59:ダチョウとこんにちは。
「じゃ、オーダー通りに行こうか。」
攻城戦の初撃は、私の仕事。ナガン王都をぐるっと囲む城壁さんに大穴を開けることだ。
詳しい素材やどんな改造が施されているのかはわからないが、とりあえず全力で魔力砲を射出し、防壁を吹き飛ばす。そしてナガン王都の中央に位置する王宮までの道を作成。計画の第一段階であり、現状私しかできないこと。ま、これぐらいなんてことない。朝飯前ってところだ。
(けど、別に"それだけ"じゃないんだよね。)
軍師からすでに、この王都をどれだけ破壊しても良いという許可はもらっている。もちろん最低限の配慮はするつもりだが、何の愛着もない上に生者が誰一人いない町に対して私が遠慮するってことはない。普段であれば色々考えることはあるだろうが、今回は例外。むしろこの後に控えている敵首領の"盗人"退治。これを素早く終わらせることができるのなら、"ひとんち"である王宮程度いくらでも吹き飛ばしてやろう。
私の天秤は、常に子供たちの方へと傾く。
(……完全に私抜きで、デレに群れを任せる。彼女を信じていない訳ではないけれど、心配には変わりないからね。)
"盗人"、死霊術師だっけ? その相手は私がするんだけど、それ以外の相手。アンデッドたちはダチョウが処理を行う。正確には赤騎士さんとかの兵士さんたちも対応するらしいが、まぁウチの子がメインだ。ダチョウ騎兵の突撃に勝るものはないからね。一番重要な"攻撃役"。
(軍師が立てた作戦だし、私も口出しして修正させた。後に引くような失敗にはならないと思うけど……やっぱり心配なものは心配。)
ダチョウ一個人と同格の相手が複数いたとしても、群れで動く私たちを相手に勝てる者など高原を除いて存在しない。それは重々理解している。けれど、どんなに準備したって不安なのは変わらない。可能ならばずっと傍についているべきだ。私よりも年上の個体もいるが、その精神は子供。幼児と言ってもいい。賢くなってきたとはいえ、一時も目を離したくないのが本音。
自身の胸中には、確かに死霊術師に対しての怒りや苛立ちがある。けれど子供の安全と比べれば、そんなもの腹の足しにもなりゃしない。絶対に私は"子供"を取る。これでも"母親"だからね。自分の都合、感情なんてどうでもいい。
(けど、やることを放置して子供の面倒を見られるほど世界は甘くない。)
正確に言えば、力を振るえば不可能ではない。ある程度の力を手に入れた今の私なら、力で全てを決めることができるだろう。
けれど母親の振る舞いを見て成長するのが子供、あんまり彼らの教育に悪いことはしたくないのが本音だ。私も人間だから色々とブレてしまうところもあるだろうけど、それは一貫している。暴君ってのはいずれ討たれるのが運命なんだ。子供たちにそんな運命を歩んでほしいなんて思うわけがない。
だからこそやるべきことを速攻で済ませて、子供たちの元へと舞い戻り、彼らの成長の手助けをしてやる。
それがあるべき"ママ"の姿って奴でしょう?
「というわけで……。全力で吹き飛ばしてやろう。」
軍師相手には『王宮にちょっと穴開けるくらい』と説明しているが、今から私がやるのは『王宮ごと敵を吹き飛ばす』魔法だ。もちろんオーダー通りほんの少しだけ地面を削り、子供たちの目印となるようなラインを作るのは忘れない。角度を調節して放てば、それぐらいできる。私は威力の調節が出来ないんであって、そこら辺の調整が出来ない訳では……。あ、ごめん。やっぱできないかも。不安。
まぁ後で色々言われるだろうが……、彼は私に沢山借りがあるからね。なんとかなるなる。
一撃で敵を消滅させて、終わらせよう。
「……ㇱ。」
軽く息を吐きながら、魔力の循環速度を高めていく。
思い起こすのは獣王戦で使った、"黒い"魔力砲。自身の体内に蠢く圧縮された魔力をそのまま取り出し、更に外部で変色するまで圧縮し、放つ。まだ一度しか使ったことがないが、私の必殺技と言っていいだろう。今の私の体内は、あの時よりも魔力総量が上がり、圧縮されている。そして獣王国でアンデッドと戦った時に属性魔法を扱ったおかげか、一度に大量の魔力を放出する感覚もつかめている。
(今できる、最大でいこう。)
体内から五人の魔王を無理矢理徴兵し、体外へとゆっくりと放出させながら眼前へと集めていく。作り上げるのは全てを吸い込み焼き払う黒い球。じっくりと、丁寧に、圧力を掛けながら魔力をより深く編み込んでいく。
(まぁ私がこんなことをしていれば、相手も動き始める。杖を持ったアンデッドが城壁の上に見えるけど……。関係ない。)
獣王が編み出し、私がラーニングした『魔力砲』。この一番の利点は発動までの時間が非常に短いところにある。私みたいにバカみたいな魔力量があるか、獣王みたいな化け物魔力操作技術があれば、威力もそれ相応に跳ね上がる。しかしながらこの魔法の本質、一番の強みは"速さ"だ。他の属性魔法が何かしらの詠唱をしている間に、ノーモーションで放てるのが『魔力砲』。
そんなお手軽な攻撃方法を、じっくりコトコトと煮詰めた後に解き放った場合。どうなると思う?
