう。
死霊術師はそんなことを考えながら、今後どれだけの強者を自身の配下にできるのか、それを全て消滅させてしまえばどれほどのバフを自身に掛けることができるのかについて試算し始めます。捕らぬ狸の皮算用と申しますが、まぁ自分が一瞬にして殺されるような強者がいる場所です。ついついあるはずもない幻想の世界に飛び込んでしまうのも無理はないでしょう。
……まぁ、つまり。油断しておりました。
背後から忍び寄る、同種のケモノ。
お気に入りの木の棒を地面に叩きつける様子から、ダチョウから『ぺちぺち』と呼ばれる存在。
その特異個体の、アンブッシュである。
"空間ぺちぺち斬りッ!!!"
空間ごと切断するその斬撃は、確実に彼女の首を刎ね……。
彼女の死亡カウンターが、また一つ、増加した。
【死亡カウンター:4】
〇高原生態系調査レポート:1
【ぺちぺち】 戦闘力:2000~10000
二足歩行のカピバラに似た50㎝程の哺乳類。棒状のものを好む性質があり、常に棒を携帯し死亡するその瞬間まで棒を離さない。基本的に二刀流であるが、何か物を食べたりするときは片方を置いたりする。棒を地面に叩きつけて威嚇するが、そもそも威嚇できる相手がいない。周りが強すぎて威嚇しても意味がないからだ。その様子を偶々見ることができたダチョウが、「ぺちぺち!」と叫んだためこの名称が用いられている。ちなみにこれが"ぺちぺち"を表す名称なのか、ただの音に対する感想なのかはダチョウたちですら理解していない。見た目が可愛らしいので、レイスには気に入られていた。(食料的にも)
高原における最下層の強さしか持ち合わせていないが、決して常人が勝てる相手ではない。自分たちよりも弱い動植物をあまり見たことがない生物のため、基本的に何かに見つかったり、抱きかかえられたりすれば生きるのを諦め、喰われるのを待つ習性を持つ。そのため見た目が可愛らしいことも相まって人になつきやすいかのように思われるが、全然そんなことはない。
一瞬でも相手を"殺せる"と判断した時、確実に彼らは棒を振るってくる。しかも振るってくる枝も高原産のため、下手な金属より固く粘り強い。つまり常人では決して勝つことが出来ない生命体というわけだ。
被捕食者なため繁殖時に増える数も多く、その分特異個体が生まれる可能性が高い。故にたまに空間を切断できる個体が生まれたり、魔法剣ならぬ"魔法枝"を扱う個体が生まれることもある。そういった特異個体が頑張れば特記戦力の下位級レベルにまで到達することが可能。しかしながらやっぱり弱いため、滅茶苦茶すぐ死ぬ。大半の個体が一年間生き残れない。もしかしたら一か月も難しいかも。
〇高原生態系調査レポート:2
【名称不明】 戦闘力:上の中
戦闘力に関してだが、10000以上の場合は今後特記戦力換算での判定、下の下~上の上の判定で行っていく。というか高原の生物大体それぐらいなので『ごはん!』な奴ら以外は基本そうなる。
死霊術師が最初の間に、何度か死に続けたのはコイツのせい。
おそらく空間に対する適性を持つ存在。レイスが高原にいた頃、10㎞離れた場所からでも死の恐怖を感じ、決して近づかなかったことからそれぐらいがコイツの射程圏内だと思われる。(実質毎ターン空間系の即死攻撃を撃って来る逃走不可能なエネミー)
死霊術師はコイツの射程圏内に入り込んでしまい、上から空間的な圧縮を受けることで破裂四散していた。彼女の名誉のために言っておくが、この時の彼女の肉体強度は魔力強化によって鉄筋コンクリート以上の防御力を有していた。
つまりまぁ……、高原らしい生物である。
かと言って決してこの存在が無敵なわけではない。レイスの証言によると、先ほどまで感じていた死の恐怖が一瞬にして消えるような感覚が何度もあったとのこと。つまりこれと同格、もしくはそれ以上の存在が複数いると考えられる。
フェニックス化した現在のレイスや、王宮戦時の死霊術師が全力で防御すれば一応初撃を受け止めることはできるが、連射性能も高く、次の攻撃を防げるとは言い難い。二人とも空間系への対策など、経験値がほとんどないため対応が難しいのだ。(目視できる位置まで移動できれば勝機がないことはない。)
まぁもちろんコイツの攻撃も、意味不明なレベルでの身体強度(高原上位層レベル)があればノーダメージで済ませることができる。"距離"という武器を使っている以上、コイツも高原の中ではそんなに強くないのだ。
〇ダチョウ被害者の会【メリークリスマース!】
「「「メリークリスマース!!!」」」
『メリクリー!』
お決まりのいつもの場所で、男三人が楽しそうに声を上げ、それと同時に宙に浮かぶ両腕が『メリクリー!』と書かれた紙を掲げる。死霊術師の腕と右足である。流石に口がないと意志疎通が難しいということで、ボブレから紙とペンを貰った様子。男衆と同じように頭があるべき虚空にサンタ帽を浮かべていることから、この死者の集会に馴染み全力で楽しんでいるのだろう。
「いやはや、前回は少々有耶無耶になってしまいましたからな!」
『その節はマジでウチの胴体が……』
「ははは! 腕殿、そう落ち込まれるな! 祝いの席ぞ!」
「ですです、全力で楽しんじゃいましょう!」
デロタド将軍が音頭を取り、申し訳なさそうにする腕を獣王が慰め、ボブレがフォローを入れる。全員の死因がダチョウという事実が、彼らに強い仲間意識を与えていた。さながら長年連れ添った友のような関係性である。一人と言うか一体、腕と片足しかない幽霊のような存在がいるが、ここにいる全員が幽霊そのものみたいな存在であるため、大丈夫?なのだろう。
「というか腕殿、どう考えても食べられないと思うのだが大丈夫か?」
『あ、大丈夫ぶっす先輩方! 見えないし匂いも感じないので! そもそも何が並んでるのかすらわかんないっす! なんで気にせずどしどし食べちゃってくださいっす!』
「……え、じゃあどうやって自分たちの声を? 耳もないですよね?」
『腕で振動をキャッチして頑張ってます!』
「「「はえー。」」」
そんな会話を交わしながら、少々気まずそうに料理に手を付け始める男性陣。今日の、というかこの被害者の会の料理は基本デロタド将軍が担当しており、一応彼は腕ちゃんの分も用意していたようだが……。本人が『私の分も食べてくださいっす!』というのだから仕方ない。お残し勿体ないし。
ただやはり自分たちだけ楽しむと言うのは彼女に悪いため、残りのパーツがこっちに来た時は盛大に祝おうと決める三人だった。だから早くこっちにおいで♡(死亡カウンター増殖中)
ちなみに死霊術師(腕)ちゃんはサンタさんから手袋と靴下を貰ったそうです。えがったねぇ。
ではでは、皆さんも良いクリスマスを~。




