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【書籍化】ダチョウ獣人のはちゃめちゃ無双 ~アホかわいい最強種族のリーダーになりました~  作者: サイリウム


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54:ダチョウの防諜





「ふん、ふふん、ふふ~ん♪」



ナガンの王城、その一室に設けられた部屋の中で一人。彼女は脚部のみを水に浸からせながら情報の精査を行っていた。


この王都が彼女によって占拠されてから三日、既にこの町は死者の都へと作り変えられていた。軍師との読み合いに負け、赤騎士の記憶から"高原"の情報を引き抜くことが出来た彼女はそれまでの方針を切り替え、この場で籠城を行うことに決定。それに合わせ、この都市に未だ残っていた生者たちを全て外部に追い出し防壁を強化。内部でも彼女と彼女の配下たちによって魔改造が行われていた。


生存者たちをそのままアンデッドにすることも考えたようだが、それほど魅力的な素材がなかった上にあまり殺し過ぎると相手から強い恨みを受けることになる。それに内部に残しておくと情報を抜かれる可能性もある、故に彼女は自分以外すべての生者を追い出したのだ。


しかしながら、いくら防御を固め、防諜を整えようとも、状況は変わらない。



「いわば鳥籠にして、処刑場ぅ。入った瞬間に終わってるとはすごいですよねぇ、軍師ぃ? でもでも、それが解ってしまえばそれほど怖くはないんですよぉ。」



彼女は、未だ自身が軍師の掌の上で踊っていることを自覚している。しかしながら何も気が付かずに踊るのと、理解して踊っているのには大きな違いがある。例えあちらが何を仕掛けてこようと、気が付いているのならばその手のひらから飛び降りる準備を進めることが出来る。その先が奈落であろうとも、もう一本の軍師の手があろうとも。相手の意志が及んでいることを理解すれば対策を考えることが出来るのだ。



「この血風呂も、その一環ですぅ。」



そう言いながら、眼前に広がる水面を眺める。


彼女、死霊術師の目の前に広がるコレは聖別された水。高純度の聖水であり、謁見の間へと直上から流れ込むトラップの素材であった。『これ以上、王都内でトラップを発動させないこと』を条件に、赤騎士や影武者を含む生存者たちを無傷で脱出させた彼女は、この聖水以外にも複数のトラップを回収、再利用することに成功していた。


その中でより彼女の目に留まったのが、聖水。アンデッドに取って毒にしかならない液体だった。



「だから、作り替えてるんですよねぇ。」



死霊術師はそう口ずさみながら、足を組み替える。すらりとした足先を水面からゆっくりとあげ、もう一度沈める。その足からは赫赫と輝く真っ赤な血が絶えず流れ続けていた。


聖水と言えど、言ってしまえば"魔化された水"、"魔力を保有した水"である。聖属性というアンデッドに特攻がある属性に変化した魔力を大量に含んだ水、彼女にとって危険なのは属性のみ。水であること、そして魔力を含んでいることはデメリットではない。むしろそこにある高密度の魔力を利用することが出来れば、莫大な利益を手に入れられる。


そんな聖水を前に、何もしない訳がない。



「私の血、これ以上ない触媒ですよねぇ。」



自身の血を触媒とし、属性を変化させる。彼女の魔力の限界まで詰め込まれた血液は爛々と輝き、既に常人の致死量を軽く超えた量が聖水へと流し込まれている。夥しい数の死体を犠牲にすることで彼女は現代医療にも劣らない人体への知識を保有している、魔力をエネルギーに変え、代謝を活性化させることで血液を生産し続ける。そしてダメージを受けた器官は魔力によって回復可能。


レイスのような異常な速度ではないが、それと似たような事を彼女は実現していた。



「ふふ、それにしても。こう赤が広がっていく感じ、やっぱりいいですよねぇ。」



人を包み込むような光を発していた水面が、赤へと染まっていく。彼女はそれを眺めながら楽しそうに笑っていた。


死霊術師が行っているのは、自身の血を混ぜることでこの大量の聖水全てを実質的に『自分の血』へと変えようとするもの。軍師がトラップのために集めた聖水は約300t、そのすべてが高い魔力を含んだ彼女の血となるわけだ。もちろんその作業は量が量だけに面倒なものではあったが、彼女は優秀な死霊術師。時間さえかければ不可能なことではない。


