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【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~  作者: サイリウム


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61:ダチョウの大暴走





さて、レイスママが全力で火魔法を使おうとするちょっと前。


ママの魔法によって作られた道の上では、ダチョウちゃんたちが大暴走しておりました。



「わー!」

「なにこれー!」

「くちゃい!」

「たかい! おそら! じゃんぷ!」

「いっぱい! いっぱい!」

「ぐちゃぐちゃー!」



縦横無尽に動き回るダチョウたち。みんな好き勝手に走り回りながらアンデッドを踏みつぶしたり、建物の上に登ってみたり、そこから飛び降りてみたりと大忙し。さらに兵士さんたちにちょっかいを掛けてみたり、急に塹壕戦に目覚めて穴を掘り始めたりしています。みんな楽しそうで何よりですが、実はここ戦場なんですよ? いや一応任された仕事であるアンデッドの撃滅はちゃんと出来てるようなのでいいのかもしれませんが……。


後、そこの穴掘ってるダチョウちゃんや。その塹壕が役に立つのは後1500年くらい後だから元に戻しておきましょうね。ママに怒られますよ。掘るなら落とし穴ぐらいに……『たすけてー!』あぁ、自分で作った穴から出られなくなっちゃいましたか。とりあえず助けが来るまでじっとしておきましょうね。


はてさて、なぜこんなに大変なことになっているかと言いますと……。


それはひとえに、ダチョウちゃんだからですね(説明放棄)。



「で、デレ殿! 何とかならないのか! 戦いしてる場合じゃないぞ、これ! というか止まって!!!」


「? だれー?」


「なんで今忘れちゃうの!?」



お話としては簡単です。最初はね、最初は良かったんです。


デレちゃんも他のダチョウちゃんも、ママに褒めてもらうために頑張ろうとしました。デレちゃんは名前のよく解らない、ママのお友達を自称する鎧のお姉さんの言うことをしっかり覚えました。そしてデレだけでなく、そのほかのみんなもリーダー代理である彼女の言うことを聞くために頑張りました。……ですが残念なことに、ちょっと張り切り過ぎてしまいまして。



"何を頑張るか"、と言うよりも"ただ頑張る"という方に力を入れ過ぎちゃったのです。よくある行動と目的が反転しちゃった奴ですね。



デレちゃんは『ちゃんと覚える! 忘れない!』と気合を入れ過ぎた結果、作戦の一部である『ちょっと走ったら引き返す!』のみを記憶し、それ以外を完全に忘却。そしてそのほかのダチョウちゃんは『がんばる!』と鼻息荒く宣言した瞬間に、何を頑張るのか忘れました。


つまり現状を整理しますと……。


デレちゃん率いる50程度の群れが、理由も解らず外と王宮を繋ぐママロードを行ったり来たり。そのほか残りの250のダチョウちゃんたちは、とりあえず目の前にあるものに対して全力で頑張る、というよくわからない状態に陥ってしまったワケです。ちょっとだけデレちゃんが覚醒して道を進む途中で200ぐらいの群れに成長するのですが、引き返した瞬間に残りの大半が何をしていたのか忘却。


結果として走り回る50と自由に過ごす250が爆誕した訳です。


デレちゃんはずっと走ってますし、走ることと引き返すことに集中しすぎてマティルデさんのことを完全に忘却しました。一生懸命マティルデさんがデレに訴えかけますが、デレちゃんは自分の背に乗るのが誰か解っていません。というか誰かが背に乗っていること自体忘れちゃってるかもしません。


でもでも、デレちゃんはちゃんと"やること"を覚えているのでまだマシな方。他の何も解らないダチョウちゃんたちは、各々自由に自分の"頑張ること"を見つけて実行中です。目の前にいる敵を倒すことや、とりあえず高いところに登ってみること、穴を掘って周囲を観察し始めること。さらにはお腹が空いたのか、いい匂いのする方に歩いて行っちゃった子までいます。


ところでそこにいた元お肉屋さんの前でぼーっとしてた子たちどこ行きました?



