60:ダチョウと再戦
「ふふ、"今のところ"私の最高傑作なんですよ、彼ぇ。存分に楽しんでくださいなぁ?」
「残念だけどこういうのは一気に終わらせちゃう"たち"でね? 速攻で終わらせてやるよ。」
奴が挑発し、私がそれに答える。
どちらが先に動いたかはわからない。けれど私が言葉を紡ぎ切った瞬間。殺し合いが始まった。
「ㇱ!」
あの日の焼き直しのように、拳を交える。
例え死体になったとしても眼前の獣王の技術という物は恐ろしい。過去に感じた生命の危機みたいなものは全く感じないほどに魔力量が離れてしまったが、その積み上げた物のレベルの高さには単純に恐れおののいてしまう。一挙手一投足、その全てに流れがあり絶え間なく叩き込まれてくる。獅子の顔と言う厳つさから見える荒々しさとは正反対の流水のような技術が眼前に。
過去の私もそうだったが、これが万全に機能した場合。私は攻撃を受けきることが出来ないだろうと思える技。
(だからこそ、腹が立つ。)
しかしその全てが、既に過去のもの。
死して積み上げてしまったものが壊れてしまったのか、それとも未だ薄ら笑いを浮かべるあの死霊術師のせいか。獣王が操る技の所々に澱みが出来てしまっている。あの時ならば動きを止めず次の行動に移っていたというのに、今じゃ違和感しかない。ズレた調和を形にするために、身体能力で無理矢理形にしているがそのせいで更にいびつな技になってしまっている。過去のお前ならばこんな醜態晒すわけないだろうに。
魔力強化、そしてアンデッド化による単純な能力の向上。けれどそれを扱う力、技術が足りてない。
「だから抜かれるん、だよッ!」
動きに生じる違和感、その隙を縫う。
過去の彼ではありえない大振りを交わし、滑り込むようにその無防備な腹へ足を叩き込む。
相手があの時よりも強くなっているのと同じように、私もより成長している。魔力総量が上がったことで手札が増え、属性魔法の使用により大量の魔力を運用する方式を理解した、そして何よりも一度私はコイツと戦い、勝利している。出力は依然私の方が上であり、相手の技術の劣化。さらに過去の戦いで得た経験が手札に揃った状態で、私が負けるはずない。
「カハッ」
魔力で強化した足で奴の胴体を貫く。獣王の口から漏れ出るのは、空気が押し出されるような音。
そもそもこの戦いにあまり時間を掛けたくない、獣王には悪いけどもう決めてしまおう。そう思い奴の体を貫いた足を上へと蹴り上げその体を両断しようと足を動かすが……、動かない。いや、動かせない。
「チッ!」
貫き吹き飛ばしたはずの腹部周辺の肉、それが私を掴むように再生し始めている。
それと同時に、奴の両腕が私の足を掴んでいる。さっきまで人の腕のような形をしていたはずなのに、腕が内側から裂けて数え切れないほどの触手へと変貌。私の足全体を覆い尽くさんというレベルで展開されたソレからは、絶対に固定してやるという意志を感じる。しかも面倒なことに奴の体内を巡っていた魔力たちが急速に頭部、口内へと集中し始める。
(魔力砲、避け、いや相殺ッ!)
想定よりも相手の動きと魔力の量が多い、もう少し冷静であったならば足を物理的に切り離して抜け出し、その後回復するという手段も取れただろうが、魔力を得てからの戦闘経験の薄さがここで出てしまった。
私が選んだのは、同じ手法による相殺。
(こっちも口に!)
獣王の口に溜まる真っ黒な魔力、そして私の口内に集まる白い魔力。いくらアンデッド化したとしても技術では依然相手の方が上。魔力の圧縮技術、そしてその生成速度。両者ともに相手に軍配が上がる。
選択を間違えてしまった時にはもう遅い、黒い魔力が、爆発する。
(下!)
打ち合いになれば負ける、白い魔力の魔力砲を喰らったことはあるが黒は未だ未体験。自分が受けるダメージ量が解らない以上、回避しかない。相手の攻撃がこちらに到達する前に相殺するために口内へと溜めた魔力を地面、床へとぶち込む。残った足で同時に強く踏み込むことで床を破壊。大穴を開けることで、ギリギリで獣王の攻撃を避けながら次の手を打つ。
(なるなる、アンデッドなりに色々人外なこともできるんだね。ならッ!)