この作り替えられた聖水。"血塗られた聖水"があれば自身のアンデッドたちに渡せば戦力の底上げが可能、また自分が生き残るための布石にも用いることが出来る。



「それに、あの"ダチョウ"との戦いにも。」



彼女がこの王都を自身の根城として強化する理由、それは『自身がここにいる事』を証明するためであり、同時に『ここを決戦の場として整える』ためである。軍師に敗北し、ナガン王の確保に失敗した今、当初の目的であった大陸を揺るがすような大戦争を始めることは不可能。ならば次善の策としてこの戦いから生き残った後、身を隠し"高原"へと向かう方針にシフトしたい。


しかしながら『獣王国でのアンデッド騒ぎ』を確認すれば、案の定というべきかダチョウたちの長である"レイス"は確実に死霊術師である彼女を狙っている。そして自国に喧嘩を売られた軍師も、だ。



(まぁ仕方ないと言えば仕方ないんですけどぉ。ただ逃げるだけじゃどこまでも追いかけてきちゃいますよねぇ?)



故に彼女は死を偽装する必要があった。軍師には怪しまれる、もしくは看破される可能性があったがそれでもいい。


全力でこの王城を強化し、王都を死者の都へと作り変える。そして相手を迎え入れる際は全力で足掻き、今のつかえる手札の全てを使って相手と戦う。それが全力且つ必死であればあるほどに、彼女の死は真実へと近づく。



「後はこの場所を選んだちょうどいい理由とぉ、私が死んだという事実ぅ。それさえでっちあげてしまえば何とかなりますよねぇ。」



生きていることがバレてもいい、だがこっぴどくやられてしばらくは隠れている。そんな風に思わせることが出来れば大成功、事実ことが終われば彼女は高原へと向かう予定であるため、表舞台に帰って来るのは当分後だ。脱出先の隠れ家はかなりの数を用意しているし、ナガンの国内外の拠点に仕掛けを施している。


彼女の眼前にある聖水がなければもう少し控えめな策を取る必要があっただろうが、その必要もなくなった。



「つい先日までは自分の頭脳がどこまでやれるかの力比べ、そしてこれからはダチョウ相手に自分がどこまでやれるのかの純粋な戦闘力による力比べ。そう言うことですねぇ。」



方針を定め、よりこの王都の城塞化を推し進める彼女。


軍師が何かあった時のために用意していたのであろう地下深くに用意されていた大量の爆薬も全て解除及び別拠点へと搬送済み、まだ何か隠されているかもしれないがソレはアンデッドの得意分野である人海戦術でいずれ突破できるだろう。時間は彼女の味方だ。しかしながら相手がいつ攻めて来るか解らない現状、ゆっくりしすぎるわけにもいかない。


故に外部に放った小動物のアンデッドたちを通じて情報を集め、相手の侵攻時期を把握する必要があったのだが……。



「……なんで外にいるんでしょ?」



彼女は思いっきりダチョウの行動にハテナを浮かべていた。


そもそも彼女は元からダチョウや軍師を、獣王国へとおびき出している。故にその帰り道で彼らの情報を入手するために、通過するすべての都市に拠点とアンデッドの間者を潜り込ませていた。ネズミなどの小動物がアンデッド化したものであり、通常の相手であれば筒抜け。仮令魔法的な防御を講じられたとしてもある程度は突破できる諜報網を構築していた。



(これさえあれば大丈夫だと思っていたのだけれど。)



しかしながら、その完璧な諜報網は、『都市内部』での話である。小動物たちは遮蔽物がある故に隠れて情報を集めることが出来る。逆に言えば、遮るものが何もない野外においてその情報収集能力は極端に下がる。



(軍師もそれを把握している? だから一度も町の中に入らないんですかねぇ?)