世界が、悲鳴を上げる。
「『魔力砲』、放て。」
眼前に生み出された黒塊。
それが、解き放たれる。
空間を湾曲させながら放たれたソレは、一瞬だけ線の様なものが伸び、瞬時に拡大する。真っ黒な閃光が瞬く間に視界を包み、目標であった防壁を即座に消し飛ばしていく。もちろんそこに詰めていただろうアンデッドも、もろともに。黒き光は世界を浄化するように全てを蝕んでいき、キャンバスを黒い絵の具で塗りつぶしていく。まるで最初から何も存在しなかったかのように。
そんな黒き神は、まっすぐに王宮へと伸びていき……。
上に、弾かれた。
「なッ!」
背後から驚愕の声。誰かはわからないが、これは幻覚ではない。確実に眼前で起きた現象。
魔力がそれを証明している。
私の黒い魔力砲を上空へと弾いた者、王宮を守る様に白く透明な盾のようなものを生み出した存在。私はこの特徴的な魔力操作を、芸術品のような素晴らしき技を、知っている。忘れるわけがない。いくらか不純物が混じっているようだが、その技術は私が眼前で学び、その最後を看取った男のもの。私の魔法のもう一人の"先生"とも呼べる奴の魔力操作だ。
あはは、今は驚きよりもちょっと安堵の方が勝ってるよ。……いや、むしろお前ならそれぐらいしてくれなきゃ困る。アンデッド化って総じて能力が向上するんでしょう? なら私の全力ぐらいはじき返してくれないとねぇ。
「久しぶりかな? 獣王。」
そうこうしている間に、残った魔力を消費しながら魔力が跳ね上がるような感覚が私を襲う。
この体内を巡る魔力が即座に元へと戻るような感覚、魔力総量が増加したね。6人+αから確実に7人に魔王が増えたって感じか。ラッキーナンバーだし幸先がいい。そんな素敵な数字にあやかって、この魔王たちを生贄に捧げてもう一度全てを吹き飛ばすってのもいいけれど……。
相手の詳細な実力が見えてこない以上。原理の分からぬ力に頼るのはやめておいた方がいいだろう。
私は魔力の回復も、その増加の仕組みも、もっと言えば何故脳を吹き飛ばしても死なないのかも。この全てについて何の説明も出来ない、なんか何となく出来ちゃってるとしか言いようがないのだ。つまりどこかのタイミングで出来なくなるかもしれないし、上限が訪れるかもしれない。もちろん永遠に使える可能性もあるけど、頼りにし過ぎるのは控えた方がいいだろう。それこそ、同格や格上との勝負の時は。
「軍師、聞こえてるよね。手はず通りに行こう。……ビビってる場合じゃないでしょう?」
「んん! そうでしたね。では、参りましょう。ほら皆様お時間ですよ! 起きてください! 全軍作戦行動を開始してください!!!」
おそらく目の前で起きたことに驚いていただろう軍師に声をかけ、再起動させる。まぁそれも仕方のない話だ。軍師以外の全員が目の前で起きたことを理解できてなかったようだし。やった自分が言うのもどうかと思うけど……、アレ"終末の一撃"みたいな見た目と威力だったものね。それが弾かれたんだ。そりゃびびる。
ウチの子たちだって『わっ! まっくろ、どっかいった!』って顔してるし。ふふ、かわい。
軍師の号令によって正気を取り戻した兵たちが一斉に動き始める。……さ、私も仕事を始める前に子供たちに一言かけていかなきゃ。
「み~んな?」
「あ! ママ!」
「ままだー!」
「まっくろ! くろ! きれい!」
「ほしい!」
「もっかいもっかい!」
「おっと? ベイビーちゃんたち、ちょっと気が抜けてるんじゃないの? ほら"戦い"の準備だよ! 気を引き締めなさいな!」
「「「はーい!」」」
元気に返事してくれる子供たちの様子を眺めながら、私も気を引き締める。私が相手しなければならない相手、"獣王"とその"主"。速攻で纏めて排除して、この子たちの元へと戻る。