脚部に全力で魔力を送り、全方向から魔力砲を射出することで獣王の体を焼き尽くしながら脱出する。
相手が人外らしく戦うのなら、こっちも"化け物"らしくやってやろう。全方位の拡散タイプとはいえ体内で魔力砲が暴発したわけだ、アンデッド故すぐに再生が始まっているようだが、全身穴だらけで次の行動を起こせるまで時間がかかると見た。この隙に詰めていこう。
即座に魔力を回し、体内から合計20の魔力球を生成。そして獣王の周りに展開させる。さっきの貫かれた傷口から迎撃のため、無数の腐肉の触手たちが飛び出してくるが、効くわけがない。その魔力球は私の体内で無理矢理圧縮した魔王たちの魔力だ。破壊したかったら同等以上のもの持ってこい!
「即席だけど……、焼き尽くせ!」
私が号令を掛けた瞬間、獣王を囲んでいた魔力球たちが一斉に解放され、白い光を放ち始める。一度捉えてしまえばこちらのもの、例え一度の照射で消し飛ばすことができなかったとしても、更に魔力を追加しこの世から消え去るまで焼き続ければいい。そう考えていたのだが……。
「あらら、ちょっとそれは困りますねぇ? テコ入れしましょうかぁ。」
これまでただ傍観してた"奴"が、動く。
彼女がそう呟いた瞬間、私が王宮ごと城壁を消し飛ばすために放った黒い魔力砲。それを弾かれた時と同じ白いシールドが獣王を囲うように展開される。圧縮した黒で弾かれたのだ、何の加工もなされていない白で貫けるはずがなく、確殺の布陣は破られ四方八方に魔力砲が弾かれていく。
その反射された一つが、自身の頬の肉を抉り取る。
「あらぁ、そんなにすぐ直るんですねぇ。アンデッドみたい。どうです? あなたも彼と同じようになりませんかぁ?」
「……すぐにその憎たらしい顔に一発叩き込んでやるから黙ってろ。」
魔力を回し、抉られた頬を再生させながら思考を回す。
積み上げた武ってのはあっちの方が上だけど、無理矢理形にしているせいで総合的な技術の差ってのはこっちに傾いている。そして魔力量も、単純な攻撃力も、一度当てて嵌めてしまえば確実に両方を消滅させることができる。だが眼前に立つ反射のためのバリアを張ったうちに回復したらしき獣王は厄介、そして後方でニヤニヤしているアイツのサポートも同様。
(魔法支援っていうの? 面倒だよね。)
今はバリアだけだけど、こっちが攻め始めたら魔力砲や死霊術師ならではの攻撃で邪魔をしてくるに違いない。だが邪魔だと言って先に潰すことができるほど前衛の獣王は簡単な相手ではない。チャージ時間さえ稼げれば両方とも消し飛ばせるとは思うんだけど、それを許すほど優しい相手ではなさそうだ。
(ワンテンポ、時間、タイミング。…………詠唱?)
あぁ、そういえば。アンデッドって火に弱かったっけ。
◇◆◇◆◇
皆のママであるレイスが獣王と死霊術師ちゃんと戦っているころ。
王宮の外である市街地の方でも戦いが始まっておりました。各国の兵士たちが火属性の武器を振るい、また高純度の聖水瓶を投げつけることで適度に弱らせたりしながら作戦行動を進めていきます。死霊術師が用意したアンデッドたちは下限の雑兵アンデッドですら数百の兵が必要になる大変危険な化け物ですが、様々な要因によって現在死傷者0で作戦が進んでいます。
その理由として大きいのは三つ、まず第一に軍師が戦場を俯瞰しながら指示出しをしているからです。転移魔法という発展した魔法技術を持つ存在が各国に知れ渡ったことで、ナガンは情報の出どころを誤魔化すことができるようになりました。それこそ長距離通信の手のひらサイズ魔道具とか。
本来は最後まで秘匿する予定の様でしたが、今後を考えると公開しておいた方がいいと軍師は考えたのでしょう。『敵の技術からサルベージして作ってみた最新鋭の魔道具』と言うことで作戦に参加するすべての兵に"通信機"が配布されました。
もうそこから先は軍師の独壇場です。
この作戦に参加した5000の兵、60近い部隊に適宜指示を出していきます。その前にいるアンデッドは強敵だから地形を利用して後退しながら戦え、だとか。もうすぐ赤騎士が到着するから耐えてほしい、とか。そのアンデッドの弱点は腹部にあるコアだ、とか。的確に指示出しをしていきます。
するとあら不思議、王都を占拠しているアンデッドは軽く見積もっても10万以上いるはずなのですが誰一人犠牲者が出ていません。びっくりですねぇ。