彼女はすでに自身が作成した30000のアンデッドたち、そしてそのアンデッドによって生み出された腐肉ゴーレムが排除されたことを把握している。故に張り切って都市部に張り巡らしていた諜報網を稼働し始めたのだが、主要人物が誰一人町の中に入らないせいで情報が入ってこない。市場での食料の取引量などで相手のいる位置は把握できるのだが、詳細な情報を手に入れることが出来ていないのだ。



(モグラに穴を掘らせて地下から情報を集めようとしたこともあったけど……。)



『あなほりー!』

『わー!』

『……なんかいた!』

『ごはん?』

『ちやう! くちゃい! ばっちい!』

『やっつけとこ!』

『なんかいっぱい! ぺしぺし!』



先頭にアンデッド化したモグラを置き穴を掘らせ、その作成された穴に情報を送る鼠を走らせる。これによって地下から町の外部に居座るダチョウたちから情報を抜こうとしたが、そのすべてがことごとく失敗している。何とか町の外で敷き物を広げて会議のようなものを行っているところまでは把握できたが、その内容を聞く前にダチョウによって阻止されてしまう。


地中で動くものに対して感覚が鋭いのか、そのすべてが彼らによって発見され、破壊されている。



「厄介だよねぇ、軍師ぃ。」



此方の動きを把握し、的確に潰す。まさに軍師の好みそうなことだと彼女は考えていたが……。





まぁそんなわけがない。











 ◇◆◇◆◇











「ままー! へんなのいたー!」



とある町で食料などの補給をしていた時、穴を掘って遊んでいた子が私のことを呼ぶ声が聞こえた。


ただのかまってちゃんの時は聞こえてないフリか、一言断わった後で放置するのだがちょっと言葉の節々にいつもと違う感情が見て取れる。それに"へんなのいた"という報告。何かしら面倒なものを見つけてしまったのかと思いながらその子の元へと向かう。



「へんなの?」


「うん、くちゃいの!」



彼が掘り進めたのであろう大きな穴を覗き込むと、我が子がぴょんぴょんと跳ねながらそう報告してくれる。そっか、くちゃかったか……。彼の付近に動く物は見当たらないし、既に粉砕した後かお腹の中に入れた後なのだろう。アンデッドの時もそうだったけど明らかに食べられなそうなものをちょっと齧ってみる子がいるからね……。好奇心が怖い。


それにしてもなんだろうか、なんか私の知らない魔物かな。悪臭を放つと言っても色々種類があるし、ガス系の攻撃だったり毒持ってる場合があるから嫌なんだけど……。それで、そのへんなのどうしたの? もしかしてやっつけちゃった?



「うん!」



そう言いながら色々と汚れてしまった足裏を見せてくれる我が子の一人。その惨状を見る限り、やはり思いっきり踏みつぶしてしまったようだ。感染症とかの危険性は私たちに限ってありえないけれど、わざわざ私のことを呼んだのはまぁ『洗ってほしい』ということなのだろう。



「あ~、そうだ。お水貰っておいで、そしたら洗ってあげるから。お水ね? お水。」


「おみず!」



大穴から彼を引っ張り上げ、同時に翼の先を兵士さんたちの方へと向け方向を示す。ちゃんとお使いできるかは不明だが、ちょうどいい機会だし挑戦させてみるのも一興。どうせ洗えなくても大地を走っていればいずれ土にまみれて気にならなくなるだろう。そのころにはこの子も忘れているだろうけど、私さえ覚えておけば今度の水浴びの時に念入りに洗ってやればいい。


おみずね、おみず。ほら忘れないように言いながら行きなさい。



「おみず! おみず! おみず!」



私の言う通りに"おみず"という単語を連呼しながら出発する我が子を見送る、補給兵である兵士さんたちには『ウチの子の要求は出来るだけ叶えてあげて、無理そうだったり仕事の邪魔してきたら"お母さんが呼んでたよ"と言って欲しい』と頼んである。到着時に彼の頭の中でなぜ自分が水を必要としていたか、それ以前に"おみず"と連呼することを忘れている可能性も十分にあるが、まぁ大丈夫だろう。



(大声を上げながら近づいているわけだし、あっちも人の良い人が多い。なる様になるはず。)



さて、問題も解決したことだし……。



「修行を再開しましょうか、レイス?」


「は~ぃ。」



いつの間にか背後に立っていたエルフのアメリアさんに促され、とぼとぼと歩き始める私。


え、何してるかだって?