「あぁぁぁ!!! どっか行ったぁぁぁ!!! どこ! どこ行ったの! 迷子! ちょっと軍師! 探すの手伝って!」


「! 迷子! 大変! さがせ!」


「たいへんたいへん!」

「なにが?」

「わかんない!」

「どこかな~?」


「あぁぁぁ!!! 散らばらないでぇ!!!」



そんなダチョウちゃんに振り回されるマティルデさん、既に素が出てしまっており、とっても可哀想な状態です。軍師さんに助けを求めますが、彼は彼で暴走したダチョウちゃんに合わせた戦場へと作り変えるために戦線の再構築を行っています。とても迷子の保育園児を構う暇はありません。それに町の出入り口は兵士たちで固めています、町の外には出ていないと断言できるが故に、放置です。



「ほわぁぁぁあぁぁぁ!!!!!」



マティルデさん。一応ずっとデレちゃんの背中に乗せてもらってはいるのですが、デレちゃんが彼女のことを忘却したのでそれはもう暴れ馬。非常に耐えがたい揺れが絶え間なく彼女を襲い、実はちょっとお口から虹が出そうな状態でもあります。


そこにレイスから任されたはずの子供たちが完全に暴走中。これで誰か迷子になっていたらもう合わす顔がありません。気合で何とか耐えながら、頑張って数を数え直し、デレに自己紹介し直し、何とか全員を集めるように努力します。そのためにデレちゃんに話しかけて協力を仰ぐのですが……。ここでママの教育が仇になってしまいました。



「やっ! ママが知らない人とお話しちゃ駄目っていってた!」


「し、知らない人じゃないですぅぅぅ!!!」



流石デレちゃん、ママが結構前に言ったこと、ちゃんと覚えてましたねぇ。偉い偉い。ちょっとだけ賢くなったダチョウたちが被害にあわないように、ママが真っ先に教えてあげた防犯の備えだったのですが……、最悪のタイミングでデレちゃんが思い出してしまいました。デレちゃん、賢くなったが故に過去の出来事をかなりの確率で思い出せるようにはなったんですが、肝心の直近の出来事を現在忘却中。


マティルデさんが頑張ってママのお友達であることを説明しますが、デレちゃんの頭の中は二つのことで一杯一杯。『いい感じの場所で引き返すこと』と、『知らない人とお話しない』、既に容量が満杯の彼女には他のことを考える余裕がありません。


それこそ外部から大きな衝撃、ママの力を感じるぐらいのことがなければ。



「うにゅ!!! ままだー!」



ダチョウちゃんの中で、レイスの次に"魔力"という存在を理解している子が声を上げます。アメリアさんとの授業の間、ずっとママのお膝の上で一緒に授業を受け、ママの魔力という物を何となく理解していたことが功を奏しました。レイスが『火球』を使用するため体内の魔力を大量につぎ込んだ反応を、見逃さなかったのです。


早い者勝ちのままのお膝レースに勝ち続けたかいがありましたね、ダチョウちゃん。


そして彼女の母を呼ぶ声は、伝播します。



「まま!?」

「ままどこ!」

「あっち!」

「ままだー!」

「いこ! いこ!」

「ままままま!!!」


「ママ!? ママー!」


「ちょ! デレ殿!?」



誰かがママと言えば、そこに集まっちゃうのがダチョウちゃん。50程度のちっちゃな群れを率いていたデレも、デレについてきていたダチョウちゃんたちも、一斉に王宮の方に向かって走り始めます。絶賛迷子になっていた子も、ママという仲間が叫んだ声を聴いて戻ってきましたし、兵士さんたちに交じってアンデッドを攻撃していた子も戻ってきました。中にはどこで調達したのか、塩漬けのソーセージやハムをお口にくわえたダチョウちゃんもいます。……どこで見つけたんですかソレ。



「ちょ、デレ殿、ゆれ。うぷ。」



マティルデさんがこれ以上ないレベルで青い顔をしていますが、それも仕方ありません。だってママだもの、どんなに揺れたとしても全速力で走るのが礼儀という物です。デレちゃんがみんなが集まるところに到着するまで何とか耐えたマティルデさんでしたが、さすがに色々キツくなったのかデレが止まった瞬間に崩れるように地面へと落ちてしまいます。



「か、数。かぞえ、ねば……。」



みんなが集まっているのを好機と信じ、彼女は震える体、そして逆流しようとする今日の朝ごはんを必死に押しとどめながら、ダチョウちゃんたちの数を数え始めます。レイスママのように全員の顔を覚えているわけではありません、しかしながら人数ならば把握しています。せめて虹を吐くことになったとしても、せめて迷子がいないかどうかだけでも確認しなければ。彼女の真っ青な顔からは強い意志が感じ取れます。



「ままどこ?」

「どこ?」

「えっとね、えっとね!」


「あっちじゃない? あのおっきいののてっぺん!」


「あ! そう! そっち!」

「ままあっち!」

「あ! なんかあちゅい!」



集まったみんなでママのことを探していると、ダチョウの一人が熱を感じ、赤く光るものへと翼を指します。


そこには、ダチョウたちの脳裏にも残る大きな火球。獣王国で起きたアンデッドとの戦いの際、ママが使用した大きな火の玉。町の方に被害が出ないように、大空へと向けて生成されたソレは王宮の上部を文字通り消し飛ばし、天にもう一つの太陽を作り上げました。デレを含め、あの火球は自分たちの母親が為したものだということは本能的に理解しています。