「デレ、お願いね。解らないことがあったらマティルデに。困ったときは私、"ママ"を呼びなさい。」
「うん……!」
「マティルデも、頼むね。」
「任せてくれ。彼らにとって私はお荷物だろうが……。できる限りのことをしよう。」
ほんの少しだけいつもより表情が硬いデレの頬を揉み解してやりながら、マティルデにお願いする。っと、マティルデの方もちょっと緊張してるな? ダイジョブだって、昔に比べれば大分頭がよくなったorてる子たちだ。多分顔も名前も覚えてないだろうけど……、デレは何となくの雰囲気でギリギリ行けるはず。この子たちにはわからないことも多いだろうし、サポートしてあげてね。
あ、それと。逸れるのにだけは気を付けてあげてね。
「あぁ。細心の注意を払う。」
「ありがと。……で、デレ。ちょっと緊張は解れたかな? すぐママ戻って来るからね。頼んだぞ、"お姉ちゃん"。」
「! うん! がんばる!」
彼女の返答を笑顔で受け取った後、大地を蹴って大空へと羽ばたく。速度重視だ、"噴式"じゃなくて魔力での移動にしよう。
防壁の破壊と、道の作成。その両者を達成することは出来たが、王宮ごと盗人を吹き飛ばすことは出来なかった。ならば速攻で相手を仕留めるのみ。立場が違えば友になっていたかもしれない存在が、獣王だ。もし生き返ったのなら子供たちを傷つけた精算としてボコボコにした後にお友達になってもらうことぐらいはしたかもしれないけど……。ま、動く死体にそんなもの必要ないだろう。
最速であちらに送り返す、それが私ができる弔いだ。
「魔力反応は……、あそこか。」
王宮の一角、相手の居場所を突き止めた私は、即座に大空を蹴った。
◇◆◇◆◇
ナガンの王宮、その屋外庭園らしきところに降り立つが……。
「いないな。」
途中までは獣王の魔力反応を見ながら飛んできたんだけど、王宮に降り立つ直前でその反応が掻き消えた。足からジェットみたいに魔力を放射して飛んできたから5秒もかかってないのに……。逃げ足が早いこと。せっかちな性格は"高原"だとモテないぜ? ゆっくりすればするほどに人気アップ、我先にとみんな飛び込んでくるから実践してみてよ。まぁ『狩りやすい獲物として』モテるだけだけどさ。
(さっき感じた魔力の反応は二つ、活性化して戦闘状態に入っていた魔王1/2ぐらいの魔力量。それとアメリアさんよりも少し多い位の非活性の魔力。前者が獣王で、後者が死霊術師だろう。)
軍師が用意したあの転移魔法陣、アレの出どころは今回の下手人である"死霊術師"の技術を拝借したものらしい。私が獣王を殺した時に奴を発見できなかったのも、さっきまでいた場所から消えてしまったのも、転移魔法の使い手であるということを考えれば辻褄が合う。問題は転移魔法自体が効果に見合わないレベルの魔力を要求されるってところだけど……。
相手も相手だ、そこら辺は上手くやっているのだろう。
(魔力反応しか見ていないけど、両者ともに警戒しておいた方がよさそうだ。)
「……ん? お出迎えか。」
周囲を見渡しながら獣王たちがどこに行ったかを探していると、自身の周囲に大きめの魔力反応を感知する。……この感覚、おそらく転移魔法だろう。やっぱり便利な魔法、連発できると強いよねぇ。
おそらく死霊術師によって送り出されたアンデッドたちが私を取り囲む。高原じゃアンデッド自体あまり見ない存在だから正確な名前は解らないけれど、軍師からある程度の名前と特徴は聞いている。首無しの甲冑はデュラハン、黒いローブを羽織る奴らはリッチ、そのほかの腐った肉の塊のようなアンデッドたちは、腐肉人形っていうゴーレムだろう。
「軽く見て、1000弱くらい? わざわざ豪勢なこって。」