補習だよ!!!




赤点取った奴らが導かれる通称"アホ習"と同じノリの奴な!



「赤点、でいいのかしら? 何点満点なのか、落第が何点なのかはわからないけれどそういうテストがあれば明らかに貴女は落第ね。というかまず入学できないんじゃないかしら。」


「うぐッ! じ、自覚してるから言わんでください師匠(せんせい)。」



なんで私がアメリアさんから補習を受けているかと言うと……、まぁ例のアンデッド戦で属性魔法を勝手に使ったからだ。暴走の可能性があるというのに勝手に三度も使用し、あの地に巨大なオブジェクトを生成した私。軍師が『"観光名所"兼"緊急時の貯水池"にしましょう!』と言って、流れるようにナガンの利権を嚙ませていたおかげで別に怒られはしなかったが……、大問題であることには違いない。



(ちなみに工事とか水質の調査とか全部軍師のポケットマネーでやるんだって、大臣らしい獣人さんに教えてもらった。)



このまま私が好き勝手すれば、高原のように翌日に元通りになってくれる大地とは違うこの地はズタボロになってしまう。



『別にあの時あの魔法を使ったことに対しては怒ってないわ。あなたの選択は確かに最適解だったと思う。けれどあの周辺には人も住んでいるわけだ。貴女が全てを死の土地にしたいのなら構わないけれど、そうでないのならせめて自分で後始末できる程度には練習しなさい。』



明らかに必要以上の魔力を込めてたわよ、と怒られたのもつい先日の話。とにかく魔力操作の練習をしなさいって怒られちゃった私は、アメリアさんにつきっきりで教えてもらいながらその練習をしているんだけれど……。



「……悪化してるわね。」


「うぅ、ごめんちゃい……。」



はい、魔力総量が上がってしまったせいで更に魔力操作が悪化しました。つい先日までは五人しかいなかった魔王さんたちもいつの間にか六人に、体内の魔力総量が上がったことによって圧縮率の増加、同時に魔力操作の感覚も以前と異なってくる。何も考えずドバドバと吐き出す分には何も心配はないのだが、魔力量を制限して扱うのがより難しくなったわけだ。



(……もしかして体内の魔力、もとい魔王を処刑すればいい感じに扱えるのでは?)



一瞬断頭台に並ばされた六人の魔王の姿を幻視したが、十中八九そんなことしたら増える乾燥ワカメみたいなノリでまた数が増えるに違いない。魔力があるのは助かるけれど、魔力操作が上達しないと色んな便利魔法が使えないのでこれ以上増えないでもろて。



「大勢に自分の声を届かせる"音魔法"系列とか、分身体なんかを作れる"幻影魔法"、それ以外にも色々便利な魔法がありそうなのに、どれ一つ使えないのは……、うにゅにゅ。」


「どれも貴女にとって、かなり複雑な魔力操作を要求されるものね。魔力量から考えれば適性がなくても扱えはするのだろうけれど。」


「だよね~。」


「それにしてもよっぽどよ? 普通"火魔法"。貴女が使った『火球(ファイアボール)』って使用者に熱が行かないように制御するのよ? なのにその影響を受けて溶けてたって……。」



色々呆れながら言葉を紡ぐアメリアさん。



「さ、千里の道も一歩からよ。まだ貴女若いんだから頑張りなさい。王都まであと10日、それまでにせめて元のレベルに戻すわよ。」


「は~い。」








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