「ままいたー!」

「よかった!」

「ちょっとあつい!」

「どうする? いく?」

「どうしよ。」



少し前の彼らならば、母親が視界に入った瞬間にジェット機のようにそのお胸に飛び込んでいましたが、最近のダチョウちゃんは以前よりもクレバーです。自分たちで物事を決めるのが難しいと判断できた時、群れの中で一番賢い存在に相談すればいいことを思いつきました。実はデレも含めてママ以外の顔を認識することが出来ないのですが、なんかそういう賢い存在がいたような気はします。


きょりょきょろとあたりを見渡して、なんか賢そうな子が意見を出してくれるまで待つことにしました。


しかし残念なことに、本来その役目を果たすべきデレちゃんもあたりをきょろきょろしています。……で、デレちゃん? あなたの出番ですよ。ほら、マティルデさん死にそうになりながらみんなの数を数えていますし、座って待っといたほうがいいんじゃないですか?



「うに? じゃあ座って待つ?」


「まつ?」

「まままつ!」

「ままー!」

「おすまり!」

「ちやう! おすわり!」



「よし、よし! 全員! 全員いるぞ! よかった、本当によかった……。あ、やば気が緩んだせいで……。ちょ、ちょっとデレ殿? 私が帰ってくるまでそこで皆と一緒にじっとしていてくれ……。」


「ん~? わかった!」



全ての思考を"ママ"という存在で塗りつぶされたデレは、素直にマティルデさんの話を聞きます、そんな彼女を見て安心したマティルデさんは急いで物陰へと走って行きました。……まぁとりあえずデレちゃん、みんなと一緒にママの帰りを待ちましょうか。



「うん!」









 ◇◆◇◆◇








「『火球(ファイアボール)』!」



自身によって作り出された火球、大きさも、威力も、そこらの魔法使いの魔法とは格が違う。何せ使用者自身が死にかけるレベルの規模だ、回復能力がなければガチで溶けちゃってたかもしれない。本来こういう魔法って魔力操作をいい感じにすることで自身へのダメージを0にすることができるらしいんだけど、私はまだその域にはいない。おかげさまで丸焦げさんだ。



(熱と光で目もやられちゃうしねぇ。)



それほどの火力だ、私を中心に生成してしまえば都市内で戦っている子供たちにも被害が被ってしまう。なんか、こう、とても嫌な予感がするんだけどまぁ大丈夫だろう。多分。ま、そんなわけで私を中心に生成するのではなく、私と獣王、それとよくわからん死霊術師の女が火球の外縁部に包まれるように火球を設置したわけだ。


おかげさまで王宮の上部分は完全に焼失しちゃったけれど……。まぁ壊してもいいって言ってたし大丈夫だよね!(大丈夫ではない)



(……これで死んでくれるといいんだけど。)



私の体は高原を含め何度か火によって焙られている。こっちに来てからはこの前の対アンデッド戦で自分の体を溶かしちゃったし、高原では何度か丸焦げにされた経験もある。そのおかげである程度火に対する耐性は出来ていたはずなんだけど……、やっぱりまだまだの様で。全身に魔力を流し治癒能力を高めなければ体の形を保つことが難しい。


こんな状況の中で、アンデッドである獣王や普通の人間っぽい死霊術師が生き残れるわけがない。と、思いたいんだけど……。ちょっと難しい気がする。え、理由? ダチョウの勘。まぁダメージを与えられればそれでよし、まだ生き残っていたら"おかわり"を延々とくれてやる。



(魔力総量も段々と上昇している、ちと魔力の回復が消費に追いついてないからどっかのタイミングで時間稼ぎする必要があるだろうけど。)



それもほんの数秒の話だ。感覚的に、例え魔力を全て使い切ったとしても数十秒程度稼ぐことができれば完全に回復できるはずだ。さっき戦っていた感じ、相手の死霊術師とやらはとてもおしゃべりが好きなタイプだろう。子供たちのことを考えるとあまり時間を掛け過ぎるのは不安だが、そのせいで討伐に時間がかかるのは本末転倒。



(よくよく考えて策を組み立てていこう。)



そう考えていると、ようやく火球の効果時間が終わり、全身を包んでいた炎や光がゆっくりと晴れていく。



(……やっぱりか。)