感覚的なものにはなるが、一体一体の実力は準特記戦力級。以前の私ならばかなり警戒しなければならない相手だ。群れで行動していたとしたら子供のことも考えて即座に撤退を行うレベル、アンデッドという私たちに旨味のない相手だからこそ絶対に戦うことを考えない実力と数だ。
(だけど。)
今の私に、こんなもの障害になるわけがない。
「邪魔。」
足に魔力を込め、同時に少し姿勢を下げる。
普段ならば自身の戦闘技術の向上のため、少し相手の動きを見たりもするだろうが今はそんな時間などない。最短で、確実に殺す。魔力を溜めていない足を軸とし、円を描くように足を振るう。もちろん最大出力で、魔力砲を放射しながら。
真っ白な光が辺りを包み込み、アンデッドたちを全て薙ぎ払う。例え準特記戦力であろうとも、おとぎ話として名の残る魔王。その魔力量をはるかに超える人間が放つ奔流、そんなものに耐えれるのは同格かそれ以上の力を持つ者のみ。高原でも、ここでも、場違いな場に弱者が出ていけば、消し飛ばされる。自然の摂理だ。
「掃除完了。…………あそこか。」
目に魔力を流し、周囲を見渡すと王宮の中央部に一際強い魔力を感じる。獣王だ。
「いつもならご丁寧に玄関から入るんだけど……。」
全身に魔力を流し、身体強化を施していく。身体能力の向上と言うよりも、その強度を高める方向により多くのリソースを割く。そして残った魔力を全て、脚部に。
「ッ!」
反応がある方に向かって全力で地面を蹴る。同時に魔力を放出、空間を軋めかせながら目的地まで壁や床を貫きながら進む。
そして。
「ここか。」
たどり着いた部屋は、多分謁見の間みたいなところ。その床の一部を突き破り、部屋へと入り込む。
アンデッドたちの根源である負の力っていうのが充満しているせいで全体的に暗いが、煌びやかな装飾が為されている。陽光を取り入れて壁や床に塗りたくった腐肉を掃除すれば多少見えるようにはなっていたんだろうけれど……。まぁ今考えても仕方のない話だ。ここまで汚してしまえば掃除するよりも一から作り直した方が安く済みそうに見える。壊しても別に良さそう、ってのは暴れやすくていいよね。
「それで、今回こんなムカつくことをしてくれたのがお前ってわけか。」
この空間に入った時、真っ先に視線が向いた相手。それは獣王ではなく、それこそ魔王のような髑髏の意匠が目立つ王座に座る女。獣王を傍に侍らせていることから、確実に今回の下手人。私が探していた"盗人"の死霊術師って奴だろう。
わざわざ床をぶち抜いて来たって言うのに表情一つ変わらない。気色の悪い薄ら笑いがずっと張り付いている。
「あらぁ、どんな方がいらっしゃると思っていたら……。もしかして"ドア"という物をご存じないのですかぁ? どうです、一から礼儀というものを学び直しては。」
「はッ! 礼儀云々いう前に、人様の死体で遊んでる奴にはそもそも発言の権利すらないんじゃない、のッ!」
頬杖を突きながら、話しかけてくる女。明らかに挑発だろうが、それは同格か格上にしか許されないものだ。人の死体に頼る奴が言えるものではない。話しながら即座に魔力を抽出し、ノーモーションで魔力砲として憎たらしい顔面目指してぶち込む。
「…………。」
「はぁ、まぁ防がれるよね。これでもかなぁ~り、前より"早く"なってるんだけどな。」
案の定、獣王に防がれる。
「ふふ、"今のところ"私の最高傑作なんですよ、彼ぇ。存分に楽しんでくださいなぁ?」
「残念だけどこういうのは一気に終わらせちゃう"たち"でね? 速攻で終わらせてやるよ。」
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