そして二つ目。これは赤騎士ちゃんが滅茶苦茶やる気になっているというのが理由です。
噴式を扱い縦横無尽に戦場を走り続ける彼女、軍師からの指示を受け必要な場所へと直行します。ダチョウちゃんたちと初めて会ったときに敗北したアメリアさんとの模擬戦。その経験を元に一皮むけた彼女はまた新しい壁にぶつかりました。そうです、死霊術師ちゃんと獣王です。例え軍師の指示通りに動いたとしても、彼女が王都をみすみす明け渡してしまったという事実は変わりません。
彼女の名誉のため軍師はこのことを記録には残さないようですが、赤騎士ちゃんの"記憶"には残ります。
自分のせいで王都が落ちた、これまでの彼女ならば思い悩みそのままどんどんと落ち込んでいたでしょうが……。今の彼女は違います。
『とにかく経験を積み、自身と同格・格上との戦闘経験を積み、成長する。そのためには落ち込んでる暇などない、戦わなければ』
そんな考えを抱く彼女はもう誰にも止められません。アンデッドたちの指揮個体の一体、デュラハンをなます切りにした後、即座に噴式で次の戦場へと向かいます。未だ発展途上ではありますが、この戦いを生き延びた末にまた一皮むけた彼女の姿が見えるでしょう。
そして最後に、やはりダチョウ。ダチョウの存在が……、あれ? デレちゃん? なんで城壁の外でお座りしてるんですか?
「うに? えっとね、待ってて! って言われたの。だからみんなで待ってる。」
「で、デレ殿? だ、誰と話しているのだ?」
「ん~? わかんない! あと誰?」
「マティルデだ、貴殿の母の友人のマティルデ。これで5度目だぞ?」
そんな風に群れのみんなで仲良くお座りしているダチョウちゃんたち、それを指揮するデレちゃんでしたが流石に自分以外の名前を覚えるのは難しいようです。手を替え品を替えマティルデさんが自己紹介してくれますが、一向に内容が頭に入っていない様子。
しかしながらちゃんとお話を聞いている辺り、やはり他のダチョウとは違うデレちゃん。ほら見てくださいデレの近くにいるダチョウちゃん、最初の頃はデレと一緒にマティルデさんのお話を聞いていましたが、途中から内容が難しすぎてお目目がしょんぼりしております。お眠ですねぇ。ほらほら、もうそろそろお仕事みたいですからおきてくださいね。
「おちごと!? たいへん! みんな起きてー!」
「わ!」
「びっくり!」
「なになに!?」
「ごはん!」
「おわッ! きゅ、急だな……。いやしかし、確かにそろそろ要請が来そうでもある。もしやこの子もレイス殿のように……。」
何かマティルデさんが言っているようですが、ダチョウちゃんにはそんなもの関係ありません。ダチョウちゃんからすれば彼女は、顔も名前も覚えていないけど、なんかママの近くにいたような雰囲気がする動く物。という認識、デレちゃんですらかろうじて顔のパーツをちょっとだけ覚えている程度。ママのお友達で、確かこの人の言うことを聞いておけばいいというぐらいしか覚えていません。
……いや滅茶苦茶覚えてますねデレちゃん。すごい、大天才。
「でしょー! デレかちこい!」
「あぁ、そうだな。レイス殿が帰ってきたらそのように報告しよう。きっとたくさん褒めてくれるはずだ。」
「ほんと! やったー!?」
「わーい!」
「やったー!」
「なにが?」
「わかんない!」
「でもうれしー!」
「ははは、楽しそうで何より。……さてデレ殿。解らないかもしれないが作戦の詳細について再度説明する。聞いてくれるか?」
「うん!」
デレちゃんのやる気十分のお声を聴いた後、マティルデさんが解り易いように噛み砕きながら説明を行います。けどまぁちょっとデレちゃん以外のダチョウちゃんには難しい様なので……、此方で備忘録代わりに纏めておきますね。
まず今回の戦いでダチョウちゃんが任された役割は"アタッカー"、そしてデレちゃんが指示しなければいけない号令の種類は3つ。『進め』と『引き返せ』と『休め』です。
軍師さんの指示を受けた兵士さんたちが頑張って、レイスママが初撃で作った大きな道にアンデッドたちを誘導します。そして十分に敵が溜まったらダチョウちゃんたちの出番。まずデレが『進め!』と号令し、道の上にいる敵を踏んづけます。そして王宮ギリギリの位置まで行った後は『引き返せ!』で今度は城壁の外まで走ります。もちろん殺し損ねたアンデッドさんを踏みつけて。お外まで出てきたら『休め!』の号令でまたアンデッドたちが溜まるまでお休み。