案の定というべきか、かなり焼け焦げているが未だ健在の獣王に、肩で息をしている死霊術師。おそらく自身の体を守ることは出来たのだろうが、その服までは守り切れなかったのだろう。うっすらと魔力を感じることができる黒いローブ以外の服が焼失している。裸ローブだ。うわ、教育にわるい。ウチの子誰も見てないよね? ない? なら良し。



「あは、は。や、やっぱり知識として知っていても実際に体験するとなると違いますぅ。」


「でしょう? んで、どうしたのさその恰好。そういう趣味?」



そう言いながら、ノーモーションで体内の魔力をちぎり魔力砲として放射する。白い光となって伸びるそれは確実に死霊術師の方へと向かうが……、その本人が手を振るうことによって弾かれてしまう。



(獣王は動かない、そしてこいつも『魔力砲』を見て、弾くことができる、と。)



主人を攻撃されても、眼前の獣王は依然として動きを見せない。それどころかその体内を巡る魔力量が先ほどと比べると格段に少なくなっているのが解る。よく考えなくても理解できる、このアンデッドはもう機能停止寸前の状態だ。死にかけのアンデッド、と言えば色々とおかしなことになってしまうが、おそらくそう表現するのが正しい。



「口どころか手癖も悪いですぅ。……それと、人の恰好に貴女が難癖付けるんですかぁ?」


「そういう種族だからね。わざわざ野蛮な格好をする人間サマとは違うのさ。」



挑発を続けながら、魔力の回復を待つ。獣王との攻防、そしてさっきの火球。それの消費によって大体魔力総量は魔王8人分程度まで上昇した。対して今の魔力総量は魔王2.3人分。回復でかなりの魔力を吸われてしまったせいであんまり残っていない。……これが全回復したら、攻めるか。相手も相手でまだ手札を残しているだろうし、それを正面から叩き潰すためにも魔力が必要だ。


一ターンに一枚のドローじゃ足りない! 十枚ぐらいドローさせろ! もちろん墓地と山札は共有な! ってこと。



「……まぁいいですぅ。そんな口きけるのも今のうち。獣王くんはだ~いぶ頑張ってくれましたからねぇ。その働きに免じて最後まで有効活用してあげましょう。」



奴はそう言いながら、軽く手を振るう。その瞬間獣王の体が溶け始め、真っ黒な黒い靄状のものへと変化していく。……獣王国でも見た、負の力。ゆっくりとそれは死霊術師の方へと流れていく。そしてその対象は、獣王だけではない。


彼女の周りに青い魔法陣が展開され、その全てから大量の負の力が流れ込んでくる。それと同時に、吹き抜けた空が風を通じて歓声を届けてくれる。……この声、外から。



「貴女でも解りますよねぇ? この獣王と、そして王都に詰めていたアンデッド10万全てを消滅させ、大量の負の力を発生させる。よく死霊術師はアンデッドを作って終わりと勘違いされますがぁ、実際はそのアンデッドが祓われた後。消滅によって生じるこの力が私たちの本質なんですよぉ。」



そう言いながら黒い靄を体に纏い始める彼女。わざわざ目の前で強化されるのを見ているほど私は愚かではないつもりだったんだけど、脳裏によぎるのはアメリアさんの教え。確かこの負の力ってのはかなり魔力との親和性が高かったはず。もしこいつを攻撃して私の魔力を吸い取られでもしたら、この死霊術師とやらは更に強くなってしまうだろう。それに、



「どうかしましたかぁ? さっきみたいに撃ち込んでくれてもいいんですよぉ?」


「チッ!」



あの憎たらしい顔、挑発的な笑みは確実に誘っている。想定通り魔力砲を撃ちこめば相手の利になってしまうだろう。……利敵行為をするならば、こっちはチャージに時間のかかる技の準備をしておいた方がいい。獣王を打ち倒すことのできた黒い魔力砲、アレをもう一度ここに再現する。城壁をぶち抜いた時よりも更に多く魔力を込め、圧縮する。



「……なら、完成した瞬間に消滅させるだけ。ソレ、待ってやるよ。完成した瞬間に消し飛ばす。」


「あらら、お優しいんですねぇ。では、お言葉に甘えるとしましょうか。」








「まま、まだかな!」

「まだかなー?」

「もぐもぐ。」

「? 何食べてるの。」

「えっとね~、しょっぱいおにく!」


「おいしそう! デレにも頂戴!」


「あぁ、塩漬けのハムにソーセージか。状態は良さそうだし食べても問題なさそうだが……、どこでこれを? というかなぜマフラーみたいに首に巻き付けているのだ……。」






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