この繰り返しを行うわけですね。
「鉄床戦術の亜種というべきか、重装兵の代わりに地形と他兵士たちによる包囲網を扱う戦術。気が付けば死地へと送り込まれているというわけ……。おっとすまない、難しすぎたか。」
「うにゅにゅ???」
「と、とりあえず私の指示を聞いてくれれば何とかなるはずだ。あぁ、それと。私も気を付けるが逸れてしまう者が出ないように頑張ろう。」
「うん! 頑張る!」
軍師さんが考えた作戦に色々とレイスちゃんが口出しして手直しした作戦です、今だデレちゃんの指揮能力では300近い群れを率いるのが難しく不安ではありますが……。行って帰って来るだけです。多分なんとかなるでしょう。
レイスママに褒めてもらうために、頑張りましょうね。
「ッ! 指示が来た! 行くぞデレ殿!」
「わかった! みんな、いくよ! とちゅげきーッ!」
「「「わー!!!」」」
◇◆◇◆◇
チャージしようとしたらすぐ妨害される。
ならば、チャージが必要なくて、属性的に優位で、なおかつ高威力な魔法を使っちゃえばいいじゃない。
そうと決まれば話は早い、またさっきのバリアみたいに防がれたら面倒だし、接近戦に持ち込んで0距離で放ってやろう。それなら私にも経験があることだし、例え段階を踏むとしてもあの詠唱魔法はほんの一言で済んでしまう。というか最初からそっちでやった方が賢かったかも。あはー、まだまだだねぇ、私。
テンションを無理矢理上げ、口調を変えながら心を戦闘時のものへと切り替えていく。この場に子供たちはいない、言葉使いも気にする必要はあんまりない。あはー! 汚物は殺処分よー!
「な~、るほど。じゃあ接近戦で決めようかッ!」
「獣王、行きなさいな。フォローしてあげますぅ。」
死霊術師が放ち始めた骨や腐肉の弾丸を体で受け止めながら前へと踏み込む。ライフで受ける、って奴だ。確かに痛い事には変わりないが、自分で脳を吹き飛ばした時の方が何倍も痛い! こんなもの屁でもないぜ! なんか毒っぽいもん盛られた気がするがんなもんダチョウに効くわけねー! どれだけ深く骨が刺さろうとも、肉体の再生で外へとはじき返す!
ようやく顔色がちょっとだけ悪くなったというか、ただの化け物を見るような眼になった死霊術師の顔を横目に、一直線で獣王との距離を詰める。
「だらァッ!」
両足から魔力をほんの少しだけ噴射し、体を宙に浮かす。そして重力に逆らいながら、両足でのラッシュを開始。
勿論相手も迎撃してくるが、どれだけ積み重ねた技術だろうとも穴だらけじゃすぐに突破できる。流れるように繰り出された拳を弾き、その胴体に何発も叩き込んでいく。切断、刺突辺りはさっきと同じ様になってしまう。ならば打撃で組織丸ごと使えないようにしてやる。そして同時に、私の魔力も流し込んでみる。
その瞬間、パンッ! と弾けるような音。
「あはッ! やっぱ効くか!」
アメリアさんがやってくれた魔法陣への魔力供給。あの時彼女は私の魔力を流されて死にそうになっていた、それと同時に『こんなもの外に放出せずに溜め込んだら爆発して死ぬ』とも。つまりこれは攻撃に転用できるってことだ。インパクトの瞬間に、魔力砲と同じ要領で貯めた魔力を相手の体内へと流し込む。
するとあら不思議、獣王の体の一部が爆発四散しちゃったではありませんか! そして何よりその爆発した部位、アンデッド特有の飛び散った破片が動き出す、ってのも起きてない! あの仕組みは魔力と負の力によって成り立っているもの! 片方を私の物に塗り替えて破壊してしまえば使用不可!
(大本の本体の再生はされるだろうけど、破片が触手化して死角から襲ってくるのは封じ込めた!)
そして、私がそんなことをすれば、当然相手も対策を打って来る!
「チッ! 過剰供給ですか、面倒ですね。ならぁ……」
その思考が違う場所に移っている間こそ! 私の欲しかった時間!
「『火球』!」
魔王三人分の魔力を注ぎ込んで生まれた火球、それは一瞬のうちに私たちを包み込んだ